君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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ラジエラ編

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 よく寝た、と起きた時には太陽は真上に来ていた。
 えっ?と二度見したくらい、まぶしい太陽の位置は変わらず真上だ。
 やっちまった、と思わなくはないが彼らなら迎えに来ても良いはずなんだけど、とよく知りもしないくせに思った。
 んん~、と体を伸ばし、ベッドから降りると、バッグに手を伸ばした。
 あれ?と、着替えた私服をバッグに入れようとしたとき、違和感を覚える。

「こんなの、あったっけ?」

 バッグの中から取り出したのは、数日分の食料だ。
 確かに昨日まで無かったはずなんだが……。
 はて?と首をかしげてみるが、まぁ、いいかと口に運ぶ。
 毒が入っているかもしれない、なんて考えない。そもそも、オビトに毒は効かない。
 小さなころから、山に入り浸っているオビトは、時々、山で毒草なども食していたが、倒れたことは一度としてない。
 なぜ?という理由はわからないけれど、オビトに毒は効かない、それだけが真実だった。
 さて、支度も出来たし、行くか、と部屋に鍵をかけて一階に向う。

「おや、おはようございます。オビト様」
「お、おはよう……」

 オビトに少し驚いた顔をしたコンシェルジュは、それでもにこりと笑った。
 オビトが話すと、再び少し驚いたようだったけれど、それでも笑顔は崩れない。

「二日ぶりでございますね」
「えっ?」
「昨日は、お会いできませんでしたので」
「き、昨日……?」

 その反応に、え?と驚くオビト。
 どうやら、思っていたより長い時間眠っていたらしい。
 えぇー、と内心自分の寝汚さにびっくりする。

「あ、あの……えっと、ふ、らむど?と、りおん?、は……?」
「あのお二人ならば、今日は気晴らしにどこかの迷宮に潜ってくるとのことでした。言伝があるのでしたら、伺いましょうか?」

 なる程、言伝か、と少し考え頼むことにした。
 明日もすれ違いになれば、ちょっと面倒くさい。
 それに、昨日何があったのか、知りたい。

「あ、いや……え、と……明日、待ってるって、伝えて」
「かしこまりました。お伝えしておきますね」
「お、お願い……」

 いってきます、と声をかけて鍵を渡してから宿屋の外に出た。
 マジックバッグの中に、必要なものは入っていたけれど、買い物に行く必要はあるだろう。あと、ギルドに行ってお金をおろしてこなければ。
 まずはギルドだと、足を動かす。あの日の喧騒が嘘のようにギルドの中も外も空いていて、ほっと息を吐く。
 あの二人は、迷宮に潜っているのだと思い出す。
 ずっと、迷宮に潜っていてくれれば、楽なのに、と思わなくはない。

「あ、あのっ」
「あぁ、オビトさんですねっ!先日の素材と、依頼達成分のお支払い明細です」
「あ、ありがと……そ、その、貯金を、下ろし、たくて……」
「かしこまりましたー!こちらの用紙にご記入ください」

 その用紙は、名前と下ろす金額を書く欄があるだけの簡易なものだが、ちょっとした魔法紙になっているようだ。
 そのぐらいの紙であれば、初級の魔術師が作れるレベルの。
 必要な項目を埋め、受付の人に手渡すと少々お待ちくださいと言われた。

「はい、こちらでお間違いないでしょうか?」
「は、はい……」

 あの日、グレハスの受付の人にも呆れられたが、同じように数えもせずにマジックバッグの中に突っ込む。
 驚いた顔をした受付の人は、戸惑ったように、その、大丈夫ですか?とオビトに尋ねる。

「だ、だいじょうぶ?って、何が……?」
「その、私が枚数を間違えていたりしたら、どうするんですか?」
「だ、大丈夫、だと、おもう、よ?」

 普段、森の中で生活している分、金銭にあまり関心がないオビト。
 村ではない街の中で生活するのであれば、いずれは必要になるスキルなのだろうが、今のオビトには全くと言っていいほど育たないスキルでもある。

「……何というか、平和な方ですね~」

 うん??と首をかしげてしまったが、受付の人には、またどうぞ~!!と元気よく送り出されてしまった。
 戻るに戻れない。
 とりあえず買い物だ、と昨日欲しかった石鹸を買いに、雑貨屋を目指す。
 雑貨屋、と言ってもピンからキリまで店が並んでいるので、どの店が良いのか、わからない。
 暫く迷い、武骨な感じのTHEシンプル!なお店に立ち寄った。
 いらっしゃい、と低くそれでも通るような声が静かに店の中に消えていく。
 居心地がいいかもしれない、と変に意気込んでいた息を吐いた。
 恐る恐るといった感じで店の中を移動し、目当ての石鹸やその他日用品を買いあさる。
 地味な見た目の店だが、意外といろいろなものがそろっていた。とても重宝するし、何よりほかの店に行かなくても良いっていうのがありがたいぐらいだ。

「あ、あのっ」
「ん、何だ坊主。会計か?」

 その言葉にうなずくと、抱えていた商品をカウンターに置いた。
 少し待ってろと言われてその品物を確認しながら、会計していく。
 会計が終わって、品物をバッグに入れていると、ふむ?とお店の人が顎に手を当てて、そのバッグを見た。
 このバッグは、村長のバッグだが、何か……?

「珍しいな。マジックバッグを二つも持ち歩いてるなんて。容量の大きなバッグに変えないのか?」
「え、えっと、これ、形見、だから……」
「そうか……、何か悪い事聞いちまったな。すまない」

 ぶんぶん、と首を振ると、ぺこりと頭を下げて店を出た。
 ほうっ、と息を吐きまた緊張した面持ちで街の中を歩きだす。
 少し街を見て回ろうと思い、来た道とは別の道から帰ろうと足を進めた。
 大きな街だからか、華やかな表の道とは裏腹に、裏路地にはちらほらとがりがりにやせ細った人が倒れていたりする。
 貧富の差、というのは埋められないものだろう。
 それに、この街はグレハスよりもそういう人が多い気がする。隣国が近いからだろうか?
 戦争になれば、被害を受けるのは一般的な民だ。
 一つ間違えば、オビトも彼らと同じようになっていたのかもしれないと考えると少し、ぞっとする。
 人が生きるというのは大変なことだな、としみじみ思っているもう一人の自分がいた。
 だからと言って、彼らに手を差し伸べられるほど、オビトは人が出来ていない。それに今、一時的に施したところで、彼らは何も変わりはしないだろう。
 この街の現状を変えるのは、ぽっと出のオビトではないし、オビトにはただただ見ていることしかできない問題だ。
 ふと、オビトは教会に目を向ける。
 教会は、少し懐かしい気がして、足を踏み入れた。
 もちろん、村にあった教会とは規模が違いすぎるから、圧倒されてしまうけれど、中心に立つ、神の像は変わらず、優しい笑みを讃えていた。
 教会にお布施を払い、適当な場所の椅子に座り、ステンドグラスに目を奪われながら、目を閉じた。
 敬虔な信者ではないけれど、神に祈ったところで、何も望みは叶いはしないけれど、生きてることに感謝を。それだけでよかった。
 できるなら、姉と共に生きたかったけれど。
 どうか、安らかにと願う事しかできない。
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