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いいえ、あたしはあなたの運命じゃ、ありません!

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未来(みらい)は溜め息をついた。
転校というものには、慣れる事がない。
教師に引率され、入る教室、突き刺さる視線、視線、値踏みするようなそれらに、一向に耐性がつく事はない。
「ここですよ、山倉さん」
女性教師は柔らかな口調で言い、教室の扉を開けてくれた。静々とその後に続く。
ざわついていた教室がシンとなる。
―ヤダなぁ…。と未来は思った。
教師が綺麗な字で名前を黒板に書いてくれる。
「はい、今日からこのクラスの新たなメンバーになる、山倉未来さんです!皆さん、色々教えてあげてくださいね!」促され、自己紹介する。
「山倉未来です。○県から来ました。趣味は読書です」ペコリと頭をさげる。
「はい、みんな、仲良くねー」と朗らかに教師は言い、「山倉さんは…平木くんの隣ね」と席を教えてくれた。
着席する。と、前の席の女子が振り返った。
「わたし、新田美佳。よろしくね」にこっと笑ってくれる。八重歯の可愛い子だ。
右隣から、「オレは笠原南。よく女子みたいな名前っていじられてる。よろしく」
後ろから「佐々莉奈乃です。よろしくね。わたし、図書委員なの。面白い本とか教えてね」
左隣から「僕は平木真(しん)です。演劇部です。よろしく」
と声をかけられた。
それぞれに「よろしくお願いします」とペコリとする。
―感じよさそうで、良いな…。

お昼は莉奈乃が一緒に食べよ?と誘ってくれた。ありがたい。
莉奈乃は終始にこやかな子で、「未来ちゃんと本の話、できるの楽しみにしてるよ!」と言ってくれた。
嬉しくて、未来も「うん!楽しみにしてる!」と返した。

放課後。
部活を決めねばならない未来は真に誘われ、演劇部見学に行ってみる事にした。実は美佳も演劇部で、三人で体育館まで歩いていく。
道中、「そうだ…」と美佳が言い出した。
「ね、山倉さんはたぶん大丈夫だと思うけど、『オカルト研究会』には近付かないようにね」
「『オカルト研究会』?」
うん、と美佳は頷く。
真も、あそこはなぁ…と苦笑を浮かべている。
「変な連中でね…まぁ、コックリさんやったり、文化祭でお化け屋敷作ったりまではいいんだけどさ…UFOを喚ぶ魔法陣を校庭に描かせてくれって、教頭先生に直談判したり…まぁ、はっちゃけてるのよ」
それはスゴイな…と未来も思った。高校生になってやるか?
「他にも、先週だったかな?」真が口を開いた「部長の黒薔薇…凄い名前だろ?三郷黒薔薇(みさとくろばら)っていうんだけどさ、が、<未来が視える水晶>を手に入れた、とかで、騒いでたなぁ」
―黒薔薇…そりゃ、スゴイ。とまたしても思ってしまった。
「害はないと思うけど、美佳も言ってるように弾けてる連中だから、近付かない方がいいよ」
わかった、ありがとう。と未来は礼を言った。
そんなこんなを話してるうちに、体育館に着いた。

演劇というものを、初めて観たが、なかなか面白かった。
オリジナルの脚本だそうで、惹き込まれた。
楽しいな、と未来は思った。―演劇部、いいかも。

こうして、山倉未来の転校初日はつつがなく終わったのだが…。

次の日の朝。
登校した未来は大いに戸惑った。
未来の席の前に、ひとりの人物が立っていたのだ。
学校だというのに、まるで魔法使いのような、真っ黒なローブを着ていて、両手に白手袋で水晶玉を持っている。
―まさか…。と嫌な予感がしたが、席に着かないわけにはいかない。
―ええぃ、ままよ。
「あの…私に何か用でしょうか?」恐る恐る声をかけた。
「山倉未来さん、はじめまして、そしてお迎えにあがりました。」
「はっ?」
思わずすっとんきょうな声を出してしまった。
南が「どうした?」と様子を見に来てくれた。
「三郷…おまえ、山倉に何の用だ?」
―えぇっ!?と未来は心の中で叫んだ。思い出す、昨日の会話…てっきり女子だと思っていたのだ。
「笠原南くん…キミに用はありません。自分は山倉未来さんに用があるのです」黒髪に紫ぶちの眼鏡、ローブを纏った、三郷黒薔薇は男子だったのだ。しかも。―けっこう、キレイな顔してる…。
この人が校庭に魔法陣を描こうとしたのか…。
南が追い払おうと頑張ってくれているが、敵(?)も頑固で、「理由は山倉未来さんに言います」と頑なに主張している。
未来は仕方ない、と「何の用ですか?」と問うた。
三郷黒薔薇はとんでもない事を言った「山倉未来さん、あなたは文字通り、自分の<未来>です。自分の運命の女(ひと)です」
それぞれの朝の集まりから、クラスに戻って来た、莉奈乃、美佳、真も加わり、南と四人がかりで、三郷を追い出してくれた。
未来は呆然としていた。
―なんてぶっ飛んでる人なんだろう…。

「情報集めて来た」お昼休み、美佳が口を開いた。
今朝の事があった為、四人が気遣ってくれ、未来のそばにいてくれているのだ。
それぞれのお昼をもぐもぐしながら、聞いた話はこうだ。
―先週、三郷黒薔薇は、怪しげな古美術商から<未来が視える水晶玉>を買った。と言っても、この<水晶>は万能ではない。
未来が視えるのは一回きり、しかも<運命の相手>が視えるのだそうだ。
そうして、三郷黒薔薇には視えたそうだ…「運命の相手はもうすぐ転校してくる少女」と。
「だから」と玉子焼きを箸で持って、美佳が言う「未来が自分の<運命>だって、信じ込んじゃってるのよ」
二日目で打ち解けてきたらしく、下の名前で呼んでくれるのが嬉しい。が、そんな場合ではない。
「何だそりゃ」と南。
「うへー」は莉奈乃。
「厄介だな…」は真。
未来は自分の学校生活に暗雲が広まっていく気がした…。

次の日の朝。
未来は学校前で逃げ出したくなった。
何故か。三郷黒薔薇が、その名と同じ花の花束を持って、校門横に佇んでいるのだ。
しかし転校三日目にして、登校拒否するわけにはいかない。
「何アレー」
「『オカルト研究会』、また、なんかやってんなー」
「なんか、B組の転校生?の子が狙いらしいよ?」などと耳に飛び込んで来て、ひぇぇ、となるも、負けるものか、と強制突破を決め込んだ。
素早く、黒薔薇が駆け寄ってくる。
「おはようございます。山倉未来さん、この花束を受け取ってください!」
無視を決め込んで、ダッシュした。もどかしく上履きに履き替え、教室―一年B組に飛び込んだ。
クラスの耳目が集まる。
追いかけてきた黒薔薇が
「未来さん、待ってくださーい」と叫ぶからだ。

「また来たか」
予想していたらしく、南がガシッと黒薔薇を押さえてくれた。
「またですか!笠原南くん!どうして、自分の<恋路>を邪魔するんですか?」
「明らかに山倉が迷惑してるからだ」そのまま、教室から引っ張り出して行ってくれた。
「ありがとう、笠原くん。ごめんね」と戻って来た南に声をかけた。
「山倉が謝る事じゃないだろ?イッちまってるヤツだからな」と手を振る。
「さすがに犯罪は…しないと思うが気をつけろよ」

昼休み。昨日と同じメンツでもぐもぐタイムだ。
もうすっかり未来と黒薔薇の事は噂になっており…
「困ったねぇ…」と莉奈乃。
「しつこいようだったら、警察案件なんだけどねー」は美佳。
「さすがに暴力とかはしないだろ?」と誰にともなく、真。
「あんなのがいちゃ、迷惑極まりないだろ」と南。
「ごめんね」と思わず、謝ってしまう。
全員が「どうして、未来が謝る?」と異口同音に言ってくれた。
「あたし、放課後、黒薔薇さんのところに行ってみる」と未来は言った。「話してみる。<違います>って」
「いや、無理でしょ」と美佳。
「危ないよ、未来ちゃん」は莉奈乃。
男子二人はうーん、と唸っている。
「こうなりゃ、山倉」と南。「誰かと付き合ってる事にしちまえば、どうだ?」
うん、と真。「僕もそれが良いと思う。山倉さんは転校生だ。前の学校に彼氏がいるとか…」
未来は肩をすぼめた。
「前、女子校だったんだ…」
うーん、となる。
「許嫁がいる!」と莉奈乃。「いる?」と訊いてくる。「いない…」と未来。
「そりゃそうだ」と美佳。「そんな時代錯誤、流行んないよ」
良い案は出ず、結局、放課後、莉奈乃と南が付き添い、(美佳と真は部活を抜けられなかった)『オカルト研究会』に赴く事になった。

「『オカルト研究会』へようこそ!山倉未来さん、あなたが来てくれる事はわかってましたよ!」と黒薔薇は莉奈乃と南を華麗に無視して、未来の事だけ、部室に連れ込もうとした。
「待て、俺たちもだ」と南が割っていってくれた。
渋々、という感じで、部室に三人通される。
「この方が、部長の<運命>の方ですかっ!?」とキラッキラした瞳で見つめてくるのは、小柄でパッチリ二重の可愛らしい女の子だった。「立花結花です!よろしくお願いします!」と、未来の右手を握ってぶんぶん上下に振る。
「困ってるわよ、やめてあげなさい」と、止めてくれたのは、茶がかった黒髪の綺麗な、どこかキリッとした面立ちの美人だった。「わたしは葉山アキラ。二年よ。よろしくね、未来さん」とこちらも控えめながら、歓迎ムードだ。
二人に挟まれている間に黒薔薇がハーブティーを用意してくれた。
ちなみに南と莉奈乃は無視されている状態だ。
「ええと、三郷…いえ、黒薔薇さん」とりあえず座った未来はおもむろに口を開いた。「あたしはあなたの<運命>の人じゃないと思います。ごめんなさい」深々と頭をさげる。
「ごめんなさい。あなたの気持ちには応えられません」と。
黒薔薇はしばしフリーズしていたが、「部長!」と結花につつかれ、「はっ!」と言った。
リアルではっ!って言う人、初めて見たな…などと考えてしまう。
「部長、しっかりしてください!」アキラもはっぱをかける。
黒薔薇は「証拠をみせるよ」と、白手袋を嵌め、例の<水晶>を持ってきた。
「聖なる<水晶>よ。僕の運命の女(ひと)を映してください」
………。
「あのー、何も見えないんですけど」と莉奈乃。
「見えないな」は南。
しかし、黒薔薇はドヤ顔になる。「当然だろう!自分の<運命>が易々と他人に視えては困る!これは僕自身にしか視えないんだ!」そう力説し、「山倉未来さん、やっぱり、自分の<運命の女(ひと>)はあなたです!お願いします!自分と交際を!」と叫んだ。
―こりゃ、ダメだ…。
未来は眼前が暗くなるのを感じた。
―逃げるが勝ち。
未来、莉奈乃、南、三人目配せしあって、せーの!で『オカルト研究会』から脱出した。

演劇部の発声練習の声が響く中に、三人は駆け込んだ。
「未来!平気だった?」と気付いた美佳が、来てくれた。真もやって来る。
三人はそれぞれに首を横に振った。
「やっぱ、ムリだったか…」と嘆息する美佳。
「こうなりゃ、長期戦だね」

かくて、未来の、黒薔薇をどうにか撒く日々が始まったのである…。

黒薔薇が追いかけてくるのは校内だけだった。
それも未来が嫌がる素振りを見せればやめる。代わりに、物陰からじっと見てくる。正直、怖いが、害はない。一応、担任の教師―あの女性教師・柴田薫に相談したが…「うーん、無理矢理な事はされてないのよね…?」と弱腰で未来たちは『世の中のストーカー犯罪の多くはこうして見過ごされるのだろうか…』と虚無感に襲われたりした。

黒薔薇にばかり、かまけてもいられない。花の女子高生は勉学や部活(演劇部に入部した)にも勤しまねばならない。
黒薔薇は相変わらず、校内でのみ、陰から見てきていたが…害を及ぼさない為、段々慣れてきた。
いつの間にか、空気扱いである。
ごくたまに「ん?」という生徒もいるが、スルーされている。

そうして、時は流れ、十月。
体育祭である。
白組・赤組に別れての戦いだ。くじ引きにより、未来と莉奈乃が白組。美佳、真、南が赤組になった。
風の噂によると黒薔薇は赤組らしい。

迎えた本番当日。
十月の空は爽やかに晴れ渡り、ウキウキとした気分で学校に向かった。と。
校門横に黒薔薇が立っている。
ここ最近は姿を見ていなかったのに。
彼は未来に駆け寄ってきた。そうして「未来さん、今日の騎馬戦、棄権するんだ!」と、唐突に言った。
「はい?」未来は確かに騎馬戦の騎手だ。
「信じてくれないかもしれないけど、自分は視たんだ、あの<水晶>で。キミは大怪我をしてしまうよ!」
「はい?」もちろん、信じるわけはない。
未来は取り合わず、さっさと教室へ行き、準備した。

競技は順調に進んでいった。未来と莉奈乃も活躍した。白組優勢で迎えた、午後。次は騎馬戦だ。
ハチマキをギュッと巻く。
「未来…」肩を莉奈乃がつついてきた。果たして、黒薔薇がこちらを窺っている。未来はつかつかと近寄り、
「黒薔薇さん、ご心配してくださるのはありがたいです。けど、怪我人なんて出てませんし、騎馬戦も無事に終わりますよ。ご自分の事に集中なさってください」と言い切った。
黒薔薇は口をパクパクさせていたが、いなくなった。莉奈乃が「未来ちゃん、カッコイー」と拍手をくれる。
未来はフッと笑い「賞賛はまだ早いよ。騎馬戦、白組の勝利を手に!」キャッキャッと女子高生らしく、はしゃいでいると、「騎手、来てくださーい」と呼ばれた。

男女混合四組で行われる騎馬戦は、至極簡単なルールで、総当たり戦。ハチマキを奪ったもの勝ちである。落下や騎馬が大きく崩れた場合は敗退だ。
危険な為、中止している学校もおおい昨今だが、人気が高く、開催の運びになった。

ちなみに白組騎手は、未来と二年生の女子。
赤組騎手はあの『オカルト研究会』のアキラと二年生の女子だった。
いよいよ競技スタート。
早速組み合う敵同士。
アキラがハチマキを奪おうと手を伸ばして来るのをガードする。
「ねぇ、未来さん」
不意にアキラが話しかけてきた。「あなたはどうして、部長を拒絶するの?」
「はい?」いまここでする話題か?と疑問符が駆け巡る。「部長は美しいし、秀才でいらっしゃるわ。少々変わってはいらっしゃるけど…」アキラがキッと睨みつけてきた。
「あなたにはもったいない方よ。なのに拒絶し続ける…あなた、何様なの?」高圧的なアキラの言葉にカチンときた。こちとら、転校早々、<水晶>だの、<運命>だの、余計なものに振り回されたんじゃ!
アキラのハチマキを奪おうと手を伸ばした、と。
ガッと衝撃。
えっ?と思った瞬間には…未来は落下していた。

「未来さん!!」叫ぶ声が聞こえた…。

目を覚ますと、天井が見えた。と。「未来ちゃん!起きた!」莉奈乃だ。「センセイ!未来ちゃん、起きました!」
ここはどこだろう…?ベッドに寝かされていたらしい。
そうだ…騎馬から落下して…。記憶がない。
「山倉さんは大丈夫そうね」と柴田が言う。
それに引っかかった。
「他に怪我人がいるんですか?」
柴田はかすかに言い淀む「あのね…騎馬が数人、転んで、怪我したの。それからね…」
続いた言葉に、未来は息を飲んだ。

未来が落下した、あの瞬間。なんと黒薔薇が走り込み、スライディング。未来のクッションになってくれたという。そのまま、未来の身体を遠くへ押しやってくれた。しかし、その後に続いた騎馬の総崩れに巻き込まれ…一番下になった彼は意識がない状態だという…。

未来は念の為、検査を受ける事になり、一晩で退院できた。しかし…。
黒薔薇は意識が戻らない、という。四日経ったのに、だ。
いつも視界の隅に映っていた黒薔薇。時折、未来に笑いかけてきていた姿。
<校内ストーカー>などと思っていたが…。
アキラに言われた事を反芻した。そして…。

数日後。
ご両親に頼み、未来は黒薔薇の病室に入った。
黒薔薇はただ健やかに眠っているだけのように見えた。
「黒薔薇さん…」未来はそっと話しかけた。
「黒薔薇さん、ありがとうございます」ペコリと頭をさげる。
「黒薔薇さんのおかげで、あたしは無事でした。他の人たちも大した事ないそうです」未来の視界がぼやけた。涙だ。
「黒薔薇さん、あたし、謝らなきゃいけません」涙がポロポロこぼれる。
「いきなり<水晶>だの、<運命>だの、言われて、黒薔薇さんを<ヘンな人>って決めつけて、知ろうとしなかった…」言葉を切る。「あなたをこんな目に遭わせたあたしは、やっぱり<運命>じゃないと思います…だけど…あたし、黒薔薇さんの事が知りたいです。目が覚めたら<友達>になってくれますか?」病室は静寂に満ちていた。と。
「…頼むから、泣かないで…」かすかに目を開いた黒薔薇が言ったのだ。
未来は弾かれたように立ち上がり、ナースコールを押そうとした。
「待って、未来さん、」黒薔薇の呼びかけに手が止まる。「さっき…自分と<友達>になって…って、あれは本当?」
はい、と未来は頷いた。
「あたし、黒薔薇さんの事が知りたいです」
黒薔薇はフッと笑い、「それは嬉しいよ」と言って、再び目を閉じてしまった。
「黒薔薇さん!?」

更に時は流れ…三月。
卒業のシーズンである。
卒業生代表の挨拶に拍手と涙が入り交じる。
未来たち、五人も二年生になる。クラス分けは春休み明けのお楽しみだ。

あの後、意識を回復した、三郷黒薔薇は人が変わったようだった。『オカルト研究会』を解散し、元々良い成績だったが、勉学に励み、県外の屈指の大学に合格した。
卒業式が終わり、未来は待ち合わせ場所に向かった。
桜がハラハラと舞う。
「黒薔薇さん…」待っていた彼は、はにかんだ笑顔を浮かべた。「来てくれてありがとう」未来はふふっと微笑んだ。「そりゃあ、来ますよ。しばらく黒薔薇さんと会えなくなっちゃうんですから」
黒薔薇は緊張した面持ちになった。
息を吐き、「未来さん」と呼びかけた。「はい」
「自分が最初にキミに興味を持ったきっかけは<水晶>だったけれど…」言葉が途切れる。「はい」
「自分は…山倉未来さんが好きです。付き合って貰えませんか?」
一息にそう言い、ギュッと目をつむっている。
未来は手を伸ばした。
彼の右手をギュッと握る。
「あたしで良ければ、よろしくお願いします!」

黒薔薇は県外の大学の為、遠距離恋愛である。
未来は二年生になり(莉奈乃、南と同じクラスになった)、なんと(端役だが)舞台にあがれる事になった。
ふたりの<未来>は日々更新されていくのだった。

<END>


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