君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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ラジエラ編

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「これ、上級者向けの掲示板だけど……君、ランク合ってる?」

 びくっ!!と体が跳ねた。
 いつの間にか、後ろに来ていた人物に、まったく気が付かなかった。
 油断していた、というのもあるだろうし、その人物が強いということもあるだろう。

「あっ、あっ……」
「あ、悪い。驚かせちゃった?」

 ははは、と笑う彼は、耳がピコピコと動く、オオカミ系の獣人だった。
 自然なハンターだ。獲物として自分がいないことを願うが。

「お、俺はっ」
「オビトさーん」

 どうやら時間が過ぎていたらしい。
 どうにも離れたくて、カウンターに駆け出す。
 顔立ちが整っていた彼が、騒ぎの中心だったのだろうか?そんな気がする。

「オビトさん、確認が取れましたので、ギルドカードをお返しいたしますね」

 そうして返ってきたカードは、また色が変わっていた。
 赤茶色で、どうやらまたランクが上がったらしい。

「そう言えば、カードの詳細に、霞の迷宮について書いてありましたが、迷宮品などはありませんか?」

 あ、と先ほどの依頼を思い出す。
 そして、容量の大きい方のマジックバッグから、いろいろと素材などを取り出した。

「こ、これが、霞の迷宮、で、宝箱?、に入ってた、やつ」
「なる程、ありがとうございます。査定して……少々お時間を頂きたいので、お支払いは明日以降でも大丈夫でしょうか?」
「え、えっと、ギルドカード?に、入れて、おいて」
「かしこまりました。では明細をご用意しておきますね」
「あ、あの……宿?を、教えて、ほしい」

 受付の人によれば、この街に宿は多いらしい。
 おすすめは、中央に近い場所にある宿だというが、これだけ人が多いと安い宿は埋まっている可能性が高いと。
 受付の人に勧められて、お金を少し下ろした。
 大体、金貨壱枚ぐらい。
 ギルドを出て、中央に足を向けた。
 受付の人におすすめされた宿を見つけるたびに入ってみるが、全部満室だと言われてしまう。
 少し路地に入り、はぁと背を壁に預けながら息を吐く。
 早く休みたいのだが、この分だと本当に安い雑魚寝の宿か、もしくはもっともっと高い宿しか空いて無いだろう。
 宿を見つけなければ、野宿になる。それは避けたい。
 森や山に入っているときは野宿でもいいのだが、街の中で野宿はちょっと遠慮したかった。
 よしっ、と意を決して顔を上げると、心臓が止まるかと思った。

「よっ?さっきは、話の途中で行っちまうんだもんな?」

 きゃあっ!と言った周りの声が聞こえるが、そうじゃない。
 呆然と彼を見上げ、どうしよう、という言葉が頭の中でこだまする。

「こら、フラムド。迫ると可哀そうでしょう?」

 まったく、と言うように顔を出したのは、この獣人と知り合いなのだろう、エルフだった。
 目の前がきらきらしているようで、落ち着かない。

「いや、でもなぁ」
「それに、ここじゃ話しにくいでしょ?」
「それもそうか。じゃあ、宿にでも行くか」

 二人がお互いに言い合っているところで、逃げ出そうとすれば、首根っこを掴まれた。
 お前も行くんだよ、と言われて強制的に連行される。俺、なんかしたかな?
 ぞろぞろと、吸い寄せられるように、街の人たちが付いて来たりしていたが、さすがに宿屋に入ると無くなった。
 たくさんの視線にさらされて、辟易していたところだったから、少しホッとした。

「はー、相変わらず街の中は騒がしいな」
「まったくです」

 そりゃ、あなた達みたいな顔面偏差値がおかしな人たちがいるからだよね、とオビトはちょっと気が遠くなる気がした。
 オビトは部屋に入ってから放られ、椅子に座ったまま、動くこともできない。
 そもそも、少しでも動こうものなら、捕縛されそうだ。俺、何かしたっけ?

「あ、あの……」
「あぁ、まずは自己紹介から。私は、イシリオン・ルミナリス。見た目通りの、エルフです。で、こっちの粗暴な獣人が」
「粗暴っていうなっ!俺は、フラムド・ドローウェル。オオカミ獣人だよ」

 これって、名乗る流れ?と思っていると、イシリオンに、さぁ、と促される。
 名乗らないといけない系、らしい。

「え、えっと……お、オビト・クラッセルン……」

 正直、クラッセルンの家名を名乗っていても良いのか、少し不安になる。
 でも、姉とのつながりも示すものだから、名乗るのを止めたくはないし、捨てたくはない。

「では、オビト。私の事はリオンと呼んでください。この人は、フラムドで良いですよ」
「まぁ、前置きはここまでにして……初めまして、原初の魔王」
「……だ、誰?……え、俺?」

 にらみつけるように言われたけれど、原初の魔王とはいったい……?
 俺の事だと呆れたように二人が息を吐くけれど、俺は記憶を受け継ぎはしたけれど、原初の魔王なんて知らない。
 そのことを伝えれば、二人は顔を合わせ複雑な顔をする。

「まだ、記憶が完全ではないのかもしれませんね」
「まじかよ……完全に早かったわけか」

 あー、くそっ!とフラムドは頭をがりがりと掻いていた。
 しかし、二人はオビトが原初の魔王だと疑っていない。どうしてだろうか?
 はて?と考えていると、こいつは、と言った顔をされた。

「もしかしなくても、俺たちの事も分かってねぇんじゃねぇか?」
「その可能性が高そうですね」

 困ったものです、とリオンは溜息を吐く。
 というか、こんなキラキラした顔の知り合いなんていない。
 出会ったら、絶対に覚えているだろう。

「うーん……ここまで記憶がないとなれば、先に鏡合わせの迷宮にもぐった方が良さそうですね」
「そうだな。ここのだったら、最下層まで行けるしな」
「あの方に会うのも久しぶりですね」

 最下層の住人、迷宮の主だろうか?
 そもそも、あの竜や西王とも彼らは知り合いなのか?
 というか、鏡合わせの迷宮とは?

「お前、まったくわかりませんって顔してるな」
「顔に出やすいようですねぇ……」
「説明するのも面倒くせぇ」
「説明は、迷宮に潜ってからにしましょう」

 それでは、また明日という二人に、はぁ、とため息を吐く。
 さっさとこの街から出たい……。
 出たところで、追いかけられそうな気もするけど。
 そもそも、逃げたら感づかれそう。本当に、俺、何かしたっけ?
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