君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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グレハス編

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「ファ、ファニアは、優しい、ね」
「は?あ、あぁ……多分、お前にだけだわ……なんか、何となく懐かしい気がして、安心するんだよな……」

 何でだろ?とファニアは首を傾げていたが、オビトもそんなファニアをみて首をかしげた。
 二人して訳がわからない、と思ってはいるが、オビトの中では、ゲラゲラと笑う声が聞こえる気がする。
 もう一人のオビトはもしや、性格が悪いのかもしれない。
 それから、ファニアの行きつけの店に行く。携帯食料なども売っていて助った。

「きょ、今日は、ありがと」
「いんや、なんつうか、アンタと話が出来て安心したわ」
「へ?」
「そういや、あの人が出てた間の事、まったく覚えてないの?」

 あの人?と首をかしげて見せるが、どういう事かさっぱりわからない。
 ふぅん?とオビトの反応を見て、ファニアは首を傾げた。

「あの人は、お前について知ってそうだったけどな」
「そ、そんな、人、が、いた?」
「お前の中にな」

 頭の中の、もう一人の彼の事だろうか?
 自分とは全く違う彼が、自分が倒れていた間に行動していたのだろうか?
 それはそれで怖い気がする。自分が知らない間に、動き回って好き勝手しているのか。
 そいつは心外だ、と中で誰かが怒っている気がする。

「ど、どんな、人?」
「どんなって……言うなれば、お前とは正反対だったな」

 不思議なくらい、とファニアが言う。それほど、変な人だったのか?とちょっと自分自身が恥ずかしくなる。

「似てるところもあって、超絶マイペースだった」
「えっ」
「えっ、てお前、自分で自覚ないのかよ」

 マイペースとは心外だと思った。ただ、周りに合わすことが苦手なだけなのに。
 でも、ちゃんと自然に身をまぎれさせることはできる。出来なきゃ、狩りなんかしてない。
 呆れたようにファニアが見てくるが、腑に落ちない。

「でも、あの西王って人よりは怖くはないな」
「こ、怖いの?」
「あぁ……お前からは感じねぇけど、あの人になら一瞬で殺されそうだ」

 ぶるり、とファニアが震えるが。
 自分が鈍感なだけなのだろうか?と首をかしげる。
 あの西王よりも自分の中のもう一人よりも今は、ここに居ないはずのサルジュが怖い。
 なぜ怖いのか、わからないけど。

「ファ、ファニアにも、恐怖が、あったんだ、ね」
「馬鹿にしてんのかてめぇ」

 そう言う訳ではないのだが、何となくそう思ってしまう。
 ファニアは、どこか怖いもの知らずで、突っ走っていくイメージがあったから。

「まぁ、俺より強い奴なんてあんまり見たことないし、怖いって思ったことなんてほぼほぼ無いのは否定しねぇけどさ」
「ファ、ファニアって、強い?の?」
「……悪意が無いのは分るが、お前って本当になんつーかさ……馬鹿だよなぁ」

 失礼な、と思わなくはないが、否定もできないので、黙っておく。
 誰と比べれば頭が良いのか、頭が悪いのか、そんなこと、オビトには分らないから。
 比較対象がいない、というのは珍しい事なのだろうか?ちょっとだけ気になった。
 オビトより大きい人か、もしくは、小さな子供しか居なかったから。
 オビトが行った時には、オビトと同じくらいの子供、というのはいなかった。
 一緒に勉強しているようで、まったく別の勉強をしていたし。

「俺は、自分で言うのもあれだけど、強い方だと思うよ。でも、上には上がいるし。サルジュは俺より強いし」
「そ、そう、なんだ……」

 ファニアよりもサルジュの方が強い、それを直接聞くと納得してしまう。
 ファニアが弱い、と言っている訳ではなくて、ファニアの認識と現実の齟齬がないことを確認する。
 それは、オビトの主観でしかないけれど。

「そう言えば、アンタは魔王と勇者について何か知ってる?」
「ま、魔王と、勇者?ど、どうして?」
「迷宮の地下で、西王に会っただろ?その時に、もう一人のお前と西王が話してたからな」
「そ、そうなの?……お、俺が、知ってる、のは、もう一人の、俺の、記憶、でしかない、よ?」

 オビトのもう一人の自分の記憶。それが、本当にもう一人の自分の記憶なのかはわからないけれど。
 それに、詳しい事は分らない。彼の記憶は一部しか無いから。
 でも、その僅かな記憶でも、確かなことは一つある。
 魔王の父系である自分たちは、勇者を何らかの理由で探さなければいけないこと。
 自分の勇者以外ではいけないこと。
 分かっているのは、それだけ。
 そう、ファニアに伝えると、ふぅん?とまた首を傾げられた。

「自分の勇者、ね……まるで、助けを待つ物語のお姫様みたいじゃん?」
「……そ、そんなことは、ない、と、思う、うんだけど……」

 正直、どうして自分の勇者じゃないといけないのか、どうして探しているのかは不明だけど。

「でも、わかる……何となくだけど、この人以外は嫌だって、思うよな」

 ファニアは空を見上げ、目を細める。
 寂し気なそんな顔を見て、サルジュの事を考えているのかな?と思う。
 だが、何となくでしかわからないけれど、サルジュは濃く勇者の血を引いているかもしれないが、サルジュが引く血は薄い。
 それこそ、ほぼただ人と言っていいほどに。
 そんな二人が、魔王と勇者だというのだろうか?
 オビトには分らなかった。
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