君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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ラジエラ編

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「す、すごい……」

 ぎゅうぎゅうに詰められる荷物みたいに思えて、少し気分が悪くなる。
 そもそも、他人とこんなに近くに居ることが初めてだったので、どうしていいのかわからず、戸惑う。
 ひどく戸惑っていることが分かったのか、ホロに背中を付け、フラムドとリオンが周りを固めてくれた。

「乗合が苦手なら先に言ってくださいよ」

 全く、と困ったようなものを見るめでリオンはいう。
 こういう乗り物には乗ったことがないから、分からない。

「に、苦手……なの、かな?」
「自分の事でしょうが……まさか、今まで乗ったことない、とか言わないですよね?」

 普通はあるものなのだろうか?と少し戸惑う。

「な、ない、けど……ば、馬車も、馬も、ない、よ?」
「どんな田舎に居たんですか、あなた……」

 はぁ、とリオンがため息を吐いた。噂に聞く、エルフの里よりは都会だと思いたい。
 いや、しかし普段森で暮らしているオビトと、森のエルフの生活はあまり変わらないのではないか?とも思うぐらいだが。

「お前、どうやってこの街に来たんだ?」
「え、えっと、徒歩、で?」

 徒歩!?と驚かれてしまったが、そんなに驚くことだろうか?
 それなりに時間と労力はかかるだろうが、徒歩だとて問題はないだろう。
 流石に、大きな街の間を移動すると距離はかなり有るけれど。

「おまっ、オマエどっから歩いて来たんだ!?」
「え、えっと、グレハス、から?」
「まじかよ……途中の村に寄ったりは」
「し、してない……」

 ちょっと、化け物を見るような目で見られて落ち込む。
 そんな、常識外れなことをしていただろうか?だって、グレハスの誰も歩いていくことに疑問を呈したりしなかったし。

「はぁー、よく生きてこられたなお前」
「べ、別に普通……あ、でも、途中で寄った、霧の迷宮?は、ちょっと、気持ち、悪、かった」

 霧の迷宮は求めていた迷宮ではなかったものの、最後まで行くのは案外楽だった。
 けれど、そこのボスが問題だったのだ。

「気持ち悪い?あの迷宮が?」
「お前、どこまで進んだんだよ?俺たちなんて、面倒になって途中から帰って来たからな……」
「え、えっと、最後、まで?迷宮の主人が、大きな、蛞蝓、で……」

 リオンとフラムドは、俺の話にうぇっ、と顔をしかめる。
 まるまると太った蛞蝓は、そこらへんを粘液の海にしていた。
 話を聞いていたのだろう、他の冒険者たちもうぇっ、と顔をしかめている。
 
「き、切るのも、嫌、で、魔法で、燃やした……そ、そしたら、上から、大量の、小さい蛞蝓と、蛭が、落ちて、来て」

 大変だった、と話せばもういい、と言われてしまった。
 ボスの部屋のトラップに、辟易しているが、あの迷宮のトラップは素晴らしいとオビトは考えている。
 霧の中のトラップなど、見つける側もしなんの技だろうし、起動させたとして、どこから何がくるのか、分からない。
 普段のトラップが、数段危なく感じるほど。

「あの迷宮には二度といかねぇ」
「同感です。たとえ依頼だったとしても、行きたくありません」

 二人の言葉に、うんうん、と他の冒険者もうなずいていた。
 ボスの部屋を除けば楽しい迷宮だったのだが……。それでも、オビトの中の人の評価は変わらず、つまんねぇ迷宮だった。

「さて、降りますよ」

 数個、道すがら迷宮に立ち寄って乗客を降ろしていく。
 中には乗り込んでくる客もいるから、あまり中の数は変わらないのだけれど。
 そうこうしている間に、目的の魔王の迷宮の方へついたので、フラムドたちと降りる。
 この迷宮で降りるのは、自分たち以外に居ないようで、馬車は待ち人も居ないし、でさっさと次の迷宮の場所へ向かってしまう。
 鏡合わせの迷宮というから、グレハスの迷宮と変わりないのか、と思えばそうでもない。
 魔王の迷宮といえど、主人が違うためか、グレハスの迷宮とはまた違った形だ。

「さて、と。最下層まで行くか」

 一階の魔法陣がある場所まで行くと、そう言って、フラムドは魔法陣を起動させた。
 気がついた時には、最下層の扉の前。どんな魔物がいるかなどは、この迷宮では分からないが、ここではもう雑魚はでない。
 扉の前に立つと、自然と扉が開く。
 中は広い空間になっていて、それだけはあまり変わらないのだと感じる。

「うゎっ、おっきい……」
『懐かしい……あのお方の匂いだ……』

 ワォーっ!と遠吠えの音がこだまする。
 大きな、狼。その狼は、モッフモフの白い毛で覆われていた。

「さ、触っても?」
『主にならば、許そう』

 なんの恐怖も感じず、恐る恐る彼に触ると、柔らかい毛が暖かくて、思わず頬が緩む。
 しばらくそうして、それからそっと名残惜しげに体を離した。

『さて、そなたに試練を与えなければならない』
「し、知ってる」

 狼の目が細く三日月のようになる。
 そうして、ふわり、と目の前に浮き上がった魔石。
 それに手を触れれば、パァン、と魔石は弾けてオビトの中に吸収されていく。
 再び、オビトは意識を手放した。
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