7 / 47
グレハス編
6
しおりを挟む
次の日、同じ時間に起きて、体をぐっと伸ばす。
昨日は、焦っていたし、探すこともできなかったが、そろりと起きだしたオビトは一階に降りていく。
「今日もクソ早いな、おはよ。どうした?飯はまだだぞ?」
昨日も彼は起きていたが、ご飯はまだだって言ってたので覚えている。
その意思を示すために、一度だけ頷いた。眠そうな顔をしたいつもの店員である彼がふぁっ、と欠伸をしながら言う。
確かに、いつも客より遅く寝て早く起きてるだろうから、眠いだろうなとは思う。
「え、えっと、朝、の、鍛錬、したく、て……」
「朝の鍛錬?似合わねぇな」
失礼ではないだろうか?いや、そう見えるのも仕方がないかもしれないけれど。
どれだけ体を動かしても、あまりしっかりとした肉は付かないこの体が恨めしい。
「店の横の道を進めば、小さな広場みたいな空き地につくから、そこなら朝に人もいないだろうし、うってつけじゃないか?」
オビトは一つ頷くと、行ってみると装備を確認して料理屋の扉を出た。
そうして、教えられた道をまっすぐに進むと、まるで街のデッドスペースのようにぽかんと空いた場所に出る。
ふと、探っても人はいないし、丁度いいだろうと、中心に立ち、ふぅ~、と息を吐き整えた。
そこから、教えてもらった徒手の型を動いていく。体術は、すべての基本だと教えられたから。
体幹が出来ていなければ、何事もうまくいかないわ、と姉が言っていた。
だから、一日の始まりに、徒手で型を動き、体を慣らす。
徒手の型が終われば、今度は両手に剣を持ち、教えてもらった基本の形を一通りなぞっていく。
本当の戦いになれば、それらが生かされているのかどうかなんてわからないけれど、やるのとやらないのでは、心持が違う。
それに、姉はこの剣舞にも見える型の流れが好きだと言っていた。だから、やる意味はあるだろう。
「へぇー、綺麗なもんだね」
基本の形が終わって、ふぅ、と息を吐くと後ろから声をかけられてびっくりする。
自分以外に人がいるなんて思ってなかったから。
「だ、誰……?」
「誰って……俺名乗ってなかったっけ?」
「し、知らない……っ」
見たことはあるような?と首をかしげる。
でも、この人誰だっけ?本気で、思い出せない。どこで知り合ったのだろうか?と考えるが出てこない。
オビトの中では、昨日の朝の出来事はなかったことになっているらしい。
直接話しかけられたわけでもないから、覚えてもいないのだろう。
「お前って、あんがいい度胸してるよな」
「そ、そんなことない、よ?」
何で、どこでもここでも、半ば、呆れられたような顔をして見られるのだろうか?
度胸なんてあるわけがない。度胸があったら、この人に絡まれても無視しているし。
「それより、サルジュに近づかないでよね」
「さ、サルジュ……?」
誰だろう?
えっと、聞いたことがあるような名前だけれど、知らない。
はて?と今度は反対側に首をかしげて見せれば、はぁ?と少し怒ったような声で詰め寄られた。
「誰とか言わないよね?」
「え、えっと……ご、ごめんね?わからない、や」
脳内の許容量が小さいのか、生きるための知恵など、魔物や魔獣などの特徴ならすらすら出てくるのに、人の名前も人の顔も覚えにくい。
それに、自分の目的があると、すぐ他の用事を忘れてしまう。
魔獣や魔物は忘れないのだから、きっとそれに容量を取られて、日常の些細なことや、人の名前や顔などを覚えていられないのだろう。
道を覚えるのは得意だが、獣道に限定されるのかもしれない。
だが、決して迷うことはない。帰省本能が強いのだろうか?それとも、生存本能か。
「ファニア、何をしている」
苛立ち、声を上げようとした彼だが、ため息が聞こえハッとしたようだ。
声のする方を見れば、昨日のおじさんがそこにはいた。
何だろう、この状況、と戸惑う。というか、若い彼の名前はファニアと言うらしい。
何というか、名前から先に聞かなくてよかったと思ってしまった。性別を誤解しそうだ。
「さ、サルジュ……だ、だって!」
「悪いな、坊主。邪魔したみたいで」
「い、いや……」
何に対するいいわけなのか、言いつのろうとしたファニアの言葉を遮り、おじさんはオビトに謝ってきた。
このおじさんが、サルジュという名前なのか、と改めて思う。
彼は、ファニアの腕を掴んで連れていく。
まぁ、基本の形は終わってから声をかけられたので、邪魔されたわけではないし、気にしていないのだが、何故かサルジュが怒っているらしい。
「サルジュ、待って!ごめん、ごめんってっ!!」
それに答える声はない。だからこそ、ファニアは余計に焦っているのだろうか?
でも、オビトはそんな二人を見ながら首をかしげていた。
怒った雰囲気も無いのに、どうしてファニアは焦っているのだろうか?と、
むしろ、困ったような雰囲気がある。どうしていいのかわからないという感じ。
「巻き込まれたのは、俺……?」
ぽつり、と吐き出された言葉にこたえる声はなかったが、それが正解だろうと溜息を吐いた。
忘れよっ、と再び、双剣の柄を握り直し、強かった敵を思い出しながら剣を振るう。
この広場に再び誰かがやってくるまで、オビトは剣を振り続けていた。
昨日は、焦っていたし、探すこともできなかったが、そろりと起きだしたオビトは一階に降りていく。
「今日もクソ早いな、おはよ。どうした?飯はまだだぞ?」
昨日も彼は起きていたが、ご飯はまだだって言ってたので覚えている。
その意思を示すために、一度だけ頷いた。眠そうな顔をしたいつもの店員である彼がふぁっ、と欠伸をしながら言う。
確かに、いつも客より遅く寝て早く起きてるだろうから、眠いだろうなとは思う。
「え、えっと、朝、の、鍛錬、したく、て……」
「朝の鍛錬?似合わねぇな」
失礼ではないだろうか?いや、そう見えるのも仕方がないかもしれないけれど。
どれだけ体を動かしても、あまりしっかりとした肉は付かないこの体が恨めしい。
「店の横の道を進めば、小さな広場みたいな空き地につくから、そこなら朝に人もいないだろうし、うってつけじゃないか?」
オビトは一つ頷くと、行ってみると装備を確認して料理屋の扉を出た。
そうして、教えられた道をまっすぐに進むと、まるで街のデッドスペースのようにぽかんと空いた場所に出る。
ふと、探っても人はいないし、丁度いいだろうと、中心に立ち、ふぅ~、と息を吐き整えた。
そこから、教えてもらった徒手の型を動いていく。体術は、すべての基本だと教えられたから。
体幹が出来ていなければ、何事もうまくいかないわ、と姉が言っていた。
だから、一日の始まりに、徒手で型を動き、体を慣らす。
徒手の型が終われば、今度は両手に剣を持ち、教えてもらった基本の形を一通りなぞっていく。
本当の戦いになれば、それらが生かされているのかどうかなんてわからないけれど、やるのとやらないのでは、心持が違う。
それに、姉はこの剣舞にも見える型の流れが好きだと言っていた。だから、やる意味はあるだろう。
「へぇー、綺麗なもんだね」
基本の形が終わって、ふぅ、と息を吐くと後ろから声をかけられてびっくりする。
自分以外に人がいるなんて思ってなかったから。
「だ、誰……?」
「誰って……俺名乗ってなかったっけ?」
「し、知らない……っ」
見たことはあるような?と首をかしげる。
でも、この人誰だっけ?本気で、思い出せない。どこで知り合ったのだろうか?と考えるが出てこない。
オビトの中では、昨日の朝の出来事はなかったことになっているらしい。
直接話しかけられたわけでもないから、覚えてもいないのだろう。
「お前って、あんがいい度胸してるよな」
「そ、そんなことない、よ?」
何で、どこでもここでも、半ば、呆れられたような顔をして見られるのだろうか?
度胸なんてあるわけがない。度胸があったら、この人に絡まれても無視しているし。
「それより、サルジュに近づかないでよね」
「さ、サルジュ……?」
誰だろう?
えっと、聞いたことがあるような名前だけれど、知らない。
はて?と今度は反対側に首をかしげて見せれば、はぁ?と少し怒ったような声で詰め寄られた。
「誰とか言わないよね?」
「え、えっと……ご、ごめんね?わからない、や」
脳内の許容量が小さいのか、生きるための知恵など、魔物や魔獣などの特徴ならすらすら出てくるのに、人の名前も人の顔も覚えにくい。
それに、自分の目的があると、すぐ他の用事を忘れてしまう。
魔獣や魔物は忘れないのだから、きっとそれに容量を取られて、日常の些細なことや、人の名前や顔などを覚えていられないのだろう。
道を覚えるのは得意だが、獣道に限定されるのかもしれない。
だが、決して迷うことはない。帰省本能が強いのだろうか?それとも、生存本能か。
「ファニア、何をしている」
苛立ち、声を上げようとした彼だが、ため息が聞こえハッとしたようだ。
声のする方を見れば、昨日のおじさんがそこにはいた。
何だろう、この状況、と戸惑う。というか、若い彼の名前はファニアと言うらしい。
何というか、名前から先に聞かなくてよかったと思ってしまった。性別を誤解しそうだ。
「さ、サルジュ……だ、だって!」
「悪いな、坊主。邪魔したみたいで」
「い、いや……」
何に対するいいわけなのか、言いつのろうとしたファニアの言葉を遮り、おじさんはオビトに謝ってきた。
このおじさんが、サルジュという名前なのか、と改めて思う。
彼は、ファニアの腕を掴んで連れていく。
まぁ、基本の形は終わってから声をかけられたので、邪魔されたわけではないし、気にしていないのだが、何故かサルジュが怒っているらしい。
「サルジュ、待って!ごめん、ごめんってっ!!」
それに答える声はない。だからこそ、ファニアは余計に焦っているのだろうか?
でも、オビトはそんな二人を見ながら首をかしげていた。
怒った雰囲気も無いのに、どうしてファニアは焦っているのだろうか?と、
むしろ、困ったような雰囲気がある。どうしていいのかわからないという感じ。
「巻き込まれたのは、俺……?」
ぽつり、と吐き出された言葉にこたえる声はなかったが、それが正解だろうと溜息を吐いた。
忘れよっ、と再び、双剣の柄を握り直し、強かった敵を思い出しながら剣を振るう。
この広場に再び誰かがやってくるまで、オビトは剣を振り続けていた。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる