縁

縁

「あんたなんて､死ねばいいのよ!クズ男!」
グラスの水をばしゃんと顔面にかけられた男｡
まさか､こんな修羅場に居合わせようとは…｡
控えめなくすくす笑いと「痴話喧嘩､こわーい」という揶揄した囁きが聞こえる。
実は私は最初から彼らの話を聞いていた｡
別れの原因はズバリ､彼の浮気だ｡10:0で彼が悪い｡
出張で行った先で出逢った女性とワンナイト｡
それまでは､まぁ､過ちだろう｡しかし｡相手が妊娠してしまったのだ｡
そうして､彼は男として､最低の振る舞いをする｡
こっそりお金を払い､堕胎させようとしたのだ｡
それに怒った相手の女性が､彼のSNSから恋人の存在を探り当て､連絡するまで､たいして時間はかからなかった｡
そうして接触した女性二人は意気投合（不思議なものである）｡
二人で彼に煮え湯を飲ませてやろうと画策｡
この派手な見世物もその一環だ｡
実はカツラをかぶり､変装しているが､妊娠している女性（彼女は一人で子供を育てる決心をした）がスマホでこっそり一部始終を撮影｡動画サイトに晒す予定である｡あるいは何かしらの罪に問われるかもしれないが､ヤツに天罰を味わわせてやれるなら構わない､と強烈な決意の元､決行されたのだ｡
項垂れる彼の後頭部を見ながら､私は手元の帳面に目を落とした｡
「どうやら､この＜縁＞は無駄になったな…」
次の現場に行こう｡
彼の今後はもう私には関係ない｡
? 私が誰かって?そうだねぇ､君たち人間流で言う＜天使＞かねぇ…｡
では､さらば｡