17 / 30
黒い羊はダイヤモンドの夢を見るか
かなわなかった再会
しおりを挟む
「待ってるとは言ってくれたけど……」
仲間たちと別れ、ロビンは『金の南瓜亭』のある街に到着した。久しぶりに見る街並みだ。あの頃と変わったところ、変わっていないところ。懐かしく眺めながら歩く。
わずかながら不安がある。あの頃の場所がまだあるだろうか。
各地を転戦する冒険者は、ギルドを通じて荷物や手紙を送ることができる。だが、その逆には制限が多い。個人的な誼を結ぼうと、高ランク冒険者や有望株にあれこれ送りつける連中が、過去に多くの問題を引き起こしたためだ。ギルドが冒険者への連絡を受け付けるのは、親兄弟、配偶者と子供のみ。しかも事前の登録が要る。
だから、旅先からロビンは手紙や土産を折に触れて送っていたが、向こうからの返事は受け取りようがなかった。
胸に迷いがあっても、足はかつての習慣通りに動く。懐かしい、あの店のある通りに。
「何だよ、これ……」
『金の南瓜亭』と踊るような字で書かれた、あの看板がない。誰も入れないように、ドアが封じられている。
ロビンは呆然と立ち尽くした。
どれくらい立っていたか。突然肩を叩かれて振り返る。
「ロビン……やっぱり、ロビンだ……!いつ帰ってきたの?」
懐かしいニーナが立っていた。あの頃より髪が伸びて、すっかり大人びている。
つい頬を緩めてから、はっとして店を指さし、矢継ぎ早に尋ねる。
「これ、どういうことなんだ、何があったんだよ。パオロさんは?アンナさんは?店のみんなは?」
「お父さんは……お父さんはね、半年前に病気で亡くなったの」
「……嘘だ!まさかそんな……」
思わずつかんだ肩の震えと、ニーナの目にあふれる涙が、嘘ではないと語っていた。
二年前、近くのダンジョンを攻略するためこの土地に戻ったとき、パーティーの仲間たちとこの街を訪れたことがある。
そのときパオロは、信頼できる仲間ができたことを自分のことのように喜んでくれて、自慢の料理をたらふくごちそうしてくれた。
この街を出るとき、彼は
「いつでも帰って来いよ」
ただそう言ってロビンの肩を叩いた。
『帰ってこい』と言われたことが、たまらなく頼もしく、うれしかった。
あの声をもう聞くことはできない。
肩を叩いた分厚い手のひらも、もうこの世にはない。
全身の力が抜けて、ロビンはひざをついた。道端でニーナと一緒に、子供のように泣いた。
『金の南瓜亭』と通り一つ隔てたところにある宿屋で、アンナとも再会した。
パオロが亡くなるとすぐ、借金の形に店と、一続きになった住居を取り上げられた。今は母と娘ふたり、アンナの幼なじみの経営するこの宿屋に住み込みで働いているのだという。その幼なじみは、ロビンが訪ねてきたからと、時分時でない食堂を提供してくれた。
「お医者様の見たてではね、心臓が悪くなってたそうなの。あの人みたいに、身体が大きくて丈夫な人には、案外、大事になるまで気付かないことが、珍しくないんですって。
あっという間で苦しむ間なんてほとんど無かったのが、せめてものことかしらね」
そう言って弱々しくほほえんだアンナの頬は、ふっくらしていたかつてと違って少しばかりこけている。
パオロと仲良く寄り添う姿を思い出して、ロビンは胸をつかれる心地がした。
「だからね、もしこっちから報せを出せても、どのみち間にあやしなかったのよ。
変なことに気を回したりしないで」
パオロが亡くなったとき。二人が困っていたとき。ロビンは何も知らず、冒険にのめり込んでいた。そんな自分を責める気持ちを、ふわりと包み込まれたようだった。
仲間たちと別れ、ロビンは『金の南瓜亭』のある街に到着した。久しぶりに見る街並みだ。あの頃と変わったところ、変わっていないところ。懐かしく眺めながら歩く。
わずかながら不安がある。あの頃の場所がまだあるだろうか。
各地を転戦する冒険者は、ギルドを通じて荷物や手紙を送ることができる。だが、その逆には制限が多い。個人的な誼を結ぼうと、高ランク冒険者や有望株にあれこれ送りつける連中が、過去に多くの問題を引き起こしたためだ。ギルドが冒険者への連絡を受け付けるのは、親兄弟、配偶者と子供のみ。しかも事前の登録が要る。
だから、旅先からロビンは手紙や土産を折に触れて送っていたが、向こうからの返事は受け取りようがなかった。
胸に迷いがあっても、足はかつての習慣通りに動く。懐かしい、あの店のある通りに。
「何だよ、これ……」
『金の南瓜亭』と踊るような字で書かれた、あの看板がない。誰も入れないように、ドアが封じられている。
ロビンは呆然と立ち尽くした。
どれくらい立っていたか。突然肩を叩かれて振り返る。
「ロビン……やっぱり、ロビンだ……!いつ帰ってきたの?」
懐かしいニーナが立っていた。あの頃より髪が伸びて、すっかり大人びている。
つい頬を緩めてから、はっとして店を指さし、矢継ぎ早に尋ねる。
「これ、どういうことなんだ、何があったんだよ。パオロさんは?アンナさんは?店のみんなは?」
「お父さんは……お父さんはね、半年前に病気で亡くなったの」
「……嘘だ!まさかそんな……」
思わずつかんだ肩の震えと、ニーナの目にあふれる涙が、嘘ではないと語っていた。
二年前、近くのダンジョンを攻略するためこの土地に戻ったとき、パーティーの仲間たちとこの街を訪れたことがある。
そのときパオロは、信頼できる仲間ができたことを自分のことのように喜んでくれて、自慢の料理をたらふくごちそうしてくれた。
この街を出るとき、彼は
「いつでも帰って来いよ」
ただそう言ってロビンの肩を叩いた。
『帰ってこい』と言われたことが、たまらなく頼もしく、うれしかった。
あの声をもう聞くことはできない。
肩を叩いた分厚い手のひらも、もうこの世にはない。
全身の力が抜けて、ロビンはひざをついた。道端でニーナと一緒に、子供のように泣いた。
『金の南瓜亭』と通り一つ隔てたところにある宿屋で、アンナとも再会した。
パオロが亡くなるとすぐ、借金の形に店と、一続きになった住居を取り上げられた。今は母と娘ふたり、アンナの幼なじみの経営するこの宿屋に住み込みで働いているのだという。その幼なじみは、ロビンが訪ねてきたからと、時分時でない食堂を提供してくれた。
「お医者様の見たてではね、心臓が悪くなってたそうなの。あの人みたいに、身体が大きくて丈夫な人には、案外、大事になるまで気付かないことが、珍しくないんですって。
あっという間で苦しむ間なんてほとんど無かったのが、せめてものことかしらね」
そう言って弱々しくほほえんだアンナの頬は、ふっくらしていたかつてと違って少しばかりこけている。
パオロと仲良く寄り添う姿を思い出して、ロビンは胸をつかれる心地がした。
「だからね、もしこっちから報せを出せても、どのみち間にあやしなかったのよ。
変なことに気を回したりしないで」
パオロが亡くなったとき。二人が困っていたとき。ロビンは何も知らず、冒険にのめり込んでいた。そんな自分を責める気持ちを、ふわりと包み込まれたようだった。
37
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説

その国が滅びたのは
志位斗 茂家波
ファンタジー
3年前、ある事件が起こるその時まで、その国は栄えていた。
だがしかし、その事件以降あっという間に落ちぶれたが、一体どういうことなのだろうか?
それは、考え無しの婚約破棄によるものであったそうだ。
息抜き用婚約破棄物。全6話+オマケの予定。
作者の「帰らずの森のある騒動記」という連載作品に乗っている兄妹が登場。というか、これをそっちの乗せたほうが良いんじゃないかと思い中。
誤字脱字があるかもしれません。ないように頑張ってますが、御指摘や改良点があれば受け付けます。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】妃が毒を盛っている。
井上 佳
ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。
王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。
側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。
いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。
貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった――
見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。
「エルメンヒルデか……。」
「はい。お側に寄っても?」
「ああ、おいで。」
彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。
この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……?
※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!!
※妖精王チートですので細かいことは気にしない。
※隣国の王子はテンプレですよね。
※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り
※最後のほうにざまぁがあるようなないような
※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい)
※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中
※完結保証……保障と保証がわからない!
2022.11.26 18:30 完結しました。
お付き合いいただきありがとうございました!

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!
れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。
父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。
メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。
復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*)
*なろうにも投稿しています

【完結】王位に拘る元婚約者様へ
凛 伊緒
恋愛
公爵令嬢ラリエット・ゼンキースア、18歳。
青みがかった銀の髪に、金の瞳を持っている。ラリエットは誰が見ても美しいと思える美貌の持ち主だが、『闇魔法使い』が故に酷い扱いを受けていた。
虐げられ、食事もろくに与えられない。
それらの行為の理由は、闇魔法に対する恐怖からか、或いは彼女に対する嫉妬か……。
ラリエットには、5歳の頃に婚約した婚約者がいた。
名はジルファー・アンドレイズ。このアンドレイズ王国の王太子だった。
しかし8歳の時、ラリエットの魔法適正が《闇》だということが発覚する。これが、全ての始まりだった──
婚約破棄された公爵令嬢ラリエットが名前を変え、とある事情から再び王城に戻り、王太子にざまぁするまでの物語──
※ご感想・ご指摘 等につきましては、近況ボードをご確認くださいませ。

やり直し令嬢の備忘録
西藤島 みや
ファンタジー
レイノルズの悪魔、アイリス・マリアンナ・レイノルズは、皇太子クロードの婚約者レミを拐かし、暴漢に襲わせた罪で塔に幽閉され、呪詛を吐いて死んだ……しかし、その呪詛が余りに強かったのか、10年前へと再び蘇ってしまう。
これを好機に、今度こそレミを追い落とそうと誓うアイリスだが、前とはずいぶん違ってしまい……
王道悪役令嬢もの、どこかで見たようなテンプレ展開です。ちょこちょこ過去アイリスの残酷描写があります。
また、外伝は、ざまあされたレミ嬢視点となりますので、お好みにならないかたは、ご注意のほど、お願いします。

処刑から始まる私の新しい人生~乙女ゲームのアフターストーリー~
キョウキョウ
恋愛
前世の記憶を保持したまま新たな世界に生まれ変わった私は、とあるゲームのシナリオについて思い出していた。
そのゲームの内容と、今の自分が置かれている状況が驚くほどに一致している。そして私は思った。そのままゲームのシナリオと同じような人生を送れば、16年ほどで生涯を終えることになるかもしれない。
そう思った私は、シナリオ通りに進む人生を回避することを目的に必死で生きた。けれど、運命からは逃れられずに身に覚えのない罪を被せられて拘束されてしまう。下された判決は、死刑。
最後の手段として用意していた方法を使って、処刑される日に死を偽装した。それから、私は生まれ育った国に別れを告げて逃げた。新しい人生を送るために。
※カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる