エリートなΩと心の折れたα ~疲れたオメガとやさぐれたアルファ

河まきじ

文字の大きさ
上 下
25 / 67

仕事が始まるはずだった、

しおりを挟む
 休みの内に、クリーニングと修理の金額、新しく買えば、だいたいこのくらいかと見当して、あとで電話しようと考えていた。仕事なのだから、終わってからでもと思っていたのだが。

 電話がかかってきた。
「もしもし?」
「渡辺?」
「はい」
「よかった、今日いきなりで悪いけど、休んでくれないか?」
「は?」
(いきなり電話で休めって?)
「どうしてなんですか?」
「悪い、今会社が立て込んでて、忙しいんだよ」
「だったらなおさら」
「いいんだよ、来なくて」
「······」
「伝えたからな、それじゃ」

 何か取り繕う暇もなく一方的に電話は切れた。

「なんなんだ、いったい」
 わけもわからないまま、急に休みになった。それよりは、嫌な予感しかない。
(またかもな)
 前にもバイトしていた所が、いきなり廃業になり大変だった。それからは、貯金もしておいて、経済的に動けるようにしていた。
(まあ、なんとかなるからいいけど)
 この際だから、しばらくゆっくりしようか?
 ついでに一旦部屋に帰って、色々チェックしたいものもあるし。
(めんどくさい、帰ろう)
 会社で何かあろうと、知ったことではない。

(そうだ、昼ぐらいに電話して、ジャケットのことを相談しよう)
 仕事に向かっていた足を止め、部屋に戻っていった。


「もうすぐ12時半か」
 今ぐらいなら、電話をしても大丈夫だろうか?一応、連絡はしないとこっちでかってに、する訳にはいかない。

 何回かコール音がして、でないかなと思った時に、出た。

「水澄さんですか?」
「はい」
「よかった、渡辺です」
(ちょっと間が開いた?、ひょっとして忘れてたとか)
「すいません、この前のジャケットのことなのですが」

「何かありましたか?」
(忘れてるぐらいなら、新しい方がいいのかな?)
「色々見てみたんですが、ひょっとしたら、新しく買った方がいいかもと思って、電話させてもらったんですよ」

「そうなんですか」
「金額的に、修理を頼むにしても······、水澄さんは、どちらがいいですか?」
「?、水澄さん?」

 何かひっかかったようで、水澄さんの声が少し低くなっていた。
(これは不味いな)

「すみません、直せなかったら、そのままでかまいません」
「でも」
「大丈夫です、なんなら取りにいきますよ」
 丁寧にしゃべっているが、これはたぶん怒っているんじゃないか?

「……すみませんでした、あのジャケット大事にしてるんですね」
「?」
「いや急に静かになったから、ひょっとしたらかな?」
「なんで?」
「わかるかって、わかりますよ」
 声が変わって。少しは落ち着いたようだ。

「どうします?、ちゃんと直してもらうように、出しましょうか?」
「もういいですよ」
「?」
「直さなくても大丈夫です、そのまま渡してくれますか?」
(そういう訳には!)
「だけど!」
「いいんです」
「·····そうですか」
(これ以上言うのは無理か)

「わかりました、クリーニングには出してあるので、出来しだい渡しに行きます」
「ありがとうございます」
(よかった、機嫌治ったようだ)

「それでは、また連絡します」
 電話を切ったあとに、メッセージ交換を出来るようにした。
 向こうからは、定型文的な(よろしくお願いします)だったけど、自分から小鳥のアイコンを送ってみた。少し気分転換になればいいけど。

 色々あったが、話はまとまったしこれでいい。少し水澄さんには、悪いことをしてしまったけど。

 こういう時だけ、自分の対応力に助かっている。
 自分のバースに助けられる。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

想いの名残は淡雪に溶けて

叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。 そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

ひとりのはつじょうき

綿天モグ
BL
16歳の咲夜は初めての発情期を3ヶ月前に迎えたばかり。 学校から大好きな番の伸弥の住む家に帰って来ると、待っていたのは「出張に行く」とのメモ。 2回目の発情期がもうすぐ始まっちゃう!体が火照りだしたのに、一人でどうしろっていうの?!

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

処理中です...