君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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フォーグレスト編

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 これからどうするのか、と聞かれて、迷宮に潜る話をすれば、旅人は驚いたようにこちらを見た。

「え、迷宮?あの迷宮に潜るの?マジで?」
「そうだよ?何で、驚くの?」
「そりゃ、驚くっていうか……お前ら、止めなかったのか?」

 ぎろりと、旅人の目が二人に向けられる。
 なぜ、責められているのか、わからない、と戸惑っているようだ。

「俺が、行きたいって言った、のに?」
「オビトが……?あー、惹かれちゃったのかな?でもなぁ……正直なところ、オビトにとってあの迷宮は害悪にしかならない。だから、勧めたくないんだけど」

 どうしても行きたいの?と旅人が訪ねてくるので、ちらりとカイルを見てからそれでもうん、と頷く。
 勇者に出会えたのだから、迷宮に潜る必要はない、とはいえ、行ってみたいという欲求がある。
 特に、魔王の迷宮の主は、十中八九、竜だろう。ならば、見てみたい。あの、西王竜とどう違うのか。

「……行くだけ、行くだけだからね?俺と約束して頂戴。ね?もう、迷宮の爺どもから何も貰っちゃだめだよ?」
「爺……でも、あれは……」
「あー、一緒に行くから、わかった?」
「わかった……」

 あれは、知識などが詰まったものだ。記憶もあるけれど……。
 勇者の迷宮にいた主たちは、統一性があるわけではないから、今回の迷宮で誰が出てくるのか、少し楽しみになってきた。
 貰っちゃいけない、と言うのはあの魔石の事だろう。だが、自分の意志に関係なく、彼らがこちらによこしてくるものなのだが。
 明日、迷宮に潜る話をすれば、場所と時間を決めて合流することになった。
 宿は流石に別々だから、仕方がない。
 カイルと離れるのは寂しいが、明日になったら会えると、その服を離した。話している間、ずっと握っていた気がする。

「また、明日?」
「あぁ、また明日だな」

 そうして、彼らと別れて予定通りに買い出しに向かった。
 次の日、迷宮に向かうために集まったのは、ギルドの前。
 どうして、二人は心配そうな顔をしているのだろうか?

「カイル……」

 ひょこひょこと近づくと、やっぱり困った顔をしている。
 何でだろう?勇者、だけど……

「お、揃ってるな?じゃあ、行こうか」
「一番最後に来て、仕切ってんじゃねぇっ!!」

 はっはっはっ、と笑う旅人は、とてもマイペースな人だ。
 じっと、旅人を見ていると、うん?と首を傾げられた。

「何か、あった?」
「いや……、ただ……」
「ただ?」
「寝癖、直ってないから」
「アッハハ!いや、そうなんだよね!だから帽子被ってるわけなんだけど!」

 そういえば、と思い出す。
 旅人が家に泊まっていっていた時も、朝は凄い髪型をしていた、と。
 一人で大丈夫なのか?と不安になりながら、朝のセットを手伝っていたっけ?
 馬車に乗ってから、旅人を隣に呼び寄せた。

「お、直してくれるのか?」
「うん。だって、気になるから」
「オビトは、優しい子だなぁ……」
「前向いてて」

 振り返ろうとする旅人を制して、前をむける。帽子を取り、寝癖を確認していく。今日はそんなにひどい寝癖ではなさそうだ。
 手の中に暖かい水の霧を作り出すと、その手で旅人の髪を撫でながら、カバンから出した櫛で整えていく。
 ちゃんと、姿を整えればかっこいい人なのに、と前に姉が言っていた気がする。
 夢中になり、整えていると、到着はすぐだった。
 着く頃には、いつも通りの髪型になっていた。

「ありがとなぁ、オビト」
「いいから、いこっ」

 いつもの事で、それがいつもの日常で、お礼を言われる事ではない。
 そうして、迷宮に入る。やっぱり、旅人は行きたくなさそうだ。

「ゆっくり行かない?」

 中に入り、最初の魔法陣がある場所まで行くと、躊躇いがちにそう言われた。
 フラムドたちも、カイルと旅人もこの迷宮に潜ったことはあるから、さっさと最下層に行けるのに。
 そもそも、最下層に行ってあの魔石に触ると、倒れてしまうのだが。

「私たちは別に構いませんが、歩いて行こうと、降りて行こうと変わりはしませんよ?」
「今日は、オビトも大人しいしな」

 え?とカイルにひっついていた俺に目線が集まった。
 何か、変なことをしただろうか?

「アンタにくっついてれば、罠を起動しようなんて馬鹿なこと思わないだろ?」
「……罠?起動?ちょ、オビト?」
「気になったんだから、しょうが無い」
「だからと言って、仲間を危険に晒してはいけない」

 カイルの言葉に、うん、と一つうなずいた。
 だからと言って、危険に晒したわけでは無いのに。ちゃんと、起動させる時だって、安全を確認したし。
 おぉ、素直、と感動しているけれど、俺はいつも素直だと思うのだが。
 だが、これ以上迷宮に興味を持たれたら叶わない、と旅人は早く行こうか、と魔法陣で最下層に行くことを決めたみたいだ。
 少し、迷宮の中に興味があったのに、残念だと思う。
 あの、竜がいた迷宮と違うのか、一緒なのか、ちょっと気になる。
 だが、この雰囲気だと歩いて行きたくてもストップをかけられそうだ。
 ふむ?と考える。
 魔法陣を起動する直前に、離れて仕舞えばいいんじゃないか?と思いつく。

「さて、と。カイル、オビト捕まえておけよ」
「えっ?」

 はい、と返事をしたカイルによって俺は動きを封じられてしまった。
 
「お前、一人で二階層に降りようとしてただろ」
「なんで」
「俺は、素直に最下層にいけばよかったと思ってる。お前、雪山の話をしたら、雪が降るまで山から帰ってこなかったことあるじゃねぇか」

 なんでバレたんだろう?と思っていれば、ジト目で旅人が告げる。
 その内容も内容だが、その雪山の話以外に、魔獣どんな魔獣がいるかと話してみれば、その魔獣を狩るまで帰ってこなかったり。
 気になったものは、仕方がないだろう。

「だから、お前の姉と何度止めようとしたことか。村の人たちにもお前に余計なことを話すなと言ったりな」

 特に外の話はしなかった気がする。
 そうか、旅人と姉に規制されていたのか。
 外のことは、あまりよく知らない。

「あぁ、なるほど。世間知らずなのはそのせいか」
「村の中の情報だけ知ってればそうなる。だから、俺と姉のせいだって言っただろ?」

 さてついた、と最下層の扉の前にたつ。
 その間、ずっと俺はカイルに運ばれていた。
 地に足がついていない。姉に抱っこされていた頃の記憶はないし、初めての感覚だ。

『珍しい客が来たものよ』
「よぉ、北の竜王」
「北?」

 帝国はどちらかといえば、東にあるのだが、北の竜王?とそもそも、西の竜王の場所がおかしいのか。
 あれ?と首を傾げて見せれば、はっはっはっ、と笑う。
 
「作るとき、間違えちまって、全部ごちゃ混ぜになったんだよな場所」
「……は?」
「いや、なんでもない。こっちの話」

『さて……お主にしか、渡すものは無いのだが』

 優しげに細められた瞳に映っていたのは、オビトただ一人。
 自分以外は、この場所に来たことがあるのだ。当たり前といえば当たり前か、と思う。

「こら、渡すな」
『しかし、そう言うわけにもいかぬだろう?この世界を作りし魔王が決めた制約じゃ』

 けど、と旅人が言い募る前に、目の前には大きな魔石が。
 いつものだ、と思わず手を伸ばす。
 あ、と旅人が振り返るときには、魔石は弾けて俺の中に吸収されて行くだけだ。
 衝撃に、やはり記憶が薄れていく。
 近くにカイルが居てよかったと思うが、まぁ、倒れても痛く無いしとも思うぐらい慣れてしまっていた。
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