魔法で生きる、この世界

㌧カツ

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Episode.2 君と再会、冒険の始まり

7話 冒険はいつも死の香り

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 僕達は、ゴブリンを探して森の中を歩く。
 いつもと変わらない森。木々が揺れ動き、草がざわめいている森。
 でも今日は、いつもとは違う何かを感じていた。嫌な予感とともに、鼻の下を気味の悪い空気が流れていく気がした。

「ゴブリンゴブリン……お、いた。行ってくる」

「はーい」

 彼は何も感じていないようだったが、明らかに何かがおかしい。
 これは単に僕が前にも来たことがあるからなのか?
 いや、きっとそうだ。あからさまに空気がおかしいのなら、彼だって気づくだろう。

「ふぅ、ただいま」

「ん、また行きますか」

 今日は前のように集まっているわけではなく、食料なんかを集めるためにある程度の数に分かれているようだ。
 これなら魔法が使えないミクトでも、このままクエストをクリア出来るだろう。
 いや別に馬鹿にしているわけではないんですよ?

「これなら余裕っぽいな!」

 あぁそうだった。こいつはすぐ調子に乗って痛い目に会うようなやつなんだった。

「あんまり調子に乗ってると、大事なところで失敗するよ?」

「あ……そ、そうだよな。落ち着くんだ俺……」

 僕の言葉に、ミクトは高まりかけていたテンションを下げて落ち着きを取り戻す。
 これで大丈夫、大丈夫だよな?
 少し不安を感じるが、さらにゴブリンを探すため、僕達は止めていた足を動かして森の中を進み始める。

「あと一グループ倒せばクエストクリア出来そうだ……ん?」

「そっか、じゃああとちょっとだね……?」

 冒険者カードを取り出したミクトが、クエストの進行状況を伝える。
 僕がそれに答えると同時に、ミクトは何かに気づいたのか首を傾げる。それを見て辺りを見回すが、僕には何も見つけられなかった。

「何かあったの?」

「いや、今なんかいたような気がしただけだ」

 ミクトは周りを見ていたから気がついたのかもしれないな。
 これからは一応僕も周りを見ておこう。

 その出来事があってからすぐに、ミクトがまたゴブリンを見つけ討伐しに行った。
 そして僕がミクトが戻るのを待っている時だった。

「さっきミクトが言ってたのって何なんだろうか……ぁ?」

 突然木々の隙間に生えた草がざわざわと蠢き、そこから僕ぐらいの大きさのオオカミが姿を現した。

「こ……れは、やばいんじゃないか」

 僕を睨みつけ、じっと唸っているその魔物。
 それはウィンドウルフ。ファストの森でごく稀に見られるという、Dランクモンスターだった。
 Eランクのマッドスパイダーは僕でも倒せるし、今のミクトでも倒せるだろう。
 だがこいつはDランクの魔物。僕では倒せるか分からないし、言っちゃ悪いけどミクトには無理だ。
 あいつが戻ってきたら二人で協力して倒せるかもしれないが、戻ってくるまで僕が耐えられるか。

「それでも、やるしかない」

 そうして僕が魔法の準備をし、先制攻撃を仕掛けようとしている時だった。
 木々の向こうから、ゴブリンを倒しに行っていたミクトが戻ってきた。何とか持ちこたえるつもりだったが、これはラッキーだ。

「ミクト! ちょうど良かった、あいつを……」

「ん? あいつを倒せばいいのか? よし!」

「あ、ちょっと待てよ!」

 僕が言うや否や、ミクトは一人で奴に向かって走り出してしまった。
 まずい、このままでは――

「がっ……ぁあッ!」

「ミクト!」

 ウィンドウルフの攻撃を受け、大木に叩きつけられるミクト。
 それを見て、僕が何を思ったのか。
 分からない。ほとんどが分からなかったが、これだけは分かった。
 ――絶対に許さない。そう思った。

「くらえよウィンドウルフ! 一気に仕留めてやる!」

 僕はひと呼吸置き、詠唱した。

「『爆炎フレイムプロージョン』ッ!」

 詠唱したと同時に、奴の周囲は恐ろしい程の炎に包まれる。

『ァ、ゥ……』

 ウィンドウルフが呻き声を漏らし、消えた。いや、実際に消えたのは見えなかったが、分かった。
 体の中に何かが入ってくる感覚。それは冒険者としての経験値。増えれば増えるほど強くなる。

「さてと」

 僕は大木にもたれかかっているミクトに近づいていく。
 僕がウィンドウルフを仕留めているあいだに、既にヒールポーションを飲んだようだ。彼は少し息が荒いが、ただ休んでいるだけに見えた。

「ありがとよ、ロトル。おかげで助かったぜ」

 ミクトがそう言った瞬間、彼はまたもや大木に叩きつけられる。
 しかし今度は魔物の攻撃によるものではなく、ロトルが胸ぐらを掴み、ミクトを大木に押さえつけていた。

「ロ、トル?」

「お前は……」

「……何を」

「お前は、冒険をなんだと思ってるんだよ!」

「……ぇ」

 感情に任せ、激昴するロトル。
 彼がいま何を思いこんなことをしているのか。それは彼以外にはわからない事だった。

「あぁそうだな、だって冒険者になってたったの三日の新米中の新米冒険者だよ! でも、もう痛いのも苦しいのも味わったんだ!」

「ロトル……」

「お前みたいに油断して、ボロボロになった時だってあったさ! だからもうあんな目には遭いたくないし、大事な人に、親友に、あんな目に遭ってほしくなかった!」

 たかだか三日の冒険譚を振り返り、自分と重ねるロトル。
 その力の無い小さな腕には、それでも、力がこもっていた。

「何が、お前がいて助かっただよ! じゃあお前は、がいなかったらどうするつもりだったんだよ!」

「そ、れは」

「冒険はいつも死と隣り合わせなんだよ! ろくに相手の実力も分からないうちに、ホイホイ飛び込んでいくんじゃねえよ!」

「ぅ……ぁ」

 そこまで言ってようやく満足したのか、ロトルはその手に込めていた力を緩め、ミクトを地面に降ろした。

「ごめん、ごめんな。ロトル」

 ミクトがまたもや謝るが、今度は頭を下げることは無く、ただロトルに優しくそう言っていた。

「それでロトル。一つ聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

 今更何を聞くというのか。ロトルは少し困惑したが、その聞きたいこととやらに答えてみることにした。

「お前、さっきからずっと自分のことを、って、言ってたよな。それだけじゃない。お前……」

 俺。そうだ、俺は俺だ。そう言って何が悪い?

「お前……目がぞ」

「あ……か?」

 衝撃の事実に、俺はゆっくりとそう呟く事しか出来なかった。


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 え? 目の色なんて知らねーよって? それではもう一度、『第二章 5話』を見てみては如何でしょうか。
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