君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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プロローグ

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 綺麗に笑う人だった。

 優しい人だった。

 たった一人の、家族だった……。
 
 その日はひどい雨だった。
 山に獲物を狩に出ていた俺は、下山ができず、山の中でひと夜を過ごした。
 何日か、山の中で過ごして、下山できそうな隙を縫って村まで返る。
 すると、数日前に見た村とは全く別の、変わり果てた村が広がっていた。
 慌てて、自分の家に飛び込んで扉を開ける。

「ねぇさん!!っっ!」

 中は、荒らされ、黒く固まった血があたり一面を染め上げ、ただ一人の家族であった姉はその中心でぐったりと横たわっていた。
 その姿から、もうすでに息がないことは明らかだった。

「ねぇ、さん?ねぇ、返事してよ、なぁ、ねぇさん……?」

 ぼろぼろと涙を流す自分の他に、誰もいなくなった村。俺の慟哭は、誰にも聞こえることなく、空に溶けた……。
 どれだけそうしていただろうか?
 事切れた姉の体を抱え、村の墓地へと向かう。
 よく見ればあちらこちらに、村の人々の死体が乱雑に転がっている。
 墓地に姉を埋め、村の人々を運び、埋めるという作業をひたすら繰り返した。
 何かの獣に襲われたのだろうか?牙の跡がある遺体や、剣のようなものでスパッと切られている遺体など様々だ。
 何があったのか、一概には言えないだろう。
 墓場で死者に祈りを捧げながら、今後どうするか、を考える。
 この誰もいなくなった村で、暮らしていくことはできないだろう。もしかすると、村を襲ったやつらが戻ってくるかもしれない。
 一晩、思い出の家であるはずなのに、ぐっすり休めるはずもなく、過ごした。
 旅に必要なものを、自分の家からも村の人の他の家からも拝借して、村長の家にあったマジックバッグの中に入れた。
 生き物を入れることはできないが、旅の道具や、食料などは入れることができる。
 とは言っても、食料やお金などはよっぽど変なところにない限りは、村を襲ったやつらに取られていたからそれほど残ってはいないが。
 頂きます、と祈りをこめて腰に装着するマジックバッグ。小さなマジックバッグは持っていたが、あまり量が入らないため、村長のところのバッグはありがたかった。
 村で唯一の商店を営んでいた家に、地図があり、それも拝借して持っていく。
 幸いなことに、この村には教会があり、読み書きや計算を教えてもらうことができた。
 そっと地図を見て、この村の西に伸びる道から大きな街に行けそうだと、そこを目的地とすることに決める。
 生まれてこの方、この村から出たことがない俺は、外の世界に恐怖を覚える。腰ベルトに使い慣れた、姉にプレゼントされた剣を両側に下げ、ずっしりと重いそれに覚悟を決める。
 狩のための遠距離射撃用の魔力を用いるライフル銃も背中に背負い、行ってきます、と小さく家を振り返り言った。
 いってらっしゃい、と言う優しい声は、もうない。
 一歩踏み出しては後ろを振り返り村を離れる寂しさにあの誰もいない村に戻ろうかとも考えた。
 そうして、首を横に振り、小さく息を吐いて前を向く。
 俯く視線は上げられず、思い出すのは数日前に見た姉の笑顔。
 いってきます、といつも通りに狩に出かけた自分に向けられた心配そうな顔。
 どうして、危険だとわかっていながら下山していたら、姉は無事だったかもしれないのに。
 あの日の自分の行動が、悔やまれる。
 一人残された俺が、何をするべきなのか、どうして生き残ってしまったのか、そんなこと誰にも分からないけれど。
 とりあえず、宛ても無く旅をするしかなさそうだ。
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