君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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グレハス編

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 その意味が分かったのは、目が覚めてから。
 同じ場所で、目が覚めたオビトは、竜を見てハッとした。
 頭の中に、自分じゃない自分の記憶がもう一つある。
 この世界ができる前の、もっと前の混沌の時代の記憶。
 魔王、と呼ばれた人の記憶。
 それが気持ち悪くて、げぇっ、と吐き戻す。胃酸しか上がってこなくて、うえっ、うぇっ、と嗚咽を吐くけれど。

『ほほ、死ななかったか』
「お、っまえ……」

 はぁ、はぁ、と息を整えだしたところで、竜が面白そうに見ていたことを知る。
 げほっ、と最後に吐き出して、体制を整えた。
 どのぐらい、そうしていたのか。
 自分以外の人間がなぜこの場所に来ていないのか。
 そもそも、この最下層のボスである竜は敵なのだろうか?
 オビトが調子を取り戻すまでずっとそのままの体制で待っていたというのか。
 まぁ、竜がその気になれば簡単にオビトなど殺すことができただろうに。

『さて、あの魔力を得て生き抜いたお主にご褒美じゃ』

 そう言ってさされたのは、出口となる扉で。
 え?と竜を見上げればにっこりと笑われる。
 戦っていないのに、踏破したことになるのではないか?

『ここに来られるのは、魔王の血が濃い者だけよ。その者たちに試練を与えるのが、我の役目。お主は、試練を超えた。稀有な魂の持ち主よ。さぁ、次の迷宮へ向かうがいい』

 迷宮にはしばらく向かうつもりはないというのに、そう言われ追い出されてしまった。
 竜は、この地下で眠っているらしい。
 彼は、四匹の竜のうち、西王竜だろう。次の迷宮とはどこの事を指すのか。
 少なくとも、近くにある迷宮ではないのだろう。
 順番に廻らなければならない、と頭の中でもう一人の自分がいう。
 そんな声を振り払うように、ぶんぶんっ、と頭を振ったオビトは地上に出て、はぁ、と息を吸って大きく吐いた。
 地上は、夕暮れ色に染まっていて、そろそろ街の門が閉まるころだと少し焦る。
 駆け足で街の門まで帰ると、門の兵士に随分驚いた顔をされてしまった。なんでだろうか?

「お前、生きていたのか」
「へっ?えっ?」

 何で死んだことにされてんだ、俺……。
 オビトは唖然としながら、兵士を見つめた。
 まぁ、いいやと通してくれたけど、どういう事?
 はぁ、と疲れたので料理屋に戻る。すると、店員の彼が驚いて近づいてきた。

「おまっ、帰らねぇなら帰らねぇで言ってけっての!!」
「えっ、あの、えっ?」

 どういう……、と思っていたら彼のお説教のような言葉で理解する。
 俺は三日ほど、あの迷宮で倒れていたらしい。
 時間間隔がないと思っていたけれど、そんなに?と思うぐらいに。

「あぁ、薄れたと思った隈が復活してやがる!とっとと飯食って寝ろ!!」
「え、あ、はい」

 く、くま?と驚いたものの、彼の勢いに負けて頷くことしかできない。
 とりあえず、部屋の鍵をもらい、風呂に入るために着替えて着替えを持ち、部屋を出た。
 風呂から上がったらすぐに料理を出してくれると言っていたので安心だろう。
 しゃこしゃこと頭を洗い、体を洗って湯船につかる。

「はぁ~……これから、どうしよう?」

 自分の中のもう一人の自分の記憶。
 それが、訴えてくるのは、『勇者』という人物について。
 魔王と勇者なんて、英雄の物語か?と思うけれど、そうではないみたいだ。
 確かに、魔王は勇者に倒されているが、復讐がしたいとかそんな感情は一切伝わってこない。
 ただ、何がしたいのか明確ではないが、『勇者』『勇者』とうるさい。
 あの竜にもらった記憶は完全ではなく、ところどころ欠けている。
 それに、勇者勇者言うが、勇者の顔も思い出せない。
 魔王の父系が存在しているのであれば、勇者の父系も存在しているのだろうか?
 その人たちに聞ければ、俺の中の俺が求めている勇者にたどり着けるかもしれない。
 そうすれば、おとなしくなるのだろうか?

「……魔王の父系がたどり着ける迷宮があるのなら、勇者の父系がたどり着ける迷宮もあるのかな?」

 行くつもりはなかったが、むしろ行ってみたほうが良いのか?とも思い始める。
 一度寝て、すっきりしてから考えようと、かぶりをふった。
 風呂からあがり、そのままカウンターの席へと座った。
 親父さんからおかえり、と言葉少なく言われながら、胃に優しそうな料理が出される。
 いただきます、と一口食べ、何故か食べてからお腹がぐぅうううう、と鳴った。
 それまで、お腹が減っているという事にも気が付いていなかった。というか、迷宮の最下層で吐いたことすら思い出す。
 なるほど、お腹すくわけだ、ともう一口、もう一口、と食べていけばすぐに食べ終わってしまう。
 だが、ちゃんと調整された量だったため、お腹は満たされる。
 そう言えば、三日たっているということは、明日までの宿ということだ。
 もう一つの迷宮に行くには時間が足りないかもしれない、と少し考え部屋に戻る前に、店員の彼を捕まえて話す。

「え、えっと……追加、で、四日、あれば、大丈夫、かな?」
「いや、知らんし」

 相談したところで、彼に分かるはずもない。いや、確かに。
 どうしようかな?と思って、でも、多めに取っておいてもいいのかもしれない、と考える。

「じゃ、じゃあ、えっと、銀貨3枚、で」
「延長ね、六日分。了解」

 最初に宿をとった時と同じ、六日分。
 そのほうが安全だろう。
 日付が余ったところで、滞在がどれだけ長くなろうと、急ぐ旅ではないので。

「ほら、手続きは済んだからさっさと部屋行って寝ちまえ」
「う、うん。おやすみ」
「おう、おやすみ」

 そうして彼と離れて、部屋に戻るとベッドにダイブする。
 はぁ~、と長い溜息が出て天井を見上げた。
 いそいそと毛布をかぶれば、すぐに瞼が落ちる。
 どうやら、疲れていたらしい。倒れたとはいえ、寝ているのと同じ状況だっただろうに。
 
『おやすみ、……』

 意識が完全に落ちる前、どこからか声が聞こえた気がした。
 姉の声にも聞こえるし、別の人の声かも知れない。
 それは、誰にも分らないけれど……。
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