君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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魔王城編

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side:オビト

 目が覚めると、旅人の顔が目の前に有って、懐かしくてふっと頬が緩む。村に、旅人が来て泊って行ったとき、いつもいつも、起きればこの体制だったのを思い出したから。
 きゅろきゅろと鳴るメイド型のゴーレム。昨日の彼女とは違う個体なのだろう。
 旅人の事を起こそうとしているのか、静かに旅人の体を揺らしだすゴーレムに、待って、と声をかけた。

「彼が起きるまで、そっとしておいて」

 きゅろろ、と鳴った彼女は、それでも理解してくれたのか、旅人から手をどけ、ベッドから距離を取る。
 安堵の息を吐くと、力を抜いてベッドに沈む。

「旅人も、かっこいい、よね」

 ふとした瞬間に思うのは、最近見るようになった人の顔がとても良いこと。
 旅人も、寝ぐせは酷いが、見れない顔じゃないというか、それさえなければカッコいい顔立ちをしているのに、もったいない、とも思う。

「ありがと、オビトは可愛いねぇ」

 見つめていた側から声が聞こえてきてびっくりして飛び起きる。
 くすくすと笑う彼も、よっこいせ、と体を起こした。

「おはよ、オビト」
「おぉおお、おはよっ」

 驚きすぎてどもってしまったが、仕方がない。
 と言うか、可愛いなんて久しぶりに言われた気がする。
 姉に、可愛い私の弟、といつも言われていた。
 旅人も来るたびに、俺の事を可愛いと口にしていた気がする。
 その頃はまだ小さかったから、子供にいう上等文句だと思っていたけれど、どうやら今の言葉を聞く限りではそうではないような。
 というか、この顔を見て旅人は可愛いという。

「目、大丈夫か?」
「あのね、君にだけは言われたくないんだけど」

 鏡や窓ガラスなどで見る自分の姿が間違っていないのだとしたら、自分は平凡である。
 平凡な自分と比べれば、周りの人間がどれだけ顔面偏差値の高いことか。

「本気で言ってる?」
「相変わらずひどい認識だよね、君は」

 まぁ、いいかと笑う旅人はベッドを降りて俺に手を差し出してきた。
 息を吐き、手を握り、ベッドを出る。そう言えば、寝る前にしていた話を忘れてしまっていた。
 そっと、ゴーレムがカーテンを開けてくれる。外からはまぶしい光が差し込んでいた。本当に、朝のようだ。
 旅人について、昨日食事をとった場所に付けば、おはようごさいます、と彼女が出迎えてくれた。

「おはよう、ございます」
「人見知り再発?ゴーレムなのに?」
「慣れないと、そうだろうな……出会ってから、アンタ居ないと、ずっとそうだったから」

 おや、と笑う旅人。

「おはよ、フラムド」
「早いね、フラムド」
「異口同音に話すんじゃねぇよ、はよ」

 ひとしきり笑った後、席に着けは直ぐに湯気の立つ料理が出てきた。
 ゴーレムたちはすごいと思った。仕事に忠実であるし。
 フラムドは先に朝食を済ませたのか、紅茶を口に含んでいる。

「……おいしい」

 口に含めば、ほっこりと口元が緩む。
 美味しい、とつい口からこぼれる。

「……本当に?」
「え?」
「いや……何でもないよ」

 にっこりと笑った旅人はどこか、寂しそうな顔をしていた。
 何か、あったのか?

「お前、それ嫌いじゃなかったか?」
「え、そう、だっけ?」

 二か月ちかくも同じ行動をしていれば、好き嫌いぐらい普通に知ることができる。
 何せ、ともに生活していたのだから。

「大丈夫か?お前……」
「分かん、ない……」

 からん、と手からスプーンが滑り落ちた。
 どう、して?と自分の手が震える。
 旅人が近寄ってきて、俺の体を抱きしめた。

「大丈夫、大丈夫だよオビト。大丈夫だから……」

 大丈夫、と俺をなだめては来るけれど、どうしてそう言い切れるのだろう?
 記憶が、消されている気がするし、味覚も変化している。
 どうして?それを、成長とは言わないだろう。
 分からない。思い出そうとすれば、たくさんの記憶が消えていた。
 もう、村の人たちの顔すら思い出せない。姉の顔ですらぼやけてきていた。

「だ、って、なに、これ……」
「記憶はね、薄れていくものだよ。だから、大丈夫。大人になれば、味覚だって変わるさ。ね?」

 こうして考えている事さえ、眠れば忘れてしまうのだろうか?
 いつか、忘れたことすら忘れてしまうのではないか?
 不安は尽きない。不安しかない。

「俺、俺はちゃんと、ここに居る?」
「うん。夢じゃない。現実で、君はここで生きてるよ」

 いっそ、全部夢だったらいいのに。そう、思わなくはないけれど。
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