君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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フォーグレスト編

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「ずいぶん眠ってたな?疲れてたのか?」

 次の日、起きた時には、もう太陽が西の空に傾いていた。
 夜は、いつも通りの時間に眠ったから、すごく眠っていたことになる。これには俺もびっくりした。
 フラムドたちが昼に一度声をかけてくれたらしいが、全く気が付かなかった。
 だからと言って、もう一人の自分が出てきていたような気はしない。何だろうか?少し、怖いような気もする。

「わか、らない……」

 これだけ眠っていたとして、それでもスッキリとした、という感覚はない。
 体が、おかしい。
 そんなことはわかっている。
 
「……もう、一人の、俺は……、出て、た?」
「いいえ……あの方は出てませんが?」
「そう……、あ、ギルド、行かなきゃ」

 ふと、思い出した。昨日の受付の人に、買取をお願いし、その明細が今日できるために、取りに来いと言われたことを。
 あの人は、何だか逆らってはいけない雰囲気がある。
 思い出せてよかったと思いながら、宿屋を出た。
 心配そうな顔をして、リオンたちが付いてきていたけれど、自分でもどう言い表していいのかわからない状態を、人に話せるわけもない。
 ギルドの受付は、昨日と同じ人でほっと安心した。
 
「待て、オルフェっ!」
「うっせぇっ!」

 荒々しくギルドに入ってきた彼らに、少し驚く。
 聞き覚えのある声だと思っていたら、ばっちりと目が合った。
 その人は、良く知っている人で、そして俺の名前を叫ぶように呼びながら近づいてくる。

「オビトっ!!」
「た、びびと、の、人っ」
「相変わらず、人の名前を覚えない子だねぇ。そこも可愛いけどっ!」

 はぁ~、と抱きしめてきた彼は、息を吐き、安堵しているようだ。
 旅人は、あの村を見てきたのだろうか?
 俺の形跡が無かったから、探した?
 昔から来ていた旅人に、なぜか気に入られているとは思っていたけれど。旅人は姉に興味があるものだとばかり思っていた。

「オルフェ、その人は?」

 ぞわり、と肌がわななく。
 旅人がいるから、姿は見えないが、もう一人の俺が歓喜していることが手に取るように分かった。
 ぎゅっと、旅人の服を握りしめれば、大丈夫だと言うように背を撫でられる。
 怖かった。その人にもう一度会いたいと思っていたのに、怖くて体が震える。
 ゆっくりと旅人から離れてその人を、視界に入れた。
 見開いたオビトの両目に、飛び込んできた人。金髪で、優し気な風貌。
 もう一人の俺が興奮して、飛び出そうとしてくる。
 一瞬の隙に、少し体の自由を奪ったのだろうか?気が付けば、彼の体を抱きしめていた。

「あ、の」
「えっと、君は?」
「オビト、オビト・クラッセルン」

 自分で言うのもなんだが、傍から見れば恋する乙女のような顔をしているのではないか?
 というぐらい、彼に見惚れていた。

「オビト?おーい、オビトやーい」
「名前、教えて」
「私のか?」
「俺は無視かーい?オビトちゃんやーい」
「そう、あなたの、名前」

 後ろで旅人がうるさいが、そんなのどうでもよくて、彼の名前が知りたい。

「とりあえず、この場を離れないかい?変に目立ってしまっているよ」

 困ったような彼。オビトは自分が今、注目されていようが、どうでもよくて彼を知りたかった。

「何をしているんです?大丈夫ですか?」

 途中、リオンたちが騒ぎを聞きつけて合流してくる。
 彼らは、依頼を見るためにこの場を離れていたのだが。
 このメンバーがそろってしまったことで、すごく面倒に感じつつも、目の前の彼が今の思考の大半を占め、それどころではない。
 名前が呼びたい、ただそれだけ。
 彼らの勧めもあり、酒屋に移動することになった。
 
「まず、私の名前だが、カイルと言う。傭兵をしている」
「傭兵?」

 カイルが?とイメージしていた傭兵とは違うカイルに、少し驚く。

「今は、オルフェ……オルフェレウス・ガリオン様の護衛を務めている」
「ガリオン……?もしや、ガリオン公のご子息でいらっしゃる!?」

 あっはは、と笑いながら旅人はカイルを蹴り飛ばした。
 動じてはいないみたいだが。
 ガリオン公、つまりは帝国の公爵家当主のことを呼ぶそうだ。
 公爵家はこの帝国内に六家あり、その当主はすべて竜人という。まぁ、皇帝の血を引く一家だ、当たり前と言えば当たり前か。
 あまり、実感はないが、とんでもない人が毎年村に来ていたようだ。

「俺のことは、オルフェって呼んでね。あんまり、家の話するのは好きじゃないんだ」
「そう、なの?旅人、は、どうして、旅を?」
「ん~、会いたい人が居たから、かなぁ?それよりどうした、オビト?緊張してるのかぁ?」

 会いたい人、旅人の会いたい人……、そう聞いて姉が思い浮かんだ。
 そうして、ずきり、と心が軋む。姉を思い出したからか、それとも……。

「緊張なんて、してない、よ」
「してるしてる、かっわいいなぁ~」

 よしよし、と撫でてくる旅人の手をかわして、そっと聖騎士に近づく。
 自分が自分で無くなりそうな今、聖騎士のそばはほっとする。落ち着く、と言っていい。
 困ったような顔をしていたけれど、嫌がっている様子はないからそのまま居た。
 
「それで、君たちは、誰なの?オビトの何?」
「イシリオン・ルミナリス、エルフで、ラジエラから彼とご一緒させていただいています」
「フラムド・ドローウェル。狼獣人だ。リオンと同じくパーティを組んでいる」
「獣人とエルフのパーティねぇ?珍しいことこの上ない」

 聞けば、妖精種族であるエルフやドワーフと、獣人種族はあまり仲が良くないらしい。
 まぁ、妖精種族であるエルフとドワーフでさえも仲が良くないので、一概にそうとは言えないけれど。
 責められているようなその視線に、フラムド達は冷や汗をかいている。まぁ、エルフや獣人よりもさらに格上の竜人に睨まれているのだ、それも当然といえよう。

「俺の可愛いオビトに、ついて回ってるの?何で?」
「そ、れは……彼が、どういう存在なのかは、あなたの方がよくご存じでは?」
「あはっ!護衛だとでもいうつもり?オビトより弱いくせに?」

 え?と俺は旅人を見る。
 自分より強いと思っていた二人を、旅人は弱いといった。なぜなのだろう?
 首をかしげて見せれば、カイルが苦笑する。

「オルフェ、彼は気が付いていないみたいだ」
「え、そうなの?何で?オビト、天才じゃん?それに、強いし、ちゃんと戦ったらオビトが勝つよ?」
「そう、なの?分からない……」

 あらら、と可愛いものをめでる瞳で、旅人が見てくる。
 そういえば、初めて出会った時から、そういう顔をしていたことを思い出す。

「まぁ、うん。いいや、ここまでうん、何も知らない子に育てた俺と彼女の失態だわ……うん、帝国まで連れてきてくれてありがと」

 何を悟ったのか、旅人ははぁ、と溜息を吐いて力なく笑った。
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