君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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グレハス編

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 ギルドから出ると、そのまま西口門に向い、街の外に出た。

「そんで、まっすぐ北の迷宮に行くの?」
「え、あ、うん」

 まだ、自分に話しかけられることになれない。
 どこか懐かしい気もするファニアだが、どうにも彼が誰なのか思い出せそうにない。
 知っている気がする。が、それは自分ではない自分の記憶の中。
 曖昧になってしまった記憶の一部だろう。
 北の迷宮にはいったい何があるのか。きっと、行くべき価値はあるのだろう。
 自分が攻略できるとは限らないが。
 そんなに歩かないうちに、北の迷宮が見えてきた。
 こちらの迷宮にも、列ができていて兵士が管理している。
 その列に行儀よく並び、ギルドカードを見せて中に入った。

「……あ、あんまり、変わらない」

 南の迷宮の中と、あまり変わらない中に逆に見入ってしまう。
 見覚えのある罠まで設置されていた。

「あ、おいバカっ!!」

 それをあえて起動させてみれば、やはり同じ挙動をしている。
 後ろでファニアがうるさかったけど、そんなことより興味が勝った。
 
「う、瓜二つ?」
「なるほど、この迷宮も初めてだったな。南の迷宮には行ったと言っていたし」
「なる程じゃないっしょ!?何で受け止めちゃってるの!?おかしいでしょ、普通罠見つけたら避けて通るよね!?何でわざと起動させてんの!?馬鹿なの?死ぬの!?」
「き、気になった、から……」
「気になったで俺を危険にさらしてんじゃないよ!!」

 ぶちぶちと文句を言うファニアをサルジュが、まぁまぁ、と落ち着かせる。

「この街の二つの迷宮は、同じ構造をしている。まぁ、それが何でかは知らんが、有名な話だ」
「へぇ……そう、なの」

 一階の奥にある魔法陣へと乗ると、どの階にする?と言われ首をかしげてしまった。
 どうやら、自分の行ったことのある階までなら、魔法陣で選択できるようだ。
 ならば、とサルジュが行った一番深い場所まで案内してもらった。
 南の迷宮とまったく同じ作りであるのならば、ある一定の階層から謎解きの要素が強く出る仕組みとなっていたはずだ。
 どうやら、サルジュはその謎解きで苦戦しているらしい。

「……ち、がう?」

 瓜二つな迷宮なのに、出題されている問題が違う。まぁ、冒険者によって出題される問題は変わるというが、何というか違うのだ。
 求められている答えが、違う。
 ぼんやりとそれを見つめ、だが答えを当てはめていく。何故か、知っている。頭の中のもう一人の自分が言う。
 ここには、何があるというのだろうか?
 正解を当てはめた扉は開き、次の階へ繋がる魔法陣が現れた。
 戻るための魔法陣は赤色だが、下るための魔法陣は緑と何とも分かりやすい仕組みである。

「……やっぱり解けるのか」

 サルジュがポツリと呟いたが、意味が分からない。まぁ、そんなことはどうでもいいか、と先へ進む。
 次の問題は確か、と思い出した先に広がる迷路。
 やっぱりと、息を吐いてちらちらと辺りを見回す。壁に描かれたヒントが大小さまざまな文字や記号で記されていて、そのすべてを確認しなければいけない。

「うぇ、何この記号、こわっ」

 おどろおどろしい線で描かれた記号は、ちょっと怖い。
 しかもその文字、途中に文字型の魔物が潜んでいて、襲ってくる。実に面倒くさい作りとなっていたりする。
 その魔物の文字もヒントだったりするからとんでもなく大変だ。

「……ん、わか、った」

 よし、と頭に順番を叩き込んでここがどこかを考えながら進むと突き当りになった所に青い魔法陣があった。
 それを迷いなく踏むと、ピンクの魔法陣から出ることになる。
 そして、また迷路の先の青い魔法陣を渡り、何度か繰り返した道順でゴールまで行くと、緑の魔法陣が目の前に現れていた。
 だがそこは、出発した地点とまったく変わりがないように見える場所でもあった。

「うぇ、戻ってきちゃった?」
「ち、違う。これ、色、みて」
「あ、なるほどね。正解って事か……面倒くせぇなこの迷宮」

 確かに、面倒と感じてしまうかもしれない。
 迷路を進んでいる間にも、敵は襲ってきていたのだから。
 さて、と気を取り直してまた一階下にもぐる。
 それを繰り返しているうちに、あの大きなパズルが目の前に現れた。
 書かれている絵は違ったが、訳が分からない線なのは一緒だ。
 それについてのヒントも何もない。
 だが、なぜだろうか?ちゃんとわかる。
 迷いなくオビトがパズルのピースを動かし始めたら、サルジュとファニアはそれをじっと見ていた。
 手出しをしようにも、オビトに迷いがないのだから、仕方がない。
 それに、彼らとてこの問題の答えが分からないのだ。オビトに任せるしかない。
 数十分かけてよし、と完成させれば、あの南の迷宮のようにぴたりと閉じられていた扉が大きな音を立てて開いていく。
 中には、迷宮の最下層だというのに、光があふれていた。

「……ここ、は」
『やぁ、いらっしゃい。珍しいお客人だ』

 ふふっ、と笑う優雅で陽気な人。
 どうやらここはテラスの一部のようだった。

「な、ナニコレ」
「……」

 さぁ、どうぞと示されたのはいつの間に用意されていたのだろうか?三人分の椅子。
 そこに腰を掛けると、目の前に紅茶が現れた。

『迷宮の攻略おめでとう。けれど、ごめんね。そこの彼と、彼には報酬があるのだけれど、君には何も渡すことができないんだ』

 すまなさそうに、ファニアを見て眉尻を下げた彼。
 ファニアもサルジュもオビトも、何のことだか?と首をかしげる。

『受け取る資格があるのは、勇者の父系である君と、それから、西王に印を貰った君だけなんだ』
「せ、西王……」

 あの竜の事だとすぐに分かった。印……あの魔力だろうか?
 サルジュは事の成りを理解しているようだが、ファニアはよくわかっていないらしい。

「で、でも……」
『まぁ、細かいことは受け取ってから考えればいいよ』

 むしろ無理やり押し付ける気満々ではないか。
 手渡されたのは、あの時とは真逆の黄色く光る魔石。
 少し手に力を籠めれば、魔石は砕けて自分の中に入ってくる。
 同じく魔石を渡されたサルジュも同様に。
 優雅に紅茶を飲む彼は、オビトたちの意識が薄れていくのを知っていたのか、にっこりとファニアに向って笑いかけていた。
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