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傍にいたい
しおりを挟む「陵がやさしくしてくれたの、すごく、すごくうれしかった。
冷たくて酷いことする人間より、やさしいあやかしのほうが、ずっとずっと傍にいたい!」
見開かれた白銀の瞳が、揺れる。
「――陵の傍に、いたい。
白銀の皆が、陵が、ゆるしてくれるなら」
白銀の瞳が、歪んだ。
「……俺は、あやかしだから。
俺としたら、結芽まで、人間じゃなくなる。
生まれてくる子も、あやかしだ。
結芽は、人の世界を捨てることに――!」
ふるえる陵の背を、抱きしめる。
「車とバスと電車で何時間か頑張ったら、人の世界にゆけるよ。
……自分が、あやかしになるっていうのは……まだ、あの、ちょっとよく解らないけど。
陵と一緒なら、怖くない」
ぎゅ、と陵の手を握る。
「あの、私が人間じゃなくなっちゃったら、陵は、他の女の子に触らないとだめになっちゃう?」
目を瞬いた陵は首を振った。
「対になって、結ばれたら、ふたりでずっと生きてゆける。……らしい。
最近あまりないから、よく解らないんだけど」
ぽそぽそ呟く耳の紅い陵の手を、ぎゅうぎゅう握る。
「あやかしになるとかより、陵が他のおひめさまといちゃいちゃしまくるなんて厭だ!!
なので、陵の傍にいたいです!」
まるくなった白銀の瞳で、ぽかんと陵が、私を見つめる。
「……え、あの……え……?
あやかしになるより、俺が他のひめに触るほうがいやなの?」
こくこく頷いた私は、引き攣った。
「……う。
あの、心狭い?
だって、こんなにとろけるくらい甘やかしてくれるとか、おひめさま抱っことか、髪を洗ってくれるのとか……ふぇえ、やだよう、陵!」
ぎゅうう、と抱きついたら、真ん丸になった白銀の瞳がゆるんで、吹きだして笑う。
「あ――も――、結芽、かわい――!
大すき!」
ぎゅう、と抱きしめられる。
燃える頬で、陵を見あげる。
「……陵が、大すき」
ささやいたら、白銀の瞳に涙が滲んだ。
「……ありがとう、結芽」
あたたかな腕が、縋るように抱きしめてくれる。
「愛してる」
ささやきが、唇に重なった。
ふわふわの感触に、眩暈がする。
ずっと、ずっと、ひとりぽっちで、何にもないことが恥ずかしくてたまらなかったけど。
ぜんぶ、陵がはじめてなら、泣きたいくらい、うれしい。
「……結芽」
やさしく髪を撫でて、頬を撫でて、抱き寄せて。
重なる唇が、あまく、あまく蕩けて、頭の芯が溶ける香りが強くなる。
身体の芯まで熱く痺れて、ぱちりと白銀の光が舞いあがる。
「……ああ、結芽は、ほんとうのおひめさまだ」
うっとり囁いてくれる陵に、首を傾げる。
「すべての哀しみを、よろこびとしあわせに変える、おひめさま。
我らを導き、我らを癒す、陰のあやかしのおひめさま」
ちゅ、と陵の唇が、私の唇にふれる。
「白銀の長の、対となるおひめさま」
重なる唇から、繋がる指から、白銀の光があふれゆく。
自分が自分じゃなくなるみたいで、怖いのに。
陵と一緒なら、どんなことでも乗り越えられる気がして。
ぎゅうぎゅう、あたたかな手を握る。
私の手を握り返して、陵は透きとおる白銀の瞳で笑ってくれた。
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