君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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魔王城編

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 そんな朝食?を終えると、魔王城の中を見てまわりたいと言った俺に、旅人がじゃあ、案内するね、と言ってついてきた。
 部屋にいたメイドゴーレムも一緒に行動することになるようだ。
 
「広い……迷いそう」
「城内でご主人様が迷うことは想定されておりますので、呼べば誰しもが駆けつけます」
「呼べば……?」

 どう呼べばいいのだろう?彼らの名前を、俺は知らない。
 えっと、と考え、そっと空に向かって、ねぇ、と声をかけてみた。
 すると、ガサガサ、と音がして庭から庭師のような格好をしたゴーレムが出てくる。

「あ、本当にきた……ご、ごめんね。呼んでみただけ、なんだ……君は庭師?」

 ギッギギっ、と音を立てて動く彼は、一つ首を縦に動かした。
 戻ってもいいの?と言うように機械音がピロピロリン、と流れる。
 戻っていいよ、と言えばじゃあね、と手をふって彼は戻っていく。

「可愛い、な」
「でしょ?メイド型があまり可愛くない形になっちゃったから、庭師とかは仕草とかにも拘ったんだよ」
「可愛くない人形で申し訳ございません、元ご主人様」

 真面目に嫌味を返しているような気もするが、他のゴーレムたちに比べ、メイド型の彼女はどこか精度が違うというか、特別製な気がする。

「これが趣味とか思われたくないよね……」
「作ったのはご主人様ですが?」
「いや、そうだけど……」

 そうして話して歩いているうちに、何やら大きな扉の前に来た。
 メイド型の彼女がその扉を押して開くと、そこは天井までぎっしりと詰まった、書庫になっていた。
 書庫には、司書であろうゴーレムたちが働いていた。
 時止めの魔法がかかっているとは言え、本も劣化するということなのだろう。
 劣化した本の修正などもしているようだ。新しく製本したりと、彼らはまた多才である。

「ここは、魔王城の大書庫であります。地上三階、地下二階の計五階から形成されており、地上三階については、一般書、地下二階に関しては禁術書などが保管されております」
「禁術書?」
「反魂の秘術や、人体創造術などになります」

 人体創造術、と言われ、ビクッ、と体が跳ねた。
 禁術、と言われているほど、危険な術なのだろう。

「大丈夫だよ、オビト。大丈夫、只人にはその身を滅ぼす危険があって、禁術となっているだけだから。今では、知っている人も居ないんじゃないかな?」
「……人の世界では、廃れてしまった?」
「そう言った書物も多いね。ほら、魔王は暇だったから世界各国から本を集めて読んだりしてたし」

 そっと、一冊手に取った彼は、ふっと笑う。
 覗き込んでみるが、何と書いてあるのか分からない。どこかの国の古代語のようだ。

「この文字はもう使われていない、って……」
「あー、まぁずいぶん前の事だしなぁ……ほら、この国、作り直す前からずっとあるけど、文字は変わってるし」

 見たことのない文字だが、微妙に違う二冊の本の文字。
 ずっとある国だというのに、文字は変わっていくのか、と少し意外に思った。

「地下には向かいますか?」
「いや、今日はいいや」

 ずっとこの城にいるのならば、今でなくても見にいくことはできるだろう。
 読めるかどうかは別として。

「じゃあ、次の部屋に向かおうか」

 大書庫を後にすると、次は煌びやかな扉の部屋に連れて行かれた。
 中には大量の絵画などが納められている。美術室、と言うらしいが、これも魔王のコレクションだったみたいだ。
 定期的に、絵画の入れ替えがされているらしい。

「……あ、れ?」

 見覚えのある顔が描かれた絵画の前で立ち止まる。
 ずいぶんと丁寧に飾られているそれだけは、色褪せることなくそこにあった。

「魔王?」
「あぁ、自画像だね。ほら、ここ見て?って、これ古代語だった」

 旅人が指差す場所には文字らしきものが書かれているが、何と書いてあるのかは分からない。
 古代語で書かれていると言うのだから、それがどれぐらい前か、なんて想像もつかない。

「血の兄弟より、原初の魔王へって書かれてるんだよ。原初の魔王に、魔王が血を分けた魔王の一人が送ったものだね」
「血を分けた、魔王……」
「魔王が、自分の子供が欲しかったのは知ってるでしょ?だから、魔族に血を与えて親族にしたんだよ。まぁ、本当の子供にはなりえなかったけど……」

 知っている、と頷けば、そうだよね、と笑う。
 そりゃ、魔王の記憶を見てきたのだ、知っているに決まっている。
 黒い髪で、赤い瞳……旅人に、よく似ていると思う。
 ねぇさんにも、似ている気がした。

「さて、そろそろ次の部屋に行こうか」

 まだまだ部屋は沢山あるんだよ、と笑う。
 この城を案内できるのが楽しいのだと言わんばかりの旅人の姿に、くすりと笑ってしまう。
 こっちこっち、という彼が手をひく。

「ここ、俺が目覚めた部屋だ」
「そう、ここは魔王の居室だったところ。落ち着かない?」

 そう聞かれてみれば、落ち着く気がする。
 だが、魔王ではないなぜ自分がこの部屋で眠っていたのか。

「ここは、この魔王城の主の居室にございます。つまり、今は貴方様の居室となります」
「へぇ……旅人……えっと、おる、ふぇ?はどこに?」

 ブフッ!と旅人が吹き出した。

「オルフェレウス様でしたら、お隣のお部屋です」
「あ、相変わらず、俺の名前覚えられないの?旅人って……昔からそうだよね」

 覚えられないものは仕方がない。

「オビト、そう言えばお姉さんの名前、覚えてるの?」
「……姉ちゃん?姉ちゃんは……えっと……?」

 あれ?と首をかしげる。
 そう言えば、村の人の名前も覚えていない。
 あれ?あれ?と頭を抱える。
 増えた知識とは裏腹に失ったものも多いのかもしれないと気付かされた。

「お、オルフェ……なんで……」
「そっか……侵食がここまで進んでるとは思わなかったな」
「オルフェ……?」
「いや、こっちの話。ああ、こっちに来て見て」

 そう、カーテンを開く旅人。
 そこに近づくと、見て、と窓の外を指さした。
 わぁ、と思わず声が溢れるぐらいの絶景だ。
 魔王城としてはあまり高い建物ではないはずなのに、付近の森を一望できる。
 魔王城の近くに人間の街や村が一つもないのは、見たらすぐにわかった。すごく、澄んだ空気だ。

「何もないでしょ?でもね、魔王はこの景色が何よりも好きで、何よりも嫌いだった」
「何よりも?」
「そう、何よりも。だって、そこに映る生きとし生けるもの全て、明日にはなくなってしまうかもしれない。自分は、死ねないのに」

 魔王は、死ねない。
 不老長寿なんてものじゃない、不老不死だから。

「魔王は、死にたがっていたから?」
「そう……魔王の本当の願いは、自らの、死」
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