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黒い羊はダイヤモンドの夢を見るか
食い意地聖女は反省しない
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「まさか、ちょっとよそにお出かけしてる間に、行きつけのお店の店員さんが独りでダンジョン突っ込んでるなんて思わないよね。
屋台も営業停止中だしさ」
クロエは自宅のソファーの上でぼやいた。その周りでお気に入りをお預けされた精霊たちがしょげている。
慌てて情報をかき集めてダンジョンに駆けつけたときには、すでに攻略終盤だった。
「元気出してよ、直に営業再開すると思うし。
まさかアレが役に立つとか思わなかったけどさ」
アレ。つまり、二人のギルドマスターを感嘆させたネックレスは、彼女の好奇心と悪のりの産物なのだ。
『空間操作』スキルで、適当なサイズの空間を作り、その中に材料を放り込むと、指定したものを作ることができる。
ろくでもない国から逃げ出して、気ままな生活に入った後、このスキルでいろいろと作ってみた。売ったり使ったりできるものを、と言う実利的な理由三割、好奇心七割であれこれと試した。試しまくった。
その過程で、クロエはふと思いついた。
――これなら、炭からダイヤモンドができるんじゃないの?
結論から言えば、できた。
「たしか、ダイヤモンドの色って不純物と、結晶の構造の違いだったっけ?」
「キュッ」
うろ覚えの部分は精霊たちが補ってくれる。
色を変えて作ってみたり、あれこれカッティングにこだわってみたり。その結果。
「これ、どうしようか」
二本のネックレスを前に途方に暮れることになった。
調子に乗ったクロエは、母の実家から持ち出した中にあった金やプラチナのアクセサリー――ごつくて重く、彼女の趣味には全く合わない。武器といった方が早いと思われる代物――を材料にして、凝った細工のネックレスを作り上げてしまった。
「キュフー……」
「やー、だってさあ、イメージ通りすいすいできるのが、面白くって」
毛玉たちもあきれ顔(?)だ。
換金性、というなら凝った細工のアクセサリーより、もとのごつい金属塊のほうがましだろう。身元不明の旅人が店に持ち込んだら、怪しいことこのうえない。それでかまわない、というならそんな店の方が怪しい。
きらきらと輝くダイヤモンドをかざしてみる。
「ブルーダイヤの原料が炭とうがい薬、かあ。……今更だけど、精霊がいて魔法のある世界で分子構造がどうとか元素がどうとか言うのって、なんだか変な感じ。
裸石だったら、まだ売れるかな?」
「ウキュ」
天然物なら珍しいほど透明度が高く、色も珍しい。特に赤は天井知らずらしい。人工という点も知りようが無いし、この世界は宝石のカッティングのバリエーションがない。それも一財産だ。精霊は重々しく断言した。
つまり、換金は諦めろ、と言うことだ。
作ったものを持て余したクロエは、実に彼女らしい解決法を取った。面倒になったそれらを空間収納に放り込んで放置したのだ。
「箱も作っといて良かったね。割と自然に持ってってもらえたし。
これで、お店にうつるのが早くなるかな?」
強引にスキルで作った空間に誘導したが、踏み込んだ当人も冒険者ギルドもダンジョンの仕掛けだと判断したようだ。ちなみに、もし落とし穴にはまった場合は、ループして同じ部屋に戻る仕組みになっていた。
「結局はうまく行ったから、細かいことはまあ良いや。
屋台はまだだめだから、おうちでご飯にしよっか」
いそいそと材料を取り出すクロエは、まるで反省していない。毛玉たちも気にしていない。
彼女たちの勝手気ままな暮らしは、そのまま続くだろう。
屋台も営業停止中だしさ」
クロエは自宅のソファーの上でぼやいた。その周りでお気に入りをお預けされた精霊たちがしょげている。
慌てて情報をかき集めてダンジョンに駆けつけたときには、すでに攻略終盤だった。
「元気出してよ、直に営業再開すると思うし。
まさかアレが役に立つとか思わなかったけどさ」
アレ。つまり、二人のギルドマスターを感嘆させたネックレスは、彼女の好奇心と悪のりの産物なのだ。
『空間操作』スキルで、適当なサイズの空間を作り、その中に材料を放り込むと、指定したものを作ることができる。
ろくでもない国から逃げ出して、気ままな生活に入った後、このスキルでいろいろと作ってみた。売ったり使ったりできるものを、と言う実利的な理由三割、好奇心七割であれこれと試した。試しまくった。
その過程で、クロエはふと思いついた。
――これなら、炭からダイヤモンドができるんじゃないの?
結論から言えば、できた。
「たしか、ダイヤモンドの色って不純物と、結晶の構造の違いだったっけ?」
「キュッ」
うろ覚えの部分は精霊たちが補ってくれる。
色を変えて作ってみたり、あれこれカッティングにこだわってみたり。その結果。
「これ、どうしようか」
二本のネックレスを前に途方に暮れることになった。
調子に乗ったクロエは、母の実家から持ち出した中にあった金やプラチナのアクセサリー――ごつくて重く、彼女の趣味には全く合わない。武器といった方が早いと思われる代物――を材料にして、凝った細工のネックレスを作り上げてしまった。
「キュフー……」
「やー、だってさあ、イメージ通りすいすいできるのが、面白くって」
毛玉たちもあきれ顔(?)だ。
換金性、というなら凝った細工のアクセサリーより、もとのごつい金属塊のほうがましだろう。身元不明の旅人が店に持ち込んだら、怪しいことこのうえない。それでかまわない、というならそんな店の方が怪しい。
きらきらと輝くダイヤモンドをかざしてみる。
「ブルーダイヤの原料が炭とうがい薬、かあ。……今更だけど、精霊がいて魔法のある世界で分子構造がどうとか元素がどうとか言うのって、なんだか変な感じ。
裸石だったら、まだ売れるかな?」
「ウキュ」
天然物なら珍しいほど透明度が高く、色も珍しい。特に赤は天井知らずらしい。人工という点も知りようが無いし、この世界は宝石のカッティングのバリエーションがない。それも一財産だ。精霊は重々しく断言した。
つまり、換金は諦めろ、と言うことだ。
作ったものを持て余したクロエは、実に彼女らしい解決法を取った。面倒になったそれらを空間収納に放り込んで放置したのだ。
「箱も作っといて良かったね。割と自然に持ってってもらえたし。
これで、お店にうつるのが早くなるかな?」
強引にスキルで作った空間に誘導したが、踏み込んだ当人も冒険者ギルドもダンジョンの仕掛けだと判断したようだ。ちなみに、もし落とし穴にはまった場合は、ループして同じ部屋に戻る仕組みになっていた。
「結局はうまく行ったから、細かいことはまあ良いや。
屋台はまだだめだから、おうちでご飯にしよっか」
いそいそと材料を取り出すクロエは、まるで反省していない。毛玉たちも気にしていない。
彼女たちの勝手気ままな暮らしは、そのまま続くだろう。
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