31 / 47
砦の街
2 END
しおりを挟む
目が覚めると、頭が痛かった。泣いたからだろうか?
うぅ、と唸りながら洗面台にて顔を洗う。
泣いたせいか、瞼も腫れぼったくて、辛い。
はぁ、とため息を吐いて冷水を当てる。魔法は、生活魔法系と戦闘魔法系なら得意だが、回復系は苦手だ。
そもそも、泣き疲れのような顔に回復魔法をあてるのもどうかと思うけれど。
「大丈夫ですか?」
「だ、いじょう、ぶ……り、おん、フラムド……あの……」
「……少し、予定より長く滞在しましょうか」
「い、いの?」
「急ぐ旅じゃねぇしな。何もない街でもないし、少し長く滞在したところで困りはしねぇよ」
そっか、と安堵する。
あの人がいるかもしれない街からあまり動きたくはなかった。
それより、と目に手を当ててきたリオン。
その行動に思わず目を伏せれば、ふわりと体が軽くなる。
再び目を開けてみれば、先程までの重みは感じず、ぱっちりと開けた。
「か、いふく魔法……」
「そのままの目じゃ、外にも出れないでしょう?」
「如何にも泣きました、って目じゃ……な」
フラムドが遠い目をする。
その姿に、はて?と首をかしげる。
フラムドが何か思う相手がいるのだろうか?自分関係で?そんな人いただろうか?
「そう言えば、貴方のお姉さんとは?」
「似てるのか?」
あれ?と思う。俺、姉の話したこと、あったっけ?と。
姉と似てるかどうか?と聞かれれば、似てないと良く言われていた。
「に、似てない……ねぇさんは、俺とは、違って、綺麗な、長い、黒髪、で……」
思い出す姉の姿。
美しく艶やかな黒髪を靡かせ、赤いルビーのような瞳を優しげに細める姉。
金に近い茶髪と青い瞳をしている自分とは違う。
姉は、自分は母親似であり、俺は父親似であると言っていた。
髪も瞳も似ていない。顔立ちは少しだけ似ていた。
「そうですか。会って、見たかったですね」
「あぁ。お前を、そんな世間知らずに育てた姉を見てみたい」
むっ、と眉間にシワを寄せる俺に、そう怒るなっ、とフラムドが慌てていう。
姉は何も悪くないのに、と思うのはいけないことだろうか?
朝食を食べ、宿屋の外に出る。
本当は二日しかとってない宿を、リオンが延長してくれた。
「まずは、予定通り買い出しだな」
ここから、次の街に行くまでの食料などを買いに行くという話をしていたな、と思い出す。
そう言えば、この街の名前は何というのだろう?
ラジエラとかグレハスとか、街には名前が付いていたはずだ。
砦の街、とそう言っていたけれど。
「こ、の街、名前、は?」
「砦の街のですか?えっと……何でしたっけ?」
「俺に聞くのかよ?冒険者で覚えてるやつなんているのか?」
冒険者にとっては、通り過ぎるだけの街ゆえに、名前を知らない者が多いという。
住んでる者も、帝国か王国かによって街の名前が変わるので覚えていないという。
ゆえに、砦の街は砦の街なのだと。
そんな街もあるのか、という感じだが。
それより、と買い出しをしながら、街の中を見て歩く。
昨日の人は、まだこの街にいるのだろうか?何も感じない。
あの時は、突発的にいると感じたのに。もう、この街にいないのかもしれない。
そう考えると、寂しく思う。
きれいな人、とても強そうな人だった。
あの人に会いたい、一度見てしまうとその欲求が抑えきれない。
フラムドたちを放り出してでも、探して回りたいけれど、俺は彼の名前すらしらない。
はぁ、と溜息を吐けば、困ったような顔をされてしまう。
そんな顔をしてほしいのではない。が、気にしないでくれと言っても無理そうだ。
どれだけ探しても、彼の人はいなかった。
出立の日になり、はぁ、と諦めきれずに、街を振り返るが、でも彼がいる可能性が無いことはわかりきっている。
どちらに向かったのか、なんてわからないけれど。王国か、それとも帝国国内か……。
進むしか、道はないのだろう。
帝国側の門から街の外に出てみると、王国とはまた違った雰囲気の風が頬を撫ぜた。
街の外を見回すと、森がある。また、森を移動していこうと思ったけれど、少し考え足が止まる。
「どうか、したんですか?」
立ち止まった俺を、不審そうに見てくる二人。
だが、何といえばいいのか。
森の中は癒されるが、今回は街道を進むのも手かと考える。
「……いそ、ごう?」
えっ?と驚かれてしまう。
そんな驚くようなことだろうか?
「では、戻って馬車でも手配しますか?」
「そ、こまで、は……」
「なら、道なりにまっすぐだな」
「道なり?」
道なり、とフラムドが人が付けただろう、土の跡を指す。
なるほど、と頷いて、そうだね、と言った。
そのまま進めば、いつもより早く着くだろう。けれど、人の喧噪とは遠くなる。
それが、良いのかもしれない。
「それでは、ラジエラの時よりは早めに、ですがゆっくり行きましょうか」
歩き出したフラムド達を追う。
焦ったところで、どうにもならないと言うのはわかっているのに、どうしたら良いのかもわからない。
人の気持ちとは、これほどまでにどうにもならない者なのかと思うほど。
こんなことを思う自分は、人間ではないのかもしれない。
ふと、思う。
どうして自分が、あの魔石の魔力を受け入れられたり、魔王の記憶を受け入れられたりしているのか。
自分が魔王だという自覚はない。
前世、というものがあるのなら、そうなのかもしれないけれど。
だけれども、勇者を求めるのは魔王だからなのだろうか?記憶に、引きずられているとはいえ、本当に俺は……。
「……っ」
ズキズキと頭が痛む。
最近、村にいた時より、ぼんやりとすることが多くなった気がする。
フラムドたちが異変に気が付いて、振り返る頃には、痛みなどなくいなっていた。
何でもない、と言うしかないだろう。
あぁ、早く勇者に会わなければ……。
おれが、おれで、なくなってしまうまえに……
うぅ、と唸りながら洗面台にて顔を洗う。
泣いたせいか、瞼も腫れぼったくて、辛い。
はぁ、とため息を吐いて冷水を当てる。魔法は、生活魔法系と戦闘魔法系なら得意だが、回復系は苦手だ。
そもそも、泣き疲れのような顔に回復魔法をあてるのもどうかと思うけれど。
「大丈夫ですか?」
「だ、いじょう、ぶ……り、おん、フラムド……あの……」
「……少し、予定より長く滞在しましょうか」
「い、いの?」
「急ぐ旅じゃねぇしな。何もない街でもないし、少し長く滞在したところで困りはしねぇよ」
そっか、と安堵する。
あの人がいるかもしれない街からあまり動きたくはなかった。
それより、と目に手を当ててきたリオン。
その行動に思わず目を伏せれば、ふわりと体が軽くなる。
再び目を開けてみれば、先程までの重みは感じず、ぱっちりと開けた。
「か、いふく魔法……」
「そのままの目じゃ、外にも出れないでしょう?」
「如何にも泣きました、って目じゃ……な」
フラムドが遠い目をする。
その姿に、はて?と首をかしげる。
フラムドが何か思う相手がいるのだろうか?自分関係で?そんな人いただろうか?
「そう言えば、貴方のお姉さんとは?」
「似てるのか?」
あれ?と思う。俺、姉の話したこと、あったっけ?と。
姉と似てるかどうか?と聞かれれば、似てないと良く言われていた。
「に、似てない……ねぇさんは、俺とは、違って、綺麗な、長い、黒髪、で……」
思い出す姉の姿。
美しく艶やかな黒髪を靡かせ、赤いルビーのような瞳を優しげに細める姉。
金に近い茶髪と青い瞳をしている自分とは違う。
姉は、自分は母親似であり、俺は父親似であると言っていた。
髪も瞳も似ていない。顔立ちは少しだけ似ていた。
「そうですか。会って、見たかったですね」
「あぁ。お前を、そんな世間知らずに育てた姉を見てみたい」
むっ、と眉間にシワを寄せる俺に、そう怒るなっ、とフラムドが慌てていう。
姉は何も悪くないのに、と思うのはいけないことだろうか?
朝食を食べ、宿屋の外に出る。
本当は二日しかとってない宿を、リオンが延長してくれた。
「まずは、予定通り買い出しだな」
ここから、次の街に行くまでの食料などを買いに行くという話をしていたな、と思い出す。
そう言えば、この街の名前は何というのだろう?
ラジエラとかグレハスとか、街には名前が付いていたはずだ。
砦の街、とそう言っていたけれど。
「こ、の街、名前、は?」
「砦の街のですか?えっと……何でしたっけ?」
「俺に聞くのかよ?冒険者で覚えてるやつなんているのか?」
冒険者にとっては、通り過ぎるだけの街ゆえに、名前を知らない者が多いという。
住んでる者も、帝国か王国かによって街の名前が変わるので覚えていないという。
ゆえに、砦の街は砦の街なのだと。
そんな街もあるのか、という感じだが。
それより、と買い出しをしながら、街の中を見て歩く。
昨日の人は、まだこの街にいるのだろうか?何も感じない。
あの時は、突発的にいると感じたのに。もう、この街にいないのかもしれない。
そう考えると、寂しく思う。
きれいな人、とても強そうな人だった。
あの人に会いたい、一度見てしまうとその欲求が抑えきれない。
フラムドたちを放り出してでも、探して回りたいけれど、俺は彼の名前すらしらない。
はぁ、と溜息を吐けば、困ったような顔をされてしまう。
そんな顔をしてほしいのではない。が、気にしないでくれと言っても無理そうだ。
どれだけ探しても、彼の人はいなかった。
出立の日になり、はぁ、と諦めきれずに、街を振り返るが、でも彼がいる可能性が無いことはわかりきっている。
どちらに向かったのか、なんてわからないけれど。王国か、それとも帝国国内か……。
進むしか、道はないのだろう。
帝国側の門から街の外に出てみると、王国とはまた違った雰囲気の風が頬を撫ぜた。
街の外を見回すと、森がある。また、森を移動していこうと思ったけれど、少し考え足が止まる。
「どうか、したんですか?」
立ち止まった俺を、不審そうに見てくる二人。
だが、何といえばいいのか。
森の中は癒されるが、今回は街道を進むのも手かと考える。
「……いそ、ごう?」
えっ?と驚かれてしまう。
そんな驚くようなことだろうか?
「では、戻って馬車でも手配しますか?」
「そ、こまで、は……」
「なら、道なりにまっすぐだな」
「道なり?」
道なり、とフラムドが人が付けただろう、土の跡を指す。
なるほど、と頷いて、そうだね、と言った。
そのまま進めば、いつもより早く着くだろう。けれど、人の喧噪とは遠くなる。
それが、良いのかもしれない。
「それでは、ラジエラの時よりは早めに、ですがゆっくり行きましょうか」
歩き出したフラムド達を追う。
焦ったところで、どうにもならないと言うのはわかっているのに、どうしたら良いのかもわからない。
人の気持ちとは、これほどまでにどうにもならない者なのかと思うほど。
こんなことを思う自分は、人間ではないのかもしれない。
ふと、思う。
どうして自分が、あの魔石の魔力を受け入れられたり、魔王の記憶を受け入れられたりしているのか。
自分が魔王だという自覚はない。
前世、というものがあるのなら、そうなのかもしれないけれど。
だけれども、勇者を求めるのは魔王だからなのだろうか?記憶に、引きずられているとはいえ、本当に俺は……。
「……っ」
ズキズキと頭が痛む。
最近、村にいた時より、ぼんやりとすることが多くなった気がする。
フラムドたちが異変に気が付いて、振り返る頃には、痛みなどなくいなっていた。
何でもない、と言うしかないだろう。
あぁ、早く勇者に会わなければ……。
おれが、おれで、なくなってしまうまえに……
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる