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温泉だよ!
しおりを挟む「……………………は!?!??」
跳びあがる私に、陵が笑う。
「水着だと風情がないから、そのうえからタオル巻く?
うちの風呂はタオル巻いて浸かっても大丈夫」
陵の長い指が、さらりと私の髪を撫でる。
「髪、洗ってあげる」
とろけるようなやさしい瞳で、陵が笑ってくれる。
『きゃあぁあああ!』
悲鳴か歓声か解らないものが溢れそうな口を、わたわた押さえた。
「あ、あのあのあの……」
「俺も水着着てタオル巻くから、だいじょうぶ。
傍仕えだから。
おひめさまに酷いことなんて、絶対しない」
とびきりのかんばせで微笑む陵を、麦のちいさな肘が小突いた。
「さっき思いきり傷つけたくせに」
「……ぐ」
「陵はちょっと気を抜くとボロが出るからね。
ここは先輩の僕たちが一緒に――」
きらきらの瞳を輝かせる菫に陵が叫ぶ。
「だめだ!」
パリ――!
冷たい大気を白銀の光が走り、ぴょこんと菫と麦が跳びあがった。
「……雪だるまは皆でつくっただろ。
俺が、選ばれたから」
大きな陵の手が、私の指を包むように握る。
「結芽の傍に、いさせて」
からまる指に、鼓動が跳ねる。
『サービスし過ぎだよ!』
『襲われちゃうよ!』
あわあわ、わたわたしたけれど、唇から零れたのは
「……うん」
だった。
もういっぱいいっぱい過ぎて、こっくり頷くしかできない――!
い、いいいい一緒にお風呂!?
水着着て、タオル巻いたら確かに安心だけど、いいいいいいいの!?!??
…………温泉に入る前から、鼻血を噴きそうです。
かぽ――ん
思わず効果音をつけたくなる露天風呂に、息をのむ。
ちらちら雪が舞い降りるなか、真っ白な石でくるりと囲われた乳白の温泉が、ほわほわ湯気をくゆらせた。
ひのきの手桶と椅子が並べられた向こうには、愛らしい雪うさぎも並んでる。
やさしく露天風呂を隠すように茂る常盤緑の樹々の向こうには、皆でつくった雪だるまのかぶる、赤、黄、青のバケツがちいさく見えた。
彼方には峰々がかぶる白、天には仄白い青、傍には山茶花の紅、隣には桜の唇で陵が微笑んでくれる。
そのなめらかな肌のつややかな筋肉の隆起に、うっとり見惚れた。
裸体の白い彫像を見た時の衝撃よりも遥かに強く、生きるはだえのあでやかさが香り立つ。
「彫刻よりすごい!」
拍手したら、陵が吹きだして笑う。
「生きてるから。
ほら」
ぎゅ、と手を握ってくれる。
その強さとあたたかさに、めまいがする。
「温泉浸かろう、結芽」
陵が手を引いてくれる。
湯をかけて暖めた椅子に座らせてくれて、ひのきの手桶で汲んだ乳白の温泉をやさしく手足に流してくれる。
長い指が私の足の指を辿って、
「きゃあ!」
跳びあがった私に、陵は喉を鳴らして笑った。
「結芽、かわいー。
手足をあっためてから入ろうな」
子どもにするみたいに頭をなでなでしてくれる陵の漆黒の瞳が、とろけるみたいにやさしい。
私の手を、足を、陵の指がやさしく撫でる。
その後を追うように白い湯がなめらかに肌を伝った。
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