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第一章
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次の日、相も変わらずオーガはアレンと共にギルドの依頼を受けていた。
その日は、ランクBの魔物、ドレイルの討伐だ。
ドレイルとは植物、それも木に擬態している魔物で、見分け方が難しく、木こりが数人犠牲になっているらしい。
冒険者には、容赦なく襲ってくるから厄介な魔物だ。こっそり近づいて、背後から狙われる。
木こりが犠牲になることは、あまりないのだが。まぁ、知らず知らずとはいえ、斧で傷つけられたら怒るし、そのせいだろうけれど。
そのドレイルを見分ける方法と言えば、少し面倒な薬を使い、あぶり出す。
火で沸騰させれば、そのドレイルが嫌う匂いの出る薬品がある。
それを森中に充満させれば、必然的にドレイルは出ていくという寸法。
文字通り、あぶり出した獲物をアレンが狩っていく。
木こりもそうした薬品を使えばいい、と思うかもしれないが、作るのが面倒なだけあってその薬は高い。
高いが、譲れないこともない。どうするかな、と考えてとりあえずドレイルは駆逐したためギルドへと戻る。
「……あれ?リカルドは?」
買取カウンターでリカルドに相談しようと思って来てみれば、そこに居たのは若い、ひ弱なお兄ちゃん。
依頼の成功報酬を受け取り、ふとカウンターの奥を覗いてみるがリカルドが居ない。
休むなんて聞いてないし、休みなら休みと帰って来るだろう。だが……
「えっと……、その、リカルドさんは……」
「おい、ルド!!さっさと査定しろよ!!」
カウンターの奥の方から、別の男の声がする。
リカルドの代わりに出てきたこの男は、ルドと言う名前らしい。
「えっと、すみません!!リカルドさんは居ません!!」
そう言って、引っ込んでしまった。
(居ないって……どういう事だ?)
休みではない。いない、とは?
アレンと顔を見合わせ、オーガは宿屋の女将がリカルドの知り合いだと言う事を思い出す。
オーガがそのまま、宿屋へ向かうと女将とは別にこの街にきて慣れ親しんだ姿が。
「リカルド、お前こんなところに居たのか」
「こんなところとは、オーさんも失礼な人だね!」
「あぁ、すみません。ベスさん」
げらげらわっはっはと笑い飛ばして、オーガの背中をバシバシと二度三度叩き、そのまま忙しい忙しい、と次に仕事があるのだろうのしのし歩いて行ってしまった。
結局オーガはからかわれただけか。
それよりも、だ。
「あぁ、オーガか。どうした?」
「どうしたはこっちのセリフだ。お前、ギルドで何かあったのか?」
ひょっこりとオーガの後ろから顔をだしたアレンは、ずいっとリカルドへ顔を寄せた。
リカルドは、ドアップのアレンの顔に驚いたのか、飛びのけるように後ろへのぞける。下手をすれば、椅子から落ちそうだ。
「なななっ、なんでお前がっ!?」
「何でって、そりゃ今はオーガとパーティー組んでやってるから一緒に居るのは当然だろ」
「そうじゃない!!ここよりもお前ならどこだって良い宿に泊まれるだろうが!!」
「俺がどこに泊まろうとそれは勝手だろ?」
周りからはクスクスとした……いや、にやにやとしたわらいが漏れている。
オーガが目線をそちらに向けると、一人が近寄ってきた。
「よー、兄ちゃん。面白いのとつるんでるじゃないか」
ここへ来た当初に話しかけてきた獣人だった。
がしっと肩を組まれて、それからこそこそと耳打ちをされる。
「リカルドはなぁ、あの竜人アレンに迫られてるんだよ」
「アレンがリカルドに迫る?」
「あぁ…、端的に言えば告白してるってことだな」
オーガの中で、思考回路がショートした。
暫くの間をおいてから、はぁああああああっ!!?と大声を出す。
オーガに視線が集まろうと、今は構わなかった。
「り、りり、リカルドもあああ、アレンも男、男だぞ!?」
「うん?それがどうした?」
まるでオーガが変なモノみたいに見られているが、日本人の大島和人の常識からするとあり得ないことだった。
まぁ、そう言ったジャンルがあるのは知っている。
知っているのと、実際にあるのは別物だろう。
「俺の住んでいた地域では、マイノリティー……えっと、少数派?で……えぇー?」
女の子も普通に居るのに、どうして男に走る、と頭を抱えたくなる。
まぁ、自分は恋愛とか関係ないだろうけど……とオーガは思考の海に今度はどっぷりとつかるつもりで頭を回転させた。
そんなオーガの腕を引っ張り、思考回路を止めたのは噂になっていたアレンだ。
その奥には、頭を抱えたようなリカルドが居る。
「俺たち、話があるから連れてくな」
「あ、あぁ……」
教えてくれた獣人に別れを告げる。さすがに、Sランク冒険者であるアレンには何も言えなくなるらしい。
オーガたちはそのままアレンの部屋へと転がり込んだ。アレンの部屋は二人部屋でそれなりに広い。
リカルドを連れていることにより、何となく盗聴されるのも嫌だと思ったオーガは、リカルドと交渉したときと同じ魔法を繰り広げる。
ぱちん、と指を鳴らせば少しアレンが驚いたものの、展開した魔法についてはわからなかったらしい。
どうやら、目がいいのは鑑定だけで、解析には使われない能力のようだ。ともなれば、アレンの目は本当に竜人族の固有能力なのかもしれないな。
「それで?どういう事だ?お前ら、男同士……だよな?」
確認するようにオーガが問えば、当たり前だ!!とリカルドに頭を一度殴られる。
「あー、悪い。オーガの世界が、同性同士の恋愛が少ないなんて知らなかったんだ」
向かいのベッドへと腰を掛けたアレン。
ちなみに、リカルドは身の危険を感じているのか、オーガの隣へと腰を下ろしている。
どうしてこうなった?切実に聞きたい。
「オーガの世界?」
「あぁー……話していいのか?」
その問いに、話さなきゃ進まんだろう、とオーガは大丈夫だと返す。
ざっくり説明すれば、なるほどなぁ、とリカルドは納得したようだ。
「じゃあ、お前は勇者たちと同じ世界から来たっていうのか」
「その勇者とやらがどっから来てるか知らないけど、少なくともこの世界じゃないところからきてるのは確かだな」
それで?とオーガはアレンを見る。
アレンも、一つ頷きを返してきた。
「この世界では同性愛は異性愛と同じぐらい異常でも何でもない」
「そうなのか……だが、子供が欲しいときはどうするんだ?代理出産などの技術が進んでいるとは思えない」
とてもじゃないが、この街の発展を見る限り、代理出産などの制度も何もかもが整っているとは思えない。
孤児でも貰ってくるのだろうか?
だが、貴族たちはどうすると言うのだろう?そもそも、この国に貴族が居るのかどうかさえ分からないが。
「子供?子供は、誰だって産めるだろう?」
「は?」
「まさか、産めないのか?」
「産めないだろ……ってマジかよ」
なら、同性愛も禁忌ではなくなるはずだ、とオーガは頭を抱えた。
オーガのいた日本では、法律上認められてはいない。それに、殆どが異性愛者だ。
そもそも、今の日本では同性で子供は出来ない。未来、技術が発達し遺伝子を弄り、子供ができる様になるかもしれないが。
アレンが腰のポーチを漁って、一つヨモギのような薬草と薬液の入った瓶を出してくる。
「これが、その元になる薬草でこっちが同性で子供を作るときに使う薬」
どうぞ、と言うように手渡されたそれをちらっとアレンをみて確認しながら、【鑑定】をする。
★★★★★★★
〈ヨクデ草〉
魔力を持つ草。
不妊症の薬とし
て使われる。
★★★★★★★
★★★★★★★
〈ヨクデ・キール〉
ヨクデ草をリキ
ュールに漬け込
み、酒精を抜く
と出来る。
同性の子作り用
★★★★★★★
ヨクデ・キールって、良くできるダジャレか!
まあ、ヨクデ草をリキュールに付けるとあら不思議、酒精が抜けて薬になりましたとさ!何処のファンタジーだよ!此処がファンタジーだよ!
同性の子作り用とか、身も蓋もねぇ説明文だなこの野郎!!
ひくひくと口元を震わせると、同じく鑑定したのだろうリカルドがわなわなとヨクデ・キールを持ってふるえだした。
「何でこんなもん持ち歩いてるこの変態野郎!!」
「勿論、リカルドを孕ますために決まってるだろ?」
「清々しい変態だな!」
リカルドがヨクデ・キールをアレンになげつけるが、アレンはそれを軽く受け取り、ポーチの中へとしまう。
多分、魔法鞄。
じゃなかったら、ポーチを開けて中身が見えないなんて事は無い。
「あぁー、その件については分かったしもういい。次はリカルド、お前の事情を話してくれ」
聞きたくない、と言うよりは頭の処理が追い付かない、とそんな理由で頭を抱えながら左手をひらひら振って話を流す。
「あぁー……簡単な話だ。ギルドマスターの命令に逆らったから仕事を無くしたってだけだ」
「……は?」
ざっくりと説明されたそれに、オーガはぽかんっ、と口を開いてあほ面を晒す。
「そのギルドマスターって、阿呆なのか?」
「おまっ、ギルマスに向かって阿保とか……」
「リカルドほどの鑑定をもってるなら、ギルドとしては働いていてほしいんじゃないのか?それを切り捨てるなんて……まさか、俺のせいか?」
べらべらと話していて、オーガはハッとしてリカルドに詰め寄る。
リカルドは、迫られてのけぞった。
いや、人のドアップって言うのはちょっと遠慮したいものだよな。わかる。
「っ、お前のせいじゃ…」
「俺のせいなんだな?アレンを治したあの薬のせいでお前、職を追われたんだな!?」
「……」
「あーくそっ!!じゃあ、あの声がギルマスだったのか。クソ野郎が……」
信頼に足る人物と言えば、この街に来てから最初に世話になったニールとこのリカルドぐらいしかいない。
アレンは少し、信用ならないと言うかうさんくさい。と言うより、美形は敵だろう。
仲間として戦っているのは役に立つけれど。
そのリカルドは、腕のいい鑑定士。そのリカルドを失って、果たしてあの気弱な鑑定士だけでやっていけるのか。
この街のギルドも腐ってるんだな、とため息を吐いた。
「……ギルドから辞めさせられたんなら、ギルドに関係ある連合には所属できないだろう?どうするんだ、これから」
「ここの手伝いでもして他の仕事を探してみるかとも思ったが、宿に泊まる冒険者たちにも圧力がかかったらしい。迷惑をかけるから他に行かなければとは思うんだがな」
「ふむ……、リカルド、君確かDランクの冒険者だったよね?まだ、冒険者の身分はあるんだろう?」
「それは、そうだが……なんでお前が、それを知ってるんだ!?」
「リカルドの事で俺が知らないことはないよ」
「お前、ストーカーかよ」
うっとりとリカルドに微笑みかけながら言うアレンに、ぞわり、とオーガは鳥肌をたてた。
その笑顔が、気持ち悪い。
「すとーかー?」
「……好意を寄せる人について、異常なほど調べて付け回してるやつの事を俺の世界ではストーカーと呼ぶ」
「じゃあ、正しくそいつは俺のすとーかー?だ!腕が石化してる時は追いかけまわされたりしなくて平和だったのに……くそっ」
(……でも、リカルドって薬を売った時、喜んでなかったっけ?なんだこいつ、ツンデレか?それに面倒な条件まで飲んで……やっぱりツンデレだな?)
ツンデレキャラなのに、ガタイがよくある時は返り血付けて出てくるリカルドが残念で仕方がない。
これがまだ女の子(二次元に限る)だったら、萌えが広がったのに、と思わなくもないが、結局のところ女性だと知り合ってもいないし信用もしてなかっただろうという結論に達した。
「オーガ、お前不穏な事考えてねぇよな?」
「は?俺が?何で?」
「何となく雰囲気で」
「失礼な奴だな」
「お前もな」
リカルドと顔を見合わせ、友人のように笑えばむすっとしたアレンの腕にリカルドが捕らわれ、オーガと距離を取る。
最初、訳が分からずぽかん、としてたリカルドは自分をとらえたその腕がアレンのものであるとわかるれば、猛烈に怒り出す。
その顔は、怒りなのか羞恥なのかで真っ赤……だが。
(……リカルドがアレンに落ちるのも早そうだな。イケメン……いや、リア充が爆発しろ)
ちっと舌打ちしたオーガ。
けれども、これからの事を考えなければならないだろう。
リカルドが、この街のギルドで職を失ったとなれば、この街でパーティーに入れることも出来なくなっているかもしれない。
ならば、どうするか……一番いい方法は、この街から離れる事。
面倒だな、と感じながらこの街の滞在予定を少し早めることにする。
明日は、度をするのに必要なものをリカルドに頼み、オーガたちはギルドで荒稼ぎをすることに決める。
今日も、トレントの報酬、大銀貨二枚の儲けがある。途中で見つけた薬草をそれなりに売りさばこうと思ったが、あの買取カウンターは今火の車だろう。
なら、次の街でまとめて売りさばくのがいい。
「と言う事で、リカルドお前明日、買い出し頼めるか?」
「俺はまだ、冒険者にっ、と言うよりお前らの仲間になるなんて言ってないぞ」
「それでも、この街にいるよりは他の街に行った方が仕事もあるんじゃないのか?」
「それは……まぁ、そうだが」
「なら、決まりだろ。旅に必要なもの、よろしく頼む。そうだな……」
オーガは、アイコンを開き、金額の欄を見つめる。
::::::::::::::
現在の所持金
金貨:6枚
大銀貨:12枚
銀貨:5枚
大銅貨:7枚
銅貨:3枚
鉄貨:0枚
石貨:0枚
:::::::::::::
少し買い喰いをしたことがあり、大銅貨でどうにかなったから、少し金の変動はある。
それは良いとして。
リカルドに……そうだな。
「大銀貨6枚程度で何とかなりそうか?」
「十分だ」
「ならよかった。先に渡しておくな?」
そうして、大銀貨6枚をリカルドに手渡す。
「あぁ、魔法鞄があった方がいいか?」
「流石に、ポーチのサイズならまだしも鞄なんて、大銀貨六枚でも手が出ないぞ」
「いやそうじゃなくて……」
オーガは、ストレージから道具の欄を開きその中の二つを取り出した。
一つはリュックサック型、もう一つはウェストポーチ型。
「どっちでもいいけど、持ってってら楽じゃねぇの?」
「……ちなみに、内容量は?」
「んー?確か、リュックが2500枠で、重さが1トンまで。ポーチが、1000枠で重さが400キロまでだった気がする」
「お前、そんなもの何処で……」
「どこでって、前の世界で俺が作ったんだよ」
錬金術師とは、万能職だ。それは、確かに専門職と比べてスキルが上がりづらいのもあるが、それでもスキルをコツコツ上げてしまえばなんだって作れる。錬金術の基本、等価交換だ。
時間を対価に、スキルを身につける。それを許された唯一の職。
金属の加工も、衣服の制作も、だ。そこに付与する魔法すらも。
だが、本当にスキルは上がりづらいしレベルも今考えれば他の人に比べて上がりづらかった気がする。
序盤は本当にカスみたいな事しか出来ないから人気がない職でもある。
あと、魔法薬ばっかり作ってるやつが多い。ポーションとかな!
縫製のスキル上げのために、黙々と作っていた時期が懐かしい。
その時に作った、まぁ、いわば試作品なのだが。
「これ一つで、どれだけの値段するか考えたことあんのかお前は!!」
「リカルドまで何を怒ってる?」
そう言えば、とオーガはアレンに渡した指輪の時を思い出した。
リカルドはそれよりも買取職に居た分、目が血走っているようにも見えるが。
それすら可愛いと言い出しそうな雰囲気だな、アレン。
リカルド、と呼びかけあの時の指輪をアレンはリカルドへ渡す。
鑑定してみろ、と言うアレンに胡散臭そうな目を向けながら鑑定して、はぁあああああ!?と大声を出した。
「お前、一体何者なんだ!?」
「いや、だから……異世界から来たただの、そうだな迷い人だって」
オーガがあまりにもいつもと変わらないせいで、ため息を吐かれてしまう。
で?と首をかしげて見せれば、やれやれ、と首を竦めたアレンが説明しだす。
「俺の持っているこのポーチは、容量が100枠10キロまで入る。が、これで金貨十枚だ」
「えっ?」
「こういった魔法鞄は、元々ダンジョンの中でしか見つかってない。それも、深層部に近い場所でだ。ダンジョンに何故、こういった遺物があるのかは分かっていない。一説には、これは世界を渡って来たものなんだともいわれてるが」
「つまり、ダンジョンの中は結構、世界の境界が不安定になっている、と」
「そういう事だ。今まで、この世界に来た誰もがポーションなどの薬は作れても、こうした魔法道具は作れなかった。今だって、魔術師が必死になって研究しているが解明されていない」
「……そう、大した技術ではないのだが」
まぁ、でも魔法鞄が作れるようになったのは縫製のレベルが20を超えたあたりだったはずだ。布と糸を錬金術で魔法布と魔法糸にし縫製でそれらを組み合わせて、魔法で中に術式を書き加えて……あれ?結構難しいのかもしれない。いや、難しいというより面倒くさい?
ならば、この世界で作れなくても仕方がないのかもしれない。
ONIの世界でも作れる人は極わずか、片手で数えられるぐらいしかいなかった気がする。
だが、小さな容量であれば普通に売ってたし、MPに重きを置いていた魔法使いなどが居れば必要のなかった技術だ。
どうにも、こうにもイスティアとONIの世界でずれているところがあるらしい。
まぁ、ストレージが開けないのであれば仕方のないことなのかもしれないが。
「それに、まだまだ数は有るし……要るならやるぞ、格安で」
「金とるのかよ!?」
「当たり前だろ。今の俺は、文無しに毛が生えたようなもんだ。金は天下の周りものだが、金儲けは誰もが好きな単語だろう。そもそも、金が無ければなんも出来ねぇんだぞ?金は大切だろうが」
オーガの消えた金の金額を考えれば、本当に毛が生えたようなものなのだろう。
オーガの感覚としては、だが。
一般人にとっては、オーガの持っている金額とて大金である。
「……なんで俺、此処まで金について力説されてるんだ?」
「さぁ?」
「そこまで金を集めてどうするんだ?」
「どうするも何も、老後に備える。それだけだ」
結婚する予定も、伴侶を持つ予定もないオーガは、独り身で人生を終える気満々だ。
ならば、金を蓄えておいて損はないだろう。独り身で寂しく死んでいくとしても、だ。
「老後って……先のなげぇ話だな」
「何を言う。人生なんてあっという間に終わりを迎えるぞ」
日本の平均寿命は八十歳ぐらいだから、三十四歳なオーガはあと五十年ぐらいが目安だろう。
異世界だからもっと短いのかもしれないが。
「お前は、ナニモンなんだよ、だから」
胡散臭いものを見る目でリカルドに見られる。心外だ。
オーガは見た目が酷いだけで胡散臭くはない。と自分で思っている。
「俺は俺だろ。とりあえず、今の目標はどこでも良いから店を構えることだな」
「店?」
「薬や魔道具を扱う店だ。それなら、狩りの素材を使って道具を作って元手ゼロで金がとれる。店を構えるのに、金が出てくけど店を持って経営し、それが軌道に乗れば元が取れる」
「そう上手くいくか?」
「いくだろ、たぶんな」
(実際、偏屈な店だと言われてたが客は来てたことだしな)
ONIの世界でも店を構えていたオーガは酷く楽観的だ。
ふむ、とオーガの目標を聞いてリカルドは考えだす。
にこにことその様子を見ているアレンは本当に気持ち……て言うのも面倒臭くなってきたぞ?
「なら、王都の城下町がいいかもしれないな」
「あんまり都会過ぎるのは、ちょっと……」
人見知り、という訳ではないが苦手ではある。
人が多い、ということはいい人も悪い人もいるし、そもそも何があってもおかしくはないと言うことで……まぁ、何処にいたって同じ事なんだろうけど。
「下町なら、安くなるだろ」
「どうしても王都な訳?理由は?」
「ここよりも強い魔物が出るのが王都近辺の、魔物の森だ。後、王都周辺にはダンジョンも多く存在して要る。つまり薬屋などは多く存在して損は無い。むしろ、備えが出来て良いんじゃ無いか?一人が作れる分量も決まって要ることだしな。まぁ、ダンジョンや魔の森につられて冒険者の数も多い。そう言った店を出すなら、王都が一番だろう」
「ふーん……まぁ、売れないよりは少しでも売れるところに、か」
それもそうか、とうん、とオーガは頷く。
とりあえず、目的地を王都へと定める。
「まぁ、俺たちも王都なら働きやすいしな」
オーガの店か、と笑って要る二人を見て、オーガはうん?と首を傾げた。
「……まさかじゃないが、お前たち俺の店で働くつもりか?」
「そのまさかだよ。お前ひとりだと、どうしても変な店になりそうだ」
余計なお世話だ、と言いたかったがどうにもこうにも、オーガが拒絶したところでアレンが強引についてくるだろうし、リカルドは再就職先を探すまで一緒にいるだろうし……あれ?
これ積んでねぇ?
「再就職先が、お前のところなんて俺はついてるな」
「まずは資金集めから始めるんだが?」
「王都の下町なら、金貨50枚もあればそれなりに広い土地を買えるぞ」
「今金貨6枚しかねーわ。コツコツ稼いでも一年はかかるぞ」
「お前、それ売るつもりないのか?」
それ、と示されたのは魔法鞄。
えっ?と首を傾げてみれば、今度は反対にえっ?と変な声を出された。
どういう事だよ?
「そのバッグ、金貨100枚は下らないぞ?」
「……は?あっ、そうなの?」
コレが?とオーガは手元の鞄を見る。
オーガにとっては、あまり価値のないもの、として認識されているからだ。
「白金貨まで届くかもしれないな」
「白金貨?」
お金の欄をみれば、金貨の上に白金貨が書かれやはりまた、機能がアップデートされた。
なにこれ?
「一枚で金貨1000枚分の価値がある金貨だ」
「うっへ。マジでか……あぁ、なら俺が売るのは無理だろ……」
うわぁ、と頭を抱え出したオーガ。オーガは自分が怪しい人物に見えていることはわかっている。
取引した後で、襲われるかもしれないし、そもそも国のお偉いさん方にバレて色々と詮索されるのも御免被る。あと、無理難題を押し付けられたくはない。商人たちの格好の餌食になるつもりもない。
八方塞がりじゃないか。でも、何処かで妥協することもしたくない。
オーガは、適当に儲けて平和に過ごせれば一番だと思っている。だからこそ、他人と深く関わりたくは無いのだが。はぁ、と溜息を吐く。
にやっ、と笑ったアレンがオーガの肩を抱いて隣に座る。
「そこで俺の出番だな?」
「アレンの?なんでだよ」
「俺が見つけてきたって言えば、誰も疑わないだろ」
そう言えば、アレンはSランク冒険者だったと今更ながらに思い出したオーガ。
オーガとアレンはどちらが果たして強いのか。戦って見たことはないし、これからも敵対する予定はないからわからない。しかし、自分の隣でイケメンがドヤ顔している状況に苛立ちを隠せない。
「適当なダンジョンに潜って戦利品と一緒にダンジョンから出てきたことにすれば、売れる。それが俺なら、疑いようはないはずだ」
「……どうあってもお前らと一緒に行動しなければいけないパターンじゃないか」
(クッソ、ホント何これクソっ!!)
「だから言ってる。俺たちは、関係はどうであれお前の事を少なからず気に入ってんだよ」
いい加減諦めろ、と言うアレンにオーガは長い、それは長~いため息を吐いたのだった。
その日は、ランクBの魔物、ドレイルの討伐だ。
ドレイルとは植物、それも木に擬態している魔物で、見分け方が難しく、木こりが数人犠牲になっているらしい。
冒険者には、容赦なく襲ってくるから厄介な魔物だ。こっそり近づいて、背後から狙われる。
木こりが犠牲になることは、あまりないのだが。まぁ、知らず知らずとはいえ、斧で傷つけられたら怒るし、そのせいだろうけれど。
そのドレイルを見分ける方法と言えば、少し面倒な薬を使い、あぶり出す。
火で沸騰させれば、そのドレイルが嫌う匂いの出る薬品がある。
それを森中に充満させれば、必然的にドレイルは出ていくという寸法。
文字通り、あぶり出した獲物をアレンが狩っていく。
木こりもそうした薬品を使えばいい、と思うかもしれないが、作るのが面倒なだけあってその薬は高い。
高いが、譲れないこともない。どうするかな、と考えてとりあえずドレイルは駆逐したためギルドへと戻る。
「……あれ?リカルドは?」
買取カウンターでリカルドに相談しようと思って来てみれば、そこに居たのは若い、ひ弱なお兄ちゃん。
依頼の成功報酬を受け取り、ふとカウンターの奥を覗いてみるがリカルドが居ない。
休むなんて聞いてないし、休みなら休みと帰って来るだろう。だが……
「えっと……、その、リカルドさんは……」
「おい、ルド!!さっさと査定しろよ!!」
カウンターの奥の方から、別の男の声がする。
リカルドの代わりに出てきたこの男は、ルドと言う名前らしい。
「えっと、すみません!!リカルドさんは居ません!!」
そう言って、引っ込んでしまった。
(居ないって……どういう事だ?)
休みではない。いない、とは?
アレンと顔を見合わせ、オーガは宿屋の女将がリカルドの知り合いだと言う事を思い出す。
オーガがそのまま、宿屋へ向かうと女将とは別にこの街にきて慣れ親しんだ姿が。
「リカルド、お前こんなところに居たのか」
「こんなところとは、オーさんも失礼な人だね!」
「あぁ、すみません。ベスさん」
げらげらわっはっはと笑い飛ばして、オーガの背中をバシバシと二度三度叩き、そのまま忙しい忙しい、と次に仕事があるのだろうのしのし歩いて行ってしまった。
結局オーガはからかわれただけか。
それよりも、だ。
「あぁ、オーガか。どうした?」
「どうしたはこっちのセリフだ。お前、ギルドで何かあったのか?」
ひょっこりとオーガの後ろから顔をだしたアレンは、ずいっとリカルドへ顔を寄せた。
リカルドは、ドアップのアレンの顔に驚いたのか、飛びのけるように後ろへのぞける。下手をすれば、椅子から落ちそうだ。
「なななっ、なんでお前がっ!?」
「何でって、そりゃ今はオーガとパーティー組んでやってるから一緒に居るのは当然だろ」
「そうじゃない!!ここよりもお前ならどこだって良い宿に泊まれるだろうが!!」
「俺がどこに泊まろうとそれは勝手だろ?」
周りからはクスクスとした……いや、にやにやとしたわらいが漏れている。
オーガが目線をそちらに向けると、一人が近寄ってきた。
「よー、兄ちゃん。面白いのとつるんでるじゃないか」
ここへ来た当初に話しかけてきた獣人だった。
がしっと肩を組まれて、それからこそこそと耳打ちをされる。
「リカルドはなぁ、あの竜人アレンに迫られてるんだよ」
「アレンがリカルドに迫る?」
「あぁ…、端的に言えば告白してるってことだな」
オーガの中で、思考回路がショートした。
暫くの間をおいてから、はぁああああああっ!!?と大声を出す。
オーガに視線が集まろうと、今は構わなかった。
「り、りり、リカルドもあああ、アレンも男、男だぞ!?」
「うん?それがどうした?」
まるでオーガが変なモノみたいに見られているが、日本人の大島和人の常識からするとあり得ないことだった。
まぁ、そう言ったジャンルがあるのは知っている。
知っているのと、実際にあるのは別物だろう。
「俺の住んでいた地域では、マイノリティー……えっと、少数派?で……えぇー?」
女の子も普通に居るのに、どうして男に走る、と頭を抱えたくなる。
まぁ、自分は恋愛とか関係ないだろうけど……とオーガは思考の海に今度はどっぷりとつかるつもりで頭を回転させた。
そんなオーガの腕を引っ張り、思考回路を止めたのは噂になっていたアレンだ。
その奥には、頭を抱えたようなリカルドが居る。
「俺たち、話があるから連れてくな」
「あ、あぁ……」
教えてくれた獣人に別れを告げる。さすがに、Sランク冒険者であるアレンには何も言えなくなるらしい。
オーガたちはそのままアレンの部屋へと転がり込んだ。アレンの部屋は二人部屋でそれなりに広い。
リカルドを連れていることにより、何となく盗聴されるのも嫌だと思ったオーガは、リカルドと交渉したときと同じ魔法を繰り広げる。
ぱちん、と指を鳴らせば少しアレンが驚いたものの、展開した魔法についてはわからなかったらしい。
どうやら、目がいいのは鑑定だけで、解析には使われない能力のようだ。ともなれば、アレンの目は本当に竜人族の固有能力なのかもしれないな。
「それで?どういう事だ?お前ら、男同士……だよな?」
確認するようにオーガが問えば、当たり前だ!!とリカルドに頭を一度殴られる。
「あー、悪い。オーガの世界が、同性同士の恋愛が少ないなんて知らなかったんだ」
向かいのベッドへと腰を掛けたアレン。
ちなみに、リカルドは身の危険を感じているのか、オーガの隣へと腰を下ろしている。
どうしてこうなった?切実に聞きたい。
「オーガの世界?」
「あぁー……話していいのか?」
その問いに、話さなきゃ進まんだろう、とオーガは大丈夫だと返す。
ざっくり説明すれば、なるほどなぁ、とリカルドは納得したようだ。
「じゃあ、お前は勇者たちと同じ世界から来たっていうのか」
「その勇者とやらがどっから来てるか知らないけど、少なくともこの世界じゃないところからきてるのは確かだな」
それで?とオーガはアレンを見る。
アレンも、一つ頷きを返してきた。
「この世界では同性愛は異性愛と同じぐらい異常でも何でもない」
「そうなのか……だが、子供が欲しいときはどうするんだ?代理出産などの技術が進んでいるとは思えない」
とてもじゃないが、この街の発展を見る限り、代理出産などの制度も何もかもが整っているとは思えない。
孤児でも貰ってくるのだろうか?
だが、貴族たちはどうすると言うのだろう?そもそも、この国に貴族が居るのかどうかさえ分からないが。
「子供?子供は、誰だって産めるだろう?」
「は?」
「まさか、産めないのか?」
「産めないだろ……ってマジかよ」
なら、同性愛も禁忌ではなくなるはずだ、とオーガは頭を抱えた。
オーガのいた日本では、法律上認められてはいない。それに、殆どが異性愛者だ。
そもそも、今の日本では同性で子供は出来ない。未来、技術が発達し遺伝子を弄り、子供ができる様になるかもしれないが。
アレンが腰のポーチを漁って、一つヨモギのような薬草と薬液の入った瓶を出してくる。
「これが、その元になる薬草でこっちが同性で子供を作るときに使う薬」
どうぞ、と言うように手渡されたそれをちらっとアレンをみて確認しながら、【鑑定】をする。
★★★★★★★
〈ヨクデ草〉
魔力を持つ草。
不妊症の薬とし
て使われる。
★★★★★★★
★★★★★★★
〈ヨクデ・キール〉
ヨクデ草をリキ
ュールに漬け込
み、酒精を抜く
と出来る。
同性の子作り用
★★★★★★★
ヨクデ・キールって、良くできるダジャレか!
まあ、ヨクデ草をリキュールに付けるとあら不思議、酒精が抜けて薬になりましたとさ!何処のファンタジーだよ!此処がファンタジーだよ!
同性の子作り用とか、身も蓋もねぇ説明文だなこの野郎!!
ひくひくと口元を震わせると、同じく鑑定したのだろうリカルドがわなわなとヨクデ・キールを持ってふるえだした。
「何でこんなもん持ち歩いてるこの変態野郎!!」
「勿論、リカルドを孕ますために決まってるだろ?」
「清々しい変態だな!」
リカルドがヨクデ・キールをアレンになげつけるが、アレンはそれを軽く受け取り、ポーチの中へとしまう。
多分、魔法鞄。
じゃなかったら、ポーチを開けて中身が見えないなんて事は無い。
「あぁー、その件については分かったしもういい。次はリカルド、お前の事情を話してくれ」
聞きたくない、と言うよりは頭の処理が追い付かない、とそんな理由で頭を抱えながら左手をひらひら振って話を流す。
「あぁー……簡単な話だ。ギルドマスターの命令に逆らったから仕事を無くしたってだけだ」
「……は?」
ざっくりと説明されたそれに、オーガはぽかんっ、と口を開いてあほ面を晒す。
「そのギルドマスターって、阿呆なのか?」
「おまっ、ギルマスに向かって阿保とか……」
「リカルドほどの鑑定をもってるなら、ギルドとしては働いていてほしいんじゃないのか?それを切り捨てるなんて……まさか、俺のせいか?」
べらべらと話していて、オーガはハッとしてリカルドに詰め寄る。
リカルドは、迫られてのけぞった。
いや、人のドアップって言うのはちょっと遠慮したいものだよな。わかる。
「っ、お前のせいじゃ…」
「俺のせいなんだな?アレンを治したあの薬のせいでお前、職を追われたんだな!?」
「……」
「あーくそっ!!じゃあ、あの声がギルマスだったのか。クソ野郎が……」
信頼に足る人物と言えば、この街に来てから最初に世話になったニールとこのリカルドぐらいしかいない。
アレンは少し、信用ならないと言うかうさんくさい。と言うより、美形は敵だろう。
仲間として戦っているのは役に立つけれど。
そのリカルドは、腕のいい鑑定士。そのリカルドを失って、果たしてあの気弱な鑑定士だけでやっていけるのか。
この街のギルドも腐ってるんだな、とため息を吐いた。
「……ギルドから辞めさせられたんなら、ギルドに関係ある連合には所属できないだろう?どうするんだ、これから」
「ここの手伝いでもして他の仕事を探してみるかとも思ったが、宿に泊まる冒険者たちにも圧力がかかったらしい。迷惑をかけるから他に行かなければとは思うんだがな」
「ふむ……、リカルド、君確かDランクの冒険者だったよね?まだ、冒険者の身分はあるんだろう?」
「それは、そうだが……なんでお前が、それを知ってるんだ!?」
「リカルドの事で俺が知らないことはないよ」
「お前、ストーカーかよ」
うっとりとリカルドに微笑みかけながら言うアレンに、ぞわり、とオーガは鳥肌をたてた。
その笑顔が、気持ち悪い。
「すとーかー?」
「……好意を寄せる人について、異常なほど調べて付け回してるやつの事を俺の世界ではストーカーと呼ぶ」
「じゃあ、正しくそいつは俺のすとーかー?だ!腕が石化してる時は追いかけまわされたりしなくて平和だったのに……くそっ」
(……でも、リカルドって薬を売った時、喜んでなかったっけ?なんだこいつ、ツンデレか?それに面倒な条件まで飲んで……やっぱりツンデレだな?)
ツンデレキャラなのに、ガタイがよくある時は返り血付けて出てくるリカルドが残念で仕方がない。
これがまだ女の子(二次元に限る)だったら、萌えが広がったのに、と思わなくもないが、結局のところ女性だと知り合ってもいないし信用もしてなかっただろうという結論に達した。
「オーガ、お前不穏な事考えてねぇよな?」
「は?俺が?何で?」
「何となく雰囲気で」
「失礼な奴だな」
「お前もな」
リカルドと顔を見合わせ、友人のように笑えばむすっとしたアレンの腕にリカルドが捕らわれ、オーガと距離を取る。
最初、訳が分からずぽかん、としてたリカルドは自分をとらえたその腕がアレンのものであるとわかるれば、猛烈に怒り出す。
その顔は、怒りなのか羞恥なのかで真っ赤……だが。
(……リカルドがアレンに落ちるのも早そうだな。イケメン……いや、リア充が爆発しろ)
ちっと舌打ちしたオーガ。
けれども、これからの事を考えなければならないだろう。
リカルドが、この街のギルドで職を失ったとなれば、この街でパーティーに入れることも出来なくなっているかもしれない。
ならば、どうするか……一番いい方法は、この街から離れる事。
面倒だな、と感じながらこの街の滞在予定を少し早めることにする。
明日は、度をするのに必要なものをリカルドに頼み、オーガたちはギルドで荒稼ぎをすることに決める。
今日も、トレントの報酬、大銀貨二枚の儲けがある。途中で見つけた薬草をそれなりに売りさばこうと思ったが、あの買取カウンターは今火の車だろう。
なら、次の街でまとめて売りさばくのがいい。
「と言う事で、リカルドお前明日、買い出し頼めるか?」
「俺はまだ、冒険者にっ、と言うよりお前らの仲間になるなんて言ってないぞ」
「それでも、この街にいるよりは他の街に行った方が仕事もあるんじゃないのか?」
「それは……まぁ、そうだが」
「なら、決まりだろ。旅に必要なもの、よろしく頼む。そうだな……」
オーガは、アイコンを開き、金額の欄を見つめる。
::::::::::::::
現在の所持金
金貨:6枚
大銀貨:12枚
銀貨:5枚
大銅貨:7枚
銅貨:3枚
鉄貨:0枚
石貨:0枚
:::::::::::::
少し買い喰いをしたことがあり、大銅貨でどうにかなったから、少し金の変動はある。
それは良いとして。
リカルドに……そうだな。
「大銀貨6枚程度で何とかなりそうか?」
「十分だ」
「ならよかった。先に渡しておくな?」
そうして、大銀貨6枚をリカルドに手渡す。
「あぁ、魔法鞄があった方がいいか?」
「流石に、ポーチのサイズならまだしも鞄なんて、大銀貨六枚でも手が出ないぞ」
「いやそうじゃなくて……」
オーガは、ストレージから道具の欄を開きその中の二つを取り出した。
一つはリュックサック型、もう一つはウェストポーチ型。
「どっちでもいいけど、持ってってら楽じゃねぇの?」
「……ちなみに、内容量は?」
「んー?確か、リュックが2500枠で、重さが1トンまで。ポーチが、1000枠で重さが400キロまでだった気がする」
「お前、そんなもの何処で……」
「どこでって、前の世界で俺が作ったんだよ」
錬金術師とは、万能職だ。それは、確かに専門職と比べてスキルが上がりづらいのもあるが、それでもスキルをコツコツ上げてしまえばなんだって作れる。錬金術の基本、等価交換だ。
時間を対価に、スキルを身につける。それを許された唯一の職。
金属の加工も、衣服の制作も、だ。そこに付与する魔法すらも。
だが、本当にスキルは上がりづらいしレベルも今考えれば他の人に比べて上がりづらかった気がする。
序盤は本当にカスみたいな事しか出来ないから人気がない職でもある。
あと、魔法薬ばっかり作ってるやつが多い。ポーションとかな!
縫製のスキル上げのために、黙々と作っていた時期が懐かしい。
その時に作った、まぁ、いわば試作品なのだが。
「これ一つで、どれだけの値段するか考えたことあんのかお前は!!」
「リカルドまで何を怒ってる?」
そう言えば、とオーガはアレンに渡した指輪の時を思い出した。
リカルドはそれよりも買取職に居た分、目が血走っているようにも見えるが。
それすら可愛いと言い出しそうな雰囲気だな、アレン。
リカルド、と呼びかけあの時の指輪をアレンはリカルドへ渡す。
鑑定してみろ、と言うアレンに胡散臭そうな目を向けながら鑑定して、はぁあああああ!?と大声を出した。
「お前、一体何者なんだ!?」
「いや、だから……異世界から来たただの、そうだな迷い人だって」
オーガがあまりにもいつもと変わらないせいで、ため息を吐かれてしまう。
で?と首をかしげて見せれば、やれやれ、と首を竦めたアレンが説明しだす。
「俺の持っているこのポーチは、容量が100枠10キロまで入る。が、これで金貨十枚だ」
「えっ?」
「こういった魔法鞄は、元々ダンジョンの中でしか見つかってない。それも、深層部に近い場所でだ。ダンジョンに何故、こういった遺物があるのかは分かっていない。一説には、これは世界を渡って来たものなんだともいわれてるが」
「つまり、ダンジョンの中は結構、世界の境界が不安定になっている、と」
「そういう事だ。今まで、この世界に来た誰もがポーションなどの薬は作れても、こうした魔法道具は作れなかった。今だって、魔術師が必死になって研究しているが解明されていない」
「……そう、大した技術ではないのだが」
まぁ、でも魔法鞄が作れるようになったのは縫製のレベルが20を超えたあたりだったはずだ。布と糸を錬金術で魔法布と魔法糸にし縫製でそれらを組み合わせて、魔法で中に術式を書き加えて……あれ?結構難しいのかもしれない。いや、難しいというより面倒くさい?
ならば、この世界で作れなくても仕方がないのかもしれない。
ONIの世界でも作れる人は極わずか、片手で数えられるぐらいしかいなかった気がする。
だが、小さな容量であれば普通に売ってたし、MPに重きを置いていた魔法使いなどが居れば必要のなかった技術だ。
どうにも、こうにもイスティアとONIの世界でずれているところがあるらしい。
まぁ、ストレージが開けないのであれば仕方のないことなのかもしれないが。
「それに、まだまだ数は有るし……要るならやるぞ、格安で」
「金とるのかよ!?」
「当たり前だろ。今の俺は、文無しに毛が生えたようなもんだ。金は天下の周りものだが、金儲けは誰もが好きな単語だろう。そもそも、金が無ければなんも出来ねぇんだぞ?金は大切だろうが」
オーガの消えた金の金額を考えれば、本当に毛が生えたようなものなのだろう。
オーガの感覚としては、だが。
一般人にとっては、オーガの持っている金額とて大金である。
「……なんで俺、此処まで金について力説されてるんだ?」
「さぁ?」
「そこまで金を集めてどうするんだ?」
「どうするも何も、老後に備える。それだけだ」
結婚する予定も、伴侶を持つ予定もないオーガは、独り身で人生を終える気満々だ。
ならば、金を蓄えておいて損はないだろう。独り身で寂しく死んでいくとしても、だ。
「老後って……先のなげぇ話だな」
「何を言う。人生なんてあっという間に終わりを迎えるぞ」
日本の平均寿命は八十歳ぐらいだから、三十四歳なオーガはあと五十年ぐらいが目安だろう。
異世界だからもっと短いのかもしれないが。
「お前は、ナニモンなんだよ、だから」
胡散臭いものを見る目でリカルドに見られる。心外だ。
オーガは見た目が酷いだけで胡散臭くはない。と自分で思っている。
「俺は俺だろ。とりあえず、今の目標はどこでも良いから店を構えることだな」
「店?」
「薬や魔道具を扱う店だ。それなら、狩りの素材を使って道具を作って元手ゼロで金がとれる。店を構えるのに、金が出てくけど店を持って経営し、それが軌道に乗れば元が取れる」
「そう上手くいくか?」
「いくだろ、たぶんな」
(実際、偏屈な店だと言われてたが客は来てたことだしな)
ONIの世界でも店を構えていたオーガは酷く楽観的だ。
ふむ、とオーガの目標を聞いてリカルドは考えだす。
にこにことその様子を見ているアレンは本当に気持ち……て言うのも面倒臭くなってきたぞ?
「なら、王都の城下町がいいかもしれないな」
「あんまり都会過ぎるのは、ちょっと……」
人見知り、という訳ではないが苦手ではある。
人が多い、ということはいい人も悪い人もいるし、そもそも何があってもおかしくはないと言うことで……まぁ、何処にいたって同じ事なんだろうけど。
「下町なら、安くなるだろ」
「どうしても王都な訳?理由は?」
「ここよりも強い魔物が出るのが王都近辺の、魔物の森だ。後、王都周辺にはダンジョンも多く存在して要る。つまり薬屋などは多く存在して損は無い。むしろ、備えが出来て良いんじゃ無いか?一人が作れる分量も決まって要ることだしな。まぁ、ダンジョンや魔の森につられて冒険者の数も多い。そう言った店を出すなら、王都が一番だろう」
「ふーん……まぁ、売れないよりは少しでも売れるところに、か」
それもそうか、とうん、とオーガは頷く。
とりあえず、目的地を王都へと定める。
「まぁ、俺たちも王都なら働きやすいしな」
オーガの店か、と笑って要る二人を見て、オーガはうん?と首を傾げた。
「……まさかじゃないが、お前たち俺の店で働くつもりか?」
「そのまさかだよ。お前ひとりだと、どうしても変な店になりそうだ」
余計なお世話だ、と言いたかったがどうにもこうにも、オーガが拒絶したところでアレンが強引についてくるだろうし、リカルドは再就職先を探すまで一緒にいるだろうし……あれ?
これ積んでねぇ?
「再就職先が、お前のところなんて俺はついてるな」
「まずは資金集めから始めるんだが?」
「王都の下町なら、金貨50枚もあればそれなりに広い土地を買えるぞ」
「今金貨6枚しかねーわ。コツコツ稼いでも一年はかかるぞ」
「お前、それ売るつもりないのか?」
それ、と示されたのは魔法鞄。
えっ?と首を傾げてみれば、今度は反対にえっ?と変な声を出された。
どういう事だよ?
「そのバッグ、金貨100枚は下らないぞ?」
「……は?あっ、そうなの?」
コレが?とオーガは手元の鞄を見る。
オーガにとっては、あまり価値のないもの、として認識されているからだ。
「白金貨まで届くかもしれないな」
「白金貨?」
お金の欄をみれば、金貨の上に白金貨が書かれやはりまた、機能がアップデートされた。
なにこれ?
「一枚で金貨1000枚分の価値がある金貨だ」
「うっへ。マジでか……あぁ、なら俺が売るのは無理だろ……」
うわぁ、と頭を抱え出したオーガ。オーガは自分が怪しい人物に見えていることはわかっている。
取引した後で、襲われるかもしれないし、そもそも国のお偉いさん方にバレて色々と詮索されるのも御免被る。あと、無理難題を押し付けられたくはない。商人たちの格好の餌食になるつもりもない。
八方塞がりじゃないか。でも、何処かで妥協することもしたくない。
オーガは、適当に儲けて平和に過ごせれば一番だと思っている。だからこそ、他人と深く関わりたくは無いのだが。はぁ、と溜息を吐く。
にやっ、と笑ったアレンがオーガの肩を抱いて隣に座る。
「そこで俺の出番だな?」
「アレンの?なんでだよ」
「俺が見つけてきたって言えば、誰も疑わないだろ」
そう言えば、アレンはSランク冒険者だったと今更ながらに思い出したオーガ。
オーガとアレンはどちらが果たして強いのか。戦って見たことはないし、これからも敵対する予定はないからわからない。しかし、自分の隣でイケメンがドヤ顔している状況に苛立ちを隠せない。
「適当なダンジョンに潜って戦利品と一緒にダンジョンから出てきたことにすれば、売れる。それが俺なら、疑いようはないはずだ」
「……どうあってもお前らと一緒に行動しなければいけないパターンじゃないか」
(クッソ、ホント何これクソっ!!)
「だから言ってる。俺たちは、関係はどうであれお前の事を少なからず気に入ってんだよ」
いい加減諦めろ、と言うアレンにオーガは長い、それは長~いため息を吐いたのだった。
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