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第一章
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魔鉱石のダンジョンは、リカルドとアレンに任せるとして、オーガは地下室の建設に着工した。
その前に、使える家財はすべてストレージにしまい、奇麗に解体するところから始める。
庭に、馬車の本体を置いてあるから、寝泊まりについての問題もない。
結界があるから、中の様子を詳しく見ることは、恐らく竜人や王族並みに”目”が良くないと見えないだろう。
塵、埃についても、配慮して結界に簡易の魔道具で補助をしている。
普段、風などもシャットダウンしてしまうので、あまり必要ない。
空気はもちろん通すが……。
地下の隅々に耐震、対物、衝撃の防御を書き込んだ魔石を埋め込んでいく。
ONIの世界でも、この魔石を埋め込んでおけば、大抵どう建築しても大丈夫だった。というか、これらを作れるのが大工として活躍していたのだ。仕方がない。
「……ここは手作業か、魔法を使うか。錬金術を使うか……」
面倒くさい、とオーガは思いつつ、それでも広さが馬車の何倍もある敷地内を見て、はぁ、とため息を吐いた。
整地の土魔法で、地下室の分の穴を掘り、減った魔力が微々たるものなのを確認する。
そして、魔方陣を面倒くさそうに書き込み、建物の一角を囲み、必要だろう石材と木材を投げ入れていく。
地下室は主に、オーガの作業場となるために、かまども作ろうと思っているので、気持ち石材を多めに投げ入れる。
『混じりて、物は真実へ
形無きもの、形作り
望むは暮らす、人のため
其の姿は偽りの物
真の姿に変われ変われ
望む姿に変われ変われ』
大きなものを作る時の呪文は大まかには変わらない。
細部が少々変わるぐらいだ。
何が作りたいかを、明確にイメージできていれば、錬金術は多少、呪文に間違いがあっても完成する。
まぁ、間違えた分だけどこかしらにほころびも生まれるが。
「……レベルが上がったからか、あまりだるくはないな」
****************************
名前:オーガ
ジョブ:魔法剣士
sub:錬金術師
レベル:3
体力:22,000/22,000
魔力:315,000/620,000
腕力:4388
精神:6300
俊敏:3240
防御:3375
運:3375
***************************
「ん……この調子なら、あと一か所はいけるか」
そうして、オーガは竈を置く、主に鍛冶をするための工房と、その隣にポーションなどを作成するための工房を設けた。
魔法薬を作る工房には、天井部分に一部穴をあけ、滑車を通すことにする。
いずれ、店のスタッフにも魔法薬作りはしてもらうつもりだ。けれども、地下に工房があってはストレージや異空間収納を持っていない限りは、地上へあげるのが少し大変だろうという配慮だ。
真ん中に地下通路の入り口が通っているために、二つの工房は完全に分かれている。
鍛冶の方は、万が一にも火事があった場合を想定して、一階部分へと繋がる穴はあけていない。
こればっかりは頑張ってもらうしかないだろう。
まぁ、もともと鍛冶は力仕事と体力仕事。
魔法薬作りとは勝手が異なるのは当たり前のこと。
ここを受け継ぐのが、どちらの特価になるのか、はたまた両方こなす、器用貧乏になるのかはわからないが。
オーガの命も無限ではない、それをオーガ自身がよくわかっていた。
そうして、この日は地下部分の大まかな部屋が完成する。
竈を作った分、魔法薬を作る部屋よりは魔力を使ってしまった。
一階部分の床まで完成して、帰ってきたリカルドたちにはひどく驚かれた。
無理してないか?とそれはそれは保護者、というより過保護のように心配されながら。
「お前らは俺の母親か!」
そう、突っ込みを入れてしまったのは仕方のないことだろう。
魔力の枯渇は、ある意味死活問題だと説教されたけれども。
なんとなく納得いかない気がするのはオーガだけだろう。
この世界の常識を、オーガは知らないのだから。オーガは魔力回復のポーションを煽って寝た。
次の日も、建築に取り掛かるオーガ。
いけるかな?と一階部分を予定している場所へ木材を大量に投入してそっと魔力を流してく。
地下部分よりも地上部分は大きく作っている。
『重なり伸びる木々たちよ
伸びる天にどこまでも
望むは暮らす、人のため
其の姿は偽りの物
真の姿に変われ変われ
望む姿に変われ変われ』
基礎の骨組みが、見る見るうちに出来上がっていく。
三階建てにしようと思っていたが、思いのほかうまくいったようで、高い骨組みがそこにはあった。
が、立ち上がる時にくらりとオーガはふらつく。
「危ういのぉ」
「……何でてめぇがいるんだ」
ふらつく体を、音もなくやってきて、支える人物。
夢でちょくちょく会っていたので、あまり久しぶりという感覚はない。
「つれないことを言うな、オーガよ」
オーガを抱きしめ、キスを落としてくる。
それを無感動で受け入れてしまうのは、馴れというのか。
「それで?あの街はどうしたんだよ?」
「執政官を定め、任じた。しばらくは王領となり、そのうち兄弟の誰かに下賜されるであろうな」
ふーん?とオーガは気のない返事をしながら、ラジュールの腕から逃れようと暴れる。
が、動きは封じられ、顔を合わせられる。
「しかし、兄上も意地悪が過ぎるのぉ。我が用意した土地を他の者へ下賜し、この場所を下賜するとは……」
「あ?なんか問題あるのか?」
「ここは、城から遠いのだ。気軽に来れないではないか」
王城を指し、ため息を吐いたラジュールにオーガもため息を吐いた。
そんな理由で?と。
「というか、お前護衛は?なんでここにいる?」
「お前ではなく、ラジュールだ愛しきオーガ。道の確認をと思うてな。地下通路を通って出てきたのよ。ここまで何もなくなっているとは思わなんだが」
からからと笑うラジュール。
そりゃ、改築しようと思ったが、一から作り直しているのだ。当たり前というか……。
「ここ、貴族屋敷だろ。そんなところで店が開けるか」
「それもそうか。さて、そろそろ喧しいのが城下にも追っ手を放つ頃じゃろ。名残惜しいが帰るとするかの」
「あぁ、帰れ」
「冷たいのぉ。次に来るときは、茶を所望しよう」
ははは、とやはり楽しそうに笑いながらラジュールはオーガをあっさりと解放して、地下通路へと戻っていった。
オーガに会いに来た、ということで間違いはないらしい。
なんだか、どっと疲れた、と思いつつ今日はこれでやめにしよう、と思いのほか進まなかった作業にため息をもう一度吐いて、馬車の中へ入りふて寝のようにベッドで寝た。
帰ってきたリカルドたちはオーガが外で見当たらないことに大変驚いていた。
「どうした?体調でも悪いのか?魔力の使い過ぎか?」
「……いや、ただラジュールに会って気が抜けただけだ」
そのオーガの返答に微妙な顔をした二人。
何といっていいのかわからんぐらいに。
ラジュール、というか王太子ほいほい一般人に会いに来る方が驚きだ。
その王太子を敬うことなく接するオーガも、またある意味恐ろしいと感じる要因である。
気が抜けた、ということは大掛かりな柱の建設をしながら、それでもなお建築を進めようとしたということだ。
二人はそろって顔を見合わせると、改めてオーガの特異性にため息を吐いた。
一言でいうのなら、非常識である。その日も、魔力の回復薬を飲み、眠った。
三日目は一階の建設から。
魔方陣は二日目のまま使用する。
木材と石材を投入し、ガラスの材料となるスライムの素材を入れた。
リカルドたちは、石材の採取が終わり、各々にギルドで依頼を請け負うみたいだ。
そんな二人をいってらっしゃい、と追い出し、オーガは作業をしている。
見られていたからといって、これという問題はないのだが。口うるさく言われるのは勘弁願いたいのだ。
まぁ、帰ってきて予想以上に進んでいると怒られるというか、心配されるのだが。
それを聞き流し、数日をかけて店舗兼住宅は完成した。
当初の予定通り、地下室は作業部屋に、一階は店舗に。
二階部分に生活スペースと従業員たちの生活スペースを。
そして三階には各々の部屋と客間を。家具を設置し、木材で従業員用のベッドを作り配置すれば、それなりの形となった。
二階部分の部屋の構造は、少し変更した。生活スペースはそのままだが、大部屋を中部屋と小部屋に分け、中部屋を4つ、小部屋を2つにした。
そこに二段ベッドを中部屋には二つ、小部屋には一つ配置する。部屋の収容人数分のクローゼットやタンス、机などをあつらえ、完全に中は日本の寮のような作りになっていた。
大部屋を廃止した分、共有スペースを作り、食堂とは別にくつろげる場所を作ってみた。娯楽、と呼べるほどのモノはないが、本棚を備え付けてあり、そこには絵本から教科書みたいな本まで様々なモノを収納してある。それは、この世界に詳しい二人に集めてもらった。
木材が気にすることなくとれるからか、製紙技術はこの世界では普通に発達している。本は、高価ではあるものの、絶対に手に入らない、というわけではない。
上下水道については、オーガの魔道具技術による結晶とも言えるものがふんだんに使われていた。
例えば、蛇口をひねれば出てくる水。下水は王都の地下を流れている下水につながるように調節してある。浄化装置を取り付けて、なるべく奇麗な状態で流れるようにはなっているが。
ちなみに、馬車の排水溝は虫籠につながっており、すべて下水はオーガの契約獣であるスライムのミーに流れ着くようになっている。
あと、魔導コンロ。これについては、魔力ありきで考えられていて、微力でも魔力を保有していれば、その魔力で火が使えるというもの。
もちろん、魔力が多量に持っている者でも、つまみ一つで火力の調整は可能なので、暴発する、という心配はない。
エアコンもどきも作り、各部屋に設置してある。そのほか、オーガは嬉々として魔道具を作り役に立ちそうだと思えば即座に取り付けていた。
二階の入り口は日本式の玄関のようになっていて、下駄箱と絨毯、それから少しの段差がある。
これは、湿気によってフローリングを傷めない様に、と言うオーガのこだわり。
まぁ、ニスなどないので、それっぽい強化液をフローリングには塗布してあり、痛むという心配もあまりないのだが。
オーガにとって家の中で靴を履く、という習慣があまりないため、仕方のないことなのかもしれない。
一階の店は、表と裏、それから診療スペースへと分かれており、一週間のうち、火の日だけはお休みだと書かれている看板が下がっていた。
まだ、店はオープンしたわけではないが、サンプルと効能は展示してある。もちろん、魔法鞄のサンプルも。
「……さて、従業員の確保だな」
「当てはあるのか?」
リカルドが怪訝そうに聞いてくるが、オーガはいや?と首を横に振った。
「当てのないのに、どうやって集める気だ?」
「当てはないが、雇いたい大体の人物たちなら決まっている」
ますます眉を顰めるリカルドへ、オーガは笑う。
「子供だ」
は?とリカルドはオーガを見つめ間抜けな顔をさらす。
オーガはけらけらと笑いながら言う。
「子供って……おい、まさか……」
「別に、親がいる子供を連れてこようなんて思ってない。死にかけの、親のいない子供……スラム街で死にかけの子供が居れば、そいつらを雇いたい」
「……」
リカルドは驚き、オーガを探るようにじっと見ていた。
そんなリカルドを放置して、王都のスラムを手始めに巡ってみようと歩き出すオーガをリカルドが止める。
「……スラムに入るのはやめておけ。ここよりももっと治安は悪いんだぞ」
「関係ないな。喧嘩売って来るなら買ってやるさ」
ふはっ、と笑うオーガ。
仕方がない、といわんばかりにため息を吐いたリカルドも同行することにしたらしい。
アレンは、ギルドからの要請があって貴族からの、ではなくギルド本部からの指名以来で忙しいという。
基本的に、外部、それも貴族から入れられた指名以来は断ることができるが、ギルドからの指名以来は断ることはできない。
滅多にギルドが指名以来を出すことはないが、ギルドは言わば冒険者たちの親会社。断ればギルドからの追放だってあり得るのだ。
冒険者の資格を失うことは、避けたい。ということで、逆らうことはできない。
「……王都のスラムは、案外奇麗だな」
いや、違うか、と思い直す。
ルラギラの街が特殊だったのかもしれない、と。
ふむ、と考え、ルラギラの街の様子を見に行ってみようか、と思い立つ。
「リカルド、少し飛ぶぞ」
「は?」
と驚くリカルドの腕をつかむと、パチンッと指を鳴らした。
シュンッ、と音を立てて、王都から一瞬でルラギラの街へとたどり着く。
若干スラムよりなそこは、キレイとはいいがたい場所であった。
転移魔法である。
ひとしきり驚いた後、はぁ、とリカルドは深くため息を吐いた。
しかし、オーガは気にすることなくずんずんと進んでいく。
それを見失わない様にリカルドも動いた。
移動した先は、前に死にかけの人間であふれていた裏道。
そこは、領主が変わったとはいえ、まだまだやせ細った人々が暮らしていた。
「かめんのおにいちゃんっ!!」
そこで、超どういい人材がいないか、歩きながら考えていたオーガへ声がかけられた。
仮面の、ということはどう考えてもこの辺に仮面をつけている人物はおらず、オーガを指していることは明らかだ。
「……あ?お前……あの時の?」
がりがりではあったものの、少しだけあの頃より生きている子供。
オーガが気まぐれに助けた子供であった。
「そうだよ!」
「少し、顔色が良くなっているな……あぁ、そうか」
スタッフ募集なら、この子供でもいいわけだ、と思いつくオーガ。
「お前、今何をしている?」
「ごみのなかから、つかえるものをひろうの」
えっとね、えっとね、と一生懸命に話す子供。
廃品の中から使える物を拾い、売るという事か。
ふむ、と考え提案すればどうなるか、と少しドキドキしながら問う。
「お前、俺の店で働く気はあるか?」
「おい、オーガ!?」
「おにいちゃんのおみせで?」
あぁ、とオーガはその子供と顔を、仮面越しにだが合わせ、そして説明する。
「物を売る店だ。もちろん、商品を作ることも、戦うことも覚えてもらう。が、今よりは確実にいい暮らしができる。どうだ?」
「いくっ!おにいちゃんは、わたしのてんしさまだから!」
おにいちゃんについていけばだいじょうぶ、と笑う子供に、リカルドはため息を吐き、オーガは笑った。
内心、天使……?とリカルドとオーガ自身が思いながら。
「それじゃあ、今から一つ仕事を頼む」
「うん!なぁに?」
「お前みたいな子供は、ほかにも居るのか?」
「うん……いっぱいいるよ……」
「じゃあ、そいつらの所に連れて行ってくれないか?」
「うん!わかった!」
こっちだよ、と子供はオーガの手を引いていく。
こっちこっち、と少し屈むように歩くオーガをせかすため、オーガは少し転びそうになりながら子供の後についていく。
リカルドは、周囲の警戒をしているようだ。まぁ、冒険者に襲い掛かって、無事でいる保証などないけれど、それほど切羽詰まっているスラムの住人もいるのだろうか?
むしろ、それはゴロツキだと思うのだが。
「……あの時の教会、か」
「みんな、ここでくらしてるの」
扉もがたがたで、吹けば飛んでしまいそうなそこで暮らしてる、と子供はいう。
みんな、という通り、教会では小さい3歳くらいの子供から、10歳くらいの子供が集まっていた。
聞けば、みな身寄りがないという。
表の新しい教会には、たくさんの孤児が居て、あふれかえっており、ここにいる子供たち……20人ぐらいだろうか?……を受け入れることができないらしい。
受け入れはできないが、古い教会であれば好きにしていい、と許可をもらっているという。しっかりしているというか、何というか。
その子供たちに向かい、オーガは先ほどの子供と同じように問う。
「俺の店で働く気はあるか?」
と。
ここよりもましな暮らしができる、という事で、彼らはアイコンタクトでどうしようか決め、そして一番年長の男の子が一つうなずきをオーガへと返した。
よし、とにっこり……それはそれは悪魔の微笑のようにオーガは笑い、リカルドへと問う。
「こいつらを、王都に安全に入れるにはどうしたらいいと思う?」
「……どっかのギルドに登録させるのが一番早いと思うが……商業ギルドが良いだろう」
「何で?」
「冒険者ギルドは、基本的に15歳以下の加入を制限している。それは、子供を無謀に参加させ、命を奪うことを良しとしないからだ。実力に問題なし、とされた者だけがギルド証の発行ができる」
その点、商業ギルドであれば、商売を始めたい人が登録するギルドなので、あまり制限はない。
オーガの店で働くにしても、オーガの店から飛び出していくにしても、どちらにしろ商業ギルドのギルドカードはあって困ることはないだろう。
ただし、年会費みたいなものは必要になる。
まぁ、必要経費だと思えば、安い安い。
「へぇ、そうなのか……なら、この街の商業ギルドへと加入してギルドカードを作るか……」
戸籍、といってもこの子供たちには戸籍はないだろう。
それに、身分を証明しようにも、身寄りがなければそれも難しい。
リカルドはルラギラの街の住人ではないので、彼らの身元を保証することはできないし、オーガに至っては異世界人だ。論外だろう。
となれば、ギルドの登録が一番早い。
商業ギルドへの登録は、リカルドに任せた。オーガたちの中で一番子供たちと過ごすことになるだろうリカルドと、子供たちの最初のステップだと思え、と押し付けたに近い。
「みて、おにいちゃん!」
じゃん、と自慢してきたあの時の子供。
名前は、サシャと言うらしい。
「お前、サシャって言うんだな……」
くしゃ、と何の気なしに頭を撫でてやればとてもうれしそうにサシャは笑った。
子供好き、と言うわけではないが、嫌われるより好かれる方が断然うれしい。
子供たちの中には、名前のない子供もいて、リカルドが即席で考えて名付けていた。
サシャは幸か不幸か、自分の名前を知っていたが。
全員、商業ギルドでギルド証を発行したとき、最後には受付の目が怖かったが、オーガはスルーしてリカルドはため息を吐いていた。
「それじゃ、王都に帰るぞ」
「おーと?」
どこ?と子供たちの中でも首をかしげているが、苦笑しながら行けばわかる、とオーガは街を出て皆にしっかりと捕まっているように言った。
街とギリギリ認識される範囲の場所で、だが。
「しっかり掴まってなかったら、どこに飛ばされるかわからないからな。知らんぞ」
そういえば、子供たちも、そしてリカルドも必死にオーガへとつかまった。
ぱちん、と指を鳴らせば、王都のこれまたギリギリ街と認識される範囲に転移する。
問答無用で中に転移してもよかったが、そうなるとギルドで証明書を発行してもらったのに、不法滞在ともみなされかねない。
ならば、堂々と入り口から入ったほうがいいだろう。
「ほら、入るのはそこの商業ギルド用の入り口からだ」
時間はかかったが、商業ギルド用の入り口から、きちんと入ることができた。
冒険者用、商業用、貴族用、一般門があるが、基本的に貴族門が一番規制がきつく、冒険者用が一番緩いのだろう。
まぁ、それでも身分証がなければ出入りすることも許されないが。
王都に入ると、そのまま真っすぐに新しい家に帰る。
小さい子が歩き辛そうにしているのを見て、それを抱えてやる。
サシャなどから、いいなぁ、と声が上がるも、オーガの体力的に子供をもう一人抱えて歩く、などはできない。
リカルドも同様に同じくらいの子供を、それでも二人抱えながら歩いていた。
まるっきり、これでは子守だ。
家につけば、子供たちは新しいお風呂へと突っ込んだ。石鹸もあるし、シャンプー&リンスもあるし何とかなるだろう。
ちびっ子を一人それで洗ってやる。ちなみに、ロリでもショタでもないので、興奮したりしない。
「わぁ!あわあわ~」
使い方が分かった子供たちは各々に自分で体や頭を洗っていく。きゃっきゃという声をあげながら、楽しそうに。
オーガはそのうちに浴室を出て、全ての服に浄化の魔法をかけた。
リカルドは、既製品の子供服を買いに行っている。ゆっくりとした時間があれば、オーガが作っても問題はなかったが、さすがに20人分を急務で、といわれてもできるわけがない。
それならば、買いに行ってもらった方がましだろう。
浴室に入れた感じ、男の子が8人、女の子が12人という感じであった。
がりがりであるからか、分かりにくい子供が多い。
風呂のお湯には、回復用のポーションを入れてある。Bランクだが子供たちには十分だろう。
さて、とオーガはキッチンスペースへと向かった。
パンとミルクとはちみつで作る、ミルク粥を作ることに。
たくさん食べてほしいが、胃が驚くといけない。
まぁ、そうならない様に、の魔法薬だったが。
その前に、使える家財はすべてストレージにしまい、奇麗に解体するところから始める。
庭に、馬車の本体を置いてあるから、寝泊まりについての問題もない。
結界があるから、中の様子を詳しく見ることは、恐らく竜人や王族並みに”目”が良くないと見えないだろう。
塵、埃についても、配慮して結界に簡易の魔道具で補助をしている。
普段、風などもシャットダウンしてしまうので、あまり必要ない。
空気はもちろん通すが……。
地下の隅々に耐震、対物、衝撃の防御を書き込んだ魔石を埋め込んでいく。
ONIの世界でも、この魔石を埋め込んでおけば、大抵どう建築しても大丈夫だった。というか、これらを作れるのが大工として活躍していたのだ。仕方がない。
「……ここは手作業か、魔法を使うか。錬金術を使うか……」
面倒くさい、とオーガは思いつつ、それでも広さが馬車の何倍もある敷地内を見て、はぁ、とため息を吐いた。
整地の土魔法で、地下室の分の穴を掘り、減った魔力が微々たるものなのを確認する。
そして、魔方陣を面倒くさそうに書き込み、建物の一角を囲み、必要だろう石材と木材を投げ入れていく。
地下室は主に、オーガの作業場となるために、かまども作ろうと思っているので、気持ち石材を多めに投げ入れる。
『混じりて、物は真実へ
形無きもの、形作り
望むは暮らす、人のため
其の姿は偽りの物
真の姿に変われ変われ
望む姿に変われ変われ』
大きなものを作る時の呪文は大まかには変わらない。
細部が少々変わるぐらいだ。
何が作りたいかを、明確にイメージできていれば、錬金術は多少、呪文に間違いがあっても完成する。
まぁ、間違えた分だけどこかしらにほころびも生まれるが。
「……レベルが上がったからか、あまりだるくはないな」
****************************
名前:オーガ
ジョブ:魔法剣士
sub:錬金術師
レベル:3
体力:22,000/22,000
魔力:315,000/620,000
腕力:4388
精神:6300
俊敏:3240
防御:3375
運:3375
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「ん……この調子なら、あと一か所はいけるか」
そうして、オーガは竈を置く、主に鍛冶をするための工房と、その隣にポーションなどを作成するための工房を設けた。
魔法薬を作る工房には、天井部分に一部穴をあけ、滑車を通すことにする。
いずれ、店のスタッフにも魔法薬作りはしてもらうつもりだ。けれども、地下に工房があってはストレージや異空間収納を持っていない限りは、地上へあげるのが少し大変だろうという配慮だ。
真ん中に地下通路の入り口が通っているために、二つの工房は完全に分かれている。
鍛冶の方は、万が一にも火事があった場合を想定して、一階部分へと繋がる穴はあけていない。
こればっかりは頑張ってもらうしかないだろう。
まぁ、もともと鍛冶は力仕事と体力仕事。
魔法薬作りとは勝手が異なるのは当たり前のこと。
ここを受け継ぐのが、どちらの特価になるのか、はたまた両方こなす、器用貧乏になるのかはわからないが。
オーガの命も無限ではない、それをオーガ自身がよくわかっていた。
そうして、この日は地下部分の大まかな部屋が完成する。
竈を作った分、魔法薬を作る部屋よりは魔力を使ってしまった。
一階部分の床まで完成して、帰ってきたリカルドたちにはひどく驚かれた。
無理してないか?とそれはそれは保護者、というより過保護のように心配されながら。
「お前らは俺の母親か!」
そう、突っ込みを入れてしまったのは仕方のないことだろう。
魔力の枯渇は、ある意味死活問題だと説教されたけれども。
なんとなく納得いかない気がするのはオーガだけだろう。
この世界の常識を、オーガは知らないのだから。オーガは魔力回復のポーションを煽って寝た。
次の日も、建築に取り掛かるオーガ。
いけるかな?と一階部分を予定している場所へ木材を大量に投入してそっと魔力を流してく。
地下部分よりも地上部分は大きく作っている。
『重なり伸びる木々たちよ
伸びる天にどこまでも
望むは暮らす、人のため
其の姿は偽りの物
真の姿に変われ変われ
望む姿に変われ変われ』
基礎の骨組みが、見る見るうちに出来上がっていく。
三階建てにしようと思っていたが、思いのほかうまくいったようで、高い骨組みがそこにはあった。
が、立ち上がる時にくらりとオーガはふらつく。
「危ういのぉ」
「……何でてめぇがいるんだ」
ふらつく体を、音もなくやってきて、支える人物。
夢でちょくちょく会っていたので、あまり久しぶりという感覚はない。
「つれないことを言うな、オーガよ」
オーガを抱きしめ、キスを落としてくる。
それを無感動で受け入れてしまうのは、馴れというのか。
「それで?あの街はどうしたんだよ?」
「執政官を定め、任じた。しばらくは王領となり、そのうち兄弟の誰かに下賜されるであろうな」
ふーん?とオーガは気のない返事をしながら、ラジュールの腕から逃れようと暴れる。
が、動きは封じられ、顔を合わせられる。
「しかし、兄上も意地悪が過ぎるのぉ。我が用意した土地を他の者へ下賜し、この場所を下賜するとは……」
「あ?なんか問題あるのか?」
「ここは、城から遠いのだ。気軽に来れないではないか」
王城を指し、ため息を吐いたラジュールにオーガもため息を吐いた。
そんな理由で?と。
「というか、お前護衛は?なんでここにいる?」
「お前ではなく、ラジュールだ愛しきオーガ。道の確認をと思うてな。地下通路を通って出てきたのよ。ここまで何もなくなっているとは思わなんだが」
からからと笑うラジュール。
そりゃ、改築しようと思ったが、一から作り直しているのだ。当たり前というか……。
「ここ、貴族屋敷だろ。そんなところで店が開けるか」
「それもそうか。さて、そろそろ喧しいのが城下にも追っ手を放つ頃じゃろ。名残惜しいが帰るとするかの」
「あぁ、帰れ」
「冷たいのぉ。次に来るときは、茶を所望しよう」
ははは、とやはり楽しそうに笑いながらラジュールはオーガをあっさりと解放して、地下通路へと戻っていった。
オーガに会いに来た、ということで間違いはないらしい。
なんだか、どっと疲れた、と思いつつ今日はこれでやめにしよう、と思いのほか進まなかった作業にため息をもう一度吐いて、馬車の中へ入りふて寝のようにベッドで寝た。
帰ってきたリカルドたちはオーガが外で見当たらないことに大変驚いていた。
「どうした?体調でも悪いのか?魔力の使い過ぎか?」
「……いや、ただラジュールに会って気が抜けただけだ」
そのオーガの返答に微妙な顔をした二人。
何といっていいのかわからんぐらいに。
ラジュール、というか王太子ほいほい一般人に会いに来る方が驚きだ。
その王太子を敬うことなく接するオーガも、またある意味恐ろしいと感じる要因である。
気が抜けた、ということは大掛かりな柱の建設をしながら、それでもなお建築を進めようとしたということだ。
二人はそろって顔を見合わせると、改めてオーガの特異性にため息を吐いた。
一言でいうのなら、非常識である。その日も、魔力の回復薬を飲み、眠った。
三日目は一階の建設から。
魔方陣は二日目のまま使用する。
木材と石材を投入し、ガラスの材料となるスライムの素材を入れた。
リカルドたちは、石材の採取が終わり、各々にギルドで依頼を請け負うみたいだ。
そんな二人をいってらっしゃい、と追い出し、オーガは作業をしている。
見られていたからといって、これという問題はないのだが。口うるさく言われるのは勘弁願いたいのだ。
まぁ、帰ってきて予想以上に進んでいると怒られるというか、心配されるのだが。
それを聞き流し、数日をかけて店舗兼住宅は完成した。
当初の予定通り、地下室は作業部屋に、一階は店舗に。
二階部分に生活スペースと従業員たちの生活スペースを。
そして三階には各々の部屋と客間を。家具を設置し、木材で従業員用のベッドを作り配置すれば、それなりの形となった。
二階部分の部屋の構造は、少し変更した。生活スペースはそのままだが、大部屋を中部屋と小部屋に分け、中部屋を4つ、小部屋を2つにした。
そこに二段ベッドを中部屋には二つ、小部屋には一つ配置する。部屋の収容人数分のクローゼットやタンス、机などをあつらえ、完全に中は日本の寮のような作りになっていた。
大部屋を廃止した分、共有スペースを作り、食堂とは別にくつろげる場所を作ってみた。娯楽、と呼べるほどのモノはないが、本棚を備え付けてあり、そこには絵本から教科書みたいな本まで様々なモノを収納してある。それは、この世界に詳しい二人に集めてもらった。
木材が気にすることなくとれるからか、製紙技術はこの世界では普通に発達している。本は、高価ではあるものの、絶対に手に入らない、というわけではない。
上下水道については、オーガの魔道具技術による結晶とも言えるものがふんだんに使われていた。
例えば、蛇口をひねれば出てくる水。下水は王都の地下を流れている下水につながるように調節してある。浄化装置を取り付けて、なるべく奇麗な状態で流れるようにはなっているが。
ちなみに、馬車の排水溝は虫籠につながっており、すべて下水はオーガの契約獣であるスライムのミーに流れ着くようになっている。
あと、魔導コンロ。これについては、魔力ありきで考えられていて、微力でも魔力を保有していれば、その魔力で火が使えるというもの。
もちろん、魔力が多量に持っている者でも、つまみ一つで火力の調整は可能なので、暴発する、という心配はない。
エアコンもどきも作り、各部屋に設置してある。そのほか、オーガは嬉々として魔道具を作り役に立ちそうだと思えば即座に取り付けていた。
二階の入り口は日本式の玄関のようになっていて、下駄箱と絨毯、それから少しの段差がある。
これは、湿気によってフローリングを傷めない様に、と言うオーガのこだわり。
まぁ、ニスなどないので、それっぽい強化液をフローリングには塗布してあり、痛むという心配もあまりないのだが。
オーガにとって家の中で靴を履く、という習慣があまりないため、仕方のないことなのかもしれない。
一階の店は、表と裏、それから診療スペースへと分かれており、一週間のうち、火の日だけはお休みだと書かれている看板が下がっていた。
まだ、店はオープンしたわけではないが、サンプルと効能は展示してある。もちろん、魔法鞄のサンプルも。
「……さて、従業員の確保だな」
「当てはあるのか?」
リカルドが怪訝そうに聞いてくるが、オーガはいや?と首を横に振った。
「当てのないのに、どうやって集める気だ?」
「当てはないが、雇いたい大体の人物たちなら決まっている」
ますます眉を顰めるリカルドへ、オーガは笑う。
「子供だ」
は?とリカルドはオーガを見つめ間抜けな顔をさらす。
オーガはけらけらと笑いながら言う。
「子供って……おい、まさか……」
「別に、親がいる子供を連れてこようなんて思ってない。死にかけの、親のいない子供……スラム街で死にかけの子供が居れば、そいつらを雇いたい」
「……」
リカルドは驚き、オーガを探るようにじっと見ていた。
そんなリカルドを放置して、王都のスラムを手始めに巡ってみようと歩き出すオーガをリカルドが止める。
「……スラムに入るのはやめておけ。ここよりももっと治安は悪いんだぞ」
「関係ないな。喧嘩売って来るなら買ってやるさ」
ふはっ、と笑うオーガ。
仕方がない、といわんばかりにため息を吐いたリカルドも同行することにしたらしい。
アレンは、ギルドからの要請があって貴族からの、ではなくギルド本部からの指名以来で忙しいという。
基本的に、外部、それも貴族から入れられた指名以来は断ることができるが、ギルドからの指名以来は断ることはできない。
滅多にギルドが指名以来を出すことはないが、ギルドは言わば冒険者たちの親会社。断ればギルドからの追放だってあり得るのだ。
冒険者の資格を失うことは、避けたい。ということで、逆らうことはできない。
「……王都のスラムは、案外奇麗だな」
いや、違うか、と思い直す。
ルラギラの街が特殊だったのかもしれない、と。
ふむ、と考え、ルラギラの街の様子を見に行ってみようか、と思い立つ。
「リカルド、少し飛ぶぞ」
「は?」
と驚くリカルドの腕をつかむと、パチンッと指を鳴らした。
シュンッ、と音を立てて、王都から一瞬でルラギラの街へとたどり着く。
若干スラムよりなそこは、キレイとはいいがたい場所であった。
転移魔法である。
ひとしきり驚いた後、はぁ、とリカルドは深くため息を吐いた。
しかし、オーガは気にすることなくずんずんと進んでいく。
それを見失わない様にリカルドも動いた。
移動した先は、前に死にかけの人間であふれていた裏道。
そこは、領主が変わったとはいえ、まだまだやせ細った人々が暮らしていた。
「かめんのおにいちゃんっ!!」
そこで、超どういい人材がいないか、歩きながら考えていたオーガへ声がかけられた。
仮面の、ということはどう考えてもこの辺に仮面をつけている人物はおらず、オーガを指していることは明らかだ。
「……あ?お前……あの時の?」
がりがりではあったものの、少しだけあの頃より生きている子供。
オーガが気まぐれに助けた子供であった。
「そうだよ!」
「少し、顔色が良くなっているな……あぁ、そうか」
スタッフ募集なら、この子供でもいいわけだ、と思いつくオーガ。
「お前、今何をしている?」
「ごみのなかから、つかえるものをひろうの」
えっとね、えっとね、と一生懸命に話す子供。
廃品の中から使える物を拾い、売るという事か。
ふむ、と考え提案すればどうなるか、と少しドキドキしながら問う。
「お前、俺の店で働く気はあるか?」
「おい、オーガ!?」
「おにいちゃんのおみせで?」
あぁ、とオーガはその子供と顔を、仮面越しにだが合わせ、そして説明する。
「物を売る店だ。もちろん、商品を作ることも、戦うことも覚えてもらう。が、今よりは確実にいい暮らしができる。どうだ?」
「いくっ!おにいちゃんは、わたしのてんしさまだから!」
おにいちゃんについていけばだいじょうぶ、と笑う子供に、リカルドはため息を吐き、オーガは笑った。
内心、天使……?とリカルドとオーガ自身が思いながら。
「それじゃあ、今から一つ仕事を頼む」
「うん!なぁに?」
「お前みたいな子供は、ほかにも居るのか?」
「うん……いっぱいいるよ……」
「じゃあ、そいつらの所に連れて行ってくれないか?」
「うん!わかった!」
こっちだよ、と子供はオーガの手を引いていく。
こっちこっち、と少し屈むように歩くオーガをせかすため、オーガは少し転びそうになりながら子供の後についていく。
リカルドは、周囲の警戒をしているようだ。まぁ、冒険者に襲い掛かって、無事でいる保証などないけれど、それほど切羽詰まっているスラムの住人もいるのだろうか?
むしろ、それはゴロツキだと思うのだが。
「……あの時の教会、か」
「みんな、ここでくらしてるの」
扉もがたがたで、吹けば飛んでしまいそうなそこで暮らしてる、と子供はいう。
みんな、という通り、教会では小さい3歳くらいの子供から、10歳くらいの子供が集まっていた。
聞けば、みな身寄りがないという。
表の新しい教会には、たくさんの孤児が居て、あふれかえっており、ここにいる子供たち……20人ぐらいだろうか?……を受け入れることができないらしい。
受け入れはできないが、古い教会であれば好きにしていい、と許可をもらっているという。しっかりしているというか、何というか。
その子供たちに向かい、オーガは先ほどの子供と同じように問う。
「俺の店で働く気はあるか?」
と。
ここよりもましな暮らしができる、という事で、彼らはアイコンタクトでどうしようか決め、そして一番年長の男の子が一つうなずきをオーガへと返した。
よし、とにっこり……それはそれは悪魔の微笑のようにオーガは笑い、リカルドへと問う。
「こいつらを、王都に安全に入れるにはどうしたらいいと思う?」
「……どっかのギルドに登録させるのが一番早いと思うが……商業ギルドが良いだろう」
「何で?」
「冒険者ギルドは、基本的に15歳以下の加入を制限している。それは、子供を無謀に参加させ、命を奪うことを良しとしないからだ。実力に問題なし、とされた者だけがギルド証の発行ができる」
その点、商業ギルドであれば、商売を始めたい人が登録するギルドなので、あまり制限はない。
オーガの店で働くにしても、オーガの店から飛び出していくにしても、どちらにしろ商業ギルドのギルドカードはあって困ることはないだろう。
ただし、年会費みたいなものは必要になる。
まぁ、必要経費だと思えば、安い安い。
「へぇ、そうなのか……なら、この街の商業ギルドへと加入してギルドカードを作るか……」
戸籍、といってもこの子供たちには戸籍はないだろう。
それに、身分を証明しようにも、身寄りがなければそれも難しい。
リカルドはルラギラの街の住人ではないので、彼らの身元を保証することはできないし、オーガに至っては異世界人だ。論外だろう。
となれば、ギルドの登録が一番早い。
商業ギルドへの登録は、リカルドに任せた。オーガたちの中で一番子供たちと過ごすことになるだろうリカルドと、子供たちの最初のステップだと思え、と押し付けたに近い。
「みて、おにいちゃん!」
じゃん、と自慢してきたあの時の子供。
名前は、サシャと言うらしい。
「お前、サシャって言うんだな……」
くしゃ、と何の気なしに頭を撫でてやればとてもうれしそうにサシャは笑った。
子供好き、と言うわけではないが、嫌われるより好かれる方が断然うれしい。
子供たちの中には、名前のない子供もいて、リカルドが即席で考えて名付けていた。
サシャは幸か不幸か、自分の名前を知っていたが。
全員、商業ギルドでギルド証を発行したとき、最後には受付の目が怖かったが、オーガはスルーしてリカルドはため息を吐いていた。
「それじゃ、王都に帰るぞ」
「おーと?」
どこ?と子供たちの中でも首をかしげているが、苦笑しながら行けばわかる、とオーガは街を出て皆にしっかりと捕まっているように言った。
街とギリギリ認識される範囲の場所で、だが。
「しっかり掴まってなかったら、どこに飛ばされるかわからないからな。知らんぞ」
そういえば、子供たちも、そしてリカルドも必死にオーガへとつかまった。
ぱちん、と指を鳴らせば、王都のこれまたギリギリ街と認識される範囲に転移する。
問答無用で中に転移してもよかったが、そうなるとギルドで証明書を発行してもらったのに、不法滞在ともみなされかねない。
ならば、堂々と入り口から入ったほうがいいだろう。
「ほら、入るのはそこの商業ギルド用の入り口からだ」
時間はかかったが、商業ギルド用の入り口から、きちんと入ることができた。
冒険者用、商業用、貴族用、一般門があるが、基本的に貴族門が一番規制がきつく、冒険者用が一番緩いのだろう。
まぁ、それでも身分証がなければ出入りすることも許されないが。
王都に入ると、そのまま真っすぐに新しい家に帰る。
小さい子が歩き辛そうにしているのを見て、それを抱えてやる。
サシャなどから、いいなぁ、と声が上がるも、オーガの体力的に子供をもう一人抱えて歩く、などはできない。
リカルドも同様に同じくらいの子供を、それでも二人抱えながら歩いていた。
まるっきり、これでは子守だ。
家につけば、子供たちは新しいお風呂へと突っ込んだ。石鹸もあるし、シャンプー&リンスもあるし何とかなるだろう。
ちびっ子を一人それで洗ってやる。ちなみに、ロリでもショタでもないので、興奮したりしない。
「わぁ!あわあわ~」
使い方が分かった子供たちは各々に自分で体や頭を洗っていく。きゃっきゃという声をあげながら、楽しそうに。
オーガはそのうちに浴室を出て、全ての服に浄化の魔法をかけた。
リカルドは、既製品の子供服を買いに行っている。ゆっくりとした時間があれば、オーガが作っても問題はなかったが、さすがに20人分を急務で、といわれてもできるわけがない。
それならば、買いに行ってもらった方がましだろう。
浴室に入れた感じ、男の子が8人、女の子が12人という感じであった。
がりがりであるからか、分かりにくい子供が多い。
風呂のお湯には、回復用のポーションを入れてある。Bランクだが子供たちには十分だろう。
さて、とオーガはキッチンスペースへと向かった。
パンとミルクとはちみつで作る、ミルク粥を作ることに。
たくさん食べてほしいが、胃が驚くといけない。
まぁ、そうならない様に、の魔法薬だったが。
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