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フォーグレスト編
7 END
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side オビト
起きてみれば、隣には旅人の姿が。
まだ、体はつらいが動けないほどではない。
ただ、頭の中でやることは決まっていた。
ベッドから、旅人を起こさないように抜け出すと、はぁ、と息を吐いて部屋を出る。
気配を消すことは得意で、身についていた。街には戸惑うことも多いけれど、街で気配を消す方法もなんとなくわかってきていたし。
必要な材料を買いに行かなければ、と宿を出てから売ってそうな店に足を向ける。
大量の水が必要だが、それは魔法で出せばいい。
骨、肉、それから少し高いが、黒い石、金剛石、砂糖、鉄、塩などなど。
具体的なグラムは、ざっくりとだが、この街でも案外手に入りやすい物ばかり。
それを、不審者のようなオビトが店を回り、集め、街を出ると、人に見つかりにくそうな森に入る。
「ねぇちゃん……」
今回の勇者の記憶で、人間についての知識がいろいろと知ることができた。
だから、自分の中のもう一人の自分に、体を作ろうと思ったのだ。
自分そっくりな人物を作るのは、少し遠慮したいので、姉の姿を借りることにした。
魔法陣を書き、その上に材料を乗せ、最後に水を分量分、出す。
やめろっ!!と中のもう一人が暴れている気がするけれど、そんなことは知ったことではない。
動物や魔物の骨や肉を使っているので、それを人間の遺伝子へと書き換え、まるで魔法で粘土をこねるように作り上げていく。
結構大量な魔力を消費したが、鏡合わせの迷宮に潜り、得た魔力があればなんていうことはなく、最後に、自分の血を流しいれ、そこに、自分の中にいるもう一人の自分の魂を乗せる。意識を移すときに、魔王の魔力が抜けていく気がした。
仕方ない、それは彼の魔力なのだから。でも、全部が奪われていくわけではなかった。
完成した時、不思議と半分ぐらいは自分の中に魔力が残ったまま。
「お、び、と……っ」
「さよなら……、ねぇさん」
マジックバッグの中から、私服を取り出すと、姉の顔をした体を持つ彼に着せた。まだ、自由に体を動かすことはできないらしい。
だが、直に慣れるだろう。
側に、普段から使い慣れていた魔銃をそっと置く。魔力の波長などもあり、それ自体が結界の役目をしてくれるだろう。
街にはもう戻るつもりもない。だから、その体の上に、ギルドカードも置いて。
よし、と立ち上がると、陰鬱とした森の方へ歩き出す。
名前を呼ぶ声が聞こえるが、振り返らずに。
しばらく森を進むと、ふと、人の気配がして振り返る。
「酷いな、置いてくなんて」
「旅人、と、フラムド?」
にやりと笑う旅人と、狼。
その狼は、カラーリングがフラムドだし、そもそも、雰囲気がすでにフラムドだ。
頷くように、フラムドは旅人を背中に乗せたまま、すりすりと体を寄せてきた。
その姿の時は喋れないらしい。だが、人型に戻ると裸らしく、戻れないと。
「どうして?魔王は、置いてきたよ」
「俺は別にアイツなんてどうでもいいし。カイルもあのエルフもいるんだから、何とかなるだろ。それよりも、俺が心配なのはお前なの。わかる?」
オビトが心配だし、オビト以外に興味が無い、と言う。
カイルとあのエルフは知らないけれど、と旅人は冷たくも言う。
「でも、フラムドだって」
フラムドとリオンは同じ目的があったから、一緒にいたんじゃないのか?
リオンは、あっちを選んだじゃないか。
「フラムドはお前の護衛なんだから当たり前でしょ」
「魔王の、じゃないの?」
「違うよ。フラムドは、選んでオビトの護衛を買って出てくれてる」
フラムドは、あっちの俺よりも俺を選ぶということ?
首を傾げれば、すりっとフラムドがすり寄ってきてくれた。何だか犬みたいだ。
「じゃあ、行こうか」
「え?どこに?」
「人が居なくて、絶対に来れない場所に」
そんな場所があるのだろうか?人間は、知りたがりだ。
知らない場所があるなら、入ってみたいと、開けていない場所があるならば、開拓を、と言うではないか。
旅人に、フラムドの上へ引き上げられる。獣の姿になったフラムドは、普通の狼より何倍も大きく、人間の姿よりも力が強いらしい。
「森の番人が、守っている場所だからね。人間は、立ち入ることもできないだろうね」
先に進めないというのが正しいのか。
迷いの森ともいわれているらしい。
少し、どんなところか楽しみになってきた。
「オビト、行ってみよう?」
「……そう、だな」
不安はある、けれどもう、疲れてしまった。
休めるなら、何だっていい。
そこで、旅人に殺されてしまっても。
文句など、何処にもないだろう。
迷うことなく、フラムドは森の中を走りだす。あまり揺れはしないフラムドの背に乗って、背中に旅人のぬくもりを感じていると、眠くなってくる。
思い出したように、体が重力を感じた。
「寝てていいよ。きっと、彼らは寝ていても君を歓迎してくれるだろうから」
旅人の心地よい言葉に、意識は薄れていく。
おやすみ、それはちゃんと耳から聞こえてきた。
起きてみれば、隣には旅人の姿が。
まだ、体はつらいが動けないほどではない。
ただ、頭の中でやることは決まっていた。
ベッドから、旅人を起こさないように抜け出すと、はぁ、と息を吐いて部屋を出る。
気配を消すことは得意で、身についていた。街には戸惑うことも多いけれど、街で気配を消す方法もなんとなくわかってきていたし。
必要な材料を買いに行かなければ、と宿を出てから売ってそうな店に足を向ける。
大量の水が必要だが、それは魔法で出せばいい。
骨、肉、それから少し高いが、黒い石、金剛石、砂糖、鉄、塩などなど。
具体的なグラムは、ざっくりとだが、この街でも案外手に入りやすい物ばかり。
それを、不審者のようなオビトが店を回り、集め、街を出ると、人に見つかりにくそうな森に入る。
「ねぇちゃん……」
今回の勇者の記憶で、人間についての知識がいろいろと知ることができた。
だから、自分の中のもう一人の自分に、体を作ろうと思ったのだ。
自分そっくりな人物を作るのは、少し遠慮したいので、姉の姿を借りることにした。
魔法陣を書き、その上に材料を乗せ、最後に水を分量分、出す。
やめろっ!!と中のもう一人が暴れている気がするけれど、そんなことは知ったことではない。
動物や魔物の骨や肉を使っているので、それを人間の遺伝子へと書き換え、まるで魔法で粘土をこねるように作り上げていく。
結構大量な魔力を消費したが、鏡合わせの迷宮に潜り、得た魔力があればなんていうことはなく、最後に、自分の血を流しいれ、そこに、自分の中にいるもう一人の自分の魂を乗せる。意識を移すときに、魔王の魔力が抜けていく気がした。
仕方ない、それは彼の魔力なのだから。でも、全部が奪われていくわけではなかった。
完成した時、不思議と半分ぐらいは自分の中に魔力が残ったまま。
「お、び、と……っ」
「さよなら……、ねぇさん」
マジックバッグの中から、私服を取り出すと、姉の顔をした体を持つ彼に着せた。まだ、自由に体を動かすことはできないらしい。
だが、直に慣れるだろう。
側に、普段から使い慣れていた魔銃をそっと置く。魔力の波長などもあり、それ自体が結界の役目をしてくれるだろう。
街にはもう戻るつもりもない。だから、その体の上に、ギルドカードも置いて。
よし、と立ち上がると、陰鬱とした森の方へ歩き出す。
名前を呼ぶ声が聞こえるが、振り返らずに。
しばらく森を進むと、ふと、人の気配がして振り返る。
「酷いな、置いてくなんて」
「旅人、と、フラムド?」
にやりと笑う旅人と、狼。
その狼は、カラーリングがフラムドだし、そもそも、雰囲気がすでにフラムドだ。
頷くように、フラムドは旅人を背中に乗せたまま、すりすりと体を寄せてきた。
その姿の時は喋れないらしい。だが、人型に戻ると裸らしく、戻れないと。
「どうして?魔王は、置いてきたよ」
「俺は別にアイツなんてどうでもいいし。カイルもあのエルフもいるんだから、何とかなるだろ。それよりも、俺が心配なのはお前なの。わかる?」
オビトが心配だし、オビト以外に興味が無い、と言う。
カイルとあのエルフは知らないけれど、と旅人は冷たくも言う。
「でも、フラムドだって」
フラムドとリオンは同じ目的があったから、一緒にいたんじゃないのか?
リオンは、あっちを選んだじゃないか。
「フラムドはお前の護衛なんだから当たり前でしょ」
「魔王の、じゃないの?」
「違うよ。フラムドは、選んでオビトの護衛を買って出てくれてる」
フラムドは、あっちの俺よりも俺を選ぶということ?
首を傾げれば、すりっとフラムドがすり寄ってきてくれた。何だか犬みたいだ。
「じゃあ、行こうか」
「え?どこに?」
「人が居なくて、絶対に来れない場所に」
そんな場所があるのだろうか?人間は、知りたがりだ。
知らない場所があるなら、入ってみたいと、開けていない場所があるならば、開拓を、と言うではないか。
旅人に、フラムドの上へ引き上げられる。獣の姿になったフラムドは、普通の狼より何倍も大きく、人間の姿よりも力が強いらしい。
「森の番人が、守っている場所だからね。人間は、立ち入ることもできないだろうね」
先に進めないというのが正しいのか。
迷いの森ともいわれているらしい。
少し、どんなところか楽しみになってきた。
「オビト、行ってみよう?」
「……そう、だな」
不安はある、けれどもう、疲れてしまった。
休めるなら、何だっていい。
そこで、旅人に殺されてしまっても。
文句など、何処にもないだろう。
迷うことなく、フラムドは森の中を走りだす。あまり揺れはしないフラムドの背に乗って、背中に旅人のぬくもりを感じていると、眠くなってくる。
思い出したように、体が重力を感じた。
「寝てていいよ。きっと、彼らは寝ていても君を歓迎してくれるだろうから」
旅人の心地よい言葉に、意識は薄れていく。
おやすみ、それはちゃんと耳から聞こえてきた。
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