君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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フォーグレスト編

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side オビト

 熱に浮かされたように、目が覚めた。
 頭が、グラグラとするが、それでも起き上がり、今の状況を確認する。
 また、部屋に戻っている。
 はぁ、と熱い息を吐いて、ベッドを降りると、状況を確認しようと、部屋を出た
 同じ宿には、二人が泊っているはずで。
 二階から降りる手前で、ふと、聞こえてくる会話に足を止めた。

「……本当に、勇者の迷宮へ連れていくのか?」

 その声には、聞き覚えがある。
 心が、どくっ、と跳ねた。

「当たり前でしょ?あの子の今の体は、魔王の迷宮と勇者の迷宮を両方行っているから成り立ってるんだし」
「だが、魔王の迷宮だけでも問題ないはずだ」

 その言葉に、フラムドが感情的になったように立ち上がる。

「アンタはっ、アイツに死ねって言ってんのかよ!?」

 フラムドの言葉で、目を見開いて驚く。
 どう、して?と。
 リオンが、そんなフラムドに落ち着け、と言いながら、さらに続ける。

「……元より、その予定の体だろう?空っぽの器。生贄、それが彼の役割だったはずだ」

 役割?
 生贄?
 この体は、器?
 じゃあ、オレは、ダレ?
 
 俺の記憶ではない、もう一人の記憶。
 魔王の父系と言われた記憶。
 それは、いったい誰の事?
 どうして、旅人は、俺に会いに来ていたのだろう?
 どうして、俺はあの魔力を受けて平気なの?

「それに、彼は本当の意味で、私の魔王ではない。私の魔王は……彼の中にいるあの方だけだ」

 その拒絶の言葉に、ひゅっ、と喉が鳴り、体を引きずり、部屋に戻る。
 鍵を閉めて、ドアに背を凭れると、ぽたぽたっ、と涙が床に零れ落ちた。
 ひっく、と喉が鳴るのを止められない。

「ぅっ、くっ……ぁ、ぁはっ」

 ははは、と笑いながら涙が喉をつき、ごほごほと咽る。
 ベッドに行く気力もなくて、そのまま蹲り、目を閉じた。
 このまま、何も見えなくなってしまえばいいと思いながら。

 当然のことだが、症状は悪化した。だが、気が付けば、ベッドの上に寝ていたので、もう一人の自分が移動したのだろう。
 こんこんっ、とノックの音がするが、今は誰にも会いたくはなかった。
 ベッドに潜って、ノックの音を聞かないように両耳を塞いだ。
 今日が何日目、なのかもわからないけれど、何度も何度も鳴るノックの音。
 早く居なくなれ、と思っていれば、ノックの音は止んだ。
 その代わりに、バァンっ!と大きな音がして、扉が破壊された音がした。

「おっびとー、大丈夫か?熱は?体調はどう?」
「だい、じょうぶ、だけど……え、旅人?」

 彼が扉を破壊して入ってきたのかと思えば、さぁっと顔が青く染まった。

「あ、元気そうだね。じゃあ、勇者の迷宮に行こうよ?」

 ね?と笑う彼に、有無を言わさず着替えさせられて外に連れ出された。
 扉の修理代は払うという旅人は、事前に店主と交渉していたらしい。
 さて行きますかっ!と、旅人と二人だけで迷宮に向かう。
 そこには、フラムドの姿も、リオンも、カイルの姿も、なかった。
 勇者の迷宮に向かう馬車に乗り、旅人の用意したご飯を食べる。
 パンとミルクだけだったが、胃は十分に膨れた。

「勇者の迷宮……勇者って、何?」
「なんだと思う?」
「……わかんない」

 自分の事すらわからないのに、勇者だの、魔王だの、すべてわからなくなってしまった。

「そうだねぇ。魔王は、勇者の事を必要とするよね?それはわかる?」

 確かに、魔王としての記憶の中では、勇者を探し求めていた。
 それは、他の魔王たちも変わらず。

「勇者は、魔王を本当は必要としない。何故だか分かる?」
「わかん、ない」
「そうだよね。魔の者たちの王が魔王とするならば、勇者とは、資格を有する者、と言う意味合いを持つ。どこでねじれたのか、今では勇ましき者、と言う意味になってしまっているが」

 資格を有する者?と首をかしげる。
 なんの資格を有するというのだろうか?

「魔王たちには、願いがある。それぞれに、それぞれの願いが。その願いをかなえる資格を有する者、だから、別に勇者は魔王と関わらない生き方もできるわけだ」
「けど、勇者は……」
「そう、勇者は不思議と魔王に惹かれる。世の理だね」

 世の、理……
 だけど、

「俺は、器、だって、空っぽ、だって」
「オビトはね、可能性なんだよ」
「可能性?」

 そう、と言って旅人は笑う。可能性とは、いったい何のことなのだろう?
 可能性がある、とは?

「人の、進化する過程のそのずっと最初の形」

 卵みたいなもの、だと彼は言う。

「何だって出来るし、オビトは何にだってなれる。それを誤解された部分は有るだろうけれど」

 なんだって出来る、何にだってなれる。
 それは、言い換えれば、オビトは何でもない、と言うことで。

「だから、器……俺は、俺であることを許されない、の?」
「いいや……俺は、俺たちは、オビトがオビトであればいいと思っているよ」

 俺たち、というのは俺の中のもう一人の俺のことを話しているのだろうか?それとも、姉の事?
 姉は、知っていたのだろうか?俺が、どういう存在なのか。
 知っていて、それで、父から遠ざけたのだろうか?では、俺たちの父親はいったいどんな存在だったというのか。
 そうこうしている間に、迷宮について馬車を降りた。
 前から気になっていたのだが、馬車の馬が時折、旅人を怖がる仕草をするのはどうしてだろうか?

「さて、行こっか」

 安定を取るために、勇者の迷宮に潜る。
 二人で潜るにも、あまり焦りはなかった。多分、一人で潜ったところで、最下層まで向かえるのはわかっていたことだから。
 旅人は、あの魔王の迷宮の時のように、来たことがあるのだろう。
 一階の迷宮を進み、魔王の時のように、最下層へストレスなく来ることができた。
 いや、中を少し見てみたかったのだけれど。

『やぁ、珍しいお客さんだ』

 中に入ると、朗らかな顔の、エルフが出迎えてくれた。

「エルフ、だ」
「エルフも、人だからな。森の人、と言うだろう?」
『まぁ、純粋なエルフでもないですけどね。私は、北の森の王、と呼ばれていたけれど……』

 北の森の王……特別な人なのだろうか?

「あれを、魔王の魔力を受け取ってるからな。間に合わなくなる」
『……彼は、平気ですか?』
「大丈夫だ、まだ……」

 そうですか、と頷いた北の森の王は、他の彼らのように魔石を出してきた。
 ふと、旅人を見れば、にっこりと笑う彼が一つうなずいたから、そのまま魔石に触れる。
 流れ込んできたのは、この世界の知識。魔力に乗せられた記憶とでもいうのだろうか?

「おやすみ、オビト」

 倒れる途中で、オビトは旅人に受け止められる。安心して、体の力を抜いた。
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