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グレハス編
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「……ん?」
オビトが目を覚ますと、何故か料理屋の部屋に戻ってきていた。しかも、装備を脱いで私服に着替えてある。
あれ?何で?ととりあえず貴重品を確認したけど、変わりはなかった。
装備も全部あったし、はて?と首をかしげる。
「あー、アンタ起きたのか。体は?」
「え、えっと、平気……あ、あのっ」
「ん?何だ、いつものアンタか」
ふぁ、っと眠そうな店員の彼が気を緩めるのが分かる。
再び、オビトは首をかしげてしまった。
「い、いつもの、俺……?」
「記憶はねぇのか。面倒だな」
そうして作業に戻ってしまう彼はそれ以上、会話をしてくれそうにない。
なぜ、ここに俺が帰ってきてるのか。あの魔石から魔力を取り込んだ時から意識がなくなった。
そういえば、三日寝込んだ前回とは違うみたいだ。もう一人の俺のような記憶もない。
ただ、懐かしい魔力だけが感じられた。魔力量も増えている気がする。
今朝は鍛錬をする気になれず、そのまま部屋に戻った。
ベッドの上に座り、はぁ、と息を吐き出す。
「次は、どこに行こうかな……」
息を吐く。思いの外、長くこの街にいてしまったが、そろそろ別の街に行こうと、地図を広げた。
この間、店員の彼が王都に近いレグラス、という街をおすすめされたが、本当に行ってもいいのだろうか?
王都には、父がいるって姉が言っていた。迷惑がかかるとも。だが、レグラスの近くには、迷宮が多数あるという。
行ってみたい。そう、素直に思った。
けれど、姉がダメだと言った事をする勇気もない。どうしよう、と悩む。
地図を見て、レグラスの反対側、この街と考えれば逆方向に向かった場所にもう一つ大きな街があるのを確認する。
こちらも、大きな街に成るなりの理由があるのだろうと考えた。
その街の方が、隣国には近く、そちらへ行ってみるのもいいかもしれない、と思う。
「ら、ラジエラ?ラジエラ、かな?そこに、しようかな」
よし、と決めた。おすすめしてくれた店員の彼には悪いけれども。
隣国のさらに隣には、獣人が住む国があるという。
村に来た旅人に聞いた話だ。オビトが住んでいた村は、隣国が近かったこともあり旅人などがそれなりに訪れていた。
ラジエラがどんなところかは知らないが、魔王と勇者について何か知り得る情報があるかもしれない。
朝食の時間になる前に、旅支度のためマジックバッグの整理をした。
旅に出るためには、食料なども必要になるだろう。今日一日はそれに当てよう。
そうして、必要だと思われるものをリストアップして、時間になると部屋をでた。
「お前さん、元に戻ったんだってな?」
「……へ?」
「ここ数日、お前さんがお前さんじゃない気がしていたが、今日はいつも通りみたいで安心した」
意味深なことを言われた気がするが、意味がわからない。
いつも通りの俺、とはいったい。まるで、自分じゃない自分が居たみたいなことを言われているような?
「アンタ、目が覚めたわけ?」
「……え、えっと?」
隣に腰をかけてきたのは、オビトにしてみれば昨日ぶりのファニア。
朝食を受け取りながら、はぁ、と遠い目でため息を吐いたファニアは、オビトが元に戻ってよかったと言っていて、ますます訳がわからない。
「サルジュが、俺を避けてて……お前の事を気にしてるみたいでさ……迷宮に行ってから変わっちゃった……」
「し、知らない、んだけど……」
「うわぁ、お前っぽい……」
はぁ、とため息を吐いたファニアは、悩ましげだ。
「ファ、ファニアは、どうして、サルジュが、好き、なの?」
「……一目惚れ、っていうの?なんかね、この人だって思ったんだよねぇ。随分年上だし、俺のことなんて相手にもしてないのわかってたんだけど……諦めきれなくて、何度もアタックしてる間に顔見知りになって、パーティを組んで、今に至るわけ」
「す、凄い、ね」
それから、朝食を食べ終わるまでファニアの話を聞いていた。ごちそうさま、と手を合わせ、ファニアをみる。ファニアの方が沢山量もあったのにも関わらず、先に食べ終わっていることに納得がいかない。
サルジュが避けているのは本当だったらしく、彼は姿を現さなかった。
さて、と立ち上がるとファニアも立ち上がりついてくる。
「え、何……?」
「話聞いてくれた礼。どこ行くの?付いていく」
戸惑うが、まぁ、いいかと思い直す。
ファニアは見た目怖いかもしれないが、サルジュよりは怖くないし、一緒にいて大丈夫だと思う。
何となく、安心するというか?
ファニアより、サルジュの方が怖い気がする。どうして怖い、何てわからないけど。
そんなことを考えていると、自分の中のもう一人の自分が笑った気がした。
「えっと、買い物だっけ?何買うの?」
「た、旅に、必要な、食料、とか……?」
実際のところ、何が売ってるのかさえ知りはしない。
この度に何が必要なのかもわかってはいない。行き当たりばったりだ。
「いや、俺に聞くなし。まぁ、テントはまぁ、一人なら必要ないだろうし、食料も日持ちする携帯食があればいい感じ?あとは、毛布とかは持ってんの?まぁ、狩が出来るなら、毛皮なんかも持ってるだろうしな」
「そ、その辺は大丈夫……け、携帯食?」
「あ、知らないか。じゃあ、その辺から行っとく?」
うん、と頷けばよし、というファニアに連れ出される。
そう言えば、街に来てから買い物など一度もしてなかったと思い出す。
ファニアが相手をしてくれるのは、とても助かった。
「そう言えば旅って、そろそろこの街から出ていくつもり?」
「う、うん。ラジエラ?って、いう街に、行ってみようか、なって……」
「ラジエラ?あぁ、商業都市だね。ここより物価は高いけど、手に入らないものはないって言われるほど、品物は豊富な街だね。帝国と近いから、結構、帝国の商人とかもきてるって話。その先の帝国に行きたいなら、上手くいけば、帝国までの護衛依頼があるかもね。護衛依頼があれば、食事なんかは依頼者側で用意してくれることが多いから、楽っちゃ楽だよ」
相槌を打ちながら、ファニアの話を聞いていく。
意外な事に、世話焼きなのか?と思わなくもないが、ファニアは色々なことを話してくれる。もちろん、俺に関係あることを。
オビトが目を覚ますと、何故か料理屋の部屋に戻ってきていた。しかも、装備を脱いで私服に着替えてある。
あれ?何で?ととりあえず貴重品を確認したけど、変わりはなかった。
装備も全部あったし、はて?と首をかしげる。
「あー、アンタ起きたのか。体は?」
「え、えっと、平気……あ、あのっ」
「ん?何だ、いつものアンタか」
ふぁ、っと眠そうな店員の彼が気を緩めるのが分かる。
再び、オビトは首をかしげてしまった。
「い、いつもの、俺……?」
「記憶はねぇのか。面倒だな」
そうして作業に戻ってしまう彼はそれ以上、会話をしてくれそうにない。
なぜ、ここに俺が帰ってきてるのか。あの魔石から魔力を取り込んだ時から意識がなくなった。
そういえば、三日寝込んだ前回とは違うみたいだ。もう一人の俺のような記憶もない。
ただ、懐かしい魔力だけが感じられた。魔力量も増えている気がする。
今朝は鍛錬をする気になれず、そのまま部屋に戻った。
ベッドの上に座り、はぁ、と息を吐き出す。
「次は、どこに行こうかな……」
息を吐く。思いの外、長くこの街にいてしまったが、そろそろ別の街に行こうと、地図を広げた。
この間、店員の彼が王都に近いレグラス、という街をおすすめされたが、本当に行ってもいいのだろうか?
王都には、父がいるって姉が言っていた。迷惑がかかるとも。だが、レグラスの近くには、迷宮が多数あるという。
行ってみたい。そう、素直に思った。
けれど、姉がダメだと言った事をする勇気もない。どうしよう、と悩む。
地図を見て、レグラスの反対側、この街と考えれば逆方向に向かった場所にもう一つ大きな街があるのを確認する。
こちらも、大きな街に成るなりの理由があるのだろうと考えた。
その街の方が、隣国には近く、そちらへ行ってみるのもいいかもしれない、と思う。
「ら、ラジエラ?ラジエラ、かな?そこに、しようかな」
よし、と決めた。おすすめしてくれた店員の彼には悪いけれども。
隣国のさらに隣には、獣人が住む国があるという。
村に来た旅人に聞いた話だ。オビトが住んでいた村は、隣国が近かったこともあり旅人などがそれなりに訪れていた。
ラジエラがどんなところかは知らないが、魔王と勇者について何か知り得る情報があるかもしれない。
朝食の時間になる前に、旅支度のためマジックバッグの整理をした。
旅に出るためには、食料なども必要になるだろう。今日一日はそれに当てよう。
そうして、必要だと思われるものをリストアップして、時間になると部屋をでた。
「お前さん、元に戻ったんだってな?」
「……へ?」
「ここ数日、お前さんがお前さんじゃない気がしていたが、今日はいつも通りみたいで安心した」
意味深なことを言われた気がするが、意味がわからない。
いつも通りの俺、とはいったい。まるで、自分じゃない自分が居たみたいなことを言われているような?
「アンタ、目が覚めたわけ?」
「……え、えっと?」
隣に腰をかけてきたのは、オビトにしてみれば昨日ぶりのファニア。
朝食を受け取りながら、はぁ、と遠い目でため息を吐いたファニアは、オビトが元に戻ってよかったと言っていて、ますます訳がわからない。
「サルジュが、俺を避けてて……お前の事を気にしてるみたいでさ……迷宮に行ってから変わっちゃった……」
「し、知らない、んだけど……」
「うわぁ、お前っぽい……」
はぁ、とため息を吐いたファニアは、悩ましげだ。
「ファ、ファニアは、どうして、サルジュが、好き、なの?」
「……一目惚れ、っていうの?なんかね、この人だって思ったんだよねぇ。随分年上だし、俺のことなんて相手にもしてないのわかってたんだけど……諦めきれなくて、何度もアタックしてる間に顔見知りになって、パーティを組んで、今に至るわけ」
「す、凄い、ね」
それから、朝食を食べ終わるまでファニアの話を聞いていた。ごちそうさま、と手を合わせ、ファニアをみる。ファニアの方が沢山量もあったのにも関わらず、先に食べ終わっていることに納得がいかない。
サルジュが避けているのは本当だったらしく、彼は姿を現さなかった。
さて、と立ち上がるとファニアも立ち上がりついてくる。
「え、何……?」
「話聞いてくれた礼。どこ行くの?付いていく」
戸惑うが、まぁ、いいかと思い直す。
ファニアは見た目怖いかもしれないが、サルジュよりは怖くないし、一緒にいて大丈夫だと思う。
何となく、安心するというか?
ファニアより、サルジュの方が怖い気がする。どうして怖い、何てわからないけど。
そんなことを考えていると、自分の中のもう一人の自分が笑った気がした。
「えっと、買い物だっけ?何買うの?」
「た、旅に、必要な、食料、とか……?」
実際のところ、何が売ってるのかさえ知りはしない。
この度に何が必要なのかもわかってはいない。行き当たりばったりだ。
「いや、俺に聞くなし。まぁ、テントはまぁ、一人なら必要ないだろうし、食料も日持ちする携帯食があればいい感じ?あとは、毛布とかは持ってんの?まぁ、狩が出来るなら、毛皮なんかも持ってるだろうしな」
「そ、その辺は大丈夫……け、携帯食?」
「あ、知らないか。じゃあ、その辺から行っとく?」
うん、と頷けばよし、というファニアに連れ出される。
そう言えば、街に来てから買い物など一度もしてなかったと思い出す。
ファニアが相手をしてくれるのは、とても助かった。
「そう言えば旅って、そろそろこの街から出ていくつもり?」
「う、うん。ラジエラ?って、いう街に、行ってみようか、なって……」
「ラジエラ?あぁ、商業都市だね。ここより物価は高いけど、手に入らないものはないって言われるほど、品物は豊富な街だね。帝国と近いから、結構、帝国の商人とかもきてるって話。その先の帝国に行きたいなら、上手くいけば、帝国までの護衛依頼があるかもね。護衛依頼があれば、食事なんかは依頼者側で用意してくれることが多いから、楽っちゃ楽だよ」
相槌を打ちながら、ファニアの話を聞いていく。
意外な事に、世話焼きなのか?と思わなくもないが、ファニアは色々なことを話してくれる。もちろん、俺に関係あることを。
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