エリートなΩと心の折れたα ~疲れたオメガとやさぐれたアルファ

河まきじ

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夜は長く。、⑵

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「水澄さん?まだかかります?」
 外から、声をかけられてあわてて返事をする。

「すいません、もう出ます」
 考えこんで、時間がかかっていた。

「急がしたみたいですね、ごめんなさい、もうすぐご飯できますよ」
「ありがとうございます」
 もうきれいになったし出よう。

 傷の辺りに触らないように、体を拭いて、持ってきてあったパジャマを着て、髪を適当に乾かして、風呂場から出た。

 部屋の中に、お味噌汁のようないい匂いがする。

 部屋の真ん中にあるローテーブルに、ちっちゃい土鍋がある。これ、何年か前にくじ引きの景品でもらったやつだ。

「ご飯、できてますよ」
「すいません」
「まだ調子よくないんですよね、おじやですけど、大丈夫ですか?」

 味噌の匂いがするのに、おじや?。
 不思議に思ったけど、説明してくれた。

「味噌味のおじやなんですが、食べられそうですか?」
「味噌味?」
「そうなんです、お味噌汁にご飯が入ったような味で、美味しいんですよ」

 土鍋の蓋を開けると、おじやの真ん中に玉子が入ってた。

「わぁ」
 実家に居たときみたいだ。なんか懐かしい。一人暮らしを初めてから、こんなに、世話を焼いてもらっているの初めかもしれない。

「いただきます」
 食べると、味噌の塩味がしみる。
 疲れてたんだなぁと、しみじみ思う。美味しいなぁ。

「味は大丈夫ですか?」
「美味しいです」
 笑顔になってしまう。

「よかった安心しました、合わない人もいるから、どうしようかとは思ったんですが、前にも食べたから、別の味がいいかと」

「前にも?」
 いつ食べた?
「ひょっとしたら、また忘れてます?」
「……はい…」

「うどん食べる前のことなんですが」
 ……うどん食べたことは覚えてる。その前に何か食べたっけ?。

「まだ、はっきりしない時だったから、その時聞いたら、うどん食べたいって言って、けど、ぼんやりしてたから、おじやにしたけど」

「そうなんですね」
 いったい自分は、何を言ってるのだろう……。

「その時作ったのは、お粥にほんの少し味付けしたのだったから、今回は別の味にしようと思って」
「気を使ってもらって、すみません……。」

 別に好き嫌いも無いし、何でもかまわないけど、本当にありがたい。

 そんな話をしながら、作ってもらったおじやを食べ終わった。

「美味しかったです、本当に色々ありがとうございます」
 つい笑顔になってしまう。
 お腹の中が暖まって、また眠くなってくる。

 ん?、渡辺さんは食べたのかな?
「渡辺さんは、食べました?」

「食べましたよ」
 少し違和感のある言い方だったが、気がつかなかった。

「俺ばかりに色々するんじゃなくて、渡辺さんも部屋の中のものは、使ってかまいませんから」
 特に見られて困ることも無いし。

「そうですか……」
「はい」
 軽く返事をしてたら、不意に渡辺さんが近くにきた。

 ん?何か?
「あの…」
「髪がまだ濡れてますよ」

 なんか近い…。
「そのうち乾きます!」
「乾かしてあげましょうか?」
「大丈夫です!!」

 近いから、ちょっと離れてくれると……。

「……今少しだけ、香りがしますけど、本当に大丈夫ですか?」
 香りって……。

「うそっ……」
「爽やかな香り···、また誘われそうになる···」

 なんで?、もう発情期は終わるはずなのに、どうして?!

「そんなはずない、だってもう発情期は終わるはずなのに!」
「……そうですか?、けど完全に終わったわけじゃないですよね」

 そんなことない。もう終わったんだ!
「体温が上がったからかも……」
 シャワー浴びて、ご飯食べたから、だから体温上がって、たぶんそう……。

「そんなことないですよ……、シャワー終わったぐらいから、少しづつ香ってきてました……」

 ヤバい。こんな素面の時に、そういう事したくない……。
 まずい。ちょっとずつ近くなってる……。

 こんな狭い部屋じゃ、逃げる場所もないし、どうしよう……。


「……いやですか?」
「あの!、本当に匂いがするんですか?」
「…いい香りがします、僕好きな香りが」

「でも!、俺の匂いはそんなんじゃ……」
「なぜ?」
 俺の匂いは、臭いって言われたことがある…。
 他の人には、合わない匂いだから。

「他の人がどう言おうと、僕にとっての香りは、他のなによりいい香りです…」
「……そんなこと…ない…」
 そんなことあるはずない……。

「ありますよ、誰が何を言おうと、僕は、この香りが大好きです」

「……ありがとう…」

 ああ、もうだめだ。
 こんなに言ってくれたのは初めだ。

 自分の匂いが、人にとって悪いことしか、おこさないと思っていたからこそ、1人がいいと思っていたのに、
 こんなに思われたら、離れられなくなる……。

「ダメですか?」
「……発情期がほとんど終わってますから、シテもよくないかも……」

「…よくないとかではなく、抱きしめて、近くにいたい……」
 ちょっと笑われた…。

「……はい」
 そう返事するのも嫌ではなかった。

 



     
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