君が望んだ終焉の果てに

屑籠

文字の大きさ
上 下
4 / 47
グレハス編

しおりを挟む
 ギルドを出れば、辺りはオレンジ色に染まっていて、急がなければ、と言われた方角に歩き出す。
 ギルドに寄ってからだから、と考えて歩いていると、それらしい道に出て、言われた通りの噴水があった。
 ただ、言われた方向と逆だから、と来た道の反対側の建物にかかっている看板を確認していく。

「あ、あった……」

 からんからん、と音を立てて恐る恐る開けば、中は料理屋と言うにふさわしくいい匂いがしていた。
 ん?と中にいた店員らしき人が近づいてくる。

「ん?お客さん?あー、でもなぁ、もうすぐ閉店なんだよ」
「あ、えっと、その、セルさんに、宿って」
「あぁ、宿の方のお客さんね。うーん、空いてたっけか」

 ちょっと待ってろ、と言って彼はカウンターの中に入って行って、何やら確認している。

「あんた、運がいいな。一部屋だけ空いてる。金はあるのか?」
「あ、ある、よ?」
「一泊銅貨50枚、払える?」
「う、うん。だいじょう、ぶ……えっと、五日、ぶん?」

 銀貨三枚を取り出してカウンターの上にあったトレーに乗せれば、まいど、と清算された。

「ただし、五日分じゃなくて六日分な」
「え、あ、そっか」
「ほら、これが部屋の鍵。部屋は一番手前で、出かけるときは一階に誰かしらいるから、声かけて鍵だけ預けて行ってくれ」

 従業員の証、と上着の袖に描かれたお玉と包丁のマークを見せてきた。
 この店の看板のマークと同じで分かりやすい。

「わ、わかった」
「飯は後で運んでやるから、一階の奥にある風呂にまず入ってこい」

 昼に、川で体を洗ったばかりなのだが、匂うだろうか?と体の匂いを嗅ぐ。
 
「臭いって言ってんじゃねぇよ。体、冷え切ってんだろうが。あったまってこい」

 ほれ、と触れた手は痛いくらいに熱くて、自分が冷え切っていることにようやく気が付いた。
 鈍感にもほどがあるだろう、と仕方がないな、と言った顔で言われたが、仕方がない。気が付かなかったんだから。
 言われた通りに荷物を部屋に置いてから階段下にある風呂に向った。
 ちょうど誰も入っていないみたいで、一人体を洗い、湯船につかる。
 やはり冷え切った体に、お湯の熱さはちょうどよくて、じわじわと体も温まってくるのを感じた。
 それと同時にこみあげてくるものがあって、ぼろぼろと意図せず泣いてしまう。
 
「ふっ、くっ……っ」

 目を閉じれば、今でも笑う姉がそこにいるようで。
 湯の中でひざを抱え、顔を隠す。誰に見られているわけでもないのに、誰にも見られたくなくて。
 
「ねぇさん……」

 ぽつり、とこぼした声に「なぁに?」と答えてくれる優しい声は、ない。
 どれだけ追い求めたところで、ねぇさんは帰ってこない。
 ばしゃっ!と顔にお湯を叩きつけるように浴びて、よし、と風呂から上がった。
 着替えて、先ほどの彼に声をかければ、おう、と鍵を手渡される。
 どうやら料理屋の方は営業を終了したらしく客の姿は一人として見当たらない。
 宿の客は、みんな部屋にいるのだろうか?

「今、用意して持ってってやるから、あったかい格好して、湯冷めなんかするんじゃねぇぞ」

 ほら、いけっ!と蹴りだされるように二階へ続く階段へ追いやられてしまう。
 あまり気を使わなくて済むからか、ほっと息を吐いた。
 ベッドと簡易な机があるだけの部屋で、マジックバッグの中身を整理する。
 旅に必要なもの、必要がなくなったもの、お金、薬、など様々なものが入っていた。
 必要がなくなったものは、ゴミ捨て場に明日行って処理しよう。
 次はどこに向かうか、と真剣に地図を見つめる。
 ここは大きな街だけれど、王都に近いわけではない。田舎も田舎だが、栄えている。隣国が近いからだろうか?
 ぼんやりと地図を眺めていると、ノックの音がしたので扉を開けた。

「ほら、飯だぞ。ん?何だ、地図なんか眺めて。来たばっかだってのに、もう次の場所に行くつもりか?」

 料理を置くために机を覗き込んだ彼は、ふと目に入る地図を見て首を傾げた。

「い、急いだ旅じゃない、けど、目的地、有った方がいいと、思って……」
「ん、そうか……じゃあ、ここなんてどうだ?」

 そうして宿屋の店員が、指さしたのは、この街から南に延びる道を辿っていくと王都の少し手前の街があった。
 レグラス、そう書いてある街は、ここと同じぐらいの大きさがある街だ。

「この街なら冒険者ギルドもあるし、近くに迷宮も色々あるし、冒険者なら住みよい街だと思うな」

 もちろん、この街には負けるがな!と豪快に笑う彼は、自分より小さいのにしっかりした人だと思う。

「お、俺は冒険者じゃ……」
「ん?そうなのか?でも、それ、ギルドカードだろ?」
「こ、これは、受付の人に押し売り、されたから……」
「押し売りって、お前……面白いな!!もしかして、受付の人ってのはグルガスのおっさんか?」

 そうだと、頷くとさらに彼は笑った。

「相変わらず見る目はあるけど、押しが強いな!わかるぞ、その気持ち!」

 彼も相当、世話焼きだと思う。いやな気はしないけれど。
 豪快に笑って、俺の肩を叩いた彼は、予定があるのか、食べた食器は明日片付けに来ると言って部屋を出て行った。
 彼が部屋を出ていき、はぁ、と息を吐いた。
 部屋の鍵を閉めて、窓際の机の前に座る。いただきます、と手を合わせた。
 ふっと、窓の外を眺める。今日は月がない新月の夜だ。
 月がないと、夜の移動ができないし、獣に襲われるリスクも高い。
 だから、新月になる前にこの街につけた事は幸運だと思う。

「明日から、どうしよう……」

 ご飯を食べ終わり、ベッドに腰を掛け空を見上げる。
 寒くて、暗いこんな夜は、姉と一緒に抱きしめあって眠ったことを思い出す。
 だけど、これからは一人で眠らなくてはいけない。それが、こんなに心細いなんて。
 しんと寝静まった夜の街に、昼間の騒々しさは欠片もなくて、余計に寒々しく思い、早々にベッドに入って布団を頭から被った。
 目をぎゅっと閉じるけれど、眠くはならない。
 こんな時、どうしていたっけ?姉と一緒の時だって、そういった夜はあった。

『仕方がない子』

 そう言って、歌を歌ってくれた優しい姉。
 姉の歌を思い出していると、不思議と眠れたようだ。
 気が付いたら朝になっていた。
 姉に、頭を撫でられたような気がするが……気のせいだろう。だってもう、姉はいない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

処理中です...