エリートなΩと心の折れたα ~疲れたオメガとやさぐれたアルファ

河まきじ

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そうして。、

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 チャイムの音がする。しばらくしたら止まるだろうと思い無視した。

 こんな状態で、出られるわけもない。少し正気に戻り、ベッドに座り込んだ。

「疲れた……」
 まだ始まって1日目。短くても後2日はこのままだ。

 それも、今回は一番きついやつがきたみたいで、かなり辛い。軽いときならば、それこそ3、4日部屋でじっとしていれば、なんとかなるくらいなのに、今回は最低、最悪だ。

 意識が持っていかれる。体が欲に引っ張られる。なんとしても、抗おうとしても、また欲望をもってくる。

 発散しても、また元どおり。まだ1日終わってもいないのに、かなり辛い。

 [抑制剤の飲み過ぎは、良くないですよ]
 病院で言われたことは、わかっていたがそんなことを言ってる場合じゃない。

「たすけて……」
 誰かにそう言えばよかったかな。そうして、終わればすぐに逃げて……

 ぼうっとしていたら、またチャイムが鳴った。

「……」
 ドアの向こうで声がする。
「水澄さん?」

 なんで、こんなときに。
 そういえば、約束してたっけ。

 けど、会えるような状況じゃない。
 体を引きずるように、ドアまで行こうとして、何かにつまづいて倒れた。

「水澄さん?」
 もう一度、呼ぶ声がした。

 倒れたその場所に、座り込みなんとか返事をする。

「すいません……、今開けられないので!帰ってください」
 こんなときに、なんで来るんだ。

「どうして」

「だいじょうぶですから、帰ってください」
 こんな姿俺じゃない。それに、今会えば助けて欲しくなる。

「でも」

「早く帰ってください!」
 また、意識がぼんやりしてくる。
 早く帰って。頼むから、正気のうちに。

「お願いです、開けてください」
「······いやです···」

「開けてください!」
 強めに言われて、一瞬ビクッとする。ほんの少しだけ、何かが匂ってくる。

 何の匂いだろう?。
 落ち着く匂いだ。

「お願いだから…開けて」
 急に弱々しく言われても、情けない姿を見られたくなかった。

「こんな姿を見せたくないんです···」
「僕しかいませんから…」

 ほんの少しの落ち着く匂いに、助けて欲しくなる。けど、もっとちゃんとしている時に、助けて欲しかった。

 こんな、ぐちゃぐちゃの時に助けてもらっても、また後で、苦しくなるだけなのに。

 「つらくて苦しいんです、こんな情けない姿を見られたくないんです、こんな情けないの、俺じゃないのに…」

(助けて、苦しい、俺を抱きしめて)
 あと少しで、言ってしまいそうになる。

 あの落ち着く匂いに引かれていく。弱い自分を助けて欲しくなる。

「だいじょうぶだから、助けてあげる。僕は何も知らないから、どんな姿でも、あなたは同じ人です」

 もう無理だ。助けて。今開けるから、俺を助けてよ。

 よろつきながら、立ち上がってドアをなんとか開けた。


「よかった···、体は大丈夫?」
「ごめんなさい、いきなりこんな事を言うけど、助けてくれる?」

「助けるよ、発情期で間違いない?」
「うん」

「本当にかまわない?」
「うん」

 抱きしめてくれた時、落ち着く匂いが自分の回りに、たくさんあって、
 多少正気に戻る。

「ごめんなさい、全然関係ないのに巻き込んでしまって」

 彼は顔を左右に振った。
「どうしても、顔が見たかったから、無理にここまできたのだし」

 お互い、何も知らないのに、こういう事になっても、後悔しないと思う。


 どちらからともなく、キスを始めて、俺の本当の発情期が始まった。








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