【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  

文字の大きさ
上 下
20 / 43

お別れ

しおりを挟む



「おひめさま、目、覚めた?」

 ぽわぽわ菫の髪が揺れる。


「だいじょぶか? お水飲む?」

 麦が差し出してくれた切子硝子に注がれた水が、きらきら揺れる。


「ありがとう」

 受け取って飲んだ水は、透きとおる山の香りがした。


「ご飯食べられそう?」

「あれるぎーとかあるか?」

 代わる代わる心配そうに聞いてくれる菫と麦に微笑んだ。


「眠ったら随分よくなったみたい。
 ご飯食べます!
 アレルギーは卵です!」

「わかった!
 絢に言ってくる!」

 ぱたぱた麦が駆けてゆき、菫が微笑んで手を握ってくれる。


「ちゃんとね、アレルギー28品目全部使ってない料理も作れるんだよ。
 それ以外にもトマトとかメロン、苺、お餅とか唐辛子とか、食べるとしんどくなるのは外せるようにしてあるんだ。
 絢と僕で頑張ったの。
 美味しいご飯とおやつを作るから、楽しみにしててね!」

 菫の瞳は、透きとおってきらきらだ。


『……アレルギー?』
『うわ、めんどくさ』
『さすが日崎さんよねー』
『一緒に飯行けないから最高じゃん』

 投げつけられた言葉たちが、菫の笑顔に溶けてゆく。


「……ありがとう」

 ぎゅう、と菫の手を握る。


 ちいさな手が、私の頭を撫でてくれる。

「つらかったね」

 菫のほうが泣きだしそうな瞳で、抱きしめてくれた。






「……白銀の皆は、ほんとうにやさしいね」

 ぐすぐす鼻を啜ったら、菫が手を握ってくれる。


「おひめさまは皆、傷つけられて、さみしくて、哀しい思いをしてる。
 その辛い思いを癒して、甘やかすのが、僕らの使命であり、ごちそうなんだよ」

 にこにこする菫に、目を瞬く。


「……ご、ちそう……?」

「え? ……あ、あっ!
 おひめさまにご馳走をつくるのが、僕の使命なんだよ!」

 ぽわぽわ髪を揺らして、ぴょこんと菫が胸を張る。


「菫ー、絢が手伝いに来いって!」

 帰って来た麦に、菫はぴょこりと跳ねて頷いた。


「わ、わかった!
 おひめさま、僕、頑張ってご馳走つくるから、楽しみにしててね!」

 きゅ、と手を握ってくれた菫が、ちいさな足でぱたぱた駆けてゆく。



「……え、とあの…………陵、は?」

 くるりと見回したけど、いない。

 聞いたら麦は鼻の頭にしわを寄せた。


「うじうじしてる」

「…………は?」

 麦は長々溜め息をついた。


「結芽、ごめん。
 傍仕え、外れる。
 ――陵の伝言」

 麦の言葉に、息をのむ。


「…………そ、か。…………そう、だよ、ね」


『おひめさま』
『ひとりを選んで』
『おひめさま』

 皆が、やさしくしてくれるから。
 まるで本当におひめさまになったみたいに、思いあがってた。


 陵は、私の手の届かない人だ。


 そんなの、解っているのに。
 痛いほど、解っているのに。

 2泊3日の間だけはと、夢を見てしまった私が、愚かだった。


 ほんの短い間でも、陵は私にやさしくしてくれた。
 夢みたいな時間だった。


「……今まで、ありがとうって……」

 ぽたり

 涙が落ちる。


 ぽたり
 ぱたり


 こぼれる涙に、麦の瞳が歪む。



「ひめを泣かすなんて、あの野郎――――!」

 憤慨してくれる麦がやさしくて、首を振る。



「夢みたいだった。
 ありがとう」


 丁寧に、頭をさげた。







しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】きみの騎士

  *  
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!

葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!! 京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。 うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。 夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。 「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」 四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。 京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました!🌸平安の世、目の中に未来で起こる凶兆が視えてしまう、『星詠み』の力を持つ、藤原宵子(しょうこ)。その呪いと呼ばれる力のせいで家族や侍女たちからも見放されていた。 ある日、急きょ東宮に入内することが決まる。東宮は入内した姫をことごとく追い返す、冷酷な人だという。厄介払いも兼ねて、宵子は東宮のもとへ送り込まれた。とある、理不尽な命令を抱えて……。 でも、実際に会った東宮は、冷酷な人ではなく、まるで太陽のような人だった。

処理中です...