なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく

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2章

世はなべて事も無し 2

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 エレノーラ女王の統治下で貴族たちの勢力図は大きく書き換えられていった。

 かつての力を失ったものたちは、女王の人を人とも思わない傲慢さを口々に非難した。

 だが彼らとは逆に快哉を叫ぶものたちもいる。かつては身分の壁、派閥の壁に隔てられて世に出ることのできなかった人々は、女王の下で生き生きと才覚を発揮した。ことに親の選んだ相手と黙って結婚する以外の道を開かれた女性たちはあたらしい生き方を謳歌した。

 エレノーラ女王は強欲だ。贅沢を愛している。

 同時に彼女は現実主義者でもあった。心ゆくまで贅沢を楽しむためには国が富んでいなければならない。そのためには民にも相応の良い暮らしをさせなくてはならない。それを十分にわきまえていた。

 税制の見直しと数々の振興策によって産業は活性化し、整備された街道と港を通じて人と物が活発に行き来した。さまざまなあたらしいものが国内から生まれ、国外からもたらされる。民衆は自由でゆたかな暮らしを楽しんだ。



「わあ、僕の手を蹴りましたよ、母上!」

膨らんだ母の腹にそっと触れたアルヴィンは、母譲りの青い瞳を輝かせた。

「弟と妹。どちらかしらね?」

「弟だったら一緒に剣の稽古ができるけど……でも、妹でもきっと可愛いな」

迷う息子の自分と同じ黒い髪を、ダグラスがわしゃわしゃとかき混ぜた。

「どっちにしろお前はいい兄になりそうだな」

 女王としてはともかく、妻として母としてのエレノーラは平凡で平穏だった。そして、彼女はそんな自分にこころから満足していた。お腹の中の子供の名前をいくつも思い浮かべながら、楽しげな夫と息子の様子にゆったりとほほえんだ。
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