花は何時でも憂鬱で

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ただ静かに穏やかに

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寮長からやっと開放されて
部屋に戻る。



さっきまでの騒がしさと
さらにあの生徒からも解放され
自室に戻れば


「寒っ」

絨毯も何も敷いていない
その床は厭に冷えていて
床から足の先へと温度が移る


足音でさえ妙に耳につく
その静寂を割くように部屋に置いていった携帯が鳴る。学校から支給された端末を手に取る。




「誰だ」

あの寮長が引っ張りに引っ張った結果
現在の時刻は午後11時過ぎ
こんな夜に電話をかける
知り合いなんて限られてくる。



ディスプレイに表示されていたのは
見慣れた番号
数秒、フリーズする

鳴っている着信音が

何処か遠くに聞こえる。


「はい」

ぎこちなく通話ボタンを押せば
掠れたような喉に何か張り付いているかのような不格好な声が響いた。


『問題はないか』

「特には何も」

『そうか。ところで……おぃっ!雫!
……春ちゃん元気してる?ごめんなさいね、入学式行けなくて。お父さんがダメだって言うから。頭固くてイヤになるわね、あ!そうだわ、眼鏡新しいの用意したんだけど、大丈夫かしらそれと、前髪伸びっぱなしにしないのよちゃんと切ってねそれからっ…』

電話向こうで
いい争っている声が電話越しに
伝わってくる
ふんわりとしたあの話し方は
綿菓子のように甘く何もかも溶かしてくれるみたいだ。


「何かあった?」

『ん、あぁ。悪いな。学校では上手くやれそうか?』

「はい。大丈夫です」

『電話かけといて悪いが、もう仕事で出るんだ。だから最後に言っとくお前がそこに行った意味をよく考えろ。お前は、ただ静かに問題を起こさずに卒業すればそれでいい。くれぐれも素性だけはバレないようにな』

「はい」

じゃあなと言う声を境に
携帯からはツーッツーッといった
無機質な音が耳に入ると
肩の力が一気に抜け
電話を切り携帯をぎゅっと握りしめる


「ただ、静かに終わればいい」

そうだ
全員にとって俺にとって
それが一番得策で


それに、あんな目に合うのは
二度とごめんだ


瞼を閉じれば暗闇の中に蘇る
悲痛な瞳、表情、叫び声



「………嫌な夢だ」


静かに
ただ静かに終わらせよう。


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