13 / 43
雪だるまつくるよ
しおりを挟む「傷つけたこと、ほんとにごめん。
結芽は、めちゃくちゃ可愛い。
俺は、ほんとに、そう思ってる」
漆黒の瞳が、真っ直ぐ私を見つめてくれる。
あたたかな手で、私の手を握ってくれる。
「……お世辞でも、うれしい。
ありが――」
「ほんとに思ってるから!!」
ぎゅう、と抱きしめられた。
陵の耳が、紅い。
とくとく、速い鼓動が伝わる。
どきどきする指で、陵の背に、そっとふれる。
「……ありがとう」
――――極上の癒しをサービスしてくれるつもりだとしても。
うれしくて。
あったかくて。
そっと、陵の胸に、頬を寄せた。
「…………あ、あの、あの、おひめさま、雪だるま、やめる?」
真っ赤な菫と真っ赤な麦がもじもじして、あわあわした私は跳びあがった。
「つくりたいです!」
「ほ、ほんと!?」
「やた!」
菫がふわふわ紅い頬で、麦が輝く赤い頬で笑ってくれる。
「手袋と耳あて持ってきたから、あったかくしてね、おひめさま。
寒くなったらすぐに教えて」
絢がふわふわの真っ白な手袋と耳あてを貸してくれる。
「……それ、傍仕えの仕事……」
「僕たちもおひめさまのお世話したいの!」
ふんと絢が高い鼻を鳴らして、陵はぶすくれて、菫と麦は笑った。
「よし、じゃあ雪だるまをつくる!
ひめ、まずちっちゃい雪玉をつくれ!」
元気に麦が腰に手をあてて、もこもこふわふわ装備になった私はこっくり頷いた。
「はい、先生!」
「うお、俺、先生!?
やた!」
赤い頬で跳ねる麦は、国宝級に可愛い。
「つべたいから、気をつけてね、おひめさま。
雪、さらさらだからね、ぎゅぎゅってするんだよ」
菫がちいさな手で雪玉の作り方を教えてくれる。
「こうかな?」
「上手上手!」
麦と菫が寒さに赤い頬で笑ってくれて、隣で絢と陵が微笑んだ。
「がんばって、ひめ。
次は転がしだよ」
「滑らない魔法かけといたから、結芽なら大丈夫」
ちらちら白銀の光が足元で舞った気がした。
「じゃあ、雪玉を転がしてくぞ。
ひめが転ばないように、慎重にな。ちょっとずつおっきくするんだ」
麦がお手本を見せてくれる。
「丸くなるように、まんべんなく転がしてね。
おっきくついちゃった雪は払って、きれいな丸にすると、可愛い雪だるまになるんだよ!」
菫の髪をぽわぽわ揺らして見せてくれる雪玉は、まんまるだ。
「菫くん、すごい!」
「えへへ」
紅い頬で照れくさそうに笑う菫は、めちゃくちゃかわいー!
「うんしょ、うんしょ」
ちいさな雪玉を転がして、中くらいに、中くらいのを転がして、もうちょっと大きく、転がすたびに傾いて丸くならなくなるのを、雪をぺちぺちしながら修正する。
広やかな庭で雪玉を転がしても転がしても白い雪が現れる。
すぐに土がついてしまう私の住むところとは全然違った。
すぐに雪がなくなって、雪を求めて彷徨わなくていい。
いつまでも転がせられるよろこび!
私がめちゃくちゃ楽しいのがわかるのか、皆も笑顔になってくれる。
「おっきいの作ろうぜ!
がんばれ、ひめ!」
「はい、先生!」
「丸くなってるよ、上手上手」
「ありがとー!」
笑みが、あふれる。
子どもの頃に帰ったみたいってよく言うけど。
大雪が降った時に近所の子たちがわいわいしているのを遠くで聞きながら、雪だるまをつくった。
楽しかったけど、ひとりぽっちだった。
今は、麦と菫が、一緒に雪だるまをつくってくれる。
絢と陵が、隣で笑ってくれる。
楽しいのに泣きたくなって、鼻を啜る。
皆のやさしい瞳に、包まれる。
もっと泣きたくなって、困った。
53
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
【完結】きみの騎士
*
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜
菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。
私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ)
白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。
妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。
利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。
雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!
葉方萌生
キャラ文芸
★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。お読みくださった皆様、本当にありがとうございます!!
京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。
うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。
夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。
「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」
四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。
京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
星詠みの東宮妃 ~呪われた姫君は東宮の隣で未来をみる~
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました!🌸平安の世、目の中に未来で起こる凶兆が視えてしまう、『星詠み』の力を持つ、藤原宵子(しょうこ)。その呪いと呼ばれる力のせいで家族や侍女たちからも見放されていた。
ある日、急きょ東宮に入内することが決まる。東宮は入内した姫をことごとく追い返す、冷酷な人だという。厄介払いも兼ねて、宵子は東宮のもとへ送り込まれた。とある、理不尽な命令を抱えて……。
でも、実際に会った東宮は、冷酷な人ではなく、まるで太陽のような人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる