【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  

文字の大きさ
上 下
15 / 43

温泉だよ!

しおりを挟む



「……………………は!?!??」

 跳びあがる私に、陵が笑う。


「水着だと風情がないから、そのうえからタオル巻く?
 うちの風呂はタオル巻いて浸かっても大丈夫」

 陵の長い指が、さらりと私の髪を撫でる。


「髪、洗ってあげる」

 とろけるようなやさしい瞳で、陵が笑ってくれる。


『きゃあぁあああ!』

 悲鳴か歓声か解らないものが溢れそうな口を、わたわた押さえた。


「あ、あのあのあの……」

「俺も水着着てタオル巻くから、だいじょうぶ。
 傍仕えだから。
 おひめさまに酷いことなんて、絶対しない」

 とびきりのかんばせで微笑む陵を、麦のちいさな肘が小突いた。


「さっき思いきり傷つけたくせに」

「……ぐ」

「陵はちょっと気を抜くとボロが出るからね。
 ここは先輩の僕たちが一緒に――」

 きらきらの瞳を輝かせる菫に陵が叫ぶ。


「だめだ!」

 パリ――!
 冷たい大気を白銀の光が走り、ぴょこんと菫と麦が跳びあがった。


「……雪だるまは皆でつくっただろ。
 俺が、選ばれたから」

 大きな陵の手が、私の指を包むように握る。


「結芽の傍に、いさせて」

 からまる指に、鼓動が跳ねる。


『サービスし過ぎだよ!』
『襲われちゃうよ!』

 あわあわ、わたわたしたけれど、唇から零れたのは

「……うん」

 だった。


 もういっぱいいっぱい過ぎて、こっくり頷くしかできない――!

 い、いいいい一緒にお風呂!?
 水着着て、タオル巻いたら確かに安心だけど、いいいいいいいの!?!??


 …………温泉に入る前から、鼻血を噴きそうです。










 かぽ――ん

 思わず効果音をつけたくなる露天風呂に、息をのむ。

 ちらちら雪が舞い降りるなか、真っ白な石でくるりと囲われた乳白の温泉が、ほわほわ湯気をくゆらせた。

 ひのきの手桶と椅子が並べられた向こうには、愛らしい雪うさぎも並んでる。
 やさしく露天風呂を隠すように茂る常盤緑の樹々の向こうには、皆でつくった雪だるまのかぶる、赤、黄、青のバケツがちいさく見えた。

 彼方には峰々がかぶる白、天には仄白い青、傍には山茶花の紅、隣には桜の唇で陵が微笑んでくれる。

 そのなめらかな肌のつややかな筋肉の隆起に、うっとり見惚れた。
 裸体の白い彫像を見た時の衝撃よりも遥かに強く、生きるはだえのあでやかさが香り立つ。

「彫刻よりすごい!」

 拍手したら、陵が吹きだして笑う。


「生きてるから。
 ほら」

 ぎゅ、と手を握ってくれる。

 その強さとあたたかさに、めまいがする。


「温泉浸かろう、結芽」

 陵が手を引いてくれる。

 湯をかけて暖めた椅子に座らせてくれて、ひのきの手桶で汲んだ乳白の温泉をやさしく手足に流してくれる。


 長い指が私の足の指を辿って、

「きゃあ!」

 跳びあがった私に、陵は喉を鳴らして笑った。


「結芽、かわいー。
 手足をあっためてから入ろうな」

 子どもにするみたいに頭をなでなでしてくれる陵の漆黒の瞳が、とろけるみたいにやさしい。


 私の手を、足を、陵の指がやさしく撫でる。

 その後を追うように白い湯がなめらかに肌を伝った。






しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】きみの騎士

  *  
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...