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フォーグレスト編
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『眠ってしまいましたね』
「あぁ、だから帰るよ……彼も、出てこれないみたいだし」
眠る前は平気そうだったオビトは、どこか苦しそうな顔色をしている。
魔王の魔力と、勇者の魔力は、正反対なものだ。それをどちらも体に受け入れているのだ、拒絶反応が出ないのが奇跡に近い。
それどころか、生きていることでさえ、奇跡だろう。
『君たちは、面白い分かれ方をしたものだね』
「そうだね。まぁ、仕方ないでしょ?魔王は願っちゃったんだから。叶えに来た勇者は一人しかいないのに、願ってしまったんだから」
『相反する願いは、世界の変動をも引き起こしたけれど……彼がその最たる犠牲者だということを、君たちは忘れてはいけないよ』
「わかってる。だからこそ、魔王の迷宮に惹かれてほしくはないんだけど……」
『次に、鏡合わせの迷宮に向かえば、彼の体がどうなるかは……分からないよ』
心配そうな森の王と顔を合わせると、オルフェは長い溜息を吐きだした。
そんなことは百も承知で、オルフェも、そしてオビト?も、オビトを迷宮に連れ出すのを良しとはしていない。
だが、周りの彼らはそんなことお構いなしだ。だって、望んでしまっているから。
彼らにも望みは有るのだから。
『それが、分かっているならいいさ。君たちが大事なものを、大事に思わない人たちもいる。いいや、自分の大切な人が関心を寄せるのが、自分以外だというのを面白く思わない人間なんて、たくさんいるんだから。守れるのは、君たちだけ。気をつけて行きなさい』
「相変わらず、お節介だよね。王様のくせしてさ」
『職業はあまり関係ないんじゃないかな?これは、僕の気質によるものだしね』
ふふっ、と笑う森の王は、優しい顔をしている。
彼らを、自分の子供のように思っているのだろう。
「君は、あの頃から変わらない、変な人だよね」
『本人に、それを言うかい?僕は、そう思わないけれど』
またおいで、と出ていく後ろ姿へ森の王は手を振っていた。
その場所から出ると、さて、と巡回馬車が来るのを待つ。
大体、あと三十分はかかるだろうか?これなら歩いて帰った方が早いかもしれない、と思うのだが、ふむ?とオルフェは考える。
ただ、自分一人が歩くのと、オビトを背負いながら歩くのは、少しリスクが違うだろう。それに、到着も疲労も。
考えると、このまま三十分でも待っていた方がマシというものだ。
「……人は、自分で自分の可能性を狭めてしまっていて、誤解して、守ろうと思ったものを全て、壊して……これなら、物語の魔王のように人間なんて滅ぼしてしまった方が、この世界のためだったのかもしれないね」
ふざけるな、という声がどこからか聞こえてきそうな気がして、ふはっ、と笑う。
オルフェはこんな世界に興味はない。
でも、オルフェの願いは、魔王の願いの一つともいえる。
馬車に乗って、宿屋に帰る頃には、怒った様子の三人が出迎えていた。
「疲れてるから後にしてくれる?」
そう、三人に向かって言うとオビトの泊っている部屋は使えないことに気が付いた。
割と、連れ出すときには気が付かなかったが、オビトの荷物は大丈夫だろうか?と、部屋を見に行く。
扉は壊れたまま立てかけてあった。
不用心に、放置されていたマジックバッグを拾い上げると、中を確認する。と言っても、何が入っていたかは知らないけれど。
ただただ、私服などが入っているだけだったから大丈夫だろう。それに、お金などの貴重品は、さすがのオビトも、肌身離さず持っていることだろう。多分。
そう信じて、宿屋を後にしたオルフェは、そのまま自分の泊っていた宿に顔を出し、自分の部屋のベッドに寝かせてから、宿のおかみに話を通す。もちろん、追加料金は取られたけど、別に微々たるものだ。
「オルフェっ!」
「うるさいなぁ……分かんないの?俺、今機嫌悪いんだけど」
おかみとの話が終わるとすぐに、カイルにつかまってしまった。
カイルとは同じ宿に泊まっていたから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
「あの方は……」
「しらねぇよ、お前が誰の話をしているかなんて。あれは、オビトだ。それ以外じゃねぇんだよ。いい加減にしろや」
大体、誰のせいでこんな事になっていると思ってるんだ、とぶちぶち言いながらオルフェは部屋に戻る。
オルフェに突き放されたのがショックなのか、カイルは寄ってこない。
ちょうどいい、と部屋に入ると、苦しそうなオビトの顔が目に入り、そっとそばに立ち寄った。
「変わってやれれば、一番いいんだろうけどな」
ごめんな、とそっとオルフェは頭を撫でた。
看病していたオルフェは、次の日に目を覚まして驚くことになる。
「オビト……?」
寝ていた形跡は有るのに、ベッドはもぬけの殻になっていた。
『眠ってしまいましたね』
「あぁ、だから帰るよ……彼も、出てこれないみたいだし」
眠る前は平気そうだったオビトは、どこか苦しそうな顔色をしている。
魔王の魔力と、勇者の魔力は、正反対なものだ。それをどちらも体に受け入れているのだ、拒絶反応が出ないのが奇跡に近い。
それどころか、生きていることでさえ、奇跡だろう。
『君たちは、面白い分かれ方をしたものだね』
「そうだね。まぁ、仕方ないでしょ?魔王は願っちゃったんだから。叶えに来た勇者は一人しかいないのに、願ってしまったんだから」
『相反する願いは、世界の変動をも引き起こしたけれど……彼がその最たる犠牲者だということを、君たちは忘れてはいけないよ』
「わかってる。だからこそ、魔王の迷宮に惹かれてほしくはないんだけど……」
『次に、鏡合わせの迷宮に向かえば、彼の体がどうなるかは……分からないよ』
心配そうな森の王と顔を合わせると、オルフェは長い溜息を吐きだした。
そんなことは百も承知で、オルフェも、そしてオビト?も、オビトを迷宮に連れ出すのを良しとはしていない。
だが、周りの彼らはそんなことお構いなしだ。だって、望んでしまっているから。
彼らにも望みは有るのだから。
『それが、分かっているならいいさ。君たちが大事なものを、大事に思わない人たちもいる。いいや、自分の大切な人が関心を寄せるのが、自分以外だというのを面白く思わない人間なんて、たくさんいるんだから。守れるのは、君たちだけ。気をつけて行きなさい』
「相変わらず、お節介だよね。王様のくせしてさ」
『職業はあまり関係ないんじゃないかな?これは、僕の気質によるものだしね』
ふふっ、と笑う森の王は、優しい顔をしている。
彼らを、自分の子供のように思っているのだろう。
「君は、あの頃から変わらない、変な人だよね」
『本人に、それを言うかい?僕は、そう思わないけれど』
またおいで、と出ていく後ろ姿へ森の王は手を振っていた。
その場所から出ると、さて、と巡回馬車が来るのを待つ。
大体、あと三十分はかかるだろうか?これなら歩いて帰った方が早いかもしれない、と思うのだが、ふむ?とオルフェは考える。
ただ、自分一人が歩くのと、オビトを背負いながら歩くのは、少しリスクが違うだろう。それに、到着も疲労も。
考えると、このまま三十分でも待っていた方がマシというものだ。
「……人は、自分で自分の可能性を狭めてしまっていて、誤解して、守ろうと思ったものを全て、壊して……これなら、物語の魔王のように人間なんて滅ぼしてしまった方が、この世界のためだったのかもしれないね」
ふざけるな、という声がどこからか聞こえてきそうな気がして、ふはっ、と笑う。
オルフェはこんな世界に興味はない。
でも、オルフェの願いは、魔王の願いの一つともいえる。
馬車に乗って、宿屋に帰る頃には、怒った様子の三人が出迎えていた。
「疲れてるから後にしてくれる?」
そう、三人に向かって言うとオビトの泊っている部屋は使えないことに気が付いた。
割と、連れ出すときには気が付かなかったが、オビトの荷物は大丈夫だろうか?と、部屋を見に行く。
扉は壊れたまま立てかけてあった。
不用心に、放置されていたマジックバッグを拾い上げると、中を確認する。と言っても、何が入っていたかは知らないけれど。
ただただ、私服などが入っているだけだったから大丈夫だろう。それに、お金などの貴重品は、さすがのオビトも、肌身離さず持っていることだろう。多分。
そう信じて、宿屋を後にしたオルフェは、そのまま自分の泊っていた宿に顔を出し、自分の部屋のベッドに寝かせてから、宿のおかみに話を通す。もちろん、追加料金は取られたけど、別に微々たるものだ。
「オルフェっ!」
「うるさいなぁ……分かんないの?俺、今機嫌悪いんだけど」
おかみとの話が終わるとすぐに、カイルにつかまってしまった。
カイルとは同じ宿に泊まっていたから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
「あの方は……」
「しらねぇよ、お前が誰の話をしているかなんて。あれは、オビトだ。それ以外じゃねぇんだよ。いい加減にしろや」
大体、誰のせいでこんな事になっていると思ってるんだ、とぶちぶち言いながらオルフェは部屋に戻る。
オルフェに突き放されたのがショックなのか、カイルは寄ってこない。
ちょうどいい、と部屋に入ると、苦しそうなオビトの顔が目に入り、そっとそばに立ち寄った。
「変わってやれれば、一番いいんだろうけどな」
ごめんな、とそっとオルフェは頭を撫でた。
看病していたオルフェは、次の日に目を覚まして驚くことになる。
「オビト……?」
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