イスティア

屑籠

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第一章

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 寄り道をして、ダンジョンコアを手に入れたオーガたちは、ゆっくりと少し森の中を見て回り、異常がないか確認しながら馬車へと戻る。

「……囲まれている?」

 ふと、オーガが辺りを窺うようにぐるりと見回した。レティは、今回オーガがどうするのか見ているらしい。まぁ、危なくなれば問答無用で助けるのだろうけれど。
 アレンとリカルドも、ぴんっ、と張りつめた糸のように緊張感を漂わせている。
 それは段々と、馬車に近づくにつれて多くなっていく。
 つまりは、あの馬車の持ち主として狙われていると言う事か。
 ふむ、とオーガが考えちらりとアレンたちを見る。

「うん、俺が処理してもいいか?」
「この人数だと中規模の盗賊団だぞ?大丈夫か?」
「あぁ……たぶん」

 おいっ!!と言う二人の突っ込みを受けながら、オーガはそれでも気配遮断をしてそっと跳躍を自らにかけて飛んだ。
 とんっ、とんっと飛んでいけば、見えてくる馬車。

【痺れ拘束】

 馬車の上に降り立つと、無詠唱で範囲を決めて発動させた。
 すると盗賊たちは、殆どが痺れと拘束の合わせ技によって動けなくなっていた。
 逃げれた者たちは、そのままステータスの自動地図と索敵を組み合わせた素敵な道具で追跡している。

「……こんなものか。【集束】」

 オーガが集束を唱えると、痺れ拘束された盗賊たちは、オーガの居る馬車の周りへと集まってくる。
 その誰もが突然の事に驚き、目を見開いていた。
 粗方集まったところで、指笛をオーガが吹く。

 ピューーーーーッ

 鳴った笛が聞こえたのだろう。
 少しの間から、突風が吹き、次の瞬間にはアレンたちを連れたレティがそこにはいた。

「早かったな?」
「私がオーガちゃんの合図を聞き間違えると思ってるの?全く失礼しちゃうわ。それともなぁに?私が鈍足とでも言いたいわけ?オーガちゃんでも許さないわよ」

 ギロっとオーガを睨むレティ。はいはい、とオーガは気にした様子もないが。

「俺は、アジトに向かってるだろう残りを追うから、こいつら縛っておいてくれ」

 そう、オーガはストレージからロープを取り出すと、アレンたちに投げて渡した。

「オーガちゃん、私が一緒に行きましょうか」
「何で決定系で話すんだよ、嫌だよ一人で行くわ」
「だめだ。レティを連れていけ。お前、今は俺たちと行動していることを忘れるな」

 だめだ、とリカルドに言われ、それに同意したアレンがうんうん、と頷いている。
 ちっ、と舌打ちをしたオーガは、それでも分かったと言ってしぶしぶレティを連れていくことにした。
 レティ、とオーガが声をかければ、心得た、と言うようにレティが人型から獣の姿に変わる。
 そのレティの背中にひらりとまたがり、はぁ、とため息を吐いたオーガ。

「そんじゃ、残党狩りしてくるわ」
「あぁ……気を付けて行けよ?何があるか分からないからな」
「分かってる。そんな事、この世界に来てからな」

 何があるか分からない。そんな事、オーガはこの世界に初めて落ちた時から感じていた。
 身に染みている言葉だ。まさか、自分が、と言う。
 レティに背中から指示を出しながらステータス上に表示されているマップを確認して赤い丸が収束している場所へと駆けていく。
 敵に見つからないように、そっと距離を取って。

「レティ」

 その声掛けだけで、レティはそっと速度を落として止まる。敵のアジトから数メートル離れた場所だ。
 一つの、自然に出来た穴を使った、古典的なアジトらしい。
 どうするかなぁ、とそれを見てオーガは顎に手を添えて考える。

「オーガちゃん?」
「ん?ああ……んー、眠り薬よりしびれ薬の方がいいか?いや、でもな……」
「もー、何を迷ってるのよ?迷うくらいなら、やっちゃいなさいよ、それでも男なの?ちんこ付いてんの!?」
「関係ないだろっ!?!?!?誰だよ、お前にそんな言葉教えたの!!」
「オーガちゃんに決まってるじゃない!!!」

 小さな声で言い争いをしていたオーガとレティ。
 レティの言葉に、ため息を吐いてオーガは仕方がない、と指を鳴らした。

【結界】

 まだ、この洞窟がどこかに別の入り口があるかもしれないから、中に眠り薬の煙を結界を張った洞窟の内側へと広げる。
 魔法で少し風を送れば、瞬く間に広がっていくようだ。
 オーガはレティの背中に乗って、ふわりと空に浮き上がる。
 案の定、赤い点は止まったり逃げたり。
 逃げてる点は、一定方向に向かっている。もう一つ、出口があるのだろう。

「……レティ、あっちだ」
「分かってるわよん」

 オーガが指さす方へ、レティは空より駆け降りる。
 ふわり、とレティが地面に降り立ったところで、ガサガサと隠し通路が開かれる。
 俺と、ごろつきの目が合った。

「なっ、何だてめぇは!!」
「やっちまえーーーっ!!!」

 アジトの出入りを見られたからには、と続々と出てくるゴロツキ達。
 結界を張り、オーガは自身に一定以上近寄れないようにする。
 粗方出てきたところで、ぱちん、と指を再び鳴らした。

【電撃】

 雷系の魔法で、第二位の強さ。
 加減すれば、人が死ぬことはない。ただ、ショック状態に陥るだけだ。
 表に出てきたやつらは、それで方が付いた。けれども、一人だけ中で電撃を受けず、這い出てきた大物。
 彼らのボスだろう。

「がっはっはっ、やるなぁ、小僧」
「小僧って年じゃないんだがな……くせぇ」

 出てきた彼大柄で、粗忽な見た目。オーガは顔を顰める。
 ちっと舌打ちしたのは、その匂いに覚えがあったから。

「レティ」
「えぇ、そうね。あの男だわ、ベヒモスを殺したの」

 レティも睨みつけるように、男を見る。
 その体からは、死臭に似た、ベヒモスの魔力臭が染みついていた。

「はっはっは、失礼な奴らだな!?」
「うぉっ!」

 ゆったりと歩いてきたと思えば、いきなり男が駆け出し、レティは咄嗟によける。
 突然の事で、体を揺らし、跳ね上がった。
 振り落とされはしなかったが、少し驚く。

「【結界】ごと切ってきやがった……何つう馬鹿だよ」
「あらん?それってオーガちゃんに言われたくはないセリフだわねぇ」
「うるさいレティ。次も来るぞ」

 飛びのいた先に、再びにやりと笑い、男が武器を振り回してくる。

「ぅおらぁっ!!」
「あっ、っ、っぶないわねぇ!!」

 何か付与魔法が施されているのか、男の振り回す武器は、いとも簡単にオーガの張る結界を切り捨てる。
 避けることはレティに任せ、男に狙いを定める。最悪、殺すことも視野に入れなければいけないだろう、と。

【痺れ拘束】

 と狙いと言うか、範囲を定めて魔法を放つが、あの武器なのか、それとも体質なのか、あまり効果はないようだ。

「あん?今なんかしたか?」
「クッソ面倒くさいのが居たもんだな!」

 くそっ!!とレティが男の攻撃を避けた瞬間、オーガはレティから飛び降りた。

「おっ、兄さんやる気かぁ?」

 気が付いたら近くで振られているその武器を、オーガは寸でのところで避ける。

「たっく、人の馬車狙ってたから追ってきたけど……面倒なのが居たもんだ!!」

【古の炎】

 第六位炎魔法。その炎は金と緑の色を放ち、対象へと向かっていく。
 第五位までの魔法は、基本的にあまり一人にはダメージを与えられないためだ。もちろん、無傷とはいかないが。
 けれども、その魔法ですら通じないのであれば、やはり高度を上げなければいけないのは確かだろう。

「ぐっ、くそっ!」

 流石に、第六位魔法は完全に、防ぐことは難しいらしい。剛腕に、やけどを負っていた。少し逃げるのが遅れれば、炭となり消し飛んでいただろう。
 やけどしか負わせられなかったことに、オーガは舌打ちをする。

「やるなぁ、小僧。怪我なんて久しぶりだぞ」

 がっはっは、と楽しそうに笑っている音をを見て、戦闘狂か、とオーガはげんなりとした表情をする。
 はぁ、とため息を吐き、これ以上の火力を出せばうっかり殺してしまいそうだ、と男を見る。
 男は、警戒しているのか、先ほどのように無賢慮で突っ込んでくることはなくなり、オーガの出方を見ているようだ。

「アンタマジ面倒くさい。さっさと投降してくれねぇ?」

 ごぉう、とものすごい速さで、立っていた男へとレティが突っ込んでくる。
 それを、寸でのところで避ける男。無駄に腕が立つのが、腹が立つとオーガはいらいらしてきた。

「山賊なら山賊らしく、さっさとお縄につけよ」
「はっはっは、そんな容易く捕まってるようじゃ、二つ名などつけられたりしねーよ!!」

 ぶおん、と武器が当たりそうになるたびにひやひやする緊張感が漂う。
 まぁ、見えない速さでもない。大丈夫、大丈夫、とオーガは自分に言い聞かせ、何を出そうかな?と頭の中で魔法の構成を組み立てる。

【静かなる水の刃】

 第四位の水と風の複合魔法。水の水圧を利用した刃を、風の魔法で音を消して投げる。
 そう、単純だが風の魔法で消音をするのが難しく、第四位の魔法となっていた。まぁ、単体の魔法自体は第三位の魔法だが。
 音もなく飛んで行ったそれを、野生の感か、寸前の所で男は避け、三本はなった内の、最後の一本は腕に大きく傷を付けた。

「……ようやく進展ってか?遅すぎだろ」
「いてぇ、なっ!!」
「ぅおあっ!?」

 再び近づいてきた男の攻撃を避けることは出来た。
 が、後ろに飛ぼうとしたところで、オーガは張り出ていた木の根に引っかかって転んでしまう。
 好機、ととらえ男がそのまま武器を振り下ろそうとしてくる。
 流石にダメか……、とオーガが思ったところで、胸元の魔石が光、グギャアアアアアアオ!!!!!と、咆哮が響いた。

「勝手に出てくるな、レンジ!!」

 オーガの、契約獣の一匹だった。
 名をレンジ。その体は、白いサテンのような光を放っている。
 小さな、それは小さな、竜。オーガの両腕を広げてしまえば全長がすっぽりと収まってしまうぐらいには。
 けれど、これで成獣である。

「なっ、妖精竜、だ、、、と、、、?」

 何故か、妖精竜は、鱗粉と言う特殊スキルを持っている。
 蝶ではなく、爬虫類なのだが。
 その鱗粉に含まれる状態異常や毒の成分は、防ぐことが実質不可能である。自分よりも種族性で劣る者には、絶対効果、と言う固有スキルもあるからだ。
 反則業だろ、と思ったことも多々ある。
 今回は眠り粉にしたらしく、ぐ~すかと男は眠ってしまっていた。
 はぁ、となんとも呆気ない幕引きに、オーガは深くため息を吐く。
 そのレンジと言えば、ふわりふわりとオーガの肩へと乗り、すりすりとオーガに頬ずりをしていた。

「呆気ないわねぇ……最初から、レンジ呼び出してれば早かったんじゃないの?」
「レンジを呼び出せるもんか。お前だって分かってるだろ?」

 妖精竜は、その個体を減らし、人に見つかりにくく生活をしている。
 妖精竜の素材は、高値で取引されるからだ。他の、一般的な竜の素材に比べて。それこそ、前にオーガが狩っていたワイバーンなど目ではないほどに。
 オーガがレンジと出会ったのは、ぶっちゃけた話偶然である。
 オーガにしても、人族である限りは、竜種に勝てるはずもなく、須らくレンジたち妖精竜の鱗粉は効いてしまう。
 だから、ハイリスクな妖精竜には興味を示していなかったオーガだが、ある時、テイマーズギルドで買った卵を育ててみると、それがびっくりレンジだったというわけだ。
 ちなみに、その時何故テイマーズギルドに言って、卵を買おうと思ったのかと言えば、オーガの意思ではない。
 武力ランキング1位がオーガの客であり、何かとうるさい……いや、熱血で悪戯好きと言う最悪の組み合わせの男がいて、その男がオーガを気に入っていた。
 そして、その男に押し切られる形で、オーガはテイマーズギルドで卵を買ったのだ。
 ちなみにその男の卵から産まれたのは、”孤高なる炎馬”で、そいつに似合わなさ過ぎてオーガが一人腹を抱えて笑い転げたのは、いい思い出である。
 どういうわけか、他の契約獣たちは勝手に外へ出てくることがないのに、このレンジだけはオーガの魔力とつながっていて、契約獣の住処にもなっている魔石から勝手に出てきてしまうのだ。
 レティに聞いても、私じゃ無理よ、と呆れた顔をされた。
 そのおかげか、卵からオーガの魔力を吸って育ったレンジは、レティが引くほどオーガに懐いている。

「……捕縛して帰るか」

 面倒だなぁ、と思いつつオーガはレティに頼み、風魔法で一か所にゴロツキ達を集めてもらい、ロープで一人一人拘束した。
 持ち運びも面倒だから、契約獣たちが入っている魔石の中へ、ポイっと入れてしまう。何も魔獣だけがいれられる訳では無い。生きてる物なら何でも入るし、餌になる物も入る。まぁ、魔獣しか入れたことはないが、オーガが命令しない限りは攻撃もされないだろう。
 一応、洞窟の中を調べ、金品を奪う。もともと、誰かから奪ってきたものだろう。オーガに奪われたとて、文句は言えまい。
 戻れ、と言ったところで戻るとも言わないレンジにはぁ、とため息を吐いた。

「……何か増えてるな」

 馬車に戻ると、心配して出迎えてくれていたのか、リカルドがポツリとつぶやく。
 その目線は、オーガにすりすりと頬ずりしていたレンジに向かっている。

「妖精竜……もう、何が出てきてもって感じだな」

 あはは、とアレンが遠くを見て言う。
 オーガにしても、はぁ、とため息を吐きレンジを片手で押しのける。

「そう、妖精竜のレンジだ。レティと同じ契約獣だ」
「お前の契約獣は一体どれだけいるんだ」
「あ?何体……だっけか」

 えっと、と考え始めるオーガを見て、キッとレティは片眉を上げ、睨む。

「こらっ!オーガちゃん!私たちの事みんな覚えてないの?」
「……覚えてるぞ、一応」
「その顔は覚えてないわね!?」

 全く、とレティが腰に手を当てて言うがオーガはほかの事でも考えているのか、取り合ってはいない。

「……それにしても、レティもレンジも、自由だな?普通であれば、もう少し拘束されるんじゃないのか?」
「それは使役獣ね。私たちは契約の元、主であるオーガちゃんに手を貸してるってわけ。つまり、WINーWINの関係で、使役獣っていうのは、そうね、ガッチガチに縛られて私たちの意志さえ無視した一方的なもの。それは力が伴わなければ、使役している魔獣に食べられて終わる、そんなものよ」

 使役獣と契約獣、同じテイムだとして、その実、全く異なるものだ。
 オーガには、使役獣は一匹しかおらず、その他は全て契約獣である。
 何故、使役獣が一匹かと言えば、それはオーガにとって契約するには手に負えない魔獣だからだ。
 暴力的で横暴な、魔獣。それが一匹だけ……。

「それより、そろそろ出発するぞ」

 縛られていた残りの盗賊をまとめて魔石の中へと入れると、オーガは馬車の中へため息を吐き、レンジを連れたまま入っていく。
 レンジは、オーガの契約獣なのでオーガと同一視される。そのため、登録がなくとも中に入ることは可能だ。

「妖精竜か。今では見ることも少なくなってきてるな」
「あぁ。だからこそ、高い。貴重種だと言われることはある」

 生で見た妖精竜に、アレンとリカルドはオーガの後姿を見送りながら一つうなづく。
 アレンはそのまま、行者の席へと座りレティがまた獣の姿になり、馬車を引く。
 リカルドも、そのままオーガの後を追い、馬車へと乗った。

 馬車の中で、リビングスペースともいえる場所で、ごろり、とオーガは寝っ転がる。
 うつぶせになり、はぁ、とため息を吐くオーガの後頭部にレンジが乗り、ぎゃっぎゃと楽しそうに泣いている。
 しかも、オーガがレンジを叩き落そうとしていると、タイミングを見計らってその手を避けるという、本当に遊んでいるみたいに。

「重てぇ~」
「……重いのか?妖精竜って」

 基本的に、リカルドも知識では知っているモノの、生で見るのは初めての妖精竜。
 どんなものなのか、など書面でしか見たことも無い。

「持ってみるか?」
「は?」

 レンジ、とオーガが声をかければ、レンジは分かった~と言うように鳴き、リカルドの前へと降り立った。
 それを、ついリカルドは両手で受け止める。
 両手に足が付き、レンジが翼を仕舞ったとたん、がくん、とリカルドは前のめりになった。

「……っ、重いな」
「だろう?それが頭に乗ってるのを想像してみろ。重いだろ」

 約小型の成犬ぐらいの重さがあるレンジ。
 それが後頭部に乗っているのを想像して、あぁ、重い、と苦笑いしながら手の上で翼を広げたり閉じたりしながらぎゃっぎゃと笑うレンジをみる。
 レンジは、警戒心がないのか、それとも人間に慣れているのか、オーガがリカルドを信用していることが分かるのか、リカルドの傍では、比較的大人しい。

「……オーガ。街に入れば、妖精竜は」
「分かってる。それぐらい、レンジも俺もな」

 リカルドの言葉を遮るようにオーガは言うと、レンジは寂しそうにひと鳴きしてから魔石の中へ勝手に帰っていった。
 リカルドはそれを唖然として見送る。

「俺がしていたゲームの世界でも、妖精竜って言うのはとても珍しい存在で、よく狙われてた。だからこそ、魔石の中に閉じ込める様にしてるんだ」

 ぴんっ、とネックレスのようになっている魔石をはじく。

「オーガ、お前にとってレティやレンジとは何だ?彼らの契約内容は?」
「契約内容は言えない。それを言えば、俺はこの先契約獣を持てなくなる」

 契約は、交渉が必要であり、その契約内容を他に話せば、効力を失ってしまう。
 信用問題、と言う奴だ。
 だからこそ、契約獣を使役するには口が堅く無ければいけない。

「俺にとって、レティもレンジも、あー……家族?みたいなものか?ペットみたいな、な?」
「ペット……っておまえな」

 魔石の中からも、ギャーギャーっ、と抗議の声が聞こえてくる気がする。

「他にたとえようも無いだろ」
「そこは、家族みたいなもの、だけでいいんじゃないか?」
「そうか?まぁ、何だっていいけど」

 こんな返答をしながら、オーガはレティもレンジも自分の傍にいて当たり前の存在だと思っており、居なくなることなんて考えてもいない。
 ある意味、絶対的な信頼がそこにはあった。
 人を、信用するよりも魔獣を信用しているような気もする。
 リカルドは、オーガを見ていて自分たちよりも長い間一緒に居たのはわかるが、レティやレンジたちよりもリカルドやアレンの方が信頼度や信用度において大きく下回っているのが、感じ取れてしまい、少しだけやるせなくなる。

「オーガ」
「あ?なんだよいきなり」

 さっきから変だぞ?とオーガは小首をかしげる。
 その仮面の下では、眉間にしわを寄せていた。

「お前に信頼してもらえるように、とりあえず頑張るわ」
「は?どういう意味だよ?」
「そのままの意味だ。俺はお前の信頼を得る」
「……お好きにどうぞ?」

 わけわからん、と肩を竦め、オーガは寝なおすためか、部屋へと戻っていく。
 リカルドも、新たな目標を見据え今は、満足に戦えるようになるのが先か、と装備を十分に整えることにした。
 アレンが馬車を止め、レティと一緒に中に入ってくるまでオーガは眠っていた。
 森はまっすぐに突っ切ると、馬車では一日かかるぐらいの距離だ。
 だが、レティは早い。馬車の二倍以上の速さだ。
 けれど、ベヒモスの死体や盗賊騒ぎで、時間を食ってしまい、森を突っ切るまでしか進まなかった。
 もう少し馬車を飛ばせば街に付くが、夕刻に現れる冒険者など不気味で誰も中には入れてはくれない。
 ならば、此処で一泊した方がいいという考えなのだろう。
 リカルドは、アレンが馬車を止め、入って来るまでに夕飯を作り終えていた。

「……わるいな。準備任せて」
「いや。どうせ三人分しか作らないんだから気にするな」

 リカルドがすまない、と頭を下げたオーガの頭をわしわしと撫で、夕飯を準備する。
 机などは、作り忘れていたために、床での食事となったが、それでも普通に旅するよりは遥かにマシな状況だ。
 器などは、予めリカルドが予算内で買っていたのだろう。丈夫そうな木の加工で作られた食器が使われていた。

「り、リカルドの手料理……」
「アレン……お前って本当に残念だよな?」
「残念ってなんだ?俺はただ、番が大切なだけで……」
「誰が番だ。それより、さっさと食っちまえ」

 だん、と最後の一皿を置きながらリカルドがアレンをにらむ。
 そんな視線ですら、嬉しそうにアレンが受け止めるから、末期だろう。
 竜人の番への執着はすごいと聞いていたけど、これほどとは思ってもみなかった。
 レティは、俺たちのやり取りを見届けて、んじゃ、と外へ出ていく。
 森の中の魔物を一匹、二匹狩ってくるのだろう。
 俺の供給する魔力と言うのは一定で、それ以上にはならない。その魔力があれば、契約獣たちはお腹を空かせることはなくなる。
 けれど、今回の騒ぎでレティは力を使った。普段は使わない力を。
 その使ってしまった分を補給するための食事だ。魔物以外にはあり得ない。
 ちなみに、レティの食事風景はゲーム時代にも見たことはあるけれど、口の周りにべったりと血を付けて美味しそうに生肉を頬張るため、とてつもなくグロい。
 それを一回見てからと言うもの、レティには自分の前で食事しないでくれ、とオーガは真っ青になりながら頼み込んだことがある。

「……いいのか?」

 ちらりとレティを見てからアレンが問う。
 オーガは、ん?とアレンをみてから、あぁ、と頷く。

「危なくなったら戻ってくるようにも言ったし、レティは強い。大抵の事は大丈夫だ」

 そうか、と言うアレンを尻目に、黙々とご飯を食べ進めるオーガ。
 ご馳走様、と手を合わせ、浄化、で綺麗にすると食器を閉まった。
 ちなみに、この馬車はレティが獣の姿のまま守ってくれている。

「ちなみに、このペースだとどのくらい掛かりそうだ?」
「えぇっと、王都までは……一週間前後と言うところか」
「長いような、短いような、だな」
「あぁ。途中、他の街も寄るし、フルフラと王都の間には、エビリアと言う比較的大きな街もある。一週間弱で付けば幸運なんじゃないか?」
「ふぅん?そういうものか」

 わかった、とオーガは頷き、そのまま部屋へと。

「おやすみ、アレン、リカルド。明日は俺が業者をやる」

 明日、業者をやると言ったのは、一応の確認だ。
 オーガだって、人に押し付けてばかり、などしない。
 この馬車が、オーガの持ち物だったとしてね。
 本当は、レティに行き先を告げて一人で走ってもらえれば、助かるのだが、それだと立ち寄る街々で、レティが討伐対象になってしまう可能性もあるし、色々と問題が多い。

「けど、悪いがリカルドも付き合ってくれよ?俺はまだ土地勘が無いんだ」
「あぁ、わかった。おやすみ」
「おやすみ、オーガ。良い夢を」

 アレンのそれに、ふっと笑いながら部屋の中へ。
 魔力を使った反動か、体が鉛のように重く、眠たい。
 戻ってきてからずっと寝ていたがね足りないくらいに。
 ステータス画面で、再びアラームをセットして、オーガは沈むように意識を無くした。
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