君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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グレハス編

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「今朝も、悪かったな」

 料理屋に戻ったオビトは、顔を洗い、朝食を食べるために昨日と同じ場所に座った。
 今朝の料理も相変わらずおいしい。量は昨日と比べ少なくなっていて、丁度いい。
 さて、今日の予定だが、と考えていたところでサルジュが声をかけてきた。

「い、いや……」
「お詫びと言っちゃなんだが、俺に何かできることはあるか?」
「べ、別に、大丈夫、だし……」

 むしろ、今朝の事で余計にかかわりたくなくなった。
 面倒な予感しかしない。
 本当に、大丈夫か?と笑う彼は、にやにやと嫌な笑みを浮かべている。
 人を、絡み取ろうとする笑みだ。
 オビトはそれを見た途端、警戒心を強くした。

「そうか。何かあったら、遠慮なく頼ってくれ」

 オビトが警戒した途端、少し驚き、考えたサルジュはさっと身を引く。
 駆け引き、とでも言うのだろうか?ただ、はっきりと分かるのは、サルジュが今、失敗したな、と思っていることぐらいだ。
 サルジュが離れていき、ホッとする。
 さて、今日はどうしようか、と思い、そう言えば迷宮の話を昨日聞いたと思い出す。
 この近くにも、確か有るような事を言っていた気がする。
 確か、西口を出て十分ほど南に歩いた場所にあるとか、五分ぐらい北に歩いた場所にあるとか。
 割と近くで、向かう冒険者も多いから、誰かについて行けば、迷宮に着くだろうと気楽に考える。
 昨日とは違い、完食すると、ごちそうさまでした、と手を合わせた。姉に、ちゃんとしなさいと何度怒られたことか。
 料理屋から出て、すぐに西口へと向かう。なんか忘れているような気がするが……気のせいだろう。
 
「お、昨日の……」
「あ、えっと、これ」

 見覚えがある門番だ、となんとなく思う。どこでだっけ?と考えるが、えっとえっと、と出てこない。
 とりあえず、ギルドカードを見せると、通ってよしと言われたので、何か言われる前に門をちょっと急いで通り過ぎた。
 何となく、冒険者からの視線がすごいと思うのだが、なんでだろう?
 太陽の位置を確認して、時間を確認すると、進むべき方角はあっちか、と急ぎ足で向かう。
 迷宮に向かう冒険者は多いのか、道がしっかりできているため、迷うことはなさそうだと内心ほっとする。
 まぁ、迷ったところでそこら辺の獣を狩って帰ればいい。
 今は蓄えがあるから、無理に狩らなくても良いのか、と少し寂しくも思う。
 あの村の狩人は、オビトのほかには、元々の狩人だった高齢の男性しか居なかった。
 だから、自分が狩らなければ、肉にありつけない日があるほど。
 そういえば、あの村の人はこの街に比べると少し変わった人が多かったな、と思う。
 鍛冶屋のじいちゃんもそうだし、村長だってそうだ。
 ねぇちゃんも、皆、みんな……。
 そうして考えているうちに、迷宮の入り口についた。
 迷宮は、街の兵士によって管理されているらしい。入口から延びる列の最後尾に並び、順番を待つ。

「次の……むっ、ギルドに登録したばっかりではないか……大丈夫なのか?」
「えっ?だ、ダメ、なの?」
「いや……ただ、気を付けて無理をしないようにな」

 少し渋った彼は、無理をするなと送り出してくれた。
 ほっと息を吐いて、迷宮の中に入る。
 中は、迷宮というだけあって迷路のような道と、行き止まりに、謎かけ、パズルなど様々な仕掛けがあった。
 もちろん、罠なんかも設置してあったりして危ない事には危なかったんだけど、山育ちのオビトは、罠にかからない。
 誰がかかるんだろう、こんな分かりやすい罠……と試しに起動させてみたりはするけれど。
 そう言えば、前に入っていった人はかなりいたはずなのに、誰も姿が見当たらない。
 あれだけ入っていれば、ぶち当たったりすることもあると思うのだが、そうでもないらしい。

「……え、おっきい」

 最下層まで来たと思って、目の前を見てオビトは唖然としてそれを見た。
 すごく大きなギミック、というよりパズル。
 線だけ描いてあり、それを決められた場所で移動させていくタイプの。
 そもそも、その線が何を表しているのかさっぱりと分からない。
 分からないはずなのに、体は勝手に動く。
 床一面のパズルを蹴飛ばして、図形を形どっていく。
 よし、と声が上がると、絵は完成していて、ずごごごご、と大きな音を立ててこれまた大きな扉が開く。
 中に足を踏み入れれば、大きな竜がそこには鎮座していた。
 誰が来たのか、と目を開きオビトの姿をその視界に入れる竜。
 オビトは、と言えば魔物の前であるはずなのに、その大きさに唖然としていただけだった。

『珍しき客人よの』
「う、わっ、喋ったっ」
『ほほほ、コレは初こと。しかし……ここまで来るとは、魔王の父系かの?』

 うわっ、と突然の風にたたらを踏む。
 どうやら鼻息みたいだったけど。

「まっ、魔王?父系?え、なに、それ」
『ふむ……、匂いがあの方に近い……お主は随分と血が濃いようじゃな』
「まっ、待って。どういう、意味?血が濃い、って、俺、人間、だよ?」
『そうじゃの。人間じゃ。しかし、魔王の血を宿す者でもある』

 ふむ、と考えた竜は、面倒じゃ、と言って何かを投げてよこす。
 思わず、と受け取ったそれは、魔石であるようだった。
 何これ?と眺めていると、腕の中で弾け、その欠片がオビトを襲う。
 避ける暇もなく、目を閉じるけれど、衝撃はない。
 どうやら、体の中に吸収されたらしい。目を開き、ぽてぽてと体を触るがどこにも異常はない。
 が、次の瞬間、どくんっ、と心臓が高鳴り、頭の中に膨大な量の情報が流れ込んでくる。
 次第に、薄くなる意識の端、竜は満足そうに笑って、生きろよ、と言った。
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