君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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グレハス編

14 グレハス編 END

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 次の日、最後の朝で、鍛錬をしようとあの広間に行けば、サルジュが待ち構えていた。

「来た、か」

 どこか諦めたような顔をしているが、それでもほんの少しでも希望を持っているようにも感じる。

「……な、なに?」
「オビト、お前は……魔王だろう?」

 びくりっ、と体が跳ねる。
 隠してはいないし、そうであるとも感じていた。
 だって、オビトの中のもう一人の記憶は、魔王の記憶なのだから。

「俺は……俺は、勇者だ。だが……」
「それ以上言うなっ!!」

 気が付けば叫んでいた。
 聞きたくない、と耳をふさぐ。

「お前は俺の勇者じゃないっ!!お前が求めるべきは俺じゃない!!」

 違うっ、違うっ!!と叫び、拒絶する。
 怖かった。それ以上、サルジュの言葉を聞いてしまえば捕らわれてしまう気がして。
 違うのに、抜け出せなくなりそうで。
 怖くて、怖くて仕方がない。

「まっ、き、聞いてくれっ、オビトっ!」 
「俺はっ、俺はお前を求めないっ!!それ以上何も答えるな、喋るな、俺に近づくなっ!!」

 勇者、という存在が何かわからないのに。
 怖い、と思う気持ちだけがどんどん強くなる。
 落ち着け、と自分の中から声がするけれど、恐怖が勝って落ち着くなんてできっこない。
 拒絶反応、それが一番正しいのかもしれない。
 サルジュを一切見ることなく、オビトは走り出し、料理屋の部屋まで戻った。
 はぁ、と息を整え、心臓のあたりを抑える。
 オビトには見えていないが、その顔は真っ蒼になっている。
 落ち着いたころには、昼になっていた。装備を整え、何とか旅支度をし、部屋を出る。

「おい、大丈夫か?」

 降りていけば、心配したような店員の彼が居て話しかけてきた。
 それにどうにか頷けば、無理するなよ、と頭を撫でられる。

「あ、あのっ」

 彼に、朝食を食べ終えた後鍵を手渡す。
 もう行くのか?と心配そうに見てくる彼に、そうだというようにうなずく

「あ、ありがと。ま、また来る、と、思う」
「そこはまた来るねって言っとけよ。まぁ、無理するなよ。ちゃんと食って寝て、生きろよ」

 なぜ生きろと言われるのか。オビトはさっぱりと分からなかった。
 けれど、それを聞けば呆れた顔をされるだけだと口をつぐみ、頷きだけを返す。
 だが、それも店員の彼にはお見通しなのか、呆れた顔をされてしまったけれど。
 料理屋を出て、そう言えばと昨日色々教えてもらっていた時に、絶対ギルドには行けとファニアが言っていたことを思い出す。
 気は進まなかったが、ファニアの助言も無下にできず、溜息を吐いてから冒険者ギルドへと足を運ぶ。

「は?移動する?どこに?」
「ら、ラジエラ?って、街に……」
「いつだ」
「え、えっと、今日、発つ、つもりで……」

 はぁ~、とため息を吐いた受付の人は、がっしがしと頭を掻きむしり、わかったという。
 ギルドカードを出せ、と言われて素直に差し出す。
 ギルドカードを魔道具へと入れ、何をしているのか分からないけれど、少し時間がかかるみたいだ。

「あ、オマエ……こんな時間で大丈夫なわけ?」
「ちょ、ちょっと、朝に……」
「あぁ……」

 察したように、悪い、というファニアにオビトは首を横に振る。

「その……、サルジュのこと、許してやって」
「……お、俺もひどい事、言ったし……」
「でも、元はサルジュが悪いんでしょ?西王にもだめって言われてたのに」

 そうなのか、とファニアを見つめてしまう。
 そんなオビトへ、ファニアは苦笑いで返す。

「俺が、悪いのかな……俺がダメだから、サルジュはほかに惹かれちゃうのかな……」
「ち、違う……だって、魔王には勇者は一人しかいない、し……」
「俺、サルジュの魔王にはなれないのかなぁ……俺だけに向いてほしいのに」

 はぁ、と長くため息を吐いたファニアの頭をよしよしと撫でる。

「ふぁ、ファニアはファニアだ、よ……」

 一瞬、ほんの一瞬だけ、何故かふわりと意識が遠のく。
 ファニアの姿は見えるのに、自分が何を言っているのか分からない。
 分からないけれど、ファニアは驚いて、そして何かを言って笑った。
 意識が戻ってきたときには、じゃあね、とファニアと分かれるところだ。
 ただ、ファニアの顔はすっきりしている。何を言ったのか。
 
「最初は、嫌いだったけど、今はお前も、もう一人のお前も、俺は嫌いじゃないわ」

 そういうと、ギルドを出ていくファニア。
 また、会えるといいな、と笑う。
 オビトの中のも一人の自分も、満足そうな雰囲気を醸し出していた。
 暫くすると、受付の人に呼ばれる。

「時間食って悪かったな。ほら、これで大丈夫だ」
「な、なにが?」
「お前が依頼を受けたくないって言ったんだろうがよ」

 それについての注意事項みたいなのが、魔道具を通せば閲覧できるようになったらしい。
 だからちゃんと、ラジエラに着いたら、ギルドに顔を出すことを約束させられた。忘れないようにしなければ。
 さんざん、ほかの人から聞くような注意などをくどくどと受付の人に受け、またさらに時間が過ぎ去ってしまった。
 また明日にすればいいんじゃないか?と受付の人には言われたけれど、今日出ると決めたのだから、今日、この街を出る。
 その決定に、変更はなかった。
 目的地は、ラジエラ。
 旅が、実りあるように、と祈られながら門をくぐった。
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