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代書屋のアザミ 3

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「アザミさんは気になる人とかいないの? 今回のお礼に私ができることがあれば協力するよ」

少女は話すぎて乾いたのどを潤すとアザミに話を向けてきた。
他人の色恋に興味津々な目に、近所の主婦と同じものを感じうんざりする。

「興味ないわね」
「もったいないよ! あ、私が紹介してあげようか? 友達のお兄さんなんだけど格好良い人いるんだ」

善意の押し付けに「結構よ」ときっぱり断る。中途半端な対応では強引に押し切られることを過去の経験から知っていた。少女は不満そうにしていたが素知らぬふりでやり過ごす。

「じゃあ、服! 今流行の服をコーディネートしてあげる。可愛い服を着ればアザミさんの気持ちも変わるはずだよ」

恋に舞い上がっている少女は、アザミにも同じ気持ちを共有してほしいらしく言いつのった。それにも「必要ない」と返すと分かりやすくむくれる。

「アザミさんは磨けば綺麗になるのに。髪の毛もただまとめるだけじゃなくって、少し緩く編み込むだけでも雰囲気変わるし。服だってそんな暗い色より、水色とか白のほうが似合うよ」
「私はこれが好きなの」
「もう、頑固なんだから! アザミさんに好きな人が出来ても、もう協力してあげないんだからね!」

取りつくしまもないアザミに捨て台詞を残し、少女は足取りも荒く乱暴に扉を閉めて出ていく。ベルの音が彼女の怒りを表すようにしばらく残った。

「まったく」

嵐のように去った少女にアザミはため息をつく。茶器を片付けて机に戻ると、窓に映った黒髪が歪んでいた。乱された髪をほどき結びなおす。

「恋なんてバカバカしい。それに自分の想いを他人に代弁させて結ばれた、なんて言って馬鹿みたい」

アザミは鼻を鳴らすと作成途中の書類を引っ張り出し、続きに取り掛かった。




アザミの仕事は書類の代書。
しかし近頃は、それ以外にも先ほどの少女のようにラブレターの代筆を頼まれるようになった。アザミが書いたラブレターで告白すると成功する、という噂が女生徒の間で実しやかに囁かれているためだ。誰が言い始めたのかわからないが、おそらく噂の出どころは故郷の同窓生だろう。

学生時代の一時、アザミはラブレターの代筆を行っていた。やりたくてやっていたわけではなかったが、あの時は頼まれるまま書いていた。手紙のおかげで成功したと言われたこともある。

故郷の村から町に出てからは知り合いに会うことはなかったが、どこかでアザミの姿を見たものが話の種としたのだろう。それが巡り巡って、少女達の間で恋の叶うおまじないのように語られているなんて。

他人の手を借りた手紙で想いを伝えることを馬鹿にしているのに、その手伝いをしている。断ってしまいたいのに、商店からの依頼が少ない時期の小遣い稼ぎになっていて、受けざるを得ないのは皮肉だった。

代弁された言葉を自分の気持ちだと言う少女達が嫌いだ。

でも振り切ったはずの過去に心を乱される自身がもっと嫌いだった。
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