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ラジエラ編
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「あ……、宿っ」
あの二人に付き合っていたらすっかり忘れていた。
今晩の宿はどうするべきか。
宿屋から出ようとして、真っ暗闇の空を見上げる。そこでは星が瞬いていた。
最悪だ……。
「お困りでしょうか?」
この宿は少しお高めの宿なのだろう、しっかりとしたコンシェルジュがいる。
そのコンシェルジュが、空を見上げ呆然と立ち尽くすオビトへと声をかけた。
「あ、えっと……その、宿屋を、決めて、無くて……」
「なる程でございます。ちなみに、今お手持ちはどのぐらいでしょうか?」
「え?え、えっと、金貨壱枚と、銀貨が十数枚?」
銀貨も下ろしておくべきだったと今更ながらに反省する。
コンシェルジュは、にっこりと笑って頷く。
「何泊ぐらいをご予定でしょうか?」
「え、えっと……ま、まずは五日?」
「かしこまりました。では、当宿はいかがでしょうか?最安値のお部屋でお一人様、五日間で金貨壱枚でお受けいたします」
「え、でも……っ」
きっと、一番安い部屋でも金貨壱枚だと一泊ぐらいしかできないだろう。
それなのに、五日もよいのか?という不安が残る。
「ただし、お食事をお付けできません」
「そ、それは、だいじょう、ぶ……いいの?」
「かしこまりました。大丈夫でございます……さぁ、お部屋にご案内させていただきますね」
人のよさそうな、灰色の髪でモノクルをかけたおじ様。
とりあえず、オビトは宿が決まったことに安堵した。ただし、あの二人と一緒の宿というのは少しどころか不安しかないが。
「当宿は全室に浴室がございます。そちらはご自由にお使いいただいて構いません。汚れ物がございましたら、別途料金は発生いたしますが、こちらで処理させていただきます。それから……」
と軽く宿屋の説明をされ、部屋に着くと彼から鍵を渡された。
一人部屋だというが、なかなかに広い。
広く、使い勝手が良さそうな部屋だ。オビトが気に入ったことを見て感じたのか、ごゆっくりと言って彼は去っていく。
一人、部屋に残されたオビトは流石に疲れていたが、それよりも温かい湯船に漬かりたかった。
湯船にお湯を張りながら、装備を脱いでいつものマジックバッグにしまう。
着替えを取り出しながら、あぁ、と思い出す。洗濯用の洗剤がもう底をついてしまうことを。
浄化の魔法を使えるとは言え、何となく手洗いしたくなるのはなぜだろうか?
幸い、自由に浴室が使えるのならば、いっそ洗ってしまうのもありだろう。
旅の途中で洗っていたとはいえ、温かくきれいな水で洗えるならそのほうが良い。
「はぁ……」
湯船に漬かると、自然と息が出た。
ここに来る道中、特出して大変なことなんかはなかったけれど、森の中はやはり自由だと感じてはしゃぎすぎてしまったのか。
それとも、やはり人の多いところだと疲れてしまうのか。
ぼんやりと天井を見上げながら、思う。
「原初の魔王って何だ?原初って……最初?でも、最初の魔王だからって何だって言うんだろ?そもそも、魔王って何だ……?」
一番最初の魔王だから、特別?何て誰にも分らないじゃないか。
そう思っていると、もう一人の自分がはははっ、と笑うきがした。
そう言えば、彼らが言っていた鏡合わせの迷宮とは、あのグレハスにも有ったそっくりな二つの迷宮の事だろうか?
では、そこに行けば何かわかるかもしれない。
「姉さん……これであってるのかな?間違えてないかな、俺……」
はぁ、と息を吐きだすと、風呂から上がった。
ざっくりと体を乾かし、私服を着てベッドの上に横になる。
夜だというのに、寒くはない。どこからか、暖房が入っているのか。
流石は高い宿だと思う。
そう言えば、何故あれだけ沢山あった宿屋がすべて満室なのだろうか?
この街では何かあるのか?あの二人がこの街に来たから、という理由だったら、もういっその事街の外で暮らしてギルドにだけ寄る生活をしようかとも迷うけれど。
「……明日、どうしよう」
逃げられないってわかってはいるけれど、忘れていたいとも思う。
それに、食料も調達しなければならない。
この宿では料理が出ないから、何とかしなければ。
まだ、バッグに少しだけ携帯食が入っていたはずだけれど、それもすぐになくなってしまうだろう。
「買い出し、行かなきゃ……な」
そんなことを考えていると、だんだんと眠たくなってきた。
森にいるときは、いつも半分寝ているような状態で夜を過ごしたり、木の上の安全な場所で夜を過ごしたりしたけれど。
やはり、こうしてふかふかのベッドに横になると、どっと、疲れていたことを自覚するのか。
そう言えば、グレハスの料理屋の店員は、オビトの顔色を気にしていた。寝不足だったのだろう。自覚はなかったとはいえ。
『無理しすぎなんだよ……』
また、誰かに頭を撫でられた気がする。でも、きっと姉ではない。だって、その手は柔らかくはないから。
ただ、温かかった。知らないぬくもりじゃない。けど、顔を思い出すことはできない。
彼はさっさと寝ろと笑う。その声は、優しく柔らかいものだ。
姉とはまた、違った安心感が、オビトの意識を落とす。
『おやすみ、よい夢を』
そうして、オビトは穏やかに眠りについた。
あの二人に付き合っていたらすっかり忘れていた。
今晩の宿はどうするべきか。
宿屋から出ようとして、真っ暗闇の空を見上げる。そこでは星が瞬いていた。
最悪だ……。
「お困りでしょうか?」
この宿は少しお高めの宿なのだろう、しっかりとしたコンシェルジュがいる。
そのコンシェルジュが、空を見上げ呆然と立ち尽くすオビトへと声をかけた。
「あ、えっと……その、宿屋を、決めて、無くて……」
「なる程でございます。ちなみに、今お手持ちはどのぐらいでしょうか?」
「え?え、えっと、金貨壱枚と、銀貨が十数枚?」
銀貨も下ろしておくべきだったと今更ながらに反省する。
コンシェルジュは、にっこりと笑って頷く。
「何泊ぐらいをご予定でしょうか?」
「え、えっと……ま、まずは五日?」
「かしこまりました。では、当宿はいかがでしょうか?最安値のお部屋でお一人様、五日間で金貨壱枚でお受けいたします」
「え、でも……っ」
きっと、一番安い部屋でも金貨壱枚だと一泊ぐらいしかできないだろう。
それなのに、五日もよいのか?という不安が残る。
「ただし、お食事をお付けできません」
「そ、それは、だいじょう、ぶ……いいの?」
「かしこまりました。大丈夫でございます……さぁ、お部屋にご案内させていただきますね」
人のよさそうな、灰色の髪でモノクルをかけたおじ様。
とりあえず、オビトは宿が決まったことに安堵した。ただし、あの二人と一緒の宿というのは少しどころか不安しかないが。
「当宿は全室に浴室がございます。そちらはご自由にお使いいただいて構いません。汚れ物がございましたら、別途料金は発生いたしますが、こちらで処理させていただきます。それから……」
と軽く宿屋の説明をされ、部屋に着くと彼から鍵を渡された。
一人部屋だというが、なかなかに広い。
広く、使い勝手が良さそうな部屋だ。オビトが気に入ったことを見て感じたのか、ごゆっくりと言って彼は去っていく。
一人、部屋に残されたオビトは流石に疲れていたが、それよりも温かい湯船に漬かりたかった。
湯船にお湯を張りながら、装備を脱いでいつものマジックバッグにしまう。
着替えを取り出しながら、あぁ、と思い出す。洗濯用の洗剤がもう底をついてしまうことを。
浄化の魔法を使えるとは言え、何となく手洗いしたくなるのはなぜだろうか?
幸い、自由に浴室が使えるのならば、いっそ洗ってしまうのもありだろう。
旅の途中で洗っていたとはいえ、温かくきれいな水で洗えるならそのほうが良い。
「はぁ……」
湯船に漬かると、自然と息が出た。
ここに来る道中、特出して大変なことなんかはなかったけれど、森の中はやはり自由だと感じてはしゃぎすぎてしまったのか。
それとも、やはり人の多いところだと疲れてしまうのか。
ぼんやりと天井を見上げながら、思う。
「原初の魔王って何だ?原初って……最初?でも、最初の魔王だからって何だって言うんだろ?そもそも、魔王って何だ……?」
一番最初の魔王だから、特別?何て誰にも分らないじゃないか。
そう思っていると、もう一人の自分がはははっ、と笑うきがした。
そう言えば、彼らが言っていた鏡合わせの迷宮とは、あのグレハスにも有ったそっくりな二つの迷宮の事だろうか?
では、そこに行けば何かわかるかもしれない。
「姉さん……これであってるのかな?間違えてないかな、俺……」
はぁ、と息を吐きだすと、風呂から上がった。
ざっくりと体を乾かし、私服を着てベッドの上に横になる。
夜だというのに、寒くはない。どこからか、暖房が入っているのか。
流石は高い宿だと思う。
そう言えば、何故あれだけ沢山あった宿屋がすべて満室なのだろうか?
この街では何かあるのか?あの二人がこの街に来たから、という理由だったら、もういっその事街の外で暮らしてギルドにだけ寄る生活をしようかとも迷うけれど。
「……明日、どうしよう」
逃げられないってわかってはいるけれど、忘れていたいとも思う。
それに、食料も調達しなければならない。
この宿では料理が出ないから、何とかしなければ。
まだ、バッグに少しだけ携帯食が入っていたはずだけれど、それもすぐになくなってしまうだろう。
「買い出し、行かなきゃ……な」
そんなことを考えていると、だんだんと眠たくなってきた。
森にいるときは、いつも半分寝ているような状態で夜を過ごしたり、木の上の安全な場所で夜を過ごしたりしたけれど。
やはり、こうしてふかふかのベッドに横になると、どっと、疲れていたことを自覚するのか。
そう言えば、グレハスの料理屋の店員は、オビトの顔色を気にしていた。寝不足だったのだろう。自覚はなかったとはいえ。
『無理しすぎなんだよ……』
また、誰かに頭を撫でられた気がする。でも、きっと姉ではない。だって、その手は柔らかくはないから。
ただ、温かかった。知らないぬくもりじゃない。けど、顔を思い出すことはできない。
彼はさっさと寝ろと笑う。その声は、優しく柔らかいものだ。
姉とはまた、違った安心感が、オビトの意識を落とす。
『おやすみ、よい夢を』
そうして、オビトは穏やかに眠りについた。
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