それ、あなたのものではありませんよ?

いぬい たすく

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最後に一つだけ教えてください

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 祖父母、両親の苦労はもちろん、ルフィナ自身年相応の気楽さとは無縁の子供時代だった。学院を目指したのも両親や領民の力になりたかったからだ。奨学金を得るために寝食を忘れる勢いで勉強した。祖父母、両親と相次いで亡くし、入学をためらう彼女の背中を信頼するひとたちが押してくれた。そして彼らに支えられて領主と学生を両立してきたのだ。

「しかしだな、ここを出てもそんな金を返すあてなど……そうだ、やっぱりお前を手伝ってやろう。
 家族じゃないか、助け合っていこう」

「結構です。どうぞご家族同士で助け合ってください。私もそうしますから」

 そう言ってルフィナが侍女や騎士たちに目をやると、彼らは誇らしげに胸を張った。

「それに行くあてがないのでしたらご心配なく。ちゃんとお迎えを呼んでありますよ」

 そこに若い男が一人、執事とともに姿を見せた。騎士らしく見えるが、子爵家に所属するものたちとは装いが違う。

「ノルベルト・カルリーニとその妻ヴィオラ、娘アリーチェで間違いないな?」

 問われて反射的にうなずいた三人に、騎士が書状を示す。

「身分詐称の疑いで取り調べる。同行願おう」

「いや、なにかの間違いだ!」

 正式な場で名乗っていないのだから、望みがある。そう信じて言い逃れをするノルベルトに比べて、妻と娘はあきらかに顔色が悪い。子爵夫人に子爵令嬢。この家が自分たちの物になったと思い込んでいた彼女らはあちこちでそう名乗っていた。

「確かに状況によっては、友人同士の悪ふざけ、で通るかもしれませんね」

「そうだ、その通りだ!」

「でも伯父様。これをお忘れですか?」

 ルフィナが笑顔でしめした封筒にノルベルトの顔色が失せた。


 先日受け取った招待状だ。カルリーニ子爵宛だった。侯爵家と縁続きになったおかげで当主と認められたのだと喜んで返事を出した――。


「ご存じなかったようですが、私、つい先日陛下より襲爵のお許しを頂きました。
 つまり、この招待状を送られたカルリーニ子爵とは私のことです。
 
 非公式の場であればともかく、王族もおいでになる格式の夜会ですもの。
 ノルベルト・カルリーニ子爵……嘘はいけませんよ、伯父様」

 ノルベルトが虚脱すると、アリーチェが同情をひくように泣き出し、ヴィオラは義姪に縋ろうとする。

「私、知らなかったの。お願いルフィナ、あなたからなんとか言ってちょうだい」

「そう言えば、さっきお話しした立替金のことですけれど。
 かなりの額に膨らんで困っていましたら、とある商会が親切に引き受けてくれまして。きちんと返済できるよう、お仕事も斡旋してくれるとか。良かったですね。

 なんでもそこの会頭のお父様が、再婚するはずだったお相手に逃げられてしまったのですって。そのとき行きがけの駄賃にお母様の形見を盗まれてしまったのを、会頭は二十年経った今もたいそうお腹立ちなのだそうです。

 あら、伯母様。顔色が悪いですよ?」

 悄然とした夫婦とべそべそと泣いている娘が騎士たちに連れて行かれる。さすがに縛られはしなかった。

 見送っていたルフィナがふと思い出した、というように伯父に声をかけた。

「伯父様。最後に一つだけ、教えていただきたいことがあるのですが」

「……何だ」


「憎い姪を陥れるためにせっせと拵えた罠に、可愛い娘がかかってもがいているのをご覧になるって、ねえ、どんなお気持ちですか?ぜひ教えてください」
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