エリートなΩと心の折れたα ~疲れたオメガとやさぐれたアルファ

河まきじ

文字の大きさ
上 下
37 / 67

それから。、そのあと、

しおりを挟む
 ドアを開けてくれて、その場に座り込んだ彼を見たとき、苦しかった。

 明らかに辛い状態なのに、ごめんなさいと謝ってくる。彼が悪いわけじゃない。

 助けてあげたいと思った。そう言えば、子どもみたいな笑顔で、

「うん」
 と、言って抱きついてくれる。目を合わせても、焦点があっておらず、正気とはいい難い。

 それでもいい。今彼は、自分だけを求めてくれる。裏表なく、何も知らないここにいる自分だけを。

 だから、いっしよにいたいと。
 何も考えずに、発情期をいっしよに過ごした。


 彼の体は、オメガらしく柔らかな肌で、自分の手のひらを滑らすのも、少し気が引けた。手のひらが荒れているから、痛くないのかと。

「痛くない?」
 と聞けば、上気した顔で微笑む。
 もっとして欲しいように、くっついてくる。

「お願い」
 と言われて、キスをする。キスが好きなのかと思った。
 後で聞けば、声を出したくないからと。だから、キスして声を出さないようにしてた、と言っていた。

 膝の上に向かいあって、ナカをほぐして、
「大丈夫?」
 と聞いても、
「もっとして」
 返事が返ってくる。

 ベッドに押し倒して、あとは流されるように、お互いを求めていた。

 できるだけ優しくしたいから、なんとか合間に、
「大丈夫?」
 と聞いても

「気持ちいい」
「もっと」
「抱きしめて」
 と、子どもの笑顔で微笑む。
 裏表を考えることもなく、彼の欲しいものを与えるだけだった。


 そういえば、自分も、たぶんラットを起こしかけていたのだとは思う。なんとか意識はあったが、所々で記憶があいまいな時間がある。

 そして、自分がラットを起こしたのだということに、驚く。
 どこかで自分はアルファとして、不完全だからと思っていたのに。

 時間を見れば、部屋に入ってから、まる2日近く経っていた。合間には、水分補給もしてたし、けど何も食べてない。

 こんな細い体で、ちゃんと食べなければ、倒れてしまう。何か食べさせないと。


 彼に無理をさせてしまったし。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

想いの名残は淡雪に溶けて

叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。 そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

ひとりのはつじょうき

綿天モグ
BL
16歳の咲夜は初めての発情期を3ヶ月前に迎えたばかり。 学校から大好きな番の伸弥の住む家に帰って来ると、待っていたのは「出張に行く」とのメモ。 2回目の発情期がもうすぐ始まっちゃう!体が火照りだしたのに、一人でどうしろっていうの?!

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

処理中です...