君が望んだ終焉の果てに

屑籠

文字の大きさ
上 下
18 / 47
ラジエラ編

しおりを挟む
「あ……、宿っ」

 あの二人に付き合っていたらすっかり忘れていた。
 今晩の宿はどうするべきか。
 宿屋から出ようとして、真っ暗闇の空を見上げる。そこでは星が瞬いていた。
 最悪だ……。

「お困りでしょうか?」

 この宿は少しお高めの宿なのだろう、しっかりとしたコンシェルジュがいる。
 そのコンシェルジュが、空を見上げ呆然と立ち尽くすオビトへと声をかけた。

「あ、えっと……その、宿屋を、決めて、無くて……」
「なる程でございます。ちなみに、今お手持ちはどのぐらいでしょうか?」
「え?え、えっと、金貨壱枚と、銀貨が十数枚?」

 銀貨も下ろしておくべきだったと今更ながらに反省する。
 コンシェルジュは、にっこりと笑って頷く。

「何泊ぐらいをご予定でしょうか?」
「え、えっと……ま、まずは五日?」
「かしこまりました。では、当宿はいかがでしょうか?最安値のお部屋でお一人様、五日間で金貨壱枚でお受けいたします」
「え、でも……っ」

 きっと、一番安い部屋でも金貨壱枚だと一泊ぐらいしかできないだろう。
 それなのに、五日もよいのか?という不安が残る。

「ただし、お食事をお付けできません」
「そ、それは、だいじょう、ぶ……いいの?」
「かしこまりました。大丈夫でございます……さぁ、お部屋にご案内させていただきますね」

 人のよさそうな、灰色の髪でモノクルをかけたおじ様。
 とりあえず、オビトは宿が決まったことに安堵した。ただし、あの二人と一緒の宿というのは少しどころか不安しかないが。

「当宿は全室に浴室がございます。そちらはご自由にお使いいただいて構いません。汚れ物がございましたら、別途料金は発生いたしますが、こちらで処理させていただきます。それから……」

 と軽く宿屋の説明をされ、部屋に着くと彼から鍵を渡された。
 一人部屋だというが、なかなかに広い。
 広く、使い勝手が良さそうな部屋だ。オビトが気に入ったことを見て感じたのか、ごゆっくりと言って彼は去っていく。
 一人、部屋に残されたオビトは流石に疲れていたが、それよりも温かい湯船に漬かりたかった。
 湯船にお湯を張りながら、装備を脱いでいつものマジックバッグにしまう。
 着替えを取り出しながら、あぁ、と思い出す。洗濯用の洗剤がもう底をついてしまうことを。
 浄化の魔法を使えるとは言え、何となく手洗いしたくなるのはなぜだろうか?
 幸い、自由に浴室が使えるのならば、いっそ洗ってしまうのもありだろう。
 旅の途中で洗っていたとはいえ、温かくきれいな水で洗えるならそのほうが良い。

「はぁ……」

 湯船に漬かると、自然と息が出た。
 ここに来る道中、特出して大変なことなんかはなかったけれど、森の中はやはり自由だと感じてはしゃぎすぎてしまったのか。
 それとも、やはり人の多いところだと疲れてしまうのか。
 ぼんやりと天井を見上げながら、思う。

「原初の魔王って何だ?原初って……最初?でも、最初の魔王だからって何だって言うんだろ?そもそも、魔王って何だ……?」

 一番最初の魔王だから、特別?何て誰にも分らないじゃないか。
 そう思っていると、もう一人の自分がはははっ、と笑うきがした。
 そう言えば、彼らが言っていた鏡合わせの迷宮とは、あのグレハスにも有ったそっくりな二つの迷宮の事だろうか?
 では、そこに行けば何かわかるかもしれない。

「姉さん……これであってるのかな?間違えてないかな、俺……」

 はぁ、と息を吐きだすと、風呂から上がった。
 ざっくりと体を乾かし、私服を着てベッドの上に横になる。
 夜だというのに、寒くはない。どこからか、暖房が入っているのか。
 流石は高い宿だと思う。
 そう言えば、何故あれだけ沢山あった宿屋がすべて満室なのだろうか?
 この街では何かあるのか?あの二人がこの街に来たから、という理由だったら、もういっその事街の外で暮らしてギルドにだけ寄る生活をしようかとも迷うけれど。

「……明日、どうしよう」

 逃げられないってわかってはいるけれど、忘れていたいとも思う。
 それに、食料も調達しなければならない。
 この宿では料理が出ないから、何とかしなければ。
 まだ、バッグに少しだけ携帯食が入っていたはずだけれど、それもすぐになくなってしまうだろう。

「買い出し、行かなきゃ……な」

 そんなことを考えていると、だんだんと眠たくなってきた。
 森にいるときは、いつも半分寝ているような状態で夜を過ごしたり、木の上の安全な場所で夜を過ごしたりしたけれど。
 やはり、こうしてふかふかのベッドに横になると、どっと、疲れていたことを自覚するのか。
 そう言えば、グレハスの料理屋の店員は、オビトの顔色を気にしていた。寝不足だったのだろう。自覚はなかったとはいえ。

『無理しすぎなんだよ……』

 また、誰かに頭を撫でられた気がする。でも、きっと姉ではない。だって、その手は柔らかくはないから。
 ただ、温かかった。知らないぬくもりじゃない。けど、顔を思い出すことはできない。
 彼はさっさと寝ろと笑う。その声は、優しく柔らかいものだ。
 姉とはまた、違った安心感が、オビトの意識を落とす。

『おやすみ、よい夢を』

 そうして、オビトは穏やかに眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

処理中です...