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2章

変わりゆく日常

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「どこかに頭が良くて有能で『殿方はお馬鹿なほど可愛いわ』とか『お顔さえ良ければ殿方のどんな欠点も許せるわ』なんてご趣味のご令嬢がいらっしゃらないかしら?」

「うーん、どちらか片方なら案外居そうですけど、両方は難しいんじゃないですかね」

「片方では困るのよ。もしおつむが弱くてご趣味の方はそうだったら、相乗効果で酷いことになりそうだもの」

 エレノーラが護衛と馬鹿げた話に興じていると、侍女が流れるような手つきで茶を供しながら、護衛を軽くにらんだ。

「心配しなくても大丈夫よ、サラ。この人も時と場合でお行儀を使い分けているから」
くすくすと笑いながら、エレノーラは紅茶の芳香を楽しんだ。


 娘の婚約を機に迎えた後添えが男児を出産すると、シェフィールド公爵はいよいよエレノーラに甘くなった。妙な後ろめたさを感じているらしい。

 だからエレノーラが十三のとき『自分の商会が欲しい』とねだると、あっさりとかなえられた。元手はもちろん、役に立つだろう人材を集め、商船の一隻さえ簡単に用意してくれた。

 エレノーラには商才があった。はじめは父のよこした指南役に頼っていたものの、次第に彼らも舌を巻くほど怜悧な判断や狡猾な交渉を見せるようになっていった。そうなるとますます面白くなる。さすがに公爵令嬢自ら国外に取引に出向く、というわけにはいかないものの、エレノーラの世界は確実に広がっていった。

 周りに置く者の顔ぶれも変わった。入れ替えた侍女の中にいた一人がサラだ。不都合があればまたすげ替えれば良い、と深く考えずに選んだが、案外うまくいっている。

 同様に入れ替えた護衛の一人、ダグラスは変わった男だった。

 エレノーラが商会を興すというと、ほとんど誰もが『金と身分にあかした子供のままごと』と笑った。もっとも正面切って意見をするものはまずいない。内心馬鹿にしつつ追従してくる。そのあたらしい護衛はどちらでもなかった。ただ好奇心でいっぱいの表情で船の中を歩き回っていた。

「貴方は子供のくせにとは思わないの?」

「いや、別に。偉そうにどうこう言えるほど、俺はお嬢さんのことも商売のことも知らないし。
 ただまあ、面白いことを考えるもんだなあとは思うよ」

 その後、護衛として許される言動ではないと、新入りは先達に締め上げられた。エレノーラは不問にする代わりに教師をつけてやった。その護衛、ダグラスは貧乏男爵家の五男、七番目の子でまともな教育を受ける余裕はなかったらしい。

 教育が進むごとに言葉遣いも改まってきたが、エレノーラの前ではしょっちゅう素に戻ってしまう。エレノーラの奔放さを楽しんでいる風があるのに、公爵令嬢に取り入ってうまくやってやろうというような媚びはない。仕事を通して出会うあたらしいことに好奇心を隠さない姿は、五つも年上のくせに子供のように見える。彼といると、エレノーラは楽に呼吸ができる気がした。
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