【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  

文字の大きさ
上 下
23 / 43

真夜中

しおりを挟む



「――――っ」

 夜中に、飛び起きる。

 真っ暗な闇のなかに、私の荒い息だけが響いた。


 全身が汗でびっしょり濡れている。
 髪まで濡れそぼる異様な汗に、溜め息をついた。

 ホットフラッシュかなあ。
 更年期? まだぎりぎりアラサーだよ!? も、もうすぐアラフォーだけど!
 落ち込むけど、若い人もホルモンバランスの乱れでなるらしい。

 20代くらいの頃から時々、夜中に汗びっしょりになって飛び起きる。
 いつもがっかりしながらシャワーを浴びる。
 髪がシャワーした後くらいに濡れてしまうので、かなり気持ちわるいのだ。


 折角のひさっしぶりのお泊まりの日に、こんなことにならなくてよくない?
 いや、これこそ私らしいのかな。

 しょんぼりしながら、浴衣とタオルを持って離れのお風呂に向かいかけた足が止まる。

「折角だから露天風呂に行こう!」

 寒いけど、満天の星明かりだ。
 銀の弓を描く月が、冬の夜空に懸かる。


「すごい星」

 こぼれる吐息が白く染まる。
 ふわふわ揺れる白が楽しい。

 真夜中の天に手を伸ばして、笑う。

 汗で濡れた髪が凍えて、急いで露天風呂へと足を延ばした。








 かぽ――――ん

 夜中に響く音は、楽しい。


 誰もいない真夜中の露天風呂とか、最高だよ!

 ホットフラッシュ、ありがとう。
 思わず感謝してしまいながら裸足をつるつるの石の床に滑らせる。

 ほわほわ白い湯気が辺り一面に広がって、雪だるまのバケツも今は見えない。
 霧を掻き分けるように、丸い石に囲われた温泉にふれた。


「……あったかい」

 微笑んだ瞬間、ばしゃりと水音が響いた。


「…………え」

 真っ白な湯気の向こうに、人影が見える。


「……結芽……!?」

 ずっと聞きたかった声に、目の奥がつんとした。


「…………陵」

 囁いた瞬間、跳びあがる。
 あわあわ持っていたタオルを巻きつけた。


「ご、ごごごごめんなさい!
 セクハラする気持ちは全くなくて! 気づかなくて――!」

 わたわたお風呂を出ようとしたら、あたたかな指に、手を引かれた。


「……タオル巻いたから。大丈夫。
 ゆっくり、してって」

 ちいさな声だった。

 湯気の向こうへ消えてしまいそうな陵の指を、追いかける。


「か、髪――!」

「……ん?」

「あ、洗ってくれるって、言った――!」

 叫んだ後に、物凄く恥ずかしくなって、泣きたくなった。


「……ごめん、なさい」

 ぽたり

 涙が、湯に落ちる。


 ぽたり
 ぱたり

 落ちるちいさな水音に、息をのむ音が聞こえた。


「…………結芽……!」


 抱きしめられた。
 肌が、ふれる。


「…………だめ、なんだ。
 戻ら、なくて……なのに、結芽が泣いてくれたら……」

 陵の声が、ふるえてる。


「……もどらない……?」

 顔をあげようとしたら、抱きこまれた。


「……見るな」

 ちいさな声が、おびえてる。


「…………結芽に、きらわれたく、ない……!」






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】きみの騎士

  *  
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!

葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!! 京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。 うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。 夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。 「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」 四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。 京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...