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言えない
しおりを挟むぐらぐらする視界も、気持ちわるさも、おかしな動悸も遠くなる。
するりと降りた眠りは安らかで、陵と繋がる指が、あたたかだった。
滴るような闇のなか、白銀の光が、ちらちら揺れる。
ふわりと舞いあがる長い銀糸の髪が、漆を彩る螺鈿のようにきらめいた。
切れあがる白銀の瞳が、闇を射る。
透きとおるような肌が、漆黒にほのかに光を燈すように浮かびあがる。
人の範疇を遥かに超える、背が震えるようなかんばせだった。
光に包まれるように佇む姿に、息をのむ。
「……陵」
似ているところは鼻の高さくらいかなと思うくらい、何とかぎりぎり人の範疇な陵とは別次元の麗しさなのに、私の唇は陵の名を紡いだ。
白銀の瞳が、瞠られる。
…………だって、一緒の香りがする。
頭の芯が痺れるみたいな、とろけそうにいい匂いがするよ、陵。
陵と同じ香りの人が、手を繋いでくれた瞬間
バリィイ――――!
何かが、身体のなかを、走り抜けてゆく。
痛いのに、泣きたくなるくらい、やさしい。
白銀の光に包まれて、意識が白く、遠くなる。
あたたかな腕が、抱きしめてくれた気がした。
目覚めたら、夕闇だった。
逢魔が刻の仄青い闇が指先に触れる。
…………さっきのは、夢?
だよね?
「……結芽」
ちいさな声がする。
目をあげたら、陵の漆の瞳から、涙が落ちた。
「……抑え、られなかった。
ごめん。
結芽、苦しいのに、倒れたのに、俺――……っ」
掠れた涙声が、闇に消える。
何が何だかちっとも解らないけれど、陵が泣いていることだけは、わかる。
不思議と感覚の遠い指を、そっと陵の頬に伸ばした。
「……泣かないで」
零れ落ちる涙の欠片を、そっとすくう。
「……抑えられないなんて、初めてだ。
結芽を苦しめるなら……俺は、結芽の傍にいないほうが……」
陵の瞳が、歪む。
言葉とは裏腹に、陵の指が縋るように、私の手を握った。
「……結芽の傍に、いたい。
こんなこと思ったの、初めてなのに…………俺は結芽に、ふさわしくな……」
「ふさわしくないのは、どう見ても私だから!」
跳び起きた私がよろけて、陵の腕が支えてくれる。
「……陵の傍に、いたい。
もし陵が、いやじゃなかったら」
ぎゅ、と陵のシャツを握る。
「……でも、結芽が……」
揺れる漆の瞳の奥にひらめく白銀の光を、見あげる。
「ぱちぱちしてた静電気と、関係ある?」
聞いたら陵は、目を伏せた。
「……何も知らないままなら、結芽は俺のことを、すきになってくれるかもしれない。
俺と、手を繋いでくれるかもしれない。
来てくれたら、また逢える。
……俺に、笑ってくれるかもしれない。
希望を、自分から潰すなんて……できない」
ぎゅう、と手を握ってくれる陵の指が、ふるえてる。
「言えない。
ごめん」
するりと陵の指が、離れた。
宵が、ひっそり闇を増した。
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