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ラジエラ編
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「ん……っ、お前も久しいなフィンリル」
気を失ってからすぐに目を覚ましたオビト。
だが、それはやはりオビトであって、オビトではない。
ドアップに視界を埋める犬の顔に、お前か、と息を吐く。
立ち上がったオビト?は、ぱんぱんっ、と体の埃を払う。
『主人様もお変わりなく』
何言ってんだ?とオビト?の顔が歪む。
「変わっただろ、どう見ても」
『中身は変わっておりません』
そうか?とオビトの体を見て言うが、フィンリルは尻尾を振って喜んでいる。
魂の話をしているのだろうが、オビト?はあまりわかっていないみたいだ。
「それにしても……お仕置きがどうやら効いたみたいだな?」
ニヤニヤ、と笑い、オビト?が二人を見れば、二人は顔を背け、苦い顔をする。
どうやら、フラムドとリオンの二人に、オビト?からオビトが意識のない一日で、何かあったみたいだ。
ふっ、と笑いながらフィンリルの毛を撫でた。フィンリルは気持ちよさそうに目を細めた。
「正直、今でも信じらんねぇわ」
「同感です」
後ろで辟易とした顔をしている二人は、はぁ、とため息を吐いている。
『我が生まれ変わりながら、情けない事だな』
「アンタの生まれ変わりじゃねぇわ!!」
フラムドが、あー、と頭を抱える。
フラムドとフィンリルは少し似ていた。狼系の魔獣と獣人だからだろうか?
「そうだよなぁ、孫」
「アンタの孫でもねぇってのっ!」
大変楽しそうにオビト?は、はっはっはっ!!とわらう。
フラムドは、普段のオビトと比べ、この変わりようにため息を吐く。
「まぁ、そう大差ないだろ?」
「有るわっ!」
これで、主人が怒ろうものなら、フィンリルは容赦無くフラムドを半殺しにしていただろう。
忠誠心の厚い臣下である。前世、での話だが。
『ところで、主人様』
「ん~?」
『貴方様の願いは、叶いそうですか?』
真剣な顔をしたフィンリルが顔を覗き込んでくる。
そんな視線から逃れるように、くるりと体を反転させ、さぁ?と肩をすくめた。
「今を生きてるのは俺じゃねぇし、俺の願いとこいつの願いが同じなんて訳はねぇの。わかるだろう?」
『何故、人格をそのままにされておくのです?貴方なら』
「それ以上言ったら怒るぜ?」
きらり、と普段は青いオビトの瞳が魔の物を象徴するように赤く光る。それは、人を、生物を、従わせる力を持っていた。
圧倒的、力量差による、恐怖。それが、全身を支配する。
フィンリルは、言葉を詰まらせ彼を凝視した。
「……ふふっ、こいつ、可愛いだろう?」
にこにこと笑いながら、両腕を広げ見せびらかすようにクルクルと回ってみせる。
だが、その動作は優しく傷つけまいとしているのが分かり、どうして?とフィンリルは余計に分からなくなった。
「やっと出来た、俺の子供みたいなこの子を、俺が殺せると思うのか?」
望んで、望んでようやく手に入れた存在を、オビト?は殺せない。
可愛くて、可愛くて仕方がないのだから。
『し、しかし……』
「俺の、魂だけれど、受け継いだ、たった一人の、俺の子供だ。この子の願いを叶えるのが今の俺の願いであり、幸福だ……それを、邪魔するなよ?」
怒りに触れた、とフィンリルは体を硬くするが、そんな様子を気にも止めず、彼はフィンリルの体をぽんぽんと撫でて迷宮を出て行こうと扉に向かう。
もう、この迷宮に用事はないし、早くオビトの体を休ませてやりたいと思うのだから、その行動は仕方がない。
ハッとしたフラムドたちは、慌てて彼を追いかけた。
『フラムドっ!!』
部屋を出ていく手前、フィンリルがフラムドを呼び止める。
顔は見せないが、声はビリビリと響き渡った。
ふっと振り返ったフラムドに、一言だけかけられる。
『あの方を、お守りしろ』
出来るなら、自分が着いていって守りたい。そう、ひしひしと感じた。
だが、思念体であり、迷宮の主人となっている今のフィンリルではそれが叶わないから、魂の同族であるフラムドにそれを託す。
「……言われなくても」
どれだけ悪態を吐こうが、フラムドの魂の主人だ。
裏切りなど、しない。
傷つける訳がない。
そう、言ってフラムドは駆け足で彼らを追いかけた。
『主人様……その夢が、どうか覚めぬように……』
ふっと、誰もいなくなった最下層は、暗闇に飲まれてしまった。
「ん……っ、お前も久しいなフィンリル」
気を失ってからすぐに目を覚ましたオビト。
だが、それはやはりオビトであって、オビトではない。
ドアップに視界を埋める犬の顔に、お前か、と息を吐く。
立ち上がったオビト?は、ぱんぱんっ、と体の埃を払う。
『主人様もお変わりなく』
何言ってんだ?とオビト?の顔が歪む。
「変わっただろ、どう見ても」
『中身は変わっておりません』
そうか?とオビトの体を見て言うが、フィンリルは尻尾を振って喜んでいる。
魂の話をしているのだろうが、オビト?はあまりわかっていないみたいだ。
「それにしても……お仕置きがどうやら効いたみたいだな?」
ニヤニヤ、と笑い、オビト?が二人を見れば、二人は顔を背け、苦い顔をする。
どうやら、フラムドとリオンの二人に、オビト?からオビトが意識のない一日で、何かあったみたいだ。
ふっ、と笑いながらフィンリルの毛を撫でた。フィンリルは気持ちよさそうに目を細めた。
「正直、今でも信じらんねぇわ」
「同感です」
後ろで辟易とした顔をしている二人は、はぁ、とため息を吐いている。
『我が生まれ変わりながら、情けない事だな』
「アンタの生まれ変わりじゃねぇわ!!」
フラムドが、あー、と頭を抱える。
フラムドとフィンリルは少し似ていた。狼系の魔獣と獣人だからだろうか?
「そうだよなぁ、孫」
「アンタの孫でもねぇってのっ!」
大変楽しそうにオビト?は、はっはっはっ!!とわらう。
フラムドは、普段のオビトと比べ、この変わりようにため息を吐く。
「まぁ、そう大差ないだろ?」
「有るわっ!」
これで、主人が怒ろうものなら、フィンリルは容赦無くフラムドを半殺しにしていただろう。
忠誠心の厚い臣下である。前世、での話だが。
『ところで、主人様』
「ん~?」
『貴方様の願いは、叶いそうですか?』
真剣な顔をしたフィンリルが顔を覗き込んでくる。
そんな視線から逃れるように、くるりと体を反転させ、さぁ?と肩をすくめた。
「今を生きてるのは俺じゃねぇし、俺の願いとこいつの願いが同じなんて訳はねぇの。わかるだろう?」
『何故、人格をそのままにされておくのです?貴方なら』
「それ以上言ったら怒るぜ?」
きらり、と普段は青いオビトの瞳が魔の物を象徴するように赤く光る。それは、人を、生物を、従わせる力を持っていた。
圧倒的、力量差による、恐怖。それが、全身を支配する。
フィンリルは、言葉を詰まらせ彼を凝視した。
「……ふふっ、こいつ、可愛いだろう?」
にこにこと笑いながら、両腕を広げ見せびらかすようにクルクルと回ってみせる。
だが、その動作は優しく傷つけまいとしているのが分かり、どうして?とフィンリルは余計に分からなくなった。
「やっと出来た、俺の子供みたいなこの子を、俺が殺せると思うのか?」
望んで、望んでようやく手に入れた存在を、オビト?は殺せない。
可愛くて、可愛くて仕方がないのだから。
『し、しかし……』
「俺の、魂だけれど、受け継いだ、たった一人の、俺の子供だ。この子の願いを叶えるのが今の俺の願いであり、幸福だ……それを、邪魔するなよ?」
怒りに触れた、とフィンリルは体を硬くするが、そんな様子を気にも止めず、彼はフィンリルの体をぽんぽんと撫でて迷宮を出て行こうと扉に向かう。
もう、この迷宮に用事はないし、早くオビトの体を休ませてやりたいと思うのだから、その行動は仕方がない。
ハッとしたフラムドたちは、慌てて彼を追いかけた。
『フラムドっ!!』
部屋を出ていく手前、フィンリルがフラムドを呼び止める。
顔は見せないが、声はビリビリと響き渡った。
ふっと振り返ったフラムドに、一言だけかけられる。
『あの方を、お守りしろ』
出来るなら、自分が着いていって守りたい。そう、ひしひしと感じた。
だが、思念体であり、迷宮の主人となっている今のフィンリルではそれが叶わないから、魂の同族であるフラムドにそれを託す。
「……言われなくても」
どれだけ悪態を吐こうが、フラムドの魂の主人だ。
裏切りなど、しない。
傷つける訳がない。
そう、言ってフラムドは駆け足で彼らを追いかけた。
『主人様……その夢が、どうか覚めぬように……』
ふっと、誰もいなくなった最下層は、暗闇に飲まれてしまった。
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