豆腐メンタルな推しが尊い

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異世界と推し

3、異世界なの、、?

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   湯殿でメイドによって全身磨きあげられた梨音は、今この世界の服を見て戸惑っていた。

「あ、あの、これ本当にドレスなんですか?」

「はい、これが我が国の流行ドレスですよ?」

「マジか…」

   メイドさんがいうドレスとは白いロングドレスの上から着物を羽織り、帯で締めるドレス。建物が中世ヨーロッパなのに対して洋服に何故か和の要素が入っているのだ。

「リネ様?」

「あ、いや、少し私の世界の伝統的な服に似ていたから…」

「まぁ!そうなんですね!ですがリネ様がそう仰るのは当前かもしれません。我が国アチェル国は、異界の乙女と初代王が築いた国なので」

「異界の乙女…つまり私みたいな」

「はい!黒髪黒目の異界の乙女です。そういえば、リネ様は金髪にグレーの瞳ですね」

「あー、、私の世界にも色々な色彩の人がいて、母が金髪碧眼だったから…」

「そうだったんですね!リネ様にとても良くお似合いです」

「うふふ、ありがとう。私もこの色は気に入っているんだ。」

   肩に落ちた金髪を懐かしそうに梨音は見つめる。
   梨音の母は、ロシア人で父は純日本人だ。梨音の容姿は美しかった母と優しそうな父の顔を良いとこ取りしたようだと引き取った当初、叔母が言っていた。リネには自分の美醜はわからないが、叔母の言葉で良い容姿をしているのだと理解は出来た。

「さぁ、リネ様できました!」

「え、はやっ!ありがとう」

   懐かしい思い出に浸っているまに、メイドは梨音に流行という和ドレスを着せていた。

「お次はお化粧…と、いたしてもリネ様には必要なさそうですね。」

「えっ?」

「素のままでも大変お美しいので、薄くパウダーと紅を引きましょう」

「髪飾りはこれかしら?」

「羽織が赤だからパールもいいんじゃない?」

「ならこれね!」

「まって!この金髪にはルビーが映えるわよっ!!」

   軽く化粧を施してくれるメイドの後ろで、髪飾りをどれにするか盛り上がるメイドたちの会話にまだ終わらないの!?と疲れ始めた梨音は思ったのであった。



「さぁ、できました!完璧です!」

   その言葉にやりきった顔でメイド全員が頷く。結局、服と化粧は直ぐに終わったが、髪結いと髪飾りでかなり時間がかかった。髪飾りではパールにするかルビーにするかで揉め、多数決でパールに決まり。髪結ではハーフアップにするか編み込むかで揉め、多数決でハーフアップに決まったのだ。

「あ、ありがとう、ございます…」

   初めて長時間に渡る支度で梨音は疲れ切ってしまっていたが、メイドたちは梨音のために頑張ってくれたので何も言えなかった。







「ウェネディ様、リネ様をお連れ致しました」

「あぁ、ご苦労」

   支度が終わった梨音は、メイドたちに案内されウェネディが待つ晩餐の部屋へ来た。扉が開いた瞬間飛び込んできたのは、初めての会った時の服装とはちがいラフな服を着た推しだった。

   さっきは、軍服に似ている服を着ていたのに今はシャツに黒のパンツ、羽織を羽織ってる!!まって、凄く素敵なんですけど!???

「リネ殿?大丈夫か?」

   扉の前で立ち止まって動かない梨音を心配したウェネディの声により現実に引き戻される。

「っ!はい!あまりにネディー様が素敵だったので」

「それは、ありがとう。リネ殿もとても美しい」

「はうっ!推しが尊い…」

「リネ殿?」

「あ、すいません!」

   ウェネディと梨音の会話を微笑みながら聞いていたメイドは、落ち着きを取り戻した梨音を席へ案内する。

「どうぞ、リネ様の席はこちらです」

「ありがとう!」

「待て、リネ殿は客人だ。そこは妃が座る席だぞ」

「えっ?リネ様は、ウェネディ殿下の妃では無いのですか?」

「「「えっ?」」」

   部屋にいる全員がフリーズした。梨音は、メイドからウェネディの妃になったと聞かされていた。メイドはウェネディから今日からここに住む女性だと言われ、妃だと勘違いしていた。ウェネディは、城の客間より自分の離宮(後宮)で梨音を客人として保護した方が安全だと思いメイドに梨音を紹介した。
   つまり、ウェネディの言葉が足らなかったのだ。

「あの、失礼ながら殿下。リネ様は今日からこの後宮に住むと私たちは勝手ながら理解してしまったのですが…」

「あぁ、それはあっている」

「では、リネ様は妃では…」

「いや、リネ殿は客人だ。それに、会ったばかりのリネ殿に私の妻になれとは傲慢だろう…私の妻になるなんて…梨音殿が可哀想だろ……」

「……殿下、大事なことをちゃんと言ってください!!」

「す、、す、すまない。メイド長、リネ殿、私の不手際で混乱させたようですまない。」

「あ、いえ!私はネディー様と一緒にいられるならなんでも……」

「えっ?」

「な、なんでもありません!」

「そうか………。メイド長、リネ殿は、私の客人で事情がありここに住むことになった。丁重に扱うように」

「わかりました。殿下の妃だと思っていたので…残念ですが…まぁ、今後どうなるか分かりませんしね。」

「ん?」

「なんでもありません。殿下。では、メイドにリネ様の部屋を整えさせてきます。お2人は晩餐を楽しんでください。」

   ポツリと爆弾を落としたメイド長は一礼し、メイドを引連れ晩餐の部屋から出ていった。その部屋には、赤面した梨音とよく分からないといった顔をしたウェネディが取り残されたのだった。
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