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魔王城編
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目を開ければ、森の中を走っていた筈なのに、ベッドの上に寝ていた。
え、これはいったい?
と思って辺りを見回すも、そこが豪奢な一室、だということ以外何も分からない。
「お目覚めになりましたか、ご主人様」
「……ゴーレム?」
部屋に入ってきたのは、メイド服を着た人形だった。
いや、正確にはゴーレムではなくて自立式機械化人形、と言うものだと思うが。
「はい。ご主人様が作り上げた一体が私でございます」
「ご主人様?えっと……」
「オルフェレウス様とフラムド様は、別室にいらっしゃいますが、お会いになりますか?」
一つうなずくと、分かりました、と彼女が案内してくれるみたいで後ろを付いて行く。
もし、今何かが起こったとしても、装備などは、手元にあるから、何とかなるだろう。
「こちらでございます」
大きな扉を開けば、これまた大きな机と椅子がたくさん並んだ部屋。どうやら食堂のようだ。
おっ、と声を上げて立ち上がり、近づいてきたのは、旅人で。
「オビトっ、目が覚めたんだな!?いやぁ、なっかなか目が覚めないから心配したわ」
「体は何ともないのか?」
「は……?うん、何ともない、けど……何?」
どういう事?と首をかしげて見せれば、自分が眠ったのは大体三日ほど前の話だという。また三日だ。
その間にこの城に着いて、腰を落ち着けたみたいだが。
「ここは?」
「魔王城だよ?あれ?話したことなかったっけ?」
あった、ような?なかった、ような?と首をかしげて見せれば、二人の様子にほっとしたのか腹が鳴った。
まぁまぁ、座れよ、と言われて席に座らされる。一番、扉から遠い、お誕生日席のような場所に。
座ると同時に、料理が運ばれてくる。
運んできたのは、先ほど案内してくれたゴーレムとはまた別のゴーレム。料理人のような姿をしている。
ふわり、と湯気とともに香る匂いはおいしそうで、さらにお腹が鳴った。
どうぞ、と言うように料理人のゴーレムが首をかたん、と倒すから、いただきます、と恐る恐るスプーンを手に取る。
料理人型のゴーレムはどうやら喋れないらしい。
「おいしい……」
何というか、どこか懐かしい味がする。
どこで、食べたんだっけ?と首をかしげてみるも思い出せない。
野菜や肉を、形がなくなるまで煮込んだスープ。
温かさと相まって、体にしみこんでいくようだ。
おいしい、と思わず漏らせば、料理人型のゴーレムも喜んでいるようだ。彼が作ったのだろうか?
「そう言えば、何で魔王城に?」
「人間が絶対に来れない場所だからね」
「ここが?でも、俺たちは」
オビトは自分を人間だと思っている。
けれど、ここに入れるということは違うのだろうか?
少し、心配になってしまう。
「この城の主は君だからね。だから、魔王城は、森の番人であるドライアドたちが道を開けて、この城へと招き入れた」
「ここには、人の気配がないけど、これは?」
スープに使われた野菜や肉は?どこから持ってこられたものなのだろうか?
「植物に関してはドライアドや精霊たちが、肉に関しては外に、いろいろ居るからね」
ゴーレムたちだけではない、けれど、人間や魔族についてはこの場所にいない、と言うことだ。
「魔王がいつ帰還しても良いように、彼らも、またこの城を管理するゴーレムたちも、ずっと変わらずここにいたんだよ」
「……気が遠くなりそうだ」
「彼らに時間の感覚はないだろうけれどね。永久を生きる者たちだから」
ゴーレムたちも、自立式と言うだけあって、代わる代わるに休眠を取り、その間に大気に含まれる魔力を吸収して活動していたという。
ゴーレムを整備するゴーレムも数台いるそうだから、この城は人が居なくなったところで変化はないのだろう。
そう、何百年も何千年も、時知らずの城として。
「寂しいな」
「そう感じることができるのは、君が人間として生きていたからだね。魔王は、不老不死であったから、彼らを作ったんだけど」
不老不死であっても、腹は減るし身の回りの世話はいる。
完全なる自給自足のための施設が整っているというが、それはこの城のためではなく、魔王のために。
「……魔王がいつ帰還してもおかしくないように?」
ふと、話の流れで聞き逃してしまいそうになる。
そうだね、と旅人は首を傾げた。
「この城の主は、俺?」
「うん。そう」
「俺は、魔王?」
「いんや、違う」
ぶっぶーっ!と旅人は笑い、フラムドは溜息を吐いた。
「この城のあり方は変わってしまっていて……器を待っていたんだ。この城は、新しいこの世界の主を」
この世界の、主?
訳が分からない、と首をかしげて見せるも、旅人は答えてくれない。
この世界の新しい主とは、何だというのか。
「まぁ、そんな深く気にしなくてもいいよ。ただ、オビトは望めばいい。望めばそれが真実となる」
「……真実?」
「ふふっ、とりあえずご飯食べたら俺といちゃいちゃしよーって事っ!」
全くそんなこと言ってない気がするが。
フラムドに視線を向ければ、首を横に振られた。
「しばらく、ここに居ても良いのかな?」
「しばらくと言わず、ずっと居ても良いんだよ?」
「お前の城なんだから、お前の好きにすればいい」
「フラムドは、どうする?」
ギルドカードは置いてきてしまった。もう、オビト・クラッセルンとして人の世で活動することもないだろう。
けれど、フラムドにはフラムドの立場と言うものがある。
「俺は……まぁ、ここに居たいのはやまやまなんだけどな……うるさいのが居るからな」
そのうるさいの、というのがオビトの知っている人物でないことは確かなのだろう。
フラムドと出会ってからまだそんなにたっていない。だから、知らないことも多い。
ただ、少し不安になった。戻る、と言う選択をするならば、その後フラムドに二度と会えなくなるような気がして。
「まぁ、でもその内追いかけてくるだろうな」
「ここまで?そいつ、何者?」
「帝国の、竜皇帝だけど」
ぶふっ!と旅人が噴き出す。
マジでっ!?と驚いているところに、マジだ、と返すフラムドは疲れている気がする。
「あっはっはっ!!確かにあの人なら来るだろうな」
「だろ?空から、今にも飛んできそうだ」
やりかねない、と旅人が笑う。
公爵家の息子だと話していた気がするから、知り合いなのだろうか?
「じゃあ、俺とも従兄弟になるわけだ」
「従兄弟……?」
「俺の母親が、現竜皇帝の妹だからな」
うわぁ、と言った顔をフラムドがする。旅人が従兄弟では、嫌なのだろうか?
旅人は、とても世話焼きであり、いい兄だとは思うのだが。
え、これはいったい?
と思って辺りを見回すも、そこが豪奢な一室、だということ以外何も分からない。
「お目覚めになりましたか、ご主人様」
「……ゴーレム?」
部屋に入ってきたのは、メイド服を着た人形だった。
いや、正確にはゴーレムではなくて自立式機械化人形、と言うものだと思うが。
「はい。ご主人様が作り上げた一体が私でございます」
「ご主人様?えっと……」
「オルフェレウス様とフラムド様は、別室にいらっしゃいますが、お会いになりますか?」
一つうなずくと、分かりました、と彼女が案内してくれるみたいで後ろを付いて行く。
もし、今何かが起こったとしても、装備などは、手元にあるから、何とかなるだろう。
「こちらでございます」
大きな扉を開けば、これまた大きな机と椅子がたくさん並んだ部屋。どうやら食堂のようだ。
おっ、と声を上げて立ち上がり、近づいてきたのは、旅人で。
「オビトっ、目が覚めたんだな!?いやぁ、なっかなか目が覚めないから心配したわ」
「体は何ともないのか?」
「は……?うん、何ともない、けど……何?」
どういう事?と首をかしげて見せれば、自分が眠ったのは大体三日ほど前の話だという。また三日だ。
その間にこの城に着いて、腰を落ち着けたみたいだが。
「ここは?」
「魔王城だよ?あれ?話したことなかったっけ?」
あった、ような?なかった、ような?と首をかしげて見せれば、二人の様子にほっとしたのか腹が鳴った。
まぁまぁ、座れよ、と言われて席に座らされる。一番、扉から遠い、お誕生日席のような場所に。
座ると同時に、料理が運ばれてくる。
運んできたのは、先ほど案内してくれたゴーレムとはまた別のゴーレム。料理人のような姿をしている。
ふわり、と湯気とともに香る匂いはおいしそうで、さらにお腹が鳴った。
どうぞ、と言うように料理人のゴーレムが首をかたん、と倒すから、いただきます、と恐る恐るスプーンを手に取る。
料理人型のゴーレムはどうやら喋れないらしい。
「おいしい……」
何というか、どこか懐かしい味がする。
どこで、食べたんだっけ?と首をかしげてみるも思い出せない。
野菜や肉を、形がなくなるまで煮込んだスープ。
温かさと相まって、体にしみこんでいくようだ。
おいしい、と思わず漏らせば、料理人型のゴーレムも喜んでいるようだ。彼が作ったのだろうか?
「そう言えば、何で魔王城に?」
「人間が絶対に来れない場所だからね」
「ここが?でも、俺たちは」
オビトは自分を人間だと思っている。
けれど、ここに入れるということは違うのだろうか?
少し、心配になってしまう。
「この城の主は君だからね。だから、魔王城は、森の番人であるドライアドたちが道を開けて、この城へと招き入れた」
「ここには、人の気配がないけど、これは?」
スープに使われた野菜や肉は?どこから持ってこられたものなのだろうか?
「植物に関してはドライアドや精霊たちが、肉に関しては外に、いろいろ居るからね」
ゴーレムたちだけではない、けれど、人間や魔族についてはこの場所にいない、と言うことだ。
「魔王がいつ帰還しても良いように、彼らも、またこの城を管理するゴーレムたちも、ずっと変わらずここにいたんだよ」
「……気が遠くなりそうだ」
「彼らに時間の感覚はないだろうけれどね。永久を生きる者たちだから」
ゴーレムたちも、自立式と言うだけあって、代わる代わるに休眠を取り、その間に大気に含まれる魔力を吸収して活動していたという。
ゴーレムを整備するゴーレムも数台いるそうだから、この城は人が居なくなったところで変化はないのだろう。
そう、何百年も何千年も、時知らずの城として。
「寂しいな」
「そう感じることができるのは、君が人間として生きていたからだね。魔王は、不老不死であったから、彼らを作ったんだけど」
不老不死であっても、腹は減るし身の回りの世話はいる。
完全なる自給自足のための施設が整っているというが、それはこの城のためではなく、魔王のために。
「……魔王がいつ帰還してもおかしくないように?」
ふと、話の流れで聞き逃してしまいそうになる。
そうだね、と旅人は首を傾げた。
「この城の主は、俺?」
「うん。そう」
「俺は、魔王?」
「いんや、違う」
ぶっぶーっ!と旅人は笑い、フラムドは溜息を吐いた。
「この城のあり方は変わってしまっていて……器を待っていたんだ。この城は、新しいこの世界の主を」
この世界の、主?
訳が分からない、と首をかしげて見せるも、旅人は答えてくれない。
この世界の新しい主とは、何だというのか。
「まぁ、そんな深く気にしなくてもいいよ。ただ、オビトは望めばいい。望めばそれが真実となる」
「……真実?」
「ふふっ、とりあえずご飯食べたら俺といちゃいちゃしよーって事っ!」
全くそんなこと言ってない気がするが。
フラムドに視線を向ければ、首を横に振られた。
「しばらく、ここに居ても良いのかな?」
「しばらくと言わず、ずっと居ても良いんだよ?」
「お前の城なんだから、お前の好きにすればいい」
「フラムドは、どうする?」
ギルドカードは置いてきてしまった。もう、オビト・クラッセルンとして人の世で活動することもないだろう。
けれど、フラムドにはフラムドの立場と言うものがある。
「俺は……まぁ、ここに居たいのはやまやまなんだけどな……うるさいのが居るからな」
そのうるさいの、というのがオビトの知っている人物でないことは確かなのだろう。
フラムドと出会ってからまだそんなにたっていない。だから、知らないことも多い。
ただ、少し不安になった。戻る、と言う選択をするならば、その後フラムドに二度と会えなくなるような気がして。
「まぁ、でもその内追いかけてくるだろうな」
「ここまで?そいつ、何者?」
「帝国の、竜皇帝だけど」
ぶふっ!と旅人が噴き出す。
マジでっ!?と驚いているところに、マジだ、と返すフラムドは疲れている気がする。
「あっはっはっ!!確かにあの人なら来るだろうな」
「だろ?空から、今にも飛んできそうだ」
やりかねない、と旅人が笑う。
公爵家の息子だと話していた気がするから、知り合いなのだろうか?
「じゃあ、俺とも従兄弟になるわけだ」
「従兄弟……?」
「俺の母親が、現竜皇帝の妹だからな」
うわぁ、と言った顔をフラムドがする。旅人が従兄弟では、嫌なのだろうか?
旅人は、とても世話焼きであり、いい兄だとは思うのだが。
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