君が望んだ終焉の果てに

屑籠

文字の大きさ
上 下
25 / 47
ラジエラ編

10

しおりを挟む
side ???

「スパンが短すぎるとは思わないか?」

 オビトが倒れてから、パチッと目を覚ました彼はぼんやりとした目でそう言った。
 フラムドが呆れたように言いながら、手を差し出す。

「そりゃ、前の迷宮から四日しかたってねぇからな」

 はぁ、とため息を吐き、フラムドの手を握りながら起き上がると、よぅ、と炎王に向かって手をあげて挨拶をする。
 すると、炎王はむ?と少し驚いたような顔をして、おぉっ!と言った声を出した。

『おぉっ!久しぶりではないか!!元気であったか!?』

 オビト?がオビトでは無いことに気が付いたのだろう。
 懐かしそうな相手にする声色になる。
 そもそも、気が付いていたようで全く気が付いていなかったのだろう。

「ウルセェ……元気だよ。お前には負けるけどなっ!」

 はっはっはっ、と快活に笑う炎王に、辟易とした顔をするオビト?は、はぁ、と再びため息を吐く。
 炎王、というだけあって元気がいい。
 燃えるように赤い髪、赤い刀身の大剣。全てが、彼を炎王足らしめている。

「何で思念体の癖に、こんなに元気なんだ……」

 西王もそうだったが、なぜ勇者というのは思念体になってまで濃ゆい連中ばかりなんだ、と内心で思う。

『思念体だからこそ、だなっ!!疲れを知らんっ!!』
「人選ミスったかもしれないな……」

 人柱に、人選などあるのだろうか?と少し疑問に思うが。
 はっはっはっ!!と笑っていた彼は、さて、と珍しく真剣な声を出す。
 それには、リオンもフラムドも驚いていた。だが、オビトだけは彼がこんな人物だと知っている。
 元々は、王と言われるだけあって、真面目な人物だ。

『他の魔王候補達が動いておるのは、知っておるか?』
「……大体な。俺の血が齎す範囲だけだが」

 自分の、原初の血が齎す情報は、全て彼の中に入って来ている。
 うむ、と言った感じに炎王は両腕を組んだままうなずく。
 魔王候補、というのは正確にはまだ魔王ではない。けれど、その魂が前世魔王だったり、原初の魔王の血が濃すぎるが故に魔王となりうるものの総称だ。

『そうか……魔王達の中には、他の候補を排除しようとしている動きを見せているもの達がいる。気をつけよ』
「知ってる……こいつの村を襲ったのも、魔王候補の手下達だ」

 オビトを狙ったのか、それとも姉を狙ったのか。それははっきりと分からないけれど。
 それを、知っているがオビトに知らせるつもりはない。
 そもそも、やったと知っていても、その魔王候補が誰かもわからない。
 オビトが復習を望んでいるのかさえ、彼にはわからない。
 村に関してのオビトの心情は、複雑なものだった。
 オビト?が感じ取れないほど。

『ならばよし。だが……魔王候補たちに好き勝手させておいて良いものか』
「いい。そもそも、こいつは魔王候補なんかじゃねぇよ……俺、そのものだ」

 オビト?の言葉に、炎王は少し驚いていた。
 ふはっ、とそんな炎王の顔に、珍しいものを見たと笑う。

「アンタそのものって……どう言うことだ?」
「ん?あぁ、そうだな……俺の望んだ姿、といえば良いのか?俺の魂が入ってるって話はしただろう?」

 リオンとフラムドがうなずく。
 話をした、と言っても一方的に話して脅していた、と言ったほうが正しいのかもしれないが。
 だが、オビトを排除するように要請しようとしたフィンリルを怒ったのは記憶に新しい。

「俺が望んで、転生した姿がオビトだ。だが……この迷宮に潜り、俺が現れた事からもわかるだろう?」
「……彼が、消えるかもしれない、と?いずれ、貴方が彼を乗っ取る可能性がある、と」
「そうだ……俺はそんなこと、望んじゃいないのに、な……だが、オビト惹かれてしまう。無意識に、俺の魔力に。自分の願いを叶える、勇者に。それは誰にも止められはしない」
「そうして、求める末に、彼は貴方に飲み込まれる……」

 そうだ、とオビト?は悲しそうに笑う。
 オビトを本当に大切に思っているからこそ、だろうとは思うけれど。

『彼の望みがそうならば、仕方あるまい』
「仕方ない、で終わらせたくはないんだけどな……そろそろ、行くわ」

 話は終いだとオビト?は炎王に背を向けて歩き出す。
 その姿を見送る炎王は、困ったものだと笑った。
 フラムドたちは、炎王にペコリと頭を下げてからオビトを追いかける。
 そんな姿を、眩しそうに炎王は見つめていた。

『主の望みは高みが過ぎよう……』

 全く仕方のない人だと、まるで姿からは想像もできない年寄りのように笑う。
 そうして、炎王はそっと息を吐く。

『……魔王の望みはいつだって変わらぬ。いつだって、な。望みすぎるのは、人のみよ』

 愚かよの、と笑う声が響きながら、迷宮の最下層は暗闇に閉じられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

処理中です...