君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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グレハス編

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 次の日、同じ時間に起きて、体をぐっと伸ばす。
 昨日は、焦っていたし、探すこともできなかったが、そろりと起きだしたオビトは一階に降りていく。

「今日もクソ早いな、おはよ。どうした?飯はまだだぞ?」

 昨日も彼は起きていたが、ご飯はまだだって言ってたので覚えている。 
 その意思を示すために、一度だけ頷いた。眠そうな顔をしたいつもの店員である彼がふぁっ、と欠伸をしながら言う。
 確かに、いつも客より遅く寝て早く起きてるだろうから、眠いだろうなとは思う。

「え、えっと、朝、の、鍛錬、したく、て……」
「朝の鍛錬?似合わねぇな」

 失礼ではないだろうか?いや、そう見えるのも仕方がないかもしれないけれど。
 どれだけ体を動かしても、あまりしっかりとした肉は付かないこの体が恨めしい。

「店の横の道を進めば、小さな広場みたいな空き地につくから、そこなら朝に人もいないだろうし、うってつけじゃないか?」

 オビトは一つ頷くと、行ってみると装備を確認して料理屋の扉を出た。
 そうして、教えられた道をまっすぐに進むと、まるで街のデッドスペースのようにぽかんと空いた場所に出る。
 ふと、探っても人はいないし、丁度いいだろうと、中心に立ち、ふぅ~、と息を吐き整えた。
 そこから、教えてもらった徒手の型を動いていく。体術は、すべての基本だと教えられたから。
 体幹が出来ていなければ、何事もうまくいかないわ、と姉が言っていた。
 だから、一日の始まりに、徒手で型を動き、体を慣らす。
 徒手の型が終われば、今度は両手に剣を持ち、教えてもらった基本の形を一通りなぞっていく。
 本当の戦いになれば、それらが生かされているのかどうかなんてわからないけれど、やるのとやらないのでは、心持が違う。
 それに、姉はこの剣舞にも見える型の流れが好きだと言っていた。だから、やる意味はあるだろう。

「へぇー、綺麗なもんだね」

 基本の形が終わって、ふぅ、と息を吐くと後ろから声をかけられてびっくりする。
 自分以外に人がいるなんて思ってなかったから。

「だ、誰……?」
「誰って……俺名乗ってなかったっけ?」
「し、知らない……っ」

 見たことはあるような?と首をかしげる。
 でも、この人誰だっけ?本気で、思い出せない。どこで知り合ったのだろうか?と考えるが出てこない。
 オビトの中では、昨日の朝の出来事はなかったことになっているらしい。
 直接話しかけられたわけでもないから、覚えてもいないのだろう。

「お前って、あんがいい度胸してるよな」
「そ、そんなことない、よ?」

 何で、どこでもここでも、半ば、呆れられたような顔をして見られるのだろうか?
 度胸なんてあるわけがない。度胸があったら、この人に絡まれても無視しているし。
 
「それより、サルジュに近づかないでよね」
「さ、サルジュ……?」

 誰だろう?
 えっと、聞いたことがあるような名前だけれど、知らない。
 はて?と今度は反対側に首をかしげて見せれば、はぁ?と少し怒ったような声で詰め寄られた。

「誰とか言わないよね?」
「え、えっと……ご、ごめんね?わからない、や」

 脳内の許容量が小さいのか、生きるための知恵など、魔物や魔獣などの特徴ならすらすら出てくるのに、人の名前も人の顔も覚えにくい。
 それに、自分の目的があると、すぐ他の用事を忘れてしまう。
 魔獣や魔物は忘れないのだから、きっとそれに容量を取られて、日常の些細なことや、人の名前や顔などを覚えていられないのだろう。
 道を覚えるのは得意だが、獣道に限定されるのかもしれない。
 だが、決して迷うことはない。帰省本能が強いのだろうか?それとも、生存本能か。

「ファニア、何をしている」

 苛立ち、声を上げようとした彼だが、ため息が聞こえハッとしたようだ。
 声のする方を見れば、昨日のおじさんがそこにはいた。
 何だろう、この状況、と戸惑う。というか、若い彼の名前はファニアと言うらしい。
 何というか、名前から先に聞かなくてよかったと思ってしまった。性別を誤解しそうだ。

「さ、サルジュ……だ、だって!」
「悪いな、坊主。邪魔したみたいで」
「い、いや……」

 何に対するいいわけなのか、言いつのろうとしたファニアの言葉を遮り、おじさんはオビトに謝ってきた。
 このおじさんが、サルジュという名前なのか、と改めて思う。
 彼は、ファニアの腕を掴んで連れていく。
 まぁ、基本の形は終わってから声をかけられたので、邪魔されたわけではないし、気にしていないのだが、何故かサルジュが怒っているらしい。

「サルジュ、待って!ごめん、ごめんってっ!!」

 それに答える声はない。だからこそ、ファニアは余計に焦っているのだろうか?
 でも、オビトはそんな二人を見ながら首をかしげていた。
 怒った雰囲気も無いのに、どうしてファニアは焦っているのだろうか?と、
 むしろ、困ったような雰囲気がある。どうしていいのかわからないという感じ。

「巻き込まれたのは、俺……?」

 ぽつり、と吐き出された言葉にこたえる声はなかったが、それが正解だろうと溜息を吐いた。
 忘れよっ、と再び、双剣の柄を握り直し、強かった敵を思い出しながら剣を振るう。
 この広場に再び誰かがやってくるまで、オビトは剣を振り続けていた。
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