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罪悪
しおりを挟む広場から、キャーと若い娘たちの歓声が響く。
今日はこの国の王子が妻を娶るのだ。
隣国の姫君・イセラ様を迎える。
本当なら、王子の傍らにいたのはわたしだったのに…!
そんな嫉妬と羨望の眼差しを投げている女―ミーサは貴族の娘であり、王子の以前の婚約者だった。
親の決めた許嫁、という理由で自分に関心を示さない王子が憎く(それは好きだった、ということだ)火遊びをして歩いた結果、婚約破棄。
それがどんなに悔しく、惨めだったか…。
けれど。この気持ちとも今日でお別れだ。もうどんなに足掻いても、彼の心は戻ってこないのだから…。
ミーサは深いため息をつくと、広場を離れようとした。
その時。花火のような炸裂音が、こちらへ向かってきていた、王子とイセラ様を乗せた馬車の方角から聞こえた。嫌な予感にミーサは走って、そちらへ向かった。
人混みでなかなか前に進めない。
やっと抜けると、何と二人が乗っていたはずの馬車が半分無くなっていた。
男が一人、兵士に捕まえられている。と。その男がとんでもない事を叫んだ。
「これは俺一人の望みじゃない! 貴族のミーサ様の望みでもあるんだ!!」
ミーサは唖然となった。あの男、何を言っているの?
第一、誰?
いつの間にか、人垣が割れ、ミーサの横にも兵士がいた。
「ミーサ様ですね? 来てください」
有無を言わせぬ口調に従った。
馬車を爆破した犯人はイセラ様の元婚約者だった。
自分を捨て、王子に嫁ぐ彼女を許せず、爆弾を仕掛けた、と。
王子とイセラ様、馭者は即死だったそうだ。
ミーサは暗い牢の天井を見上げ、考えていた。
確かに憎かったが、死んで欲しくはなかった。
頬を涙が滑り落ちる。
王子様、王子様、わたくしはただあなたのことが好きだったのです…。
後日、ミーサは無罪放免された。
当たり前だ。彼女は何もしていない。けれど。
彼女の心の奥底には澱のように淀んだ想いが沈んでいた。
―確かに私はあの二人に嫉妬していたのだから…。
嫉妬という名の罪はあるのではないか?、と…。
罪の意識から逃れられずにいる…。
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