君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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砦の街

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 砦の街に行くまで、好きにしろと言われた通り、自分の好きに突き進むことにした。
 砦の街につく頃には、リオンたちは辟易としていたけれど。
 久しぶりの狩りはとても楽しくて。でも、獲りすぎてはいけないのだということもちゃんと分かっていて、その日必要な分だけの狩り。
 狩れなくても、バッグの中にある食料があるから問題はない。
 ただ、二人と森の中に入って思ったのは、一人で警戒して寝なくてもいいってこと。
 むしろ、何故か二人が俺を寝かしつけようとしてきてちょっとびっくりした。
 そういう状況だから、深く眠る事はないけれど。
 砦の街の中に入ると、二人はホッとしていた。

「あぁ、人の暮らす文化ある場所だ……」
「森の民、と言われていてもやはり……街は住みやすいと感じてしまいますね」

 逆に、森では生き生きしていたオビトは街ではおどおどとし出す。
 まぁ、フラムドたちに話しかける時は相変わらずだったが、そういう雰囲気というのか。
 この砦の街には、冒険者ギルドがない。そのため、さっさと通り抜けて別の街に行こうとする。
 そういった冒険者は多いため、冒険者の入国審査などをしている人たちも急いでいる冒険者を気には止めない。
 商人などは、怪しいと検査されてしまうけれど。

「そう言えば、覚えていますか?この砦の街について私がお話ししたこと」
「お、覚えて、るよ……お、面白い、街だって」
「はい。どうせなので、帝国側で宿をとりましょうか」

 入場門を通ってから街の中に入ると、あまり屋根の高くない家が立ち並んでいた。
 これのどこが面白いのか、と思いつつリオンたちについていくと、目の前に大きな壁が現れる。
 それも、街のど真ん中で、だ。何でだよ?
 とりあえず、リオンたちに続いて検問を通り、砦の街帝国側に出る。
 すると、帝国側の街も王国側の街も様式が変わらないその街があった。

「この街、面白いでしょう?今通ったのは、帝国側の兵士が審査している門で、帝国に入国するための門ですね」

 大きな荷物などがある人たちは分けられていたが、小さな手荷物などすぐ終わりそうな人たちの列と冒険者は変わらない。
 一般人の中には飛脚のような姿も見えていて、この砦の街は真ん中で区切られているだけで一つの街なのだと思った。
 あちら、と指をさしたのは、帝国から出ていこうとしている人の列。なるほど、とうなずく。

「ここは、中立地帯として戦争になってもどちらの国にも属しません。もちろん、街の中で戦争をしようものなら、その辺にいる傭兵たちが黙ってはいません。この街では、住民が強いのです。傭兵の街、とも言われていますが、その分ブレーンも育っていて一筋縄ではいかない、という有名な街でもあります。この街の住民であれば、帝国だろうが王国だろうが自由に出入りしていますが」

 へぇ、とキョロキョロ辺りを見回してしまう。
 これほどあっさりと帝国の中に入れたのに、帝国の入り口には、さして亜人や獣人、妖精種族などはいなかった。
 ちょっぴりしょんぼりとするが、帝国に入ったからなのだろうか?何か、肌がピリピリするような気がする。
 ちょっとだけ寒気もして、腕をさすり、寒さに震えた。

「どうかしたんですか?」
「い、いや……ちょっと、だけ、寒いな、て、思った、だけ」
「そう、ですか?今日は早めに宿に入りましょうか」

 帝国と王国、同じ街なのに、どうして?と寒さを自覚すればするほど、寒くなってきたようで。
 リオンは、フラムドと俺をその場に残して宿を取りに行ってしまった。

「大丈夫か?なんか、羽織るものでもいるか?」
「い、いや、大丈夫……」

 本格的に寒そうな俺に気がついたのだろう。フラムドが、聞いてきたけれど、多分大丈夫だろうと、断る。
 そもそも、羽織るものなら自分も持っているが、街中で出すようなものではない。
 フラムドが言ったものがどういうものなのかは分からないけれど。

「宿が取れました早く行きましょう」

 リオンのとってきた宿に早々に向かう。
 ラジエラの宿と同じく、ランクが高い宿だ。宿代は間に合うだろうか?と少し不安になる。
 この街では換金できていない。お金が手に入らないのであれば、どうにもできない。
 二人ならば、そんなことは心配する必要ないと言いそうだが、どうしようか、と心配になるのは当たり前の話だろう。

「しっかし、帝国に入ってから寒くなったとか言い出したよな?魔王城が近くなったからか?」
「ま、魔王、城?」
「そうだ。昔、つっても前世だろうが、暮らしていた城がある」
「今は、誰も入る事ができない廃墟のようになっているがな」

 誰も入る事ができない?と首を傾げて見せれば、お前が魔法をかけたんだろうが、と言われる。
 
「お前が、っていうか原初の魔王が魔法をかけて出てそのまんま。誰もあの中に入れないから、廃墟だとも言われてんぞ」
「お、俺にい、われて、も」

 自分のせいと言われるのは、納得がいかない。そもそも、原初の魔王だ何だと、オビトはオビトでしかないのに。
 まぁまぁ、とリオンが間に入る。
 フラムドをリオンが睨むと、あーはいはい、とお手上げをして悪かったという。
 彼らが何を思っているのかは分からないが、少し不快だった。

「とりあえず、この街に長居は無用です。明日、買い出しをしてから明後日にでも出立しましょう」
「そうだな」

 フラムドとリオンの会話に、割って入るわけではないけれど、この街は通るだけだと言っていたし、そんなものなのだろう。
 リオンがとった宿は、どうやら皆んな一緒の部屋らしく、少し息が詰まりそうだとも思うが仕方がない。
 ベッドの上に横になれば、ほっと息が漏れる。
 ふと、ベッド側にある窓が気になった。なんの、変哲もない窓だが、呼ばれているようにその窓から外を見下ろす。

「ぁ……っ」

 目を見開いて、窓から見下ろしたそこに立つ人を見つめた。
 見た目は、騎士風。だが、騎士とは何となく違うような気がする。
 見覚えなんて無いのに、見覚えのある人。
 勇者だ、そう思った。
 一瞬だけ、見えたその人は、建物の影に隠れて見えなくなってしまう。
 今から、降りていけば会えるだろうか?
 居てもたっても居られず、慌てて降りていくと、リオンとフラムドは驚いたように付いてくる。
 宿の外に出て、辺りを見回してみるも、もう、その人は居なくて。
 不思議と、何故か目から涙が溢れる。

「どうしたんだ、いきなり」
「勇者……っ」

 腕を掴まれ、振り返らされると、涙を流していることに驚いたフラムドの顔が見える。
 リオンも、一体、と驚いた様子だ。訳がわからない。
 けれど、とても寂しい気持ちになった。
 彼は勇者のはずなのに。どうして、ここに居ないのか。
 この宿の近くに来たのは、会いに来てくれたのでは無いのか。
 寂しい……。
 フラムドとリオンが何か言っているが、脳が理解を示さない。
 とぼとぼと部屋に戻り、ベッドに伏した。それほどショックだった。見向きもされないということが。
 何に期待していたわけでも無いのに、それなのに。
 着替えるのも億劫になり、枕に顔を埋める。

「ねぇちゃん……」

 ねぇちゃん、教えてくれ。
 ねぇちゃん、俺、どうしたら良いかな?
 どうしたら……。
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